04
「うわあ!?」
夢か……。
いやでもまさかあんなことになるなんて、あとさく君には悪いけど緩い感じとはなんだったのか。
「起きましたか」
「出村さんか、きみにも迷惑をかけたね」
ちなみにここはもう僕の家だ。
泊まってもらいたかったわけではないけど泊まってもらうことになってしまった。
あと僕達を連れていってくれためめは帰ってこられないままでいる。
「その傷、消えませんね」
「スパっと切れたから治りは早そうだけどね」
まあ簡単に言うとお母さんはともかくお父さんがやばかった形になる。
あと手を上から下に下げただけで……腕ごといったり真っ二つにならなかったのはまだ抑えてくれた結果だろう。
「聞いていた話とは真逆の結果でしたね、さくさんのご両親の方が話しやすかったです」
「だね」
そのさく君はめめを連れ帰るために頑張っている状態だ。
妄想でもなんでもなくこれをきっかけに変わっていきそうだった、流石にめめだってなにも影響を受けないわけがない。
ただ僕としてはめめといる限り関わることになるわけだから自信がなくなっている状態だった。
「あの約束もありますし、ご飯でも作りますよ」
「僕も手伝うよ」
ここで消化してくれるのはありがたいか。
「でも、それ痛いですよね?」
「いやそれが痛みはないんだ、鏡がなかったら切られたことにも気が付かないぐらいのそれだったからさ」
「それでも切られていることが分かったら痛覚が頑張りそうですけどね」
結構な範囲で切れているから他の人から見たら面白いことになりそう。
だけど心配されるようになると面倒くさいから隠しておきたい、そしていまは冬で学ラン状態だから容易なのがよかった。
「このまま帰ってこなかったらどうします?」
「そうしたら僕が出村さんや七戸さんといられなくなるね」
「またそれですか? めめさんやさくさんがいるからといっているわけではありませんが」
いまはご飯だ。
何度も言うけどちゃんと食べておかなければ駄目なのでしっかり作った。
結局一人で作ったから明らかに私不満がありますと言いたげな顔になっていたけどスルーさせてもらった、さく君が帰ってきたことからも影響を受けている。
利用したいわけではないものの、本命に近い存在が現れれば意識は自然とそちらに向かうからやりやすい。
「あ、めめなら戻ってくるから大丈夫だよ」
「それってめめにとっていいことなのかな」
「そりゃそうでしょ、向こうと違ってこっちではただ呼吸をしているだけでも新鮮さがあるからね」
じゃあまあ彼女と七戸さん的にはいいか。
こびりついてしまう前に洗い物を終わらせて玄関前に出てきた。
「わぷ」
座った瞬間に顔に張り付いてきて「もー絶対にいかないんだから!」と大声で叫んでくれた。
「ははは……おかえりめめ」
「ただいま――そういえば大丈夫なの?」
「うん、全く痛く……なんか今更痛くなってきた」
「休んで、私がちゃんと側にいるから」
なんかじんじんと痛むから寝転ばせてもらおうか。
ただ出村さんが関係しているのか寝転んだ瞬間にまた顔に張り付いてきて笑うしかなかった。
「泊まらせるとかありえないから」
「いやだって僕が気絶しちゃっていたからね」
強制的に一緒に戻らされたところまでは覚えているけどそこからは僕が落ちていたから仕方がない。
「そもそもひよりさんも無理やりにでも帰りなよ」
「鍵を預かるわけにはいかなかったので」
「なのに泊まるのはいいの? 出会ったばかりなのに」
「どうしようもないときは仕方がないですよ」
いや待った、黙っていると本当に駄目だ。
そういう条件をつけられていたのかもしれない、彼女が戻ってきた瞬間にこれだとそうとしか思えない。
「あれっ?」
「わっ、血が出てるよ!?」
不味い不味い、ここは畳だから死体が出なくても殺人現場みたいになってしまう。
フローリングでも不味いから慌てて外に出たところでぱっとではなかったけどゆっくりと勢いが弱くなっていった。
「ふぅ、なんか逆に面白くなってきたね」
