第2ラウンドの開始
日は既に高く昇っていた。
約束の日の出は、とっくに過ぎている。
冒険者ギルドの前には、ギルドマスターと十数人の冒険者たちが集まっていた。
誰もが森の方を見つめている。
やがて、木立の向こうから四人の姿が現れた。
「帰ってきたぞ!」
誰かが叫ぶ。
だが歓声はすぐに止んだ。
ターケシの盾は大きくへこみ、革鎧は裂け、外套はぼろぼろだった。
シフォンもロザリアもフィリアも、うつむいたまま歩いている。
ターケシは皆を見回し、口元だけ笑った。
「みんな、待たせたな。」
少し肩を回し、
「悪い。」
「先に飯を食わせてくれ。」
一瞬の静寂。
「腹が減ってると、頭が回らん。」
ギルドマスターは苦笑しながら受付へ怒鳴る。
「おい! 四人分だ! 大盛で持ってこい!」
パンを半分に割り、一気に頬張る。
スープを飲む。
干し肉を噛む。
ようやく一息ついて、
「さて。」
「 森の異変の正体は、オーガの異常個体。固い。でかい。重い。凶暴なやつだ。紫色に光ってるからすぐわかる。特に夜はな。」
紫色、に?誰かが問う。
「ああ。やつは遅かれ早かれ、人間を襲う。なんでそうなったかはわからん。」
「だからその前に倒す。」
「倒し方だが、おれたちだけじゃ無理だ。」
ぐびり、と水を飲む。
「だからおれは冒険者に依頼する。この街の優秀な冒険者達にな。」
冒険者たちが顔を見合わせる。
「報酬は金貨五十枚。」
「 なに?」驚きの声が上がる。
「今回の巡回依頼の報酬を、そのまま全部出す。」
「山分けでいい。」
ギルド中がざわついた。
ギルドマスターが聞き返す。
「何をしてほしい。」
「森の入口と砦跡の間。」
「木を切って広場を作ってくれ。」
「子供が何人か遊べるくらいでいい。」
「……広場?」
公園でも庭でも作るつもりか?
疑問の声をよそに、ターケシはテーブルの上にパンくずを並べ、テーブルを指でなぞる。
「森がここ。」
「砦跡がここ。」
「この間を切り開く。」
「周りには切った木を積む。」
ニヤリと笑う。
「今日は日暮れまで、みんなで肉を焼こう。」
話が見えねえよ、不満のような声をよそに。
「腹いっぱい食え。」
「ただし。」
「脂身だけは捨てるな。」
「全部取っといてくれ。」
「今夜の『たき火』に使う。」
ギルドマスターだけが、
「……お前。」
「もう倒し方を考えたのか。」
と静かに尋ねる。
ターケシはパンを飲み込み、水を一口飲んでから答える。
「ああ。」
「昨日はあいつの土俵だった。」
「今夜は俺たちの土俵で戦う。」
その目は、敗者のものではなかった。
「聞いたか野郎ども! 今日の仕事は薪割りと肉焼きだ!」
「なんだそりゃ!」
ギルドマスターの声に、斧を担ぐ男たちの笑い声が続いた。
◇
夕方。ターケシたちは再び森へ入る。
恐れがないと言えば嘘になる。たが、自信もあった。
勝ち目の見えている集団は士気が違う。
作られた広場で、申し合わせどおりに散開する。
「シフォン、お前が一番夜の索敵能力が高い。期待してるが、無理はするな。今夜だめなら明日でもいいんだからな。」
「はい。無理はしません。だめなら明日にしますから、」
いったん言葉を切る。
「ご主人様も無理しちゃだめですよ!」
ターケシは笑って返す。
「はい。無理はしません。」
それでいいんです、と言ってシフォンは背伸びしてターケシを撫でる。
「 わ、わたしも!無理したら承知しませんから!」
ロザリアも顔を赤くしながら便乗してくる。
「わかってるよ。今日はロザリアで決まる。しっかり正面に連れてくるから、合図するまで辛抱してくれよ。」
「任されましたわ」
「絶対に外しません。」
少し笑って、
「ちゃんと怪物を連れてきてくださいまし」
「フィリア、時間はこっちでしっかり稼ぐ。落ち着いて火矢を射てくれ。止まってる的にあてるだけだ。タイミングだけよく待ってくれ。」
一瞬だけ視線がターケシの盾へ落ちる。
「…承知」
ターケシは無言でうなづく。
「さあ。」
「第2ラウンドだ。」
四人の拳が重なった。
そして夜の森へ散った。




