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おまけ召喚 extra  作者: 草野 瀬津璃
web拍手掲載済ss
4/4

ちいさな夢のはなし

※外伝みたいな。リドが幼い頃の話です。



 ――かわいいリド

 ――かわいそうなリド

 ――また泣いてるの?

 ――どうしたの?


 森の中にある崩れかけた館の奥で、十歳のリドは膝を抱えていた。

 周りを風の精霊たちが飛び交って、大丈夫かと声を揃える。

 口を引き結んで、盗賊団レッディエータの首領から言い付けられた用事をこなすリド。盗賊達が戦利品と誇らしげにしている、ただの盗品の山を種類別に分けるのが今のリドの仕事だった。

 仕事が遅いと殴られたので、頬が赤く腫れている。

 ここで生き延びたければ、粛々と与えられた仕事をこなすしかない。

 むっつりと黙り込むリドの様子に、風の精霊達は怒りだした。


 ――私達、知ってるわ

 ――あの偉そうな男があなたを殴ったの

 ――大嫌い!

 ――かわいい子を傷付ける

 ――大嫌い!


 彼女達は騒ぎ立て、リドの周りをビュンビュンと飛び回り始めた。

 これ以上放置すると、首領に襲いかかりそうなので、リドは渋々口を挟む。

「俺も嫌いだ。でも何もしないでくれ。大丈夫だから」

 そう言うと、精霊達は落ち着いたようだった。

 柔らかい風が、痛む頬を撫でて通り過ぎていく。


 ――大丈夫?


 優しい声が問う。

 リドの目に、痛みのせいでない涙が浮かんだ。

 もしリドが彼女達の声が聞こえず、一人きりだったら。そう考えると怖くなる。精霊達の混じりけのない好意だけが、この惨めな生活の中で小さな光になっていた。

「大丈夫」

 リドは繰り返した。

 負けん気の強さから、大丈夫ではないと認めるのが嫌だった。

「俺は大人になったら、絶対にここから出て行くんだ」

 小さな声で呟く。

 幼い為に、アジトになっているこの場所から出させてもらえないが、十一歳になれば外に出るらしい。そこで逃げる為の情報を集めて、念入りに計画を立てて、絶対に追ってこられないと確信したら逃げるのだ。

 リドの宣言を聞いた風の精霊達ははしゃいだ声を上げる。


 ――その意気よ、わたしたちの可愛い子

 ――ねえ、出たら何をしたい?

 ――教えて教えて


「出たら……」

 リドはここを出て行くことばかり考えていて、何をしたいかなんて考えていなかったことに気付いた。

(家に帰る、とか?)

 八歳の時にここに連れてこられて、どこかからさらわれたことは知っていたが、家がどこにあるのか知らない。家族の顔も、そもそも家族が生きているのかすらも分からなかった。

「そうだなあ……」

 幼いリドの心に浮かんだのは、身近にいる盗賊達だった。彼らの中にはとても仲の良い者もいた。

 リドはここの人間が全員嫌いで、幼いながら誰も信じていなかったが、友達がいるのはうらやましかった。

「温かい家でさ、誰にもビクビクしないで楽しく暮らすんだ。そして、友達を作るんだ」

 想像したら、とても素敵なことのように思えて、自然と笑みが浮かんだ。

 風の精霊達は笑いさざめく。


 ――きっと出来るわ

 ――大丈夫!


 彼女達の明るい声に背中を押され、リドは「うん」と頷いて笑った。

 暗い気持ちで、疲れて寝床につく日ばかりだったのに、その日は心穏やかに眠りに付けた。


 それから七年後。

 リドは不可思議な少年を拾い、幼い頃の夢を叶えた。



 ……end.




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