ぼくとトイレのぺろりんさん01
「なあ、べろんって知ってる?」
「知ってる! 知ってる! ヤモリみたいにてんじょうにはりついていて、べろ~んってなめてくる妖怪だろ」
「そうそう、クローゼットのドアを開けると、上からべろ~ん!」
「ちがうよ! トイレのドアを開けるとだよ」
「え? おれが聞いたのはお風呂場のドアだったけど?」
「何それ、はじめて聞いた」
今、友だちのあいだでは、べろんというヤモリみたいな妖怪のウワサ話でもちきりだ。登下校の時はもちろん、じゅぎょう中にべろんそうぞう図なんてのをかいてまわすヤツもいるくらいだ。
べろんがどういう妖怪かというと、へややトイレのドアを開けると、とつぜんてんじょうから長い舌がのびてきて顔をべろ~んとなめられるそうだ。
なめられてどうなるのかというと……、それでおわりらしい。
なめられるだけだとしても気持ちわるい。
そんなのはうそだというヤツもいれば、べろ~んとやられたというヤツもいる。
べろんなんて、みんなをこわがらせるためにだれかがおもしろがってでっちあげた作り話だとは思うのだけれど……。
ぼくの名まえは、雨森たれる。渡来来渡東波小学校の5年生。
夜中にうんちがしたくなって目がさめたぼくは、今トイレに向かってうすぐらいろうかを歩いている。
ギシ、ギシ、ギシ。
「ううう、夕ごはんのカレーライス食べすぎちゃったな……」
お母さんの作るカレーライスがおいしすぎるのがいけないんだ。
どうしてもおかわりをしてしまう。おなかがパンパンになって、朝までうんちをがまんできなくなる。
だから、ねるまえに一度トイレにいくようにしていたんだけれど、きのうはいくのをわすれてしまったんだ。
ギシ、ギシ、ギシ。
それにしても夜のろうかって、こんなにギシギシと音がするんだろう。一歩ふみ出すたびにドキッとする。おなじろうかを歩くのに昼間はなんで音がしないんだろう。
それとも昼間も音はしてるけど、気がつかないだけなのかな?
ギシ、ギシ……。
ようやくトイレのドアの前まできた。パチッとスイッチを入れてトイレのあかりをつける。
「はあ~……」
とうとうドアを開けなければいけない。しんぞうがドキドキして、ためいきが出る。
「べろん、いないよな……」
ガチャ……。
ドアのノブをゆっくりまわして、そーっとドアの開けた。そして、すきまからてんじょうを見た。
うすぐらいライトでてらされたてんじょうは、うねうねとした木のもようがあってきみがわるい。
うちのトイレのてんじょうってこんなだったけ? ちゃんと見たことがなかったなあ。
「よし、何もいないな」
べろんがいないことをたしかめてから、ぼくはトイレの中に入った。
便座にすわっても、べろんが出てこないか気になっておちつかない。
本当はべろんなんていないことはわかっていても、チラチラとてんじょうを見てしまう。
「ほんとうに何もいないよな」
今度は、てんじょうのあのうねうねとした木のもようが気になってきた。どうしても何かの顔のように見えてしまう。
あの顔がぬ~っと出てきたらどうしよう。じーっと見ていると、なんだか少し出てきたように思えて、気持ちわるくなってきた。
「早くおわらせて、へやにもどろっと」
……ぽちゃん、ぽちゃん。
「思ったより出なかったな。まだ、のこってる感じがするけど、もういいや。朝までだいじょうぶだろう」
ピッ。ウィーン。シャーッ。
ぼくの家のトイレは、シャワートイレだ。
生まれてからずっとシャワートイレだったから、外でうんちをする時もシャワーでおしりをあらわないと、なんだかすっきりしない。だから、出かけた時はできるだけシャワートイレのあるところをさがしてうんちをする。
デパートやショッピングモール、映画館のトイレはかんぺきだ。ゲームセンターは、シャワートイレがあったりなかったりするからちゅういしないといけない。
シャワートイレができるまえは、みんなどうしていたんだろう?
いくらきれいにふいても、そこそこついているよな。少しくらいついていたってへいきだったのかな。
「ふーっ」
シャワーでおしりをあらって、トイレットペーパーでふこうとしたらトイレットペーバーがなかった。
「あ、トイレットペーバーがないや、困ったなあ。えーと、どこにおいてあったっけ?」
きょろきょろとあたりを見わたすと、てんじょうの近くのたなにトイレットペーパーがきれいにならべておいてあった。
「そうそう、トイレットペーパーをおくたなをお父さんが作ってたな」
ぼくのお父さんは、今 DIY にハマっていて、やたらといろいろなところにたなを作りたがる。
だいたいは物をおくと落ちてしまうので、お母さんがめいわくしている。トイレットペーパーをおくたなは、うまくいったほうだ。
「よっと」
ぼくがトイレットペーパーを取ろうとして立ちあがった時、
ぺろ~ん……。
何かにおしりをぺろ~んとなめられた。
「ひっ! 今の何?」
びっくりしておしりがぎゅっとなったぼくがふりかえると、トイレの便器から長~い舌が出ていた。
「え? べ、べろん?」
「きれいに~なったね~」便器の中から声がした。
すばっ! とつぜん、音を立ててまっ黒な顔が長い舌をぺろぺろと出しながら便器にはまった。
大きな目がぎょろぎょろとぼくを見ている。
「ぎゃーーーっ!」
ぼくはさけび声をあげて、トイレから飛び出した。
つづく




