番外編その後 第3話(最終話)『そして、私の名前は物語になった』
春野澪が“記録者”として筆を置いてから、十年が経った。
市立図書館の司書として働きながら、静かに日々を紡いできた澪は、ある日、図書館の一角で思わぬ光景に出会う。
子どもたちが、小さな朗読会のあと、口々に話していた。
「ねえ、“ルヴィエール”って本当にあった国なの?」
「“魔王様”って、なんかかっこよすぎじゃない?」
「“ミオさん”って、なんで帰っちゃったんだろ……ちょっと悲しい」
澪はその声に、足を止めた。
彼らが手にしていたのは、自身の代表作『王都ルヴィエール物語』。
あれから何度も重版され、教科書の資料欄にも引用され、いまや“幻想記録文学”というジャンルの古典として扱われていた。
だが、澪はそれを“誇り”というよりも、どこか“照れ”に近い想いで見つめていた。
◆
帰宅後。
澪は久しぶりに自分の本棚を開いた。
初版の『王都ルヴィエール物語』。
読者から届いた手紙の束。
そして、一冊の“記録ノート”。
最後のページには、娘・燈の筆跡でこう記されていた。
──“私があなたの物語を継ぎ、そして“私の物語”を始められたことに、心から感謝しています”
“記録”は、娘へ、そして次の世代へ。
今やもう、澪の知らない誰かが、“あの世界”を信じてくれている。
それはもう、単なる個人の記録ではない。
──物語となったのだ。
◆
数日後。
とある高校の国語授業で、教師が語る。
「この作品『王都ルヴィエール物語』は、記録という言葉の重みを描いた小説です。
作者は“春野澪”という元司書であり、記録者でもありました」
生徒の一人が手を挙げる。
「先生、それってフィクションじゃないんですか?」
教師は笑う。
「それはね、読み手次第だ。
でもね、この物語の最後にこう書かれている。“この物語を読んだあなたが、次の記録者です”って」
教室に沈黙が流れる。
だが、そこには確かな“継がれた火”があった。
◆
その日の午後。
書店の片隅に、春野澪の名前がまた一冊、静かに並べられた。
──『記録と、想い出のあいだに』
誰が手に取るかはわからない。
けれど、澪はもう焦らない。
なぜなら自分の“名前”は、もう“物語”になったから。
世界のどこかで、“澪”という響きが、だれかの心を照らすのなら。
それだけで、記録者としての人生は、十分に幸せだった。
◆【そして、物語は静かに幕を下ろす】
──記録は続く。
たとえページが閉じられても、
誰かがそれを思い出すかぎり、
それはきっと“生きている”。
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