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2-2

 それから数日、特に何も変わりませんでした。今までと同じように山田さんは避けられていますが、中島さんはクラスメイトが自分の思う通りに動いていると思っているようでご機嫌です。

 ちょっと変ですがクラスの中は平和でした。私も新しく立てた目標である『教室の本棚にある本を全部読む』を達成する為に隙さえあれば本を読むという充実した日々を送っていました。


「おいブス」


 唐突な悪口に思わず顔を上げました。山田さんが中島さんの取り巻きの一人に向かって言ったようです。言われた子は一瞬カッとなっていましたが、中島さんに無視を強要されていたのでプイッと知らんぷりをします。その瞬間からクラスの平和はなくなりました。


「あんた足太くない?」


「服、生乾き臭いんだけど」


「あー、顔だけじゃなくて頭も悪いんだ」


 他人の私ですらイラッとするような悪口を山田さんは取り巻き達に浴びせ続けます。無視を続けていた取り巻き達も堪らず山田さんをキッと睨みます。


「あれ、いいのー? 私のこと無視するんでしょー? 聞こえないふりしなきゃ駄目でしょー」


 取り巻き達は今にも泣きそうです。無視という苛めをしていた中島さん達は、いつの間にか山田さんに好き勝手に暴言を吐かれても言い返せない苛められっ子みたいになっていました。

 流石に中島さんが怒って怒鳴ります。顔を真っ赤にしながら騒ぐ中島さんを前にしても、山田さんはニヤニヤと余裕たっぷりでした。


「えーもう無視止めんの? つまんねぇな」


 獣のように飛びかかってくる中島さんをけ、山田さんは爆笑しながら教室を出ていきました。中島さん達もそれを追いかけて出ていきます。


「……どうする、あれ」

「どうって、どうにもならないでしょ」

「先生に言う?」

「先生にどうにかできるのかな。前のトラブルも、なあなあで終わっちゃったし」

「それに両方から恨まれそう」


 クラスがどんより暗くなりました。私も呑気に本を読んでいられる気分ではなくなりました。

 私達は、山田さんと中島さん達のことを見て見ぬふりをすることになりました。誰かがそうしようと言った訳ではなくて、自然とそうなりました。揉め事が発生しても見えてない振り、話し声を大きくして聞こえてない振り、私も内容が頭に入らない本を読むのに集中している振りをします。


 四月も後半の月曜日になりました。まさか新学期がこんなにも散々なものになるとは思ってもみませんでした。

 今日も朝から中島さんの奇声が聞こえます。気にしない、気にしない……今は本を読んでいるのです。森で迷子になった子供達がユニコーンに出会う大事なシーンなのです。


 バシャン。


「ぎゃあああぁ!」


 水音と共に心臓に響くほど悲鳴が聞こえました。流石に無視なんかできません。

 中島さんが、教室の真ん中でずぶ濡れになって泣いています。近くには空のバケツを持った山田さんが立っていました。


「大丈夫? 火傷でもしたのかと思って冷ましてみたんだけど」


 心配するようなセリフとは裏腹に、山田さんは悪魔のように笑っています。中島さんが叫びながら山田さんに飛びかかりますが、簡単に避けられてしまいました。それでも山田さんを捕まえようとブンブン振り回す手は、何故か異様に赤くなっています。


「何だ! 何があったんだ!」


 やって来た担任の先生が驚いて叫びました。その後は他の先生がいっぱい集まって来て、中島さんと山田さんを何処かへ連れて行き、目撃者の数人も何処かへ呼ばれて一、二時間目がなくなりました。

 訳が分からないまま残った皆で濡れた床などを掃除していると、目撃者達が戻って来ました。

 目撃者の一人である、ゆりあさんによると、中島さんが山田さんの机の中に手を突っ込んでいたらしいです。流石に注意しようと近づくと、急に中島さんが「痛い! 熱い!」と騒ぎ出して、そうこうしている間に山田さんがバケツに水を汲んできたのだそうです。


「皆、掃除はいいからそこから離れて、一旦図書室に移動して。何も持たなくていいから、触らない、触らないで」


 教頭先生が慌てながら私達を教室から追い出します。図書室では一人ずつ離れた所に呼ばれていきました。私も呼ばれて、最近何かなかったか、山田さんと中島さんの間で何があったか知っているか訊かれました。私はありのままを答えました。


「なんでもっと早く先生達に教えてくれなかったのかな」

「言っても言わなくても同じだと思ったから……」


 後で聞いたら、クラスメイトのほとんどが同じように答えたようです。

 翌日と翌々日、中島さんと山田さんは学校に来ませんでした。でもその次の日には山田さんだけ登校してきて、何もなかったような態度で授業を受けていました。


 噂では、山田さんの机から素手で触ってはいけない薬品の染み込んだスポンジが出てきたそうです。その薬品が中島さんのお父さんが仕事で扱っていたということと、山田さんを苛めようとしたという証言により中島さんがイタズラに失敗したのだろうということになったそうです。


 本当の所は分かりません。


 それからのクラスは、少し緊張感はあるものの平和に戻りました。山田さんは居ますが、中島さんと違って無闇やたらに喚き散らしたりしないので、喧嘩さえ売らなければ問題ありません。ようやく私も安心して読書を続けられます。


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