第一話 プロローグ
「痛覚」とは刺激である。
そして、刺激とは私にとって「悦び」であり、快感だ。
私は「悦び」の為にあらゆる手段で身体に刺激を加えた。
最初は指を学校の裁縫ペンで刺してみた。
刺した箇所から血液が滲み出て脳が僅かな痛みを感じた。
僅かな痛みでは満足しきれなかった私は次にカッターで腕を切りつけた。
斬った箇所から針で刺した時より多くの血が流れた。
より強い痛み、つまり、より強い悦びが私の脳から電気信号として発せられ身体中を駆け巡った。
しかし、「痛覚」とは私にとっては悦びであるが
人間にとっては生命活動の危機を伝える危険信号だ。
その事を私は小学生の頃、初めて腕をカッターで斬った時に母親から教わった。
「その痛いのがもっともーーーっと強くなると人は死んでしまうんだよ」
・・・と、傷口を縫った病院の帰りに言っていた。
「だから、自分から痛い事をしてはダメ」
・・・とも。母はその時とても真剣な顔をしていたから、本当にダメな事だとわかった。
けれど、私はその当時から「痛み」を悦びと感じて
再び"それ"を得たいと思い始めていた。
あれから数年が経ち、知恵をつけた私はカッターで切った箇所を長袖で隠す事を覚えた。
私は何度も腕を切っては、感じる痛みを喜んだ。より強い痛みを欲っし、より深く傷つけた時には止血しても血が止まらなかったから自分で病院に行き手当てして貰っていた。
その頃から人間が痛みを感じるのは身体から血液を失いかけてるからだと学んだ。
私は死にたいわけじゃない、ただ、もっと「痛み」を感じたいだけだ。より強い快感を得たいだけなのだ。
だから私は自分で止血が間に合う程度の自傷行為を続けた。
もっと深く腕にカッターを刺せば、もっと強い痛みを感じれるのだろうが、私はそれをすると死ぬと直感で感じ取り、致命傷になる寸前で刃を止めて直ぐ様傷口を手当てする事が出来た。
本当の事を言うと、手当てせずに開いた傷口の痛みをしばらく堪能したいのだけれど・・・そうすれば私は死んでしまうから仕方なく毎回止血していた。
でも、この日は違った。
いつも通りに出血が止まらなくなる寸前でカッターを止めて止血しようと思っていた。
けれど、出来なかった。
いや、正しくは・・・止めたく無かった。
たまたまか、それともこれまで溜まっていた欲が爆発したのか、どちらかは分からないけれど
私は普段の数倍カッターで切った箇所の痛みを"気持ち良く"感じてしまったのだ。
それだけなら、まだ私は助かったのかもしれない
でも、私は更に思ってしまったのだ。
もっと強い"痛み"を感じたい。
このまま今刺してるカッターでもっと深く傷つけて更に激しい"痛み"を感じたい。・・・・・・・・・・・・と。
この欲求を私は抑えきれず、そのままカッターで更に深くまで腕を切ってしまったのだ。
激しい痛みが刃を刺した所から伝わり、意識が飛びそうな快感が脳を駆け巡った。
「・・・へっ・・・・・・へへっ・・・・・・これっ・・・・・・やばっ・・・・・・」
意識が飛びそうになっているのは、快感により気持ち良くなってるだけじゃなくて、カッターが腕の大動脈を切断した瞬間大量に血が吹き出し、体内の血液を失ってしまったからだと床に溜まっている血溜まりを見てようやく気づいた。
「血・・・・・・止めないと・・・・・・死んじゃ・・・・・・」
気づくのが遅かった。
私は動脈を切った瞬間、快感のあまり数分間、恍惚としてしまったのだ。
その数分は切断した動脈から血が流れ続けて、体内の血液不足により意識が途絶えるには充分な時間だった。
「え・・・・・・なんだ・・・・・・・・・痛くないや・・・・・・何も感じない・・・・・・」
このまま私は死ぬのかな?
死んだら、もう痛みを感じれないのかな?
てか、前から思ってたけど、血を大量に失ったぐらいで死ぬって人間脆すぎない?
もしも、生まれ変われるのなら、「不死身」になり・・・・・・たい・・・・・・な・・・・・・・・・・・・。
―――――――――――おーい
――――――おーい、起きて〜起きなさいってば〜起きてーおーい!おーきーてー!
目を開くと、そこは一面の雪景色・・・・・・
と言いたくなるくらい、真っっ白い空間が一面に広がっている。上も下も右も左も全部白い!
