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妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む  作者: 月焔 レイ
第二章(3)国内─ノースブルク
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第四十四話 ノースブルクの満月


 先ほどまでの殺伐とした雰囲気が嘘みたいに消えた穏やかな時間。暖炉の火が部屋を彩っていた。


 ルシアは、リビングのソファーで向かいに座ったクラウゼさんに問いかけた。

 

「これからクラウゼさんはどうしますか?」


「しばらくはここにいて、何か力になれそうな魔術がないか考えてみるよ。力はいくらあってもいいだろう?」


「まだまだ経験が足りないので助かります」

 

「いやいや、先程見た魔法は素晴らしかった。流石セオとエリシアの子たちだよ。

 ……本当にすまなかったね。」


 目を伏せるクラウゼさんを見たルシアは複雑な気持ちを覚えた。


──復讐は、何も生まないことは分かっていた。


 父も母もルシアたちに望んでいないだろう。復讐に囚われてしまっては、二人が悲しむ。


 両親が妖精の魔法を見せるほどだ。きっと、とても大事にしていて、とても仲が良かったのだろう。


 そうであるならば、両親の親友でもあったクラウゼさんと歪み合うよりも、協力し、未来を描いた方がきっと両親も喜ぶ。両親はそういう人たちだった。


 今はまだ、割り切ることは出来ないけれど、同じ方向を向くうちにいつか仲良くなれたらいい。─ルシアはそう思っていた。

 

「…いいですよ。って言えたらいいんですけど、やっぱりそこまで物分かりよくはならないので……ごめんなさい。」

 

「いや、あっさり許されてしまう方が僕にとっては辛い。力になるくらいで許されることではないことは分かっているよ。

 ルミナリア王国民にも、本当に申し訳ないことをした……」


「そう思ってくださるなら、これから沢山返してくださいねっ!」


 敢えて軽い口調でルシアがクラウゼさんに伝えると、クラウゼさんは泣きそうな顔になりながらも、少しだけ笑って頷いてくれた。


 まだまだ、これからだ。

 何も始まってはいないのだから。


 今は、力を蓄えるとき。

 分かってはいても、逸る気持ちは止めることは難しかった──


 ⸻⸻


「それでは、また連絡します。」

「ああ。ありがとう。気をつけて」


 クラウゼさんに見送られ、アルグレイ隊一行はノースブルクの街へ向かった。


 ⸻⸻


 次々と襲いかかる魔獣の叫び声が辺りに響く。血の匂いは、次の魔獣を引き寄せた。

 

 息を切らし始めたアルグレイ隊に、鋭いヴァイスさんの声が飛ぶ。

 

「次、右!スノーウルフ、三体。カイル、ルシア頼んだ!」

「イエス、サー!」


「左、アイスベアー、一体。大佐、リア、ウィルで頼む!」

「了解。」

「了解です!」


 行きは吹雪いていたせいで遭遇しなかっただけなのか、帰りは魔獣に遭遇することも多い。襲ってくる魔獣を、ヴァイスさんの指揮のもと、複数人でチームを組んで迎え撃つ。 


 指示に従いながら、ルシアはみんなの様子を横目で見ていた。


 久しぶりの魔獣狩りに、リア先輩は舞うように戦っており、楽しそうだ。

 雪上に魔獣の赤い血が散る。リア先輩が跳ぶたび、雪がふわりと舞い上がる。

 その姿は、"戦場の天使"という名に相応しかった。


 そして、結界魔術しか発動しているところを見なかった大佐は、実は攻撃魔術も扱えたらしい。

 雪を杭に変化させ、魔獣を狩っていた。


 総出で対応した結果、付近の魔獣はほとんど狩り尽くしたらしく、魔獣の気配が減った。


 休憩を取るため、大木の下に集まり腰を下ろした。


「疲れた……」

「久しぶりにこんなに身体を動かしましたね」

「いい運動になった!」


 元気いっぱいなのはリア先輩くらいで、他のみんなは少しぐったりしている。クラウゼさんにもらった温かいコーヒーを飲み、ルシアはほっと息をついた。


「大佐って結界魔術以外も使えたんだね」

「いや、使えなかったぞ」

「え?でも使ってなかった?」

「君たち姉弟があまりにも強いからな。私だって特訓したんだ」


 「大佐なのに部下よりあまりにも弱いのはかっこ悪いだろ?」と大佐は苦笑している。だが、さらりと言われた言葉に、ルシアは目を見開いた。


 常にみんなと一緒に行動していた大佐には、特訓する時間など殆ど無かったはずだ。つまり、大佐はみんなが寝ていた夜の間に特訓していたのではないだろうか。


「出来るといっても、素材の形を変化させたりするくらいしか出来ないよ」

「それだけでも十分でしょ。汎用性高いよ?」

「そう言って貰えると報われるね」


 目を細めた大佐は、嬉しそうに笑っている。


 大佐は、自分のことは棚に上げ、部下のことばかり褒めるのだからタチが悪い。自分に厳しい大佐のことは、いったい誰が褒め、労わってくれるのだろう。

 

