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妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む  作者: 月焔 レイ
第一章 (1)【幼少期〜軍属編】
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第一話 焔の夜、少女は少年となった


「夢…か」

 

 ルークは頬を濡れていることに気づき、服の袖で涙を拭った。

 

 久しぶりにあの日の夢を見た。


 隣のベッドでは、弟のノエルが規則正しい寝息を立てて眠っている。安心しきった表情を見ていると、少しずつ胸の騒めきは収まっていった。


 まだ街は眠りの中だ。夜の闇に沈む部屋を、僅かな月の光が照らしていた。

 その光に照らされた弟の髪は真っ黒だ。


「なかなか会えないな…」


 ざっくばらんに切り揃えた黒髪をくしゃりと掻き、ルークはベッドへと倒れ込む。


「あの紫色の瞳の人、どこに居るんだろうな。お前ら知ってる?」


 探し人は、いまだに見つからなかった。

 アメジストのような、特徴的な瞳をしていた。すぐに見つかると思ったんだけど。


 顔を横に向けると、ぴょんぴょんと跳ね回る小さな影が目に入る。ルークが気づいたことが嬉しいのか、くるくると回っている。


 色とりどりの服を着た、とても可愛い小人たち。どうやら、彼らは他の人には見えないらしい。

 

 遠い昔の記憶。ルークが子供だった頃。

 ノエルと一緒に小人のことを母に尋ねたことがある。そのとき、母は目を見開き驚いたあと、嬉しそうに微笑んだ。


『内緒よ、小人たちは照れ屋さんなの。他の人たちに見つかったら、隠れて出てこなくなってしまうわ。』


 ルークとノエルに、こっそりそう教えてくれた。


 今なら分かる。あれは、子どもたちを守るための嘘だった。幼い子供たちが、他の人に変な目で見られないようにするための、母の優しさ。


 そしてその母は──もう居ない。


 ルークは先ほど久しぶりに思い出した、最後に見た母の姿に思いを馳せた。

 まだルークが「ルシア」だった頃の記憶。


 ⸻⸻


「逃げて。ルシア、ノエル。」

「やだ、おかあさん!!」

「連れてって、可愛い子達を守って。」


 両手を広げ、周りの小人たちへ呼びかけるお母さん。ルシアはその服の裾を握り込んだ。


 お父さんは家を出るときに、「先に行け!」と言ったきり、姿を見ていない。


 周りの家から轟々と火が立ち登り、熱さで頬がヒリヒリする。目が痛い。

あれは隣のおばちゃんの悲鳴だろうか。


 味方はもう、誰も居ないのだ。

 

 白く震えるルシアの指を外したお母さんは、優しく笑った。

 

「愛してるわ、ルシア、ノエル」

 

 優しい手が頭を撫でる。ゆっくり、ゆっくり。

 まるでガラス細工でも触るような繊細さで。

 最後のお別れを伝えるように。


 ――いやだ。行かないで。側にいて。

 

「さようなら、私の可愛い子たち」

 

 行きなさい。と背を向けた母の背中はとても大きく見えた。

 必死に伸ばしたルシアの指先は空を切った。


「お母さん!!!!!」


 二人の子供の悲痛な叫びは、轟音に掻き消された。

 最後に見た母の姿は、それはそれは美しかった。


 ⸻⸻

 

 ルークが膝を抱えて背中を丸めていると、小さな瞳がこちらを覗き込んでいた。

 励ますように身体によじ登り、抱きついてくる小人たち。

 

「お前らなぁ…あの時は頼んでも聞かなかったくせに。都合いいな、全く」


 ルークは小人を指でつついた。


 あの日。

 それまで一度も頼み事でを断らなかった小人たちは、初めて二人を裏切った。

 

 母の頼みを優先し、抵抗する二人を強制的に森の奥へ運び入れたのだ。

 

 目を覚ましたとき、そこは街の孤児院だった。

 

 一度だけ。

 黒髪の軍人に話しかけられた気がする。


 紫色の瞳が綺麗だった。


 だが、目を覚ましたときにはその人はもう居なかった。それから、あの紫色の瞳の人物には会えていない。ずっと探しているのだけれど。

 

 そして、目を覚ました際、もう一つ驚くことがあった。

 金髪だったはずのルークたちの髪と瞳は、真っ黒になっていた。得意げにしている小人たちのお陰で犯人はすぐに分かったが……

 

 孤児院で目を覚ましたルシアは、すぐに動いた。


 自分で髪の毛を短く切り揃え、服も男物に変えた。

 男として生きることを決めたのだ。


 村でも顔が整っているとちやほやされて育った。

 女である自分が、どのような扱いを受ける可能性があるかくらいの自覚はあった。


…それに、ノエルと離れたくなかった。


 この世界に家族はノエルだけだ。父と母は、自分たちを守るために犠牲になった。だから今度は、自分が守る番だ。たった一人残った弟を。

 そのために邪魔になるものは、全てを捨てる覚悟をした。


──その日、ルシアは"ルーク・フェルン"となった。


 誰も気づかなかった。

 小さな村には戸籍なんてなかったし、記録も火事で全て燃えていた。

 

 図書館で村の記録を調べたことがある。


──不運な村の大火災。 


 それが、公式な記録だった。

 だが、それが真っ赤な嘘であることをルークは知っている。


 だって俺は見たんだから。

 母に手を引かれ、転びそうになりながらも父が気になり、必死に振り向いたそのときに。


 「なんだ、不発じゃん。嘘ばっか。金髪金眼なんていないじゃん。つまんねー。全部燃えろ!」


 そう言い放ち、手当たり次第に両手から火を放つ男を。

 小人たちは、とても怒っていた。小人たちが怒るのを見たのは、そのときが最初で最後だ。


 あの男は、立ち向かって来た金髪金眼の父を、確実に見たはずである。見ていないなんてあり得ない。

 そうなると、自分達の髪色を変えたであろう小人たちが何かしたとしか思えなかった。


「やっぱ、お前らがなんかしてくれた?」


 あの男に金髪金眼であると気づかれなかったのは、小人たちのおかげなのだろう。


「なぁ、いつ治るんだ?この髪」


 ツンツンと小さな身体をつつくと、擽ったそうに身体を捻る。

 小人たちは、舌を出し、逃げ出していった。


 普段はとても可愛い彼らも、可愛くないときはまったく可愛くない。


「ま、いいけどな。困ってねーし」


 夜はまだまだ長い。

 明日も忙しいのだ。

 

 瞼を閉じると、穏やかな眠りがルークのもとに訪れた。

 

ここまで読んでくださりありがとうございます!


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毎日朝6時40分、休みの日は7時40分に投稿しています。

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