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四月になり、私達は小学四年生になりました。
私の学年はクラスが二つしかないので、同学年の子の顔くらいは皆覚えています。それでも一人、見覚えのない女の子が新しいクラスに居ました。その子が冬頃から噂になっていた転校生だということは、すぐ気が付きました。
都会から来たという山田さんは、凛とした綺麗な顔立ちの子でした。動く度に艶かで長い髪が揺れて、みんなの視線を奪います。
お人形のような女の子です。それも私達が着せ替えで遊ぶような玩具ではなく、美術館に飾られてきるような凄く高級なものです。
山田さんはすぐにクラスメイト達に囲まれ、質問攻めに遭っていました。転校生というだけでみんな興味津々だったのに、その人物がびっくりするほどの美少女だったので、もう好奇心が止まらなくなっていたのです。私も気にはなりましたが、人集りの中に飛び込む勇気はありませんでした。
私は一人、新しい教科書を暇潰しに読みます。区切りのつく所まで読んで顔を上げると、何故か山田さんに集まっていた人々が散り散りになっています。
気になって私は、山田さんを囲んでいた一人のみやちゃんに訊いてみました。みやちゃんは苦笑いを浮かべながらはぐらかしていましたが、一緒にいたハルちゃんが物凄く怒りながら「あの子に近づかない方がいいよ」と言ってきました。温厚なハルちゃんがそこまで言うほどの何かがあったようです。
山田さんは、かなり意地の悪い子でした。二、三日もすればほとんど山田さんと接触をしていない私でも、山田さんの性格の悪さははっきりと理解できました。だって、ただすれ違っただけで「くさい」と呟く人がいい子な訳がありません。
「あんたなんか黒姫さんに連れて行かれちゃえ!」
何があったのか分かりませんが、クラスメイトの女の子が山田さんに向かって叫びました。喧嘩になってしまうかもとハラハラしましたが、山田さんはキョトンとしただけでした。山田さんは黒姫さんを知らないようです。
黒姫さんとは、この小学生に語り継がれているお化けのことです。膝まである長い黒髪の女の子の姿をしていて、青白い肌に黒いワンピースを着ているそうです。
子供を連れ去ってしまうらしく、連れ去られた子供は二度と帰ってこないという恐ろしいお化けです。トイレの花子さんみたいに全国の小学生が知ってる怪談かと思っていましたが、どうやら違うみたいです。
「いやいや、どちらかって言うと山田が黒姫さんなんじゃね? 髪長げぇし、肌白いし、今日も黒い服じゃん」
ケタケタ笑いながら星くんが山田さんを指差します。山田さんは、やっぱり黒姫さんが分からないみたいで首を傾げていましたが「これ黒じゃなくてネイビーブルーだから」と言って星くんの頬を思いっ切りビンタしました。
ある日のお昼休み、外は小雨がパラついていたので、いつもより教室に人がいっぱい居ました。山田さんは何処かへ行ってしまったようで居ません。
バン、と黒板を叩く音がして、釣られて音のした方を見ました。黒板の前には何故か自信満々の顔をした中島さんが、取り巻き二人と共に立っていました。
「山田ムカつくから無視しなさい。逆らったら許さないから。良いわね」
既に誰も山田さんに近づいたり話しかけたりしていないのに、一体何を言ってるのでしょうか? でも中島さんは「言ってやったぞ!」と言わんばかりに誇らしげにしているし、取り巻きもうっとりした表情で彼女を見ています。相変わらず周りが見えていないんだなーと思いながらも、指摘するともっと面倒なことになるので誰も何も言いません。
中島さんは我が儘な女の子でした。それでいて服はいつもブランド品で、毎日とっても凝った編み込みの髪型をしています。絵に描いたような悪役のお嬢様です。そして彼女も、多くの作品に居る悪役のお嬢様と同じように指摘されたり注意されたりするとヒステリックに怒ります。
「ちょっと、それはどうかと」
真面目なゆりあさんが一言、言ってしまいました。
「はぁ? 何、私に逆らうの? 良い子ちゃん気取って馬鹿じゃないの! 山田なんか庇ってクラス全員敵にしたいんだー。正義感ある自分に酔ってるんですかー? 私の言うことが聞けないんなら、あんたも無視しちゃうからね!」
皆が呆然としている間にも、中島さんは聞くに堪えない暴言を喚き散らします。全て日本語なはずなのに、がなり過ぎて何を言ってるのかよく分かりません。
「まあまあ、もうすぐ昼休み終わるし掃除の場所同じ図工室だろ。一緒に行こ」
知念くんが中島さんの背をポンと叩くと、騒いでいた中島さんがピタッと黙りました。流石の中島さんも、学校で唯一金髪の不良みたいな知念くんには我が儘を言いにくいみたいです。
知念くんが中島さん達を教室の外に連れ出すと、固まっていた皆が一斉に動き出しました。
「ゆりあさん大丈夫?」
「ちょっと何言ってるか分からなかったわ」
ザワザワとする中、何も知らない山田さんが戻ってきました。
「は、何だよ。何見てんだよ」
「いや、何でもないから気にしないで」