「「面白くありませんからっ」」
いやだってそこそこの痛みと血がどんどん出てきているのに外に出てからは冷静でいられたから、中々こんなところを目撃できることはないから新鮮だった。
「お父さんのせいで……」
「でも、僕がいきたいって言ったんだから気にしなくていいよ、痛みもなくなってきたから大丈夫だよ」
なにもないまま人生を終えることにはならなさそうで安心した。
やたらと心配そうな顔をしていた二人に再度気にしなくていいよと言って汚した場所を拭いていった。
「十二月か」
そろそろ鍋にしてもいいかもしれない。
一人だけだからこそ味で喧嘩することもなく自由に選べるからふとそんな気分になった。
まあ、いつだってめめやさく君がいるけど合計で二人分用意できればそれでいいから平和に終わっていく。
「勝呂君、あの女の子が呼んでいるよ」
「教えてくれてありがとう」
それでも泊まってもらったときみたいにみんなで食べるならちゃんと話し合いをしなければならない――って、どれだけ鍋に支配されているのか。
今回は七戸さんでやたらと心配されることもないなと安心していたのに腕をがしっと掴まれて察してしまった。
「めめちゃん達の世界にいってきたのずるい」
「あ、そっち?」
自業自得だから口にはしないけど二度ととまではいかなくてもどうしようもないとき以外はいきたくなかった。
なんか代表的な人に近い人達だからどうしても向こうにいこうものなら接触は避けられないからだ。
「だけど僕らはすぐに戻ることになったんだ、だからほとんど知らないんだよ」
「ひよりに聞けば教えてもらえるかな」
「出村さんに聞いても同じだよ」
大事なことを隠しているとかでもないからこれ以上広げてもがっかりするだけ、自分のことを考えるなら無駄に疲れるよりもここでやめておいた方がいい。
「めめちゃんのご両親に会えたらめめちゃんが欲しいですって頼んだのに」
「それなら本人に頼む方がいいよ」
「まあ、それは冗談として、腕は大丈夫なの?」
ああ、こういう時間差攻撃はずるい。
彼女なら問題ないと判断して見てもらうことにしたらまたがしっと掴まれてしまった。
右腕のそれなりに広範囲の傷を見ていると疼き――は冗談としてもおおと見る度に感じてしまう。
「名誉の負傷という風にプラスに考えよう」
「ははは、それはいいね」
「このタイミングでいってなかったらもっと酷いことになっていた可能性もある」
「んー確かにそうかもしれないね」
喋ったところを見られたわけではないから延々に知ることはできない相手だけど。
「いいことを思いついた」
なんか嫌な予感が……。
「めめちゃんにくっついてもらっておけばいいと思う。ほら、絆創膏的な感じ」
「めめも律儀に付き合わなくていいから」
他の人からは見えないし、軽いからこちらにとって損はないけど縛ることになってしまう、自由に行動してほしい僕としてこれは駄目だ。
「これは私の仕事だからいいとして、いま急にここに移動できて驚いてるよ」
「まさか七戸さんに不思議な力があるの?」
それなら僕よりも相応しいご主人様の登場ということになるけど。
あと、これが筒抜けになるのも結構不便なところがあるから任せたいぐらいだった。
「ないと思う、いまのはめめちゃんが合わせてくれただけ」
「あーすぐにネタバラシは駄目だよっ」
「はは、なんだそういうことか」
つまりもう戻ってきていてタイミングを伺っていたということか。
「そうだ、今日か明日に鍋にしようか」
「「お鍋!?」」
出していく内に我慢できなくなってきたからすぐに実行しようと思う。
「僕は水炊きでいいと思っているけどなにか――」
「キムチ鍋!」「すき焼き!」
「一人前ずつなら全部やるのもありかもしれないね、それで少しずつ交換できれば楽しそうだ」
なんとなく出村さんなら「豆乳鍋がいいです」とかクールな感じで言いそうかな。
ただこれはどうしたらいいのか、七戸さんも誘った方がいいのだろうか?
