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妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む  作者: 月焔 レイ
第三章(3) 旗を上げるとき
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第六十七話 取り戻した王国、満月の約束

瓦礫の匂いが、まだ風に残っていた。


 ルシアは、崩れた王城を見上げていた。


 ──無くなった。

 あの男が築き上げた城は、すべて。


 跡形もなく。


 背後を振り返ると、城下町が広がっていた。


 戸惑いながら、顔を出し始める人々。

 統制を失い、茫然と立ち尽くす軍人。

 結果を察し、歓声を上げるルミナリア反逆軍。


 ──いや。

 ルミナリア王国軍の姿だ。


 ──取り戻したのだ。


 確かに、この国を。


「ここから、だね」


 隣に立ったノエルの言葉に、ルシアは小さく頷いた。



「忙しくなるぞ」 

「みんなとなら、大丈夫」

「そうだね」


 ルシアの断言に、ノエルの力強い声が応えた。

 ルシアが見上げると、大佐は横で目を細め、街を見下ろしていた。


 その横顔は、柔らかかった。


 今までで一番、優しい顔をしていた。

 

 爽やかなハーブの香りが駆け抜けた──


  ⸻⸻


 それからは、全員が腰を下ろす暇もなく動き続けた。

 

 アルグレイ隊はそのまま現地に残り、怪我人の救助と被害の確認にあたった。


 幸いにも、被害は王城と総司令部に集中していた。王都の人々の多くは、無事だった。


 アッシュたちは元王都軍に属していたこともあり、上司たちの間に入って上手く調整をしてくれた。元々マレディア王に好意的で無かった分、大きな抵抗がなかったことは大きかった。

 抵抗の大きい軍人や高官たちは、ルシアたちが即興で作った小屋にまとめて収容された。

 

 ルシアたちはラジオ局に向かい、マレディア王崩御及びルミナリア王国の復国を宣言。

 

 ラジオ局で待っていたのは、ルシアたちが来るであろうことを予測したヴァイスさんだった。

 その姿を見た瞬間、ルシアは堪えきれずに飛びついた。


 ヴァイスさんは片腕でしっかりと抱き止め、優しく頭を撫でてくれた。

 ヴァイスさんに抱きついたまま、声を出して泣くルシアに、ノエルたちは困ったように笑っていた。


 今日だけで何回泣いたか分からないくらい、涙腺が壊れていた。


 でも──


 今日くらいは、許して欲しい。


 ⸻⸻


 太陽が沈み、満天の星空が広がった夜空の下。

 ルシアは一人、宿から抜け出し空を見上げていた。

 

 そのまま吸い込まれてしまいそうなほど、綺麗な星空だった。


 

「──ここに居たのか」


 慣れ親しんだ低い声が響いた。

 ルシアは振り向かないまま、返事をした。

 

「今日は、長かったね」

「そうだな。昼まではこんな事になろうとは思わなかった」


「やっぱり君は予想外だ」と笑う声に、ルシアは「私が悪いんじゃない」と口を尖らせた。


「そうだな。君はなにも、悪く無い。

 ──よく、頑張った」


 噛み締めたような、ゆっくりとした声。

 長年の念願が叶った特別な日。


「はじまりも、おわりも。大佐がいるね」

「そういえばそうだな」


 村が燃えた日。

 大佐が森で助け出してくれていなかったら、

 ルシアもノエルも、生きていなかったかもしれない。


「そういえば。

 大佐はなんで目が覚めた時、居なかったの?」

 

「明朝、私は出兵だったんだ。

 君たちが起きるのを待てなかったんだよ。

 