 ルシアは、大佐のことをもっと褒める決意を固めたのだった。


 ⸻⸻


 日が落ちる夕刻。

 一行はやっとノースブルクの宿に辿り着いた。


「着いたー、暖かいね!」

「お風呂に入りたい、身体が冷えた……」


 嬉しそうなリア先輩とは対照的に、ルシアは疲労困憊だった。

 

「今日はゆっくりして、明日出発だな」

「明日の朝はゆっくりでいいですか?」

「そうだな……昼頃の汽車で出ようか。」

「了解です!それでは!」


 大佐の声に返事を返し、明日の集合時間を打ち合わせ解散する。

 リアと部屋に向かい、雪に濡れた服を着替える。


 服も着替え終わりほっと一息ついたとき、リアがベッドの上のルシアに話しかけた。


「ねーねー、大佐とはどうなってるの?」

「……はい?」

「だってさー、気になるじゃーん」


 ベッドに腰掛け、足をバタバタさせている様子は可愛らしいが、話題に関しては笑えなかった。

 そっと息を吐き、ルシアは答える。


「何もないよ」

「嘘だー。何にもない訳ないじゃん」

「んー。そう言われても、本当に何にもない…」

「ルシアは好きじゃん?大佐のこと」


 ……知られている。

 ルシアは目を見開いた。


「……それって、もしかして皆気づいてる?」

「んー。たぶん?」


 ルシアはその答えを聞き、ベッドに倒れ込んだ。布団の中に潜り込み、丸くなる。

 嘘だ……ノエルに気づかれているのは知っていたけれど、まさか全員に気付かれているなんて思わなかった……


「おーい、ルシア。大丈夫ー?」

「大丈夫じゃない…いつから気づいてた?」

「うーん?私は王都くらい?」

「結構前じゃん……」

「まーね。これだけずっと一緒に行動してたら気づくよ」


 「みんな気づいていても特に気にしてないし、気にしなくていいんじゃない?」と言われても、気にする。

 気づかれていると知っているのに、普通の顔なんてできない。明日からどういう顔をすればいいんだろう。


「それでそれで?実際のところはどうなの?」


 ルシアが布団から顔だけだしてそっと覗くと、頬を上気させたリアの期待した顔が近くにあった。いつの間にかベッドの横に座り込み、ルシアの顔を覗き込んでいる。


「だからー。本当になんにもないって」

「なーんだ。つまんないの」

「つまんないのって……第一、そんなことしてる場合じゃないじゃん?」

「そんなの関係ないじゃん。私たちの青春なんて一度きりだよ?それはそれ、これはこれ。

 いくら青春をささげたって、誰も責任なんて取ってくれないよ?」


 それはそうかもしれないけど……当然のように言うリアに、ルシアは口をぽかんと開けた。


「なに?その顔。本当にそう思ってたの?

 もったいないなー、もう。


 大佐もなにやってんの!」


 なぜか大佐にまで怒り始めたリアは、枕を殴り始めた。


「大佐は関係ないでしょ…第一、大佐には対象外って言われてるし」

「嘘だー。…いつ?」

「んーと。士官学校入る前……?」

「そんな前のこと言ってるの!?そんな訳ないでしょ!?」

「そんな訳あるでしょ…大佐からしたら私なんて子どもだよ?

 ただの保護対象者だって。13歳も離れてるだよ?」

「あーーーーー。もういい。なんか疲れた。」


 絶句したリアは、ベッドに倒れ込んだまま動かなくなった。


「もう、寝る。知らない。」


 とくぐもった声が聞こえる。「なんでリア先輩が怒るんだ。こっちが泣きたい気分なのに。」とルシアは涙目になった。


 ルシアが電気を消して、「おやすみなさい。」とそっと呼びかけると、「おやすみ。」と返ってきた。


 ひんやりとしたノースブルクの空気は、ルシアの火照った頬を冷やしてくれる。

 このまま頭も冷やしてくれますように。どうせなら今の記憶も消えますように。

 

 窓から見える満月に向かって、到底叶うはずない願いを祈る。


 ルシアはそっと目を閉じた。

 そういえば、あの日も満月だった。


 思い出してしまったハーブの匂いに、布団をかぶって頭から追い出す。

 

 早く寝るに限る。ルシアはぎゅっと目をつぶった。


 疲れた身体は、すぐにルシアに心地よい眠りを運んできた。

ここまで読んでくださりありがとうございます!


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