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09.「あの女、嫌いだ。」

 アルキナスが朝一番に受け取った手紙は、父からのものだった。そこに書かれているのは、アランを連れてすぐに王の執務室に来いとのこと。そのことにより、アルキナスは昨日のことで父親が呼び出したのだと理解した。


 幸い、今日は一日やることもない。リリアナの成人の儀と言う大きな催し事を終えて、今日は城中に休日の雰囲気が漂っている。アニーにも言い聞かせて、今日一日はリリアナを休ませるようにもした。不安なことなどない。ただ一つ、昨日の出来事を抜いて。


 アルキナスは終日中に例の案件を片付ける決意をし、アランを部屋に呼び付ける。応じてすぐやって来た彼を引き連れ、早々に王の執務室へと向かった。


「二人とも、早朝から呼び出して申し訳ない。しかし、話しておかなければならないことがあると判断した。」


 先日と同様、三人が席に着いてから話は始まった。人払いがされ、王の執務室には三人以外はいない。そうした理由を、呼び出された二人は何処となく察していた。


「まずは二人に聞きたい。今回の仕業、誰か分かっていて余に言わなかったのか?」


 厳しい表情をした王は、どこまでも威厳があった。普段とはまるで違う姿に、二人は思わず生唾を飲み込む。だからと言って、臆していては話が進まない。アルキナスは静かに話し始めた。

主犯が分かっている事、その者に猶予を与えた事。長くも無い話を終えたあと、王はさらに厳しい表情を見せた。


「残念ながら、自己申告はしてきていない。」


 どうやら昨日の男から事情は聞けたらしい。全てを知った上で、これからどう出るべきかを話し合おうと言うのだ。


「アラン、お前は余と約束したな。何に賭けてもリリアナを守ると。」


 アランは忠誠のポーズをとり、それに答える。王は満足そうに頷くと、覚悟した面持ちで、二人の顔を見た。


「二人には話しておくべきだと思ってな。マリアンヌの事を。」


 そう言って、神妙な表情で語り出したのだった。


 ―――マリアンヌの母親は、余の父上の妾であった。

 そこから話は始まった。


「彼女は父上の側室の子では?」

「そう急くな。」


 まるで物語のように王は語り出す。

 マリアンヌの母親は先王の妾だった。先王とは現王の父。その座を早くに現王に渡したことで有名である。表向きはいい人とされていたが、亡くなるその直前までマリアンヌの母に首ったけであった。


 しかし、彼女はその存在に満足していなかった。枯れている様なオヤジではどうも恋した気分にはならなかったらしい。そこで、彼女は身近にいた騎士をその相手に選んだのだ。当然二人の禁断の恋は、状況から言っても盛り上がる。そして、彼女はその身に子を宿したのだった。


 普通ならば疑うだろう。その子供は誰の子なのかと。しかし、どうやら彼女は先王とも男女の関係は持っていたようで、先王から疑問は一切投げかけられなかったのだと言う。余りの高年齢に、周りは異を唱えたがそれを先王は一蹴したのだ。そんなはずはない、と。


 先王はさらに彼女を寵愛し、家庭を顧みなかった。その結果、王妃との関係は冷めきり、他の側室たちは後宮から立ち去ったのだが、彼は全く気にしない。それは、新たな命を宿している彼女に付きっきりになったからだ。


 しかし、その二人にも変化が訪れた。マリアンヌを出産の際、母体は危険にさらされ、命を落としてしまったのだ。先王はそれを嘆き、追うようにして亡くなった。マリアンヌだけが残されたのである。

 そこで、現王はその子を哀れに思い、居もしない自分の妾の子として認知したのだ。彼女の母も同時に側室とし、後日病死したとして発表した。少々死亡日時に改ざんがあるのは王の力といえよう。


 こうして、第一王女のマリアンヌが出来上がった。この事を知っているのは、他には王妃であるアルキナスとリリアナの母親だけで、マリアンヌ本人も知らない。だが、彼女が王家の血を引いていないのは確かである。