 ……最後になるかもしれないから、

 森に出ていたんだ。


 私にとっても、

 あの出兵は全ての始まりだ……」


 掠れた声で呟いた大佐を覗き込むと、紫色の目が揺れていた。苦しみも辛さも、全てを飲み込んだ目だった。


「でも。終わったね」

「……そうだな。君のおかげだ」


「私のじゃないよ。みんなの、でしょ」

「そうだな……みんなの、だな」


 ふっと笑った大佐は、誇らしげだった。その変化に、ルシアは胸を撫でおろす。


「これからだね」

「そうだな。これからだ。

 思った以上にボロボロだからな。この国は」


 昼間、高官たちから聞いた国の現状を思い出して腹が立ってしまったのか、眉を顰める大佐に、ルシアは吹き出してしまった。


「笑い事じゃないぞ。君だぞ。トップは」

「何言ってんの。私じゃないよ。みんなでするの」


「全く君は」と大佐は苦笑するが、「みんなが優秀だから大丈夫」とルシアは胸を張る。


「大佐も、居てくれるでしょ?」


 居てほしい。とは言えない自分の不器用さに嫌気がさしたが、これがルシアの精一杯だった。


「私の夢は、これからだからな。手伝わせてもらうよ」

「ん。ありがとう」


「戻ろうか。

 夏場とはいえ、夜風は身体に悪い」


 背を向け戻り始めた

 大佐の大きな背中を見つめる。


 もう──こんな風に、二人で話すことはないかもしれない。

 

 王族となる自分の周りには、きっと常に人がいるようになる。

 

 大佐と、二人きりで話せることは最後かもしれない。そう思った瞬間、ルシアの口から素直な言葉がこぼれた。


「大佐、好きだよ」


 足が止まった大佐の背中に、もう一度呟く。


「ずっと、大佐のこと、好きだったよ」


 すっきりした。

 自分の気持ちが受け入れられることはないだろうけど、これから自分は国のために生きなければならない。

 

 その覚悟はあった。


 だから、終わり。


 この初恋は──今日で、本当に終わり。


「帰ろっ!」


 大佐の横をするりと抜け、にこりと笑いかけた。

 大佐は目を見開いて固まっており、動かない。


「早く行くよー」


 顔を見るのが恥ずかしくて、前を向き足を早めた。


「ちょっと待て」


 大佐の声にルシアは足を止め、「ん?」と振り向いた。


 顔を覆った大佐が、天を見上げていた。


「……なにしてるの?」


「なにしてるの?じゃない。

 ……なんで君は、そう変なところで男前なんだ」


「人生の半分、男だったから?」

「そういう問題じゃないだろう」


 はー。と思いきりため息を吐かれ、ムッとする。


「人の一世一代の告白をそんな風に言わないでくれない?これでも悩んだんだけど!」

「だからなんで勝手に終わらせるんだ!」

「叶うはずないのに、期待するだけ無駄じゃん!馬鹿大佐!」

「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは!それが好きな人に向かって吐く言葉か!」

「うるさい!ばーかばーか!」

「あーもう。少しは黙んなさい!」


 手を思いっきり引かれ、引き寄せられる。

 ふわっと身体が浮き、大佐の胸に着地した。

 思いきり鼻がぶつかり痛い。


「なにすん……!!」


 続きは言えなかった。

 真剣な瞳にただ囚われた。


 大佐は、何も言わない。

 その沈黙が何よりも残酷だった。


 視線をそっとそらし、止めていた息を吐きだす。

 淡い想いは、闇に吸い込まれた。


 慰めは、いらない。そういうつもりじゃなかったのに。

 捕らわれた腕から抜け出そうとした瞬間、静かに響いた言葉にルシアは動きを止めた。


「君のことが好きだ。

 そんな身分じゃないことは分かっている。


 だが、君の隣に他の男が立つのは、許せない」


 そう言った大佐は、騎士のように膝をつき、

 こちらを見上げ、ルシアの左手を取った。


 アメジストの瞳に、月が映って揺れていた。


「君の隣に立つ資格が、欲しい。


 君を一生、守らせてくれないか」


 ルシアの瞳がみるみるうちに潤む。

 本当に今日は泣いてばかりだ。


「よろしく、おねがいします……」


 ルシアの答えに、ふっと笑った大佐は、

 ルシアの左手の薬指にそっと口付けた。


 月だけが、二人を見ていた。


 

 

 亡国から始まったこの物語は、王国奪還という形でひとつの区切りを迎えました。

 ですが――ルシアたちの物語は、まだ終わりではありません。


 現在、新たに「やり直し」をテーマにした物語として、もうひとつの“亡国”を投稿開始しております。


 すべてを取り戻したはずのその先で、

 もし、もう一度あの日に戻ったなら――


 本作とはまた違った視点で描かれる物語になりますが、ぜひそちらもお付き合いいただけたら嬉しいです。


 この物語が、誰かの心に残るものであったなら、それ以上の喜びはありません。


 また別の物語で、お会いできることを願って――

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― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます。 いつになったら、大佐が告白するのか?と思って待っていたらルシア嬢からでしたね。 2人のぎこちなく、初々しい口づけに照れくささと、大人の言い出せない距離感が出ていて良かったで…
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