マリーエ
エメラルド・デスティニイの第2部です。アウルのスタッフが1人ずつ増えていくと言う過程でも有ります。まだまだ続きます~宜しくお願い致します。
店の扉が開いて、アウル様がお戻りになりました。
やっぱりモーブもお似合いになる。良かったわ。
まぁ…御髪が短く切られていました。
フィッティングルームに、元々お召しだったピンストライプのダブルブレストと、プレーントゥをご用意すると、そのまま扉を閉じようとなさって、ふと、思い付いたように仰います。
「そうだよ。この恰好で来るからややこしい事になるんだ」
「何ですの?!」
「マリーエ。私の普段着も用意してくれないかな?!」
「私はまるでセンスが無くて…発想が無くて、スーツ以外は何を着たら良いか分からないんだ」
そうかも知れませんわね。これまでお仕えの方々がご用意なさった服をお召しでいらしたのですもの。お母様を早くに亡くされておいでですし…
「貴女が作ってくれても良いし、選んで貰っても良い。これからは制服と言う訳にもいかないしね。大学にも行くし、来年16になったら兄の結婚式にも出なければならない」
「それで、御髪を切られましたのね」
「ん…まぁ。軍服に長髪でも無いからね」
フィッティングルームに消えたアウル様が、ピンストライプのダブルブレストに着替えてお出ましになりました。まだ、ベリーショートのボブでしか無いヘアスタイルでしたが、スーツに似合ってまるでランウェイのモデルのようです。
再び扉が開き…まぁ、何というタイミング。
アウル様の執事のケインさんのお迎えです。
「お迎えに上がりました。御髪を切られましたので?!」
「父様に切って貰った」
「ケイン。マリーエに専属のスタイリストを頼んだからね。ここへ来る時に着てくる様な服を見繕って貰う」
「畏まりました。マリーエ宜しくお願い致します」
「畏まりました」
このお二人を見ていると、此方へ始めてお見えの時を思い出してしまいます。
先程と同じように扉が開いて、訪れた、明らかに主従と判る2人連れ。無地のダークスーツがどちらかのお屋敷の執事と判る、年嵩の人と、同じように端正なスーツ姿ではあるものの、まだ、少年の、それは美しい若君と。
夢の様な一対でした。
「…贈り物をお探しでしょうか?!」
おずおずと聞いた私に若君が碧の瞳で微笑まれます。
「頂いて、着替えて行きたいのだけれど」
「畏まりました。ですが、私どもに、お客様のお召しになるようなものがございましょうか…」
「見せて貰って良いですか?!」
「はい。どうぞ、ごらんくださいまし」
私の慌て様を少し楽しんで居るような、いたずらっ子の様なお顔を覗かせて、お付きの年嵩の方に仰います。
「ケイン。ホテルに戻っていて良いぞ」
ケインと呼ばれたその人も、若君の御悪戯を少し咎める眼差しで仰います。
「お待ち申します」
御悪戯がまんまと功を奏して、くすりと笑われました。まぁ、なんて可愛らしい。
「どの様なものをお探しでしょうか?!」
「…余り明るすぎない色で…私は着る物に頓着が無いんだ。何と言えば良いのか…困ったな」
言いながら並べてあった少女服の方を見ておられます。ますます不可解でした。
でも、何だかこの方を以前に何処かでお見掛けしたような…これ程の印象なら忘れようも無いだろうに…どうして。
その時、白いチュニックを当てられた若君の、お顔を縁取るブロンドが、はらりと頬を覆いました。
「あっ!!」
何?!と言う視線を此方に向けられました。
「失礼いたしました」
思い出しました。4~5年前、この店を前の店主から引き継いで、自作の子供服を並べ始めた頃、近くに勤めていると言う女性が、けして安くは無かった商品を、次々にお買い上げ頂いた事が有りました。
ベビー服では無くて、10歳位の子供服を、まだ、20を幾つかしか出ていないような人が、何着も続けて買って行かれるのを不思議に思ったものです。
その謎が、或る日、公園のベンチに座る女の子を見かけて解けました。間違いなく、私の作った服を着て、背を覆うブロンドを額の上で結んだだけなのに、例えようも無く美しくて…エメラルドのお姫さまの様だと…
「そう…貴女の服を着ていた事が有るんです。この形ではその頃居たところを訪ねるのに都合が悪いんだ」
その後、大慌てで、グレージュのパンツスーツをお見立てして…
そうそう、フレンチリネンのスーツをお召しなのに、おみ足が黒のプレーントゥだったのを思い出して、大慌てでグレージュのサンダルを捜しましたっけ。
フィッティングルームの若君にどうお示しするかで困っていた私の手から、サンダルを受け取られると、まるでシンデレラの靴合わせのように、若君のおみ足に着けられたケインさんの仕草を思い出しました。
そのまま、フィッティングルームを出られる若君を、すい…と介添えされて…全ての所作が日常そのままなのが伺えて、溜息が出ました。
「あの時は本当に驚きましたわ」
「まさか、女装の手伝いをさせられるとは思わないだろうからね」
「ええ。本当に。お美しい若君だと思って拝見して居りましたのに、こんなにお口が悪い方だとは思いませんでしたわ」
言うと面白そうにクスクス笑って居られます。
お美しくて、聡明で、お口が悪くて、それでもお気持ちはとてもお優しい。
なのに何処か儚げで、何だかきっかけ一つで何処かへ消えて終われるような、危うさも感じられました。
シェネリンデ王国のいずれ公爵閣下となられる方で、その資質も十分に備えて居られるようなのに…。
そんな方が、秘密の行き先が有って、亡くなられたお父様とは違う方を父と呼ばれる…それだけでも、何か、とんでもない事があの方に起こったのだと判るのです。
ケインさんと仰る執事の通常よりも濃密なお仕えぶりも、その辺りに起因するものなのでしょう。
私もご縁が有って、アウル様に関わる者になりました。
あの方に関わる方々に、お助け頂きました。
何かでお返し出来るのでしょうか?!。
お読み頂き有り難う御座いました。如何でしたか?!マリーエの背景がまだ決まっていないのですが、何だか色々有りそうです。ご期待あれ。