 その瞳が、赤い事が証明だ。先王も、マリアンヌの母親も青い瞳をしていた。赤い瞳を持っていたのは、マリアンヌの母を看取った騎士だけだ。


「彼女に近しい者に聞いたから、確実性はある。その者も、マリアンヌの父親である騎士も、今となっては何処に居るかは分からんがな。」


 そう締めくくり、長いようで短い話は終わった。

 聞いていた二人は呆然としている。どうやら、あまりにも想像を遥かに裏切る話だったからのようだが、その呆けた表情を見た王は二人の驚いた顔を意外そうに見ていた。


「余はマリアンヌを我が娘として分け隔てなく育ててきたつもりだ。しかし、血筋は争えん。」


 プライドの高さ、強欲さ、嫉妬深さが先王と似ていると言うのだ。


「父上、少し待ってくれ。」


 さらに話を進めようとする父に、アルキナスはストップをかけた。頭の中の整理がつかないのだ。

 今まで半分だが血の繋がった姉だと思っていた。それが、まったく血のつながりがない、むしろ赤の他人であるとわかったのだ。混乱しない方が可笑しいだろう。


「なんだ。も、もしや!アルキナス、血が繋がっていないと分かって、マリアンヌを恋人にしようと考えたな?!」


 娘はやらんぞ、と言われ、アルキナスはふざけるなと一蹴した。どうしたらそんな思考になるのか、バカな考えは辞めて欲しいと彼は本気で思ったのだ。


「あの女、嫌いだ。」

「そう拗ねた子供のように言ってやるな。」

「そんな言い方にもなるさ。リリーに何をしているか、今までどんな事をしてきたか。数え切れないほどの前科があるからな。」


 小さい頃から、マリアンヌは数々の事をリリアナにしてきた。それをアルキナスが知ったのは大分後になってからだったが、それが酷くなったのはリリアナに治癒魔法が覚醒した時だ。


 以前から嫉妬に狂っていたマリアンヌはさらにその思いを馳せ、物を取り上げると言う幼稚な方法に出た。それは然して大きなダメージを与えるとは思われなかったが、今回のような大きな事件ともなると、リリアナの心を大きく傷つけたのは当然だろう。まあ、それがどれほど短絡的な計画だったかは、今回の結果で良く分かるのだが。


「余は、今回の事をアルキナス、そしてアラン。お前たち二人に任せようと思う。」


 将来は王の座につくアルキナス。その片腕になるであろうアラン。この二人に王は試練を与えようと言うのだ。


「余はマリアンヌを娘だと思っているし、世の中的にもそうなっている。そうである現在、お前たちはどうやってこの件を処理する?」


 アルキナスもアランもマリアンヌのこれまでの所業を知っている。リリアナに何をしてきたか、それによって彼女がどれほど傷ついているのか。それを知っている二人は、どうやってもリリアナを庇い立てするだろう。そして、相応の罰を与えることになるだろう。


 しかし、世間的にはどうだろうか。これは単なる兄弟喧嘩に映るかも知れない。兄弟喧嘩と言っては酷過ぎる事だが、一王女を罰するなどアルキナスの王としての素質を疑われてしまう事はまず間違いない。たとえそれが彼たちにとって公平な判断だとしても、それだけでは駄目なのだ。


「世間から見て公平になるように何とかするさ。だが、どうすればいいのか少々悩むところもあるな。」


 それはマリアンヌの間男たち。彼女とそう言う関係になっている者たちだ。


「それも含めてお前たちに任せた。二人とも、リリアナが大切なのは分かるが、何時までも偏った見方をしていては、周りが納得しない。それを踏まえて今回の事に取り組んでくれ。」


 その言葉で、解散となった。

 もう恒例となったかのように、二人は揃ってアルキナスの執務室へと行き、不味いお茶で一息つく。部屋の空気は嫌なほど重たかった。


「アラン、本題の前に幼馴染としての意見を聞かせてくれ。」


 切り出しはそれだった。何とも真っ直ぐな目に、アランは手にしていたカップを机に置く。姿勢を正し、同じように真っ直ぐな視線をアルキナスに向けた。


「アルキナスさまのご意見に従います。」

「だから、幼馴染として、今回の事件で感じた事を言ってくれ。」


 元来騎士として王家に仕えているアランは、その身分差から意見など簡単に申し上げていいような身ではない。当然それはお互いに分かっている事なのだが、あろうことかアルキナスは二人きりになるとそれを止めるように言うのだった。


