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オールウェイズ・ゲット・ア・パッシング・グレード

ハチオウジギアの世界観で起きる短編です。

ステーキハウス「オールウェイズ」での出来事。


次回は6月14日です。以降は隔週日曜日20時に更新。作成状況によっては不定期になります。


※ハチオウジギア、ハチオウジ鬼譚と同じ世界観で起きる出来事です。独立して読めます。

ハチオウジギア本編はこちら▼

https://ncode.syosetu.com/n5723lb/

ハチオウジ鬼譚はこちら▼

https://ncode.syosetu.com/n8321lh/

ページ下部にも関連作品リンクあります。





 ハチオウジ市日野区、雑居ビル二階の一角に「オールウェイズ」はあった。


 テーブルが五席。壁にはガンホルダーと馬蹄の飾りが掛かっていた。


 痩せた若い男が厨房の仕込み台に立っている。店主の毎度まいどジロウだ。無造作な前髪にのぞく、眼鏡の奥にある眼は茫洋としている。手元からは肉を叩く音が一定のリズムを丁寧に刻んでいた。


 外から雨音が聞こえている。ランチが終わり、落ちつく時間だが、ジロウは手を抜かずに淡々と仕込みをこなしていた。


『伊勢崎市で反政府組織ワンゴットにより爆破テロが発生し、多数の死者が……』


 店内のラジオからは物騒な話題が聞こえてくる。


 ジロウは借金苦で病死した両親からこの店と借金を引き継ぎ、あてのない返済を続けていた。


 日本は大災害以降、犯罪率上昇と武器使用緩和、超常犯罪と呼ばれる不可解な犯罪やテロの横行、巨大企業の横暴と貧富の格差拡大と酷い状況が続いている。


 そんな中で父は友人を助ける為に借金を背負って、家庭は崩壊した。ジロウは父を馬鹿で愚かだと思っている。


 料理を作ることにより、自身と世界を取り巻く環境から無心になれた。ジロウにとって人と関わらず料理に専念することだけが救いだった。


 入口にある扉のガラス越しに小さな影が見えた。汚らしい身なりの少年だ。十歳くらいか。雨宿りでもしているのか? 関係ないことだ。


 ジロウは無視して仕込みを続ける。


 暫くするとカランコロン、ドアに付けたカウベルが音を立てた。


 ガラの悪い男が入ってきた。借金取りだ。


「今月分、取りに来たぞ」


 ジロウは溜息をつき、レジの横から札の入った封筒を取り出して男に渡す。


 男は封筒の中身を確認して頷くと外に出た。


「邪魔だ! ガキが」


 ガラス越しに男が少年を蹴るのが見えた。ジロウは無視して仕込みを続ける。


 視線を感じて顔をあげるとガラスから少年が物欲しそうにこちらを見ていた。気にせずに仕込みを続ける、雨の音が激しくなる。


 肉を叩く一定のリズムが、初めて乱れた。ジロウはなぜか作業に集中できない。首を振り、厨房から出ると入口の扉を開けた。


「なんだ?」


 ボロを纏い、痩せた少年がこちらを見つめる。


「……お腹減った」


「家に帰れ」


「もうない……」


 ジロウは扉を閉めようと手をやった。それでも少年がじっと見てる。父が死に、次に母が死んだ夜、鏡に映った自分の眼と同じだった。


「名前は?」


「ヨタオ」


 沈黙が流れる。


「入れ」


 店内にヨタオを招き入れた。テーブルを示すとヨタオは席に腰を下ろした。


「今日だけだぞ」


 ヨタオの顔が輝く。オレンジジュースを注いで、彼の前に置く。嬉しそうに飲んでいる。


 厨房に戻り、レタスの上に玉ねぎで作られた白いドレッシングをかけたサラダを作る。サラダが木目のテーブルに明るさを彩った。


 ヨタオが食べているのを見ながら、ジロウは厨房で分厚いステーキ肉を黙々と扱っている。油を引いた鉄板に肉を置くと、表面が一瞬で締まり、香ばしい匂いが立ちのぼった。


 肉は余計な味付けをされず、そのままの力強さを活かして焼かれていく。ソースに頼ることなく肉そのものの旨味で完成へ向かっていく。


 焼き上がったステーキにバターを乗せた。焼き目と肉汁、バターの香りで完結している。ステーキは皿へ移され、付け合わせとして黄色いコーンが添えられる。粒の甘さが肉の濃さと対になるように配置した。


 ご飯を盛り付けてステーキ皿をヨタオの前に置いた。


 運ばれてきた皿を前にヨタオは目を丸くした。


 白い湯気を立てるご飯。こんがり焼き上げられたステーキ。その横には、黄金色のコーンがたっぷり添えられている。肉から立ちのぼる香ばしい匂いにヨタオの喉が小さく鳴った。


「熱いぞ」


 ジロウが短く言う。ヨタオが何度も頷き、フォークとナイフをぎこちなく握った。最初の一切れを口へ運んだ瞬間、表情が変わる。


「おいしい」


 ご飯をかきこみ、コーンを口に入れると笑みが漏れた。


 夢中になって食べているヨタオを黙って見つめていた。やつれた顔にいつの間にか赤みが戻っている。


「ごちそうさま」


 ヨタオの前には綺麗に平らげた皿だけが残っていた。


 それを見てジロウは父が店名をオールウェイズと名付けた理由を思い出した。


 貴賎なくどんな人にもレベルの高い満足をいつも出す、だから「オールウェイズ」。


 ジロウは父の気持ちが微かにわかった。



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