「ひよりも呼んでみんなでお鍋を食べよう!」
「お、落ち着いて、あとその場合は七戸さんか出村さんの家でいい?」
「え、勝呂君の家でいいよ」
「そうだよ玄太、大体泊まらせておきながら今更気にするっておかしくない?」
簡単に上がったり上がらせたりするべきではないなどと考えているわけではないのだ、二人の家だったらちゃんとそのための道具が揃っていそうだからだった。
「ん? 泊まらせる?」
「あれ、ひよりさんから聞いてないの?」
「勝呂君、隠し事はよくないと思う」
「それは出村さんが心配だからだよね?」
「それよりも隠し事をされていることがむかついた」
少しだけでもめめといたからこそなのだろうか、細かいところまでやたらと似てきてしまっている。
「あとひよりも私に意地悪をしてきているから今回は三人だけにしようかな」
「物凄く悪い顔をしていますね、やっぱり七戸先輩にはそういう顔が似合います」
「うわ……」
「めめさんがすぐに戻ってしまうので気になっただけですよ、別にこそこそと盗み聞きをしようとしていたわけではありませんから」
わざわざいかなくてもこうして自然と集まれるのはいいことだ、今回みたいに用があるのなら尚更のことだ。
でも、たまにこの二人の仲がいいのかどうか考えることになるときがある、仲がいいからこその言い合いということならいいけど。
「なるほど、それなら今日の放課後にスーパーにいかないといけませんね」
「荷物なら僕が持つからね」
あと格好つけたいわけではなくてめめとさく君の分も買うことを考えて僕が全部払わせてもらおうと思う。
これは先に言っておくとなしになる可能性が高いから黙っておこう。
「先輩だけに任せたりしません、私も食べさせてもらうのでちゃんと協力しますよ」
「なんかひよりって怪しいね、勝呂君に気に入られようとしてない?」
「七戸先輩を止めるために私だけの力だけでは足りないので協力してもらいたいんです」
「むぅ、別にそんなに悪いことをしているわけじゃないのに」
「そうですね、だけど暴走したときは本当に酷いので」
任せておくからか。
楽しく乗り切るためにもここで止めておいた。
「これ鍵ね、悪いけど先にいってて」
「分かりました」
あ、なにか事件に巻き込まれたとかそういうことではなかった。
何故かさく君がスーパーの壁に張り付いてしまって動こうとしないのだ。
いや何故かではない、これから鍋だからとお菓子を買わなかったことが影響している、凄く簡単に言うなら拗ねてしまっている状態だった。
「分かったよ、食後に食べるお菓子なら買っていいからさ」
「……いますぐに食べたい」
「もう馬鹿さくっ、いつまでも子どもみたいなことを言っていたら駄目なんだから!」
彼的には鍋よりもお菓子の方が大事のようだ。
このままここで延々といても冷えるだけだし、あの二人を困らせてしまうから結局買うことになった。
「これ、めめも大好きなんだ」
そういえば前にそんなことを言っていたか。
ただ、スーパーまで何回も着いてきても「これが欲しい」みたいに言ってくることはなかったから忘れてしまっていた。
こうして目の前に食べられる状態で存在しているのに揺れないのは鍋パワーかもしれない。
「わ、私はご飯の前に食べたりはしないけどね」
あ、流石に目の前にあると違うみたいだ。
少しぐらいならいいかな? ここは親的な目線で見て大丈夫なものなのか。
「でも、残しておける自信がないよ、このまま食べ始めたら間違いなくゼロになるよ」
「ま、まあ、お鍋が食べられるんだから余裕ですけど?」
彼女の下にだけ雨が降らないように少しだけ食べさせておくことにした、食べられればいいみたいで彼も独り占めにしようとはしていなかったから平和だ。
「美味しいっ」
「よかったね」
「……玄太、わがままを言ってごめん、あとありがとう」
「こうしてあげるんならもう少し考えてから行動すればよかったよ、さく君ごめんね」
可愛い子だ。
「玄太が好きだ!」
「はは、ありがとう」
「でも、中途半端に食べたからお鍋を早く食べたくてやばいよ」
「二人が待っているから急ごう」
鍵を使用して入っていなかったこと以外は特に問題もなかった。
みんなで協力して準備をして、丁度いいぐらいになったらいただきますと挨拶をして食べ始めた。
「やっぱりキムチ鍋はいいなあ」
「すき焼きもいいよ」
「私的には水炊きが一番ですね、ポン酢をまとわせて食べるのが美味しいんですよ」
女の子達はハイテンションだけどやっぱりさく君は落ち着いていて僕の隣でちびちびと食べているだけだ。
「さく君は僕と同じでよかったの?」
「うん、食べ終えたら玄太と一緒にお菓子を食べたい」
「鋼の意思で抑えたんだね」
面倒くさくてそういう欲求が弱まっているときにしか同じようにできないから彼は強かった。
「ううん、一つ食べたら満足できたんだ、あと食べてから玄太にもあげたいって気持ちが強くなった」
「優しいね」
「ま、たまにはさくもいいことをするね」
「僕だって成長しているんだ、いつまでもめめに負けてはいられないよ」
前に進んでいく彼を見つめる――もう鍋にしか意識がいっていなかったけどいい関係だろう。
お互いにこうしてもっといい方向に変えていければ周りも影響を受けていく。
「ぷは~もうお腹いっぱい。どうしようかな」
「うん?」
「ああ、ひよりさんとなゆさんのどっちにくっついておこうかなって」
「私はこの通りゆっくりなので私の方がお勧めですよ」
「それなら私はさく君に来てもらう」
この二人はモテモテだ。
でも、じっと見ておくわけにもいかないからやっぱり色々なところに意識を向けつつご飯を食べることに。
それとあまり多く確保していなかったのもあって割とすぐに終わってくれたのもよかった。




