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ラプラスの魔導士 〜魔眼で魔法を解析し、重力を操る異世界の理術使い〜  作者: 盆妖幻鳥
第2章 リオール疎開

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02-14 慟哭の骸魔術師

 城門の近くにある柱の陰から、ローブで全身を隠している人物が姿を現す。その人物はアキトたちに背を向けたまま、魔法陣の導線に触れて紋章を見上げていた。


(なんだ、人間にしては熱量が低い?)

「――おい、この音って!?」


 イシュテナが謎の人物の違和感に気付くが、突如響き渡る大きな足音にそれどころではなくなる。ロッシュたちが音の聞こえる方向に目を向けると、そこには廃墟を飛び越えるルインゴーレムの姿があった。


「え……あ?」


 あまりに突然の出来事にアキトたちは思わず声を失う。ルインゴーレムが間に割って入るように豪快に着地すると、モノアイを光らせながら彼らの前に立ちはだかる。


「この光……魔法陣を起動させようとしてる!?」

「アキト、何の魔法だ」


 その衝撃的な光景に困惑している隙に、城門の魔法陣が謎の人物の魔力によって光り出した。ルインゴーレムも魔力を放出して地面に流しており、導線を伝って周囲の魔法陣が次々と起動していく。

 それにより広場一帯が黄色に光る魔力に包まれる。


「シールド……いや、結界? 範囲が広すぎて全体像を掴めない」


 シーリスとイシュテナの声を聞いてアキトは解析を試みるが、広場を囲うように配置された魔法陣全てをラプラスの魔眼で視ることはできない。部分的な結果を繋ぎ合わせようとするが、それより先に魔法の発動が完了する。


「閉じ込められた? 問答無用ってわけかよ!」

「本来なら複数人で発動するような魔法陣だ。強度も持続時間も限界がある」


 発動したのは広場全体を覆う結界だった。ロッシュは驚きつつもエイビスを形成し、ゲルト教授は魔法陣についての知見を述べる。

 そしてこの結界を発動させた謎の人物が振り返り、ようやくアキトたちと対面する。


「スケルトン、この人がこの魔法陣を!?」

「旧文明の亡霊……いや、骸魔術師とでも呼ぶべきか」


 白骨化した動く屍であるスケルトンが、真新しいローブを身に纏っている。その姿と広場の魔法陣を整備した存在であることから、ゲルト教授は旧文明の魔道士の成れの果て【骸魔術師】と予想する。


「多重魔法陣!? 結界とゴーレムを制御したうえで、まだ使えるのか!?」

「爆発魔法の魔力弾です。ゲルト教授は下がってください!」


 骸魔術師は右手をかざして複数の魔法陣を展開すると、次々と魔力弾が形成されて発射される。それと同時にルインゴーレムも動き出し、アキトはゲルト教授を守るべくシュヴァルツシルトを構えて割り込む。


「結界は私が解除しよう。君たちは奴らを」

「ゲルト教授には俺が付く。アキトの位置を防衛ラインにして、シーリスとイシュテナはとにかく攻めろ!」


 筒形の魔力弾【デトネイター】に込められた魔法によって、シュヴァルツシルトへの着弾と同時に爆発が起こる。ゲルト教授が結界を解除するまでの時間を稼ぐため、ロッシュが即座に作戦を指示する。


「今の肉体は恐らく、先にここに来た冒険者だ。二の舞になるなよ!」

「ゴーレムは引き付ける。魔術師に仕掛けろ」

「任せて!」


 ロッシュが風を纏った鳥型魔力弾【アクィラ】でルインゴーレムを牽制し、イシュテナが注意を引き付けている間に脚部を獣化したシーリスが骸魔術師に接近する。


「魔法陣の盾……シーリス、それも爆発魔法だ!」


 骸魔術師が迎え撃つように展開した多重魔法陣をアキトがラプラスの魔眼で視る。


「だとしても、潰す!」


 爆発魔法を込めて攻撃を防ぐ時に発動させるシールド【リアクティブシールド】を、シーリスはジャマダハルに纏わせた真空波で相殺する。骸魔術師は爆風に乗って彼女の追撃を躱して距離を取る。


(……走れ、サイドワインダー)


 ルインゴーレムの足元を抜けてイシュテナの白色の魔力が地面を走る。骸魔術師はデトネイターを撃とうとした魔法陣をシールドに転用し、サイドワインダーから放たれる魔力の杭を防ぐ。


「カカ、カッ! カカ、カカ――カッ!」


 サイドワインダーを見た骸魔術師の動きが変わる。声帯のないスケルトンでは何を言おうとしているのかは分からないが、イシュテナを敵視して執拗にデトネイターを撃ち始めた。


