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第七話 納言さんと世尊寺くん

「ねえ、今日一緒に帰らない?」


「……えっ?」


 世尊寺は、驚いたようにレンズの奥の目を見開いた。

 パチパチと数回目を瞬いたあと、


「あっ、もちろん、いいですよ」


「ありがとう! じゃあ、帰ろっか」


「はい」


 二人で土間を出る。

 すると、向こうから土間に向かってくる二つの人影が見えた。

 定子さまと、一条さんである。

 定子さまは、こちらに「どんな関係なの?」とでも言いたげな視線を送ってきた。

 そんな関係ではないですから、やめてください。

 ムッと定子さまの方を見ても、定子さまはニヤニヤをやめない。

 私はもう諦めて、世尊寺に話しかけた。


「駅まで一緒かな?」


「そうですね」


 先ほどから簡単な受け答えしかしていないなーと思いながら、隣を見る。

 私はハッとした。

 ほんのり赤く染まった世尊寺の顔。

 レンズ越しに見える目はわかりやすく泳いでいる。

 ほほお、コイツ、女子に慣れていないな?

 こういうタイプとはなかなか話さないので、私はじっくりと観察してみた。

 長めの前髪がサラリとかかった顔は、塩顔っていうのかな?

 イケメンに見えなくもない。

 黒髪はサラサラしていて、譲って欲しいくらい。

 何回も言うが、私はくせっ毛で、それがコンプレックスなのだ。

 コイツ、顔はいいのになんでクラスで注目されないんだろう。


「世尊寺は、誰と仲がいいの?」


「えーっと、そうですね。この間学級委員に立候補していた、秋月とか。あとは、三組の四条(しじょう)とかです」


「へー、意外。あいつら、元気なグループだよね」


 秋月はおちゃらけているイメージだし、四条は噂だけ聞くとチャラい人だ。

 それに対して、世尊寺はザ・真面目だから、ちょっと不思議だ。

 私が頭に「?」を浮かべているのがわかったのか、世尊寺は苦笑いで説明を始めた。


「彼らとは、小学校が同じでした。四年生のとき、僕は彼らと同じクラスで。僕はそのときもおとなしかったのですが、二人は僕に話しかけてきたんです」


 昔を懐かしむように、世尊寺は目を細めた。

 眼鏡のレンズに、キラキラと光が反射する。


「正直、最初は迷惑でしたよ。でも、話していくうちに、賑やかな彼らといるのが、楽しくなってきて。自分でも不思議です」


 おとなしく本を読んでいる世尊寺が、明るい秋月や四条にウザ絡みされて、顔をしかめている光景が、容易に想像できる。

 でも。

 世尊寺は笑っていた。


「いいお友達なんだね」


「全くよくない、呆れるくらい元気な友人です」


 口では否定しているが、その顔は晴れ晴れとしていた。

 駅に着く。

 京都駅の中は、ほどよい喧騒が包んでいた。


「どの電車に乗る?」


「地下鉄、烏丸線です」


「私も。じゃあ一緒に行こうか」


 私たちは、改札を抜けてホームまで行った。

 電車は一分ほどでやってきて、二人で車内に入った。

 夕方の車内はまだ空いていて、椅子に座ることができた。


「明日は土曜日ね。そうだ、定子さまと会える!」


「車内ではお静かに。藤原さんと会うんですか?」


「そうなの。私、定子さまの家庭教師だからね」


「すごいですね……」


 世尊寺は、感心したような様子だった。

 小さい声で雑談しているうちに、世尊寺が「次で降ります」と言い出した。

 会話が楽しくなってきたところなので、少し寂しい。

 次の駅に着き、世尊寺は立ち上がった。


「また来週、納言さん」


 そう言って、世尊寺はわずかに口の端を上げた。


「また来週!」


 私も、そう手を振り返した。

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