 それは幼馴染でもあり親友でもある彼にとっては当たり前のことなのだが、アランにとっては難しい。あの日を境に関係性を変えたのだ。それはリリアナとだけではなく、アルキナスとて同じだった。

 臣下と王家。その関係になろうとする。しかし、アルキナスはどうもそうさせないようにしているらしかった。


「…アル、頼むから素を出させないでくれ。」

「それはリリーの前でその面を外すのが怖いからか?」


 久々に自分の愛称を口にした幼馴染を、アルキナスはニヤリと笑いながら喧嘩腰に言った。これが本来の二人の関係性の在り方だ。


「正直に言う。」


 諦めたようにため息をついて、アランは身体の力を抜いた。その様子をアルキナスは勝ち誇った表情で見ている。その事に関して何も触れなかった事が、アランが素になったという証明だった。


「はっきり言って、王の言っていた事は一理あるが、俺としては世間体なんて関係ない。今までしてきた事は許されるべき事ではないだろう。しかし、今までの事もそうだが、今回の事も周りには知られてはいないんだ。はっきりとした罰を与えることは難しいだろうな。」


 そうなのだ。そこが一番の問題なのだ。

 今までの嫌がらせは子供のいたずらなようなもの。城に居る数人は知っている事柄でも、それ以外にとっては全く無関係のものであり、無関心のものである。だから、対応し得るものではないし、何か罰則を与えようにもそうはいかない。


 そして、今回の事はことさら厄介だ。本来ならかなりの大事。王家の姫を襲った輩を捕まえ、その発案者まで把握しているにも拘らず、大事にできないのだ。


「どうして父上はあんな話をしたと思う?」

「マリアンヌ様が哀れな御方だと言いたかったのだろう。父も母も知らず、事実も知らない。自分を王家と疑わず、生かされていると言う事も知らない。本当に哀れだな。」


 どうやら、素を出すとアランはかなりの毒舌なようだ。間髪いれずに答えた挙げ句、冷めきった表情をしている。リリアナの前に居る姿が嘘のように、人物自体が変わったかのような変化だった。


 冷え切った空気を醸し出しているアランは、冷たい笑みを浮かべている。アルキナスは、久方ぶりに見たその表情に少しだけゾッとした。


「子は親を選べない。複雑な星の下に生まれたのは仕方ないとは思うが、それを譲歩に入れるほど俺の心は広く出来ていない。」


「アラン、言いたい事はよく分かるが、ここで上手い采配を取らねば、俺は先行きが悪くなる。無い知恵を絞ってでも良い方法を取らねばならないんだ。」


 苦悶の表情を浮かべる幼馴染みに、アランは一瞥くれて嘆息した。

 一国の主ともなろう男が、自分の心ひとつで物事を考えてはいけない。だが、愛妹の事を考えると、そうしたいと言う気持ちがある。この二つの気持ちが入り混じり、アルキナスの考え方を複雑にしているのだ。


「…アル、もっと単純に考えろ。周りから不思議に思われず、それでもあの女の苦痛になる事を。」


 その口ぶりは、何かを思いついたかのような感じだ。


「はっきり言ってくれ。」


 そう言っても、アランは肩をすくめるだけ。それは、自分で答えを見つけろと言っているようだ。


「あの女の喜びは、リリアナを傷つける事、そして男にちやほやされる事…」


 呟くようにそう言った後、顔を跳ね上げた。何かに気づいたらしくそのままアランの顔を見る。すると、アランはまた惨忍な笑みを浮かべた。


「そうか。そうすれば、あいつに報いてやる事が出来るな。まぁ、こちらも同じようにねちっこい事をするのは気が引けるが。」

「問題ないだろう。それに、公務として奉仕活動をしてくれれば、王家への信頼も厚くなるだろうな。」


 国家予算の無駄遣いも防げて一石二鳥だと言う言葉は、二人の話し合いの締めくくりとなった。


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