第6話 KNIGHT
配信画面に映るのはCHRONOS STRIKEのトレーニングモードだった。
配信タイトルは【RJ前調整 景虎対策やります】。
配信者はKNIGHT。
五大大会優勝経験を持つトッププロであり、日本を代表するプレイヤーの一人だ。同時接続は既に一万人を超えており、配信開始から間もないにもかかわらずコメント欄の流れも速い。
『きた』
『本当にやるのか』
『MINATOとトレモ』
『景虎対策回』
『豪華すぎる』
KNIGHTは苦笑しながらコメントを眺めた。
「一応言っとくけど、本人には配信許可取ってるからな。」
『確認済みか』
『安心した』
『MINATOいる?』
「今ルーム入ってくる。」
その直後、ルーム画面に一人のプレイヤーが入室した。
【MINATO】
コメント欄が一気に加速する。
『きたあああ』
『本人だ』
『ランク1位』
『景虎最強使い』
『RJ楽しみ』
KNIGHTはコントローラーを握り直した。
正直に言えば興味があった。ランクマッチのリプレイも見た。有名配信者との対戦動画も見た。強いことは間違いない。だがランクマッチと大会は別物だ。本当にオフラインの大舞台でも通用するのか。その答えはまだ誰にも分からない。だからこそ自分の目で確かめたかった。
ボイスチャットが接続される。
「こんばんは。」
「こんばんは。今日はよろしく。」
「こちらこそお願いします。」
聞こえてきた声は想像していたよりずっと普通だった。礼儀正しく落ち着いていて、もっと尖った人物を想像していたKNIGHTは少し意外に感じる。
『声若いな』
『大学生くらい?』
『普通の兄ちゃん感』
コメント欄が盛り上がる中、設定を終えたKNIGHTが口を開く。
「じゃあ始めるか。」
「はい。」
試合開始。
序盤はお互いに様子を見る展開だった。距離を測り、技を置き、相手の反応を探る。だが数分もするとKNIGHTの表情が変わり始める。
「うまいな。」
思わず口から本音が漏れた。
景虎の差し合い。
距離管理。
技の置き方。
どれも高水準だった。
しかし本当に異常なのはそこではない。
試合中の成長速度だった。
最初に通った行動が三分後には通らなくなる。五分後には逆に狙われる。同じ読み合いが二度と成立しない。まるで対戦しながらリアルタイムで対策を完成させているようだった。
『やばくね?』
『対応早い』
『学習速度おかしい』
『景虎動きすぎ』
コメント欄も騒ぎ始める。
KNIGHTはさらに集中した。
大会さながらの真剣勝負。
本気で読み合いをぶつける。
それでも時間が経つほどMINATOの動きは洗練されていき、少しずつ読み合いで押され始めていた。
「なるほどな。」
KNIGHTは小さく呟く。
ようやく理解した。
ランク一位になれた理由を。
このプレイヤーは試合開始時より試合途中の方が強い。そして試合途中より試合終了間際の方がさらに強い。
対戦しながら成長している。
そんな感覚だった。
数十分後。
休憩時間になるとKNIGHTは飲み物を口にしながらモニターへ視線を向けた。
コメント欄は大盛り上がりだった。
『本物だ』
『RJダークホース』
『普通に強豪』
『大会未経験なの信じられん』
『景虎でここまでやるのか』
KNIGHTは静かに画面を見る。
MINATO。
今まで大会シーンに姿を見せなかった男。
だが少なくとも弱者ではない。
それだけは確信できた。
「RJか。」
小さく呟く。
もしこの男が本番でも同じ力を出せるなら、間違いなく大会の台風の目になるだろう。そしてKNIGHT自身も少しだけ楽しみになっていた。
初出場の挑戦者。
ランキング一位の景虎使い。
その男と大会の舞台で本気で戦う日が。




