第四話 納言さんと委員会
「今日は、委員会を決めるぞ」
担任の先生がそう言うと、教室内がざわついた。
入学してから一週間とちょっと経った今、委員会を決めることになった。
事前に告知はされていたとはいえ、ドキドキしてしまう。
いや、私よりも緊張しているのは、たぶん……。
「まずは、学級委員から。男子で、学級委員をやりたい人!」
先生が呼びかけると、スッと二つの手が挙がった。
二人とも、真剣な面持ちだ。
「じゃあ、一条と秋月は前に出て、演説をしたあとに投票するってことでいいな?」
先生が教室を見まわす。
異論はないようだ。
男子二人が、静寂に包まれた教室を移動する。
じゃんけんの結果、先に演説をするのは秋月の方になったようだ。
秋月は教卓の後ろに立ち、息を吸って口を開いた。
「学級委員に立候補した、秋月斉信です。おれが学級委員になったら、えーと、活気のあるクラスにしたいです! そんで、あー、まあ、よろしくお願いしまーす!」
パチパチと拍手が巻き起こる。
私は、苦笑いをしてしまった。
この人、目立ちたいだけでは?
いつも、モテたいとか言っているし。
思惑が見え見えである。
秋月がハハハーと笑いながら、自分の席に戻った。
「斉信ー、よかったぞー!」
「ありがとう!」
もうコイツはないな、と思いつつ、私は次の候補、一条さんの方を見た。
実は、彼は定子さまとお付き合いをしているのだ。
とても優しいくて、頭もいいそうだから、まあ彼になるだろう。
一条さんが教卓に進み出る。
次の瞬間、大きくすぎずよく通る声が、教室に響いた。
「学級委員に立候補した、一条懐仁です。僕が学級委員になったら、自分たちで決断、行動ができるよいクラスにしたいです。いじめや差別なども起こらないようにしたいと思っています。清き一票、よろしくお願いします!」
一条さんが頭を下げた瞬間、大きな拍手が巻き起こった。
秋月のときより、何倍も大きな。
私も、その演説で心を決めた。
「よーし、じゃあ投票するか。みんな、伏せろー」
先生の呼びかけで、全員が机に顔を伏せる。
「秋月がいい人ー」
「一条がいい人ー」
どちらがいいか聞いたあと、数秒経ち、「顔上げていいぞー」という先生の声が聞こえてきた。
顔を上げると、まだぼんやりとした視界に教室が映った。
「じゃあ、結果を発表する」
その一言で、教室が緊張に包まれる。
「結果は――一条にお願いすることになった」
その瞬間、わっと教室中が沸いた。
「おめでとう!」
「さすがだぜ!」
拍手喝采の中、当の本人は照れた顔で笑っていた。
ここまでは、予測できていたけどね。
さあ、男子が決まったということは。
ある程度教室が静かになったあと、先生はこう告げた。
「次、女子で学級委員をやりたい人!」
来た。
私は、定子さまの方を見る。
緊張した面持ちの定子さまは、その綺麗な腕を、上に挙げた。
が、定子さま以外は誰も手を挙げていなかった。
も、もしや、定子さまの不戦勝?
私は、定子さまの方を見て、ドキドキと胸が高鳴った。
でも、私よりも定子さまご本人の方が緊張しているでしょう。
そう、私の何倍も。
その数秒が、数分、数時間にも感じられる。
その間、手を挙げた者は定子さま以外いなかった。
「締め切るぞー。じゃあ、女子学級委員は、藤原で決定!」
…………!
私は、思わず全力で拍手をして、胸が熱くなった。
定子さまは、ホッとされたご様子だ。
「じゃあ藤原、一条、よろしくな」
「はい!」
お二人の声が重なる。
本当の意味で、一年一組の一年はここから始まったような気がした。
そのあと、無事に決まった学級委員のお二人が司会に。
そして、他の委員会も決めることになった。
小学校では必ず入らなくてはいけなかった委員会だが、この中学校では強制ではない。
でも、定子さまがこんなに頑張っているのだ。
私も、なにかしてみたい。
ということで、私もなにかしらの委員会に入ろうと思っている。
男子の学級委員に決まった一条さんが、黒板に丁寧に委員会の一覧を書いていく。
生活委員、環境委員、保健委員、給食委員、体育委員、図書委員。
各委員会、男女とも一人ずつだ。
私は、どの委員会に入るか、事前に考えてきていた。
私は読書が好きだ。
なので、図書委員に入ろうと思っている。
たぶん、被ったらじゃんけんだ。
図書委員は人気がありそうだ。
小学校のときも、いつも入ろうとは思っていたが、じゃんけんに負けて一回しか入ったことがない。
その頃とは色々と変わったから、どうなるかはわからない。
入れるといいな。
さっき黒板に書かれた順に、定子さまが希望を聞いていく。
その順番だと、図書委員は最後だ。
生活委員女子、決定。
環境委員男女、決定。
保健委員女子、決定。
給食委員男女、決定。
体育委員男子、決定。
次々と決まっていく様子を眺めながら、まだかまだかと順番を待つ。
「次、図書委員をやりたい人ー!」
来たー!
心臓が高鳴る。ここぞとばかりに手を挙げる。
ぐるりと教室を見渡してみると、男子は一人、そして女子は私を含めて――二人。
これは、じゃんけんになりそうだ……!
「じゃあ、二人でじゃんけんをして決めてください」
そう仰った定子さまの方を見ると、自意識過剰かもしれないけれど、「頑張って」と仰ってくださっているように見えた。
私ともう一人の女子は、お互いに進み出た。
もう一人の立候補者と向かい合い、拳を出す。
その女子とは、まだあまり喋ったことがない。
が、そんなことはどうでもいい。
私は、彼女に勝って、図書委員になる!
「最初はグー、じゃんけんポン!」
私はチョキを出した。
さあ、勝敗は――。
彼女の手元に目を向ける。
彼女が出していたのは――、パーだった。
「やった! 勝った!」
ガッツポーズをすると、定子さまが柔らかいお声で話しかけてくださった。
「では、図書委員女子は納言さん、男子は世尊寺くんにお願いします」
私は、席に戻りながらもう一人の図書委員に目を向けた。
世尊寺、か。
真面目で堅そうだけど、仲良くなれるだろうか。
まあ、なんとかなるだろう。
こうして、定子さまは学級委員に、私は図書委員になれたのだから。
残りの委員会を決める声が、私の耳に心地よく響いた。