と言うか、私って今の今まで自分の部屋の中に居た筈じゃ・・・
―――目が覚めましたか?
「すみません、さっきから誰ですか?あなた
ずっと起きなさいって」
―――いや、起きてるんなら起きてるって返事しなさいよ!
「え?だって目を開けて・・・・・・あれ?」
―――あなたの肉体はもう無いですよ。亡くなってしまったので、今は魂だけの存在なのです。
「え・・・?あ・・・あぁ・・・死んじゃったんだ・・・私・・・・・・」
お父さんとお母さん、悲しんでるだろうな・・・
妹と新しく我が家に来たチワワのアイアンも・・・。
身体は無いのに、無いはずの目から涙が溢れる感じがした。
「ごめんね・・・みんな・・・私このまま・・・天国に・・・・・・」
―――いいえ、アナタ天国には行かないですよ?
「・・・へ?・・・まっ・・・まさか私「地獄」に行くの?
自殺したから?でも、あれは自殺したかったんじゃなくて・・・!」
―――いいえ、地獄に行くんじゃありません。
あなたの魂、調べた所【特異な魂】でして、その【特異な魂】を持つ心は、"ある世界" に送る決まりになっているのです。
「な・・・なるほど・・・?」
―――で・・・ここで本題なんだけど・・・・・・ある世界に送る際にですね・・・今世に残ってる肉体を模倣して再構築するんだけど・・・・・・
「それが・・・どうかしましたか・・・?」
―――ご・・・ごめええええん!!!!
「ええ?」
―――その・・・貴女が【特異な魂】だと分かった頃にはもう火葬が終わっていて肉体が消えてしまったんですよ・・・えっと・・・だから・・・その・・・なるべく今世の肉体に近い身体を構築出来るように努力します。―――なので・・・許してくださる・・・?
「それって、生まれ変わって、別の世界で生きるという事?」
―――ええ!肉体は生まれ変わりますが・・・魂は変えないので、貴女はアナタのまま転生します。ああ当然【転生】はわかりますよね?
「転・・・・・・生・・・・・・?」
―――おいおいマジか!?アナタの世界で【転生】はファンタジージャンルの中で結構有名な部類の筈なんですが・・・
「私、ファンタジーはアクションRPGとハ〇ー〇ッターぐらいしか知らないんですよねー・・・」
―――なるほど・・・まぁ端的に言うと、転生とは
心はそのまま別の世界に生まれ変わる事を指す言葉です
「へぇーつまり私は【ある世界】という場所で生まれ変わるけど"心は今のまま"ってことですか?」
――そうゆうことです!
「わかりました、心は変わらないのなら、体が変わっても気にしないですよ」
―――ありがとうございます・・・
―――えっと・・・お詫びと言ったら何ですが・・・何か欲しい能力とかありますか?
「能力?」
―――何でも良いですよ?ビームを撃てるようになりたいとか、瞬間移動が出来るようになりたいとか・・・本当になんでも!
「本当になんでも良いんですね?」
―――もちろん!
「それなら、どんなに身体を傷つけても死なない身体が欲しいです!」
―――・・・つまり、「不死身」になりたいのですね。
分かりました!では、どんな攻撃を受けても不死鳥の様に復活する不死性と、どんな攻撃を受けても痛みが発生しない、無敵性をあなたに授けます!
「いや、ちょっと待ってください、痛みは残して貰わないと困ります」
―――え?でも・・・痛いのは嫌でしょう・・・?
「いいや、不死だけで良いです!なんなら復活した後も暫く「痛み」が身体に残るようにして貰えませんか?余韻を感じたいので」
―――や・・・やべぇ奴に出会ってしまったかもしれねぇです・・・。もっ!勿論!それぐらい余裕で授けられますとも!
「心の声漏れてますけど・・・」
―――こほん!ではでは、肉体を構築するので目を閉じて下さいね〜
誤魔化したな。そもそも今の私は身体が無いのだから眼もないんじゃ・・・あれっ・・・だんだん・・・視界が暗く・・・・・・なって・・・・・・
そういえば・・・【ある世界】って言ってたけど、どんな世界なんだろう?(そもそも、誰の声なんだ?)
小学生の頃読んだ本みたいな魔法の世界なのかな?
あぁ・・・あの本に書いてあった敵が使う【拷問の呪文】私も受けてみたいな・・・・・・・・・。