「私を狙ってきたか」


 流れ弾が結界に当たっているのもお構いなしに撃ち続けている。防戦一方になったイシュテナは右目を覆っていた包帯を捨てて視野を確保することで、何とか切り抜ける。


「まずい、イシュテナが……」

「それよりこっちだ。手が回らん」


 ルインゴーレムは左手から衝撃波を放つと、それを防ぐアキトに向かって走り出す。デトネイターを撃ち落としているためロッシュの迎撃も間に合わず、間合いを詰めながら右腕を大きく振りかぶってくる。


「重力場で相殺して、動きを止める」

「頼むぜ」


 アキトはアステロイドを正面にばら撒いて、グラビティフィールドを形成する。指向性を持った重力場がルインゴーレムの巨体を押し留めるが、肘の魔法陣から放たれた衝撃波によって右腕が振り下ろされる。


「くうっ……」

「すぐ援護する。持ちこたえろ」


 ルインゴーレムの拳をシュヴァルツシルトで受け止めたアキトは、自身からもグラビティを発動して重力場の出力を上げる。その重力場に沿うようにロッシュのアクィラが流れ込み、ゴーレムの胴体に着弾して烈風を巻き起こす。


「あと一押し……行け!」


 アキトはばら撒いたアステロイドの魔力を全て使用し、瞬間的に重力場の出力を上昇させる。それによりルインゴーレムの巨体は数メートル押し戻され、そこにイシュテナが飛び込んでくる。


「ゴォーーッ!!」


 迎撃の肘打ちは回避したイシュテナだったが、その勢いのまま振り抜かれた手に捕まってしまう。ルインゴーレムは逆手で握った彼女を持ち上げて逆さ吊りにすると、掌の魔法陣から衝撃波を出して握り潰す。


「イシュテナ!」


 その光景に、助けに入ろうとしたシーリスが思わず声を上げる。しかしルインゴーレムの掌に残ったのは、四散する白い魔力だけだった。


「――!?」


 その直後、廃墟の影からイシュテナが姿を現す。ルインゴーレムが握りつぶしたのは姿が投影された魔力の塊【分身】であり、それに気付いて再度迎撃しようとするも右腕が動かなかった。


(腕だけか……だが、問題ない)


 破壊される瞬間に分身が魔力の杭を影に打ち込んでおり、それによって動きを止める魔法【影縫い】を発動していた。ルインゴーレムの巨体に対しては右腕のみにしか効果がなかったが、イシュテナが肉薄するには十分だった。


(その腕を断つ)


 魔力で足場を作って空を駆け上がると同時に右手のサーペントを振り上げて肘の関節を斬りつける。そして間髪入れずに左手のサーペントを突き刺すと、内部に侵食した闇の瘴気【ヒュドラ】が関節を食い破ってルインゴーレムの右腕を破断する。

 それと同時に広場を覆っていた結界の光が脈動する。


「結界に歪みが!?」

「皆、良く抑えてくれた。あと一押しで解除できる」


 視界の奥に見えていた結界の変容をアキトはラプラスの魔眼で捉える。脈動の中にゲルト教授の魔法が侵入し、均衡を崩した結界が消滅していく。


「ゲルト教授、一体どうやって!?」

「いくつかの魔法陣への魔力供給を遮断し、強度が落ちた所から魔力分解を仕掛けた。バランスが崩れれば、後は勝手に崩壊する」


 アキトの質問にゲルト教授が答える。本来であれば結界の外から複数人で魔法陣に魔力を供給するような仕掛けである。骸魔術師はそれを1人で発動できるように改造していたが、戦闘をこなしながら強固に維持することはできなかった。


「形勢逆転だ。押し切るぞ!」


 結界は完全に消え去り、ルインゴーレムも右腕を失っている。骸魔術師が怒り狂ったように両手でデトネイターを乱射し始めるが、これを好機と見たロッシュはエイビスの魔力を全て使用して周囲にアクィラを展開する。


「邪魔はさせないよ」


 乱射されたデトネイターはシュヴァルツシルトに阻まれ、ロッシュは満を持してアクィラを一斉射する。数多の鳥型魔力弾が爆風を切り裂きながら、攻撃を防いだアキトを追い越した先に収束していく。


「ググ、ゴォーーッ!!」

「よそ見するとは、迂闊だな」


 ルインゴーレムが残った左腕で庇おうとするが、イシュテナの影縫いによって動きを止められる。伸ばした腕が骸魔術師に届くことは無く、直後に飛び込んだシーリスの剣閃によって斬り落とされる。


