王都街歩き
王都の大通りは、朝から活気に満ちていた。
石畳の両脇には露店が軒を連ねる。
焼きたてのパンの香ばしい匂い。
鉄板で焼かれる串肉の音。
色鮮やかな果物を積み上げた荷車。
革細工や陶器、色とりどりの布地を並べた店先では、商人たちの威勢のいい声が絶え間なく響いていた。
荷車を引く馬。
走り回る子どもたち。
旅装の冒険者。
髭を立派に編み込んだドワーフの商人が鍛冶道具を売り込み、人間の客と値段を巡って声を張り上げている。
獣人の荷運びたちも忙しく行き交い、街は今日も生命に満ちあふれていた。
その人波の中を、四人と一匹が歩いていく。
以前とは、ずいぶん違う姿だった。
ターケシの鎧には幾筋もの傷が刻まれている。
新品の輝きは失われていたが、それは幾度もの戦いを潜り抜けてきた証でもあった。
シフォン、ロザリア、フィリアも、もう奴隷服ではない。
丈夫で動きやすい旅装は決して豪華ではないが、一人ひとりの体に合わせて仕立てられている。
旅を重ねた冒険者らしい、落ち着いた装いだった。
それでも。
四人は、やはり目立っていた。
正確には、一匹のせいである。
シフォンの腕の中では、緑色の肌をした小さな赤ん坊が、大きな瞳をきょろきょろと動かしていた。
額にはまだ短い角が二本。
小さな手を伸ばしては、行き交う人々を不思議そうに眺めている。
「ぐぅ?」
その声に、通りを歩いていた人々が一斉に振り返った。
「……何だ、あれ?」
「見たことないぞ。」
「あんな生き物、いるのか?」
「魔物……なのか?」
露店の主人まで手を止め、目を丸くしている。
中には、思わず立ち止まって二度見する者までいた。
その視線の中に混じって、一人の老人が驚いたように呟く。
「……あっちは、エルフじゃないか?」
周囲の者が慌ててフィリアへ目を向ける。
長い緑の髪。
透き通るような白い肌。
そして、尖った耳。
「本当だ……。」
「初めて見た……。」
「生きているうちに、本物のエルフを見るとは。」
だが、その驚きも束の間だった。
皆の視線は、すぐにシフォンの腕の中へ戻っていく。
「いや、それより、あの赤ん坊は何なんだ?」
「そっちの方が気になる!」
王都の人々は首をかしげるばかりだった。
ロザリアは居心地悪そうに肩をすくめ、小さくため息をつく。
「……見られていますわね。」
ターケシは苦笑した。
「仕方ないさ。」
「エルフより目立つ赤ん坊なんて、そうそういない。」
フィリアも思わず笑みを漏らす。
「少し複雑ですね。」
「今日は私より、フウの方が珍しいようです。」
シフォンはフウを優しく抱き直した。
「大丈夫ですよ。」
「みんな、すぐ仲良くなれます。」
「ぐぅ。」
フウは嬉しそうに鳴き、シフォンの胸へ頬を寄せる。
その姿を見た幼い子どもが、母親の手を引いた。
「あのおっきなおねえちゃん、あかちゃん抱っこしてる。」
母親は苦笑しながら頷く。
「そうね。でも、あんな子はお母さんも初めて見たわ。」
初夏の風が王都を吹き抜ける。
その風に乗って、四人と一匹は新たな目的地――職人街へ向かって歩き続けた。




