第四十話 塔に隠された赤い指輪
短編投稿しました。
読んでいただけたら嬉しいです。
【悪霊に憑かれた私、神様(猫)に巫女にされて怪異を祓う日々が始まりました】
"コツン、コツン"
塔を上がる姉弟の足音だけが、反響していた。
「お主らは、ここで待て。」
そうフェルに言われた大佐たちは、初めは反対したが頑として譲らないフェルの態度に何か感じたのか、受け入れた。
今は、一階から心配そうに塔の階段を登る姉弟を見守っている。姉弟の付き添いは、もはや定位置となったルシアの頭の上に乗ったフェルと、ミアとシルフィだ。
「それにしても、何段、あるの、これ」
「見た目より、段数、増えてない?」
登っても登っても近づいてこない、階上に見える扉。
まるで、階段が動いているかのよう…に?
「ん?ちょっと待て。」
突然止まったルシアの背にノエルの鼻がぶつかる。
「痛いよ…なに…姉さん」
鼻を摩りながら文句を言うノエルに、石壁を指差した。
「この壁の傷、さっきも見た。」
「え?本当に?」
ルシアの指差した先には、バッテン印になった傷跡。どこにでもありそうだが、意外と観察力のある姉が言うならばそうなのだろう。とノエルは納得する。
「どうした?何かあったか?」
心配そうにかけられた大佐の声に、ルシアは大丈夫と言うように手で丸を作り、考える。
さっき、フェルは上で妖精が待っていると言った。つまり、これはその妖精の仕業に違いない。クスクスという笑い声が時々聞こえるところを見ると、悪戯をして楽しんでいるんだろう。なんてやつだ。
「ミア」
ルシアの低い声を聞き、ミアは「あーあ、しーらない」と素知らぬ顔をしている。
そして、「アイスコールド、ミア」というルシアの声に合わせて、魔法を発動した。
"キン"という音と共に、ルシアたちの周囲を残し、空間が凍りついていく。下で「さっむい!!!!」というミア先輩の声が聞こえた気がするが、すぐに止んだので大佐が結界で何とかしてくれたのだろう。
暫くすると、階段の上の方から"パリン"と何かが割れる音がした。
音がした方向にズンズン進んでいくと、みるみる間に部屋の扉が近づいてきた。
バン!という音を立て、ルシアは木製のドアを勢いよく開いた。突然冷えた空間に、ガタガタと歯を鳴らしながら、目をぱちくりさせた妖精がそこにはいた。
「お前か!悪戯妖精は!」
「わーん、ごめんなさーい」
ルシアにヒョイと持ち上げられ、バタバタと足を動かすが、妖精よりも身体の大きいルシアには敵わない。すぐに抵抗をやめてぶらーんとぶら下がり、何かぶつぶつ言っている。「だって誰もずっと来ないし、つまらなかったんだもーん」と。
その声に、ハッとする。フェルは何と言っていたか。"お前らを待っている"そう言わなかっただろうか。
「待ってたの?」
首根っこを掴むのをやめ、掌の上に乗せてやる。ちょこんと乗った妖精は、大きな目をパチクリさせてルシアを見つめる。
「ん?待ってたよ、遅かったねー」
当然!という妖精に、今度は姉弟が目をパチクリさせる。
「何で待ってたの?」
「ん?頼まれたから。契約主から。だから僕はここにいられるんだよー」
ノエルが覗き込み尋ねると、答えは返ってきたが、「でも、流石にそろそろ飽きた!」と今度は掌の上でゴロゴロし始める。なかなかのマイペースだ。
「誰に頼まれたの?」
「んー?これ作った人。妖精と契約した人が来たら渡してって。渡したら、僕のお仕事はおしまーい!」
「だから受け取って?」と指さされた先には、見覚えのある赤い宝石の嵌った指輪の姿があった。
「これ、似てるな。」
「似てるね。」
"しゃらり"とネックレスを服の中から取り出すと、「おー、ネックレス、先に見つけたんだね。お見事お見事ー!」と手を叩いて喜んでいる。
「どういうこと?」
「んー?それは秘密。いつか分かるよ。それを持っていたらね。でも、僕は教えるお願いは受けてないから、教えなーい」
そう言った妖精は、これ以上のことを教えてくれる気はないらしい。フェルやミアの方を見ても首を横に振る。知らないか、教えてくれないか。言わないのか、言えないのか。
時々、フェルたちはこういうことがある。教えることができないのだという。
「そっか。分かった。」
こういうときには、聞いても無駄だ。ルシアは潔く引き下がった。
「んー、じゃ!受け取って!」
妖精の声に、指輪を手に取ると、それまで鈍く光っていた宝石が輝きを取り戻したように、内側に光を閉じ込めて輝きはじめた。まるで、何かが起動したように。
「じゃね!僕のお仕事おーしまい!またね!」
くるんと宙返りした妖精は、そのまま消えてしまった。その直後、塔が揺れ始める。
「まずい!あやつが突然帰ったせいで塔が崩れるのじゃ!」
「それもっと早く言って!」
「いいから!早く我の背中に乗るのじゃ!」
フェルは宙返りをし、大きくなる。ルシアとノエルは急いでフェルの背中に跨る。
乗った瞬間部屋から飛び出し、一気に下まで着地した。
「急いで出ろ!崩れるぞ!」
その声に反応したアルグレイ隊も外に飛び出す。
一同が外に出た途端、ガラガラと砂埃を上げながら塔は崩れ落ちた。
まるで、それが当然であったかのように、呆気なく。
「……なにがあったんだ?」
「んー。悪戯妖精が上にいて、指輪貰ったら消えて、塔も崩れた?」
省略しすぎたルシアの説明に、こめかみを指で叩いていた大佐であったが、やがて諦めたように「……そうか。」と呟く。
「それで?指輪とは?」
「ん?これ」
「これは……ペンダントに似ているな?」
周りにみんなが集まり、服から出たままだったペンダントと指輪を見比べる。
「なんか、セットみたいだった。そのうち分かるって言って教えてくれなかったんだよ。」
「そうか。まぁ、妖精がそう言うのなら、君が持っておきなさい。」
「でもこれ、指にはめるの邪魔…」
「邪魔って、君……」
「女の子だろう。キラキラしたものは普通好きじゃないのか。」そんな心の声がアルグレイ隊のみんなから聞こえてくるが、邪魔なものは邪魔なのだ。
第一、こんな大きな石のついた指輪を指につけていたら目立ってしょうがない。
「じゃ、ペンダントのチェーンに通しといたら?そしたら無くさないし」
「それいいね、そうする」
リア先輩の提案に賛成し、ルシアはチェーンに指輪を通した。、
「可愛いね、いい感じ!」
「ん、ありがとう」
和やかに会話をする二人に気を取られ、誰も気づかなかった。
ペンダントトップと指輪の赤い石が、共鳴したように"ふわっ"と一瞬光ったことを。
夕焼けに照らされた光に馴染んだ輝きは、誰の目に留まることもなく消えていった。
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