「カカ、カッ!」

「防げるかよ、その程度で!」


 これでロッシュのアクィラを阻むものは無くなった。集った鳥たちは烈風の槍となって収束点から放たれ、一筋の閃光が骸魔術師の魔法陣へと飛び込んでいく。


「――!?」


 リアクティブシールドが反応するより早く、収束したアクィラによって貫かれる。深緑の閃光は骸魔術師の左上半身を吹き飛ばし、その先にある城門を穿って風穴を開ける。


「骸魔術師、一体何を!?」


 風化の進んだ城門はその一撃によって崩壊を始めた。傷を負った骸魔術師はふらつきながらも、アキトたちを無視して城門へ向かっている。


「アキト君、ゴーレムがそっちに!」


 降り注ぐ瓦礫の雨に飲み込まれ、舞い散る粉塵の中に骸魔術師が飲み込まれる。その行方が気になるアキトだったが、シーリスの声で引き戻される。


(守りたいのは骸魔術師? それとも――)


 両腕を失ったルインゴーレムが、2人を振り切って捨て身で迫って来る。その行動に疑問が浮かびながらも、アキトはアステロイドを撃ち込んでグラビティを発動させる。


(この廃墟に何かあるのか?)


 重力場によってバランスを崩したルインゴーレムが音を立てて地面に倒れ込む。


「ググ……ギギギギ――」


 重力場に抗いながらもルインゴーレムは顔を上げ、アキトを睨み付けるように目を光らせる。しかし発動した探知魔法が彼を捉えるより先に、頭上から降り注いだ冷気の渦に押し潰される。


「グギ……ギ……」


 ルインゴーレムの頭部が地面と一体となって凍結されると、同時に叩きつけられた真空波によって粉々に砕け散った。それにより憑依していた魂が抜け、全身が崩れ落ちて瓦礫の山が残される。


「骸魔術師は?」

「……出てきた。あそこだ」


 絶対零度の冷気で凍らせた瞬間に真空波で砕く魔法【ブライニクル】でルインゴーレムを撃破したシーリスが、魔力で形成した足場を蹴って重力場の範囲外に降りてくる。それと同時にイシュテナが骸魔術師を発見する。


「何を見てる……門の先か?」

「でも何もない。僕たちが見ていたのは、幻影だったのかも?」


 瓦礫の影から出てきた骸魔術師は、崩壊した城門に視線を向けている。ロッシュとアキトが警戒態勢をとりながら視線の先を確認すると、戦闘前に見た立派な城が存在していなかった。


――そこにあるのは魔力の靄が漂うだけの空間だった。


「アア……アアァァ――ッ!!」


 不意打ちを仕掛けるイシュテナにリアクティブシールドを押し付けて跳ね除けると、堰を切ったかのように骸魔術師が叫び声を上げる。それと同時に膨大な魔力が放出され、援護に動いたシーリスも足を止める。


「まさか、骸魔術師は城門を守ろうとしていたのか?」


 映っていた幻影が本当に存在していたのかも、骸魔術師自身の本心も分からない……だがゲルト教授の仮説が正しければ、最後の一線を越える理由には十分だった。


「魔力の放出……でも、魔法じゃない――」


 強い感情が放出される魔力に乗ることで高出力の念話【精神波】となり、無差別に周囲に巻き散らされる。


「早く精神障壁の出力を上げろ! おい、アキト! 聞いてるか!」

(なんだ、これは……)


 ロッシュの叫びは既に届かず、アキトは精神波に飲まれる。絶望、憎悪、使命……あらゆる感情に思考は支配され、自分自身の感覚が塗りつぶされる。


――そして“白色の魔力によって、都市と自分が吹き飛ばされる瞬間”が訪れる。


 それに抗うように骸魔術師は右手を伸ばし、正面にいる“敵”に向かって魔法陣を展開している。


『私は……絶対に……じゃの……などに――』


 精神波の感情がピークに達した時、黄色の魔力で満たされた空間に無数の影が取り囲むように射し込む。地を這う影は斬撃となって骸魔術師の身体を串刺しにし、イシュテナの魔力が白色の残光となって煌めく。

 永い時を留まっていた思念が解放され、抜け殻となった骨の肉体がその場に崩れ落ちていった。




……




…………




「くそっ、頭いてえ。少し食らっちまった」

「収まったのか……アキト君たちは?」


 骸魔術師が放出した魔力もダンジョンの中に四散し、ロッシュとゲルト教授が精神障壁を解除する。静寂を取り戻した広場に残っていたのは、額を寄せ合うアキトとシーリスだった。


「ううぅぅ……そんな、こんな事って……」

「守れなかった……私が、もっと……」


 精神波の直撃を受けた2人は骸魔術師の感情に共感してしまい、最期の嘆きを共に分かち合う。涙を流して泣いているその姿をイシュテナは近くでただ黙って見ていた。


読んでいただきありがとうございます。

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