第三話 納言さんと伊周先輩
ある日の昼休み。
私・納言諾は定子さまと語らっている。
「それでね、兄が弓道の大会に出るそうなの」
「弓道、ですか。素敵なお兄さまなのでしょうね」
「素敵、か……。どうなんでしょうね」
今話題に上がっている、定子さまのお兄さまとは、藤原伊周さま。
私たちの二つ上で、三年一組。
弓道部に入っていて、イケメンとの噂。
私はまだお目にかかったことはないけれど、きっと素敵な方だと思う。
だって、こんなに素敵な定子さまのお兄さまなのだ。
お綺麗な方に決まっている。
「兄は確かにイケメンだと言われているけれど、家では――」
「家では、なんだって?」
突然、定子さまのお言葉を遮って聞こえる耳当たりのいい声。
ふとその声のした方を見ると、そこには美しい男子が扉に手を添えていた。
所作も綺麗で、私は思わず見惚れてしまう。
すると、定子さまが駆け足でその男子のそばに行った。
「お兄さま! もう、今の会話を聞いていたの?」
「ハハ、ごめん、聞こえちゃった」
お兄、さま?
ということは、この方が例の⁉︎
私は、思わず固まって俯く。
なぜって、あんなに綺麗な方に私の顔が見られたら嫌だから。
私はくせっ毛だし、美人ではないと自覚している。
周りを見ると、クラスメイトたちはお二人のことをチラ見、いや、ガン見しているようだ。
俯きつつチラチラと様子を伺っていると、
「ん? もしかして、さっき話してたあの子が納言さん?」
「そうよ。とても頭がいいの」
聞こえてきた内容は、もしかして私の話⁉︎
「納言さん、ちょっと来て」
伊周さまが、私に向かって手招きをする。
ええ……?
ええええ……?
私は、周囲の視線を浴びながらお二人のところへ行った。
は、恥ずかしい……。
やはり俯きながらペコリと会釈し、
「な、納言諾です……」
震える声で自己紹介をした。
「噂は聞いているよ。定子の家庭教師になってくれたんだって? 入試では、二位だったとか」
「は、はい。伊周さまですよね?」
「おー、よく知ってるね。てか、なんでさま付け?」
「さ、定子さまのお兄さまですので……」
「え、先輩でいいって」
私は相変わらず下を向いて顔を見られないようにしていたが、伊周さま――、伊周先輩は、私の手前にまわり込んできた。
そして、私の顎に手を添えた。
そのまま、くいっと上を向かせられる。
「⁉︎⁉︎」
この方、私を揶揄って遊んでいない?
恥ずかしさで頬が紅潮する。
周りの女子たちは、「キャー!」と騒いでいる。
先輩の手が私から離れた隙に、バッと下を向く。
「ハハハ、納言さんはおもしろいね」
全然おもしろくないですから、早く帰ってください!
「また来るね」
そうして、伊周先輩は颯爽と去っていった。




