第五十六話 反逆者たちの夜
「──レオン、おまえ…国に反旗を翻したって?」
ユリウス王子の言葉に、大佐がため息を吐く音が聞こえた。
「流石帝国。情報が早いな……」
「早くはないだろう。半年近くも経ってるんだぞ。正直、あまりに続報が入らないから嘘かと思い始めていたくらいだ」
「国境を超えるために冒険者に擬態していたからな。実績を積むのに時間がかかったんだ。」
「なるほどな。」
変わらない様子で言葉を交わす二人の姿に、ルシアたちの身体のこわばりが微かに緩んだ。その雰囲気を感じ取ったのか、こちらを見たユリウス王子がほほ笑んだ。
「レオンが、国民のためにならないことをするはずがない。
レオンが反旗を翻したなら、それ相応の理由があったはずだ。」
そう言ったユリウス王子の言葉に、大佐は「だからお前は…無条件に信用するのをやめろと何度言ったら分かるんだ……」と肩を落としていた。
「レオンに裏切られるなら、それはそれで悪くないな」と笑うユリウス王子との絆は深いものなのだろう。大佐がそこまで深い交友を結んだ相手をヴァイスさん以外に知らなかったルシアは、少々複雑な気持ちとなった。
大佐の絶対的な味方がいて安心するとともに、
大佐を取られたようで、面白くない。
楽しそうに笑うユリウス王子と苦笑する大佐の横顔を見つめながら、ルシアは取り出した水筒の水を飲んだ。
中身はただの水なはずなのに、なぜか少し苦く感じた。
⸻⸻
現在のアルグレイ隊が置かれた状況を大佐がユリウス王子に話している間、ルシアたちは簡単なスープを作ったり、野営の準備をした。
ヴァイスさんの話では、淡々と語る大佐とは対照的に、自分のことのように痛そうな顔をしているユリウス王子が印象的だった。
「そっか。助けてあげたいけど、僕もよその国へ簡単に手助けできる立場じゃないからな…」
「すまない」と苦しそうに言うユリウス王子に、大佐は「お前が気にすることじゃない。」と微かに笑った。
「それで?お前はなんで襲われていたんだ?」
切り出された大佐の質問に、アルグレイ隊の関心が再びユリウス王子に集まった。手元は変わらずに動きながらも、みんなが耳を澄ましてるのがルシアには分かった。
「あー……第一王子の差し金でね。後継者争いの縺れってやつかな?」
「だが、お前は第二王子だろう?
第一王子を支えるって言っていなかったか?」
「それが、ちょっと事情が変わってね……」
言いづらそうに口を開いたユリウス王子が教えてくれた帝国の内情はこうだ。
第一王子とユリウス王子は腹違いで、ユリウス王子は側妃の子らしい。
通常であれば第一王子が王太子となる。ユリウス王子も第一王子支えるために他国の勉強として、王国の士官学校に秘密留学という形で忍び込んでいたらしい。
(他国の王族が軍の士官学校に入っている時点で問題しかないのだが、そこは未だに大佐とヴァイスさんしか未だに知らないからいいんだ。と笑っていた。)
それが一昨年、本妻が亡くなり、側妃が本妻代理となったことで事態が一変した。
ユリウス王子のほうが第一王子よりも優秀だったことが引き金となり、周りが後継者争いを勃発。
国内貴族が第一王子派と第二王子派に分裂し、近年その争いは激しさを増したらしい。
今回はユリウス王子が視察へ出ており、警備が手薄となったところを狙われた。とのことだった。
「とまあ、よくある後継者争いってやつだ」
「お前な……他国のやつに簡単に自国の内情を話すな」
「レオンの部下でしょ?それにこのくらい、国内の貴族は皆知っている。問題ないよ」
ひらひらと手を振る第二王子は「まいっちゃうよね」と苦笑いしている。
「それで?お前はどうするんだ?」
「んー。今までは兄さん自体が手を出してきていた訳じゃなかったから静観していたんだけど、今回ばかりはね……危うく僕の騎士たちも死にかけたし。
僕たちに手を出したからには、それ相応の覚悟をしてもらうよ」
「命までは取るつもりはないけどね」とほほ笑んでいるが、ユリウス王子の目は鋭い光を宿していた。
許すつもりはない──そう告げていた。
「でも、仲が悪いわけではなかったし。
残念ではあるよ……。
ただ、既に国内の緊張も増してきて、そろそろ限界ではあったんだ。
このままでは内戦を引き起こしかねない。
僕も覚悟を決めないといけなかったから、いいきっかけになったよ」
そう笑うユリウス王子はら少し寂しそうだった。
第一王子との仲は悪く無かったのだろう。兄さんと呼ぶくらいだ。
ルシアはユリウス王子の気持ちが少しだけ分かる気がした。
──思ったようには、進まない。
好きで争いたいわけではないのに。
ただ平和に生きたいだけなのに。
周囲がそうさせてくれない。
自分は自分らしく生きていたいだけなのに。
周囲の渦に巻き込まれていく感覚は、ルシアにも覚えがあるものだった。
王国復興の物語は自分が選んで始めたが、元を辿れば、マレディア国王たちによる両親たちの殺害によるものだ。
もしかしたら、ルシアとノエルが今も家族と共に王族として笑い、大佐が騎士として過ごす。ルミナリア王国民が笑顔で過ごせた未来があったかもしれないのに。
それをマレディア国王たちは奪ったのだ。
マレディア国王たちに復讐するつもりはないが、決して許せるものではなかった。
ルシアは、自分の手のひらをじっと見つめた。
この手で守ることのできなかった過去──
自分の覚悟が足りなかったばかりに、ヴァイスさんを傷つける結果となった。自分のせいでアルグレイ隊が欠けるところだった。
この半年で、覚悟を固めた。
何度も、何度も、繰り返し夢をみた。
ヴァイスさんが撃たれる夢、フェルが立ち去る夢、両親が守ってくれる夢──
次は、自分が守ってみせる。絶対に。
沈んだ夕陽は代わりに月を連れてきた。
欠けることのない満月が、静かに空に浮かんでいた──
ここまで読んでくださりありがとうございます!
ブックマークやいいねしていただけると励みになります!よろしくお願いします。
毎日投稿しています。よろしくおねがいします。




