第5話 鳴り続ける通知
Ver3.2アップデート公開から二日。競技シーンは完全に新環境の話題で持ち切りになっていた。SNSには神楽シンのコンボ動画や検証動画が溢れ、配信者たちは連日考察配信を行っている。そんな中、ORBITの練習施設では別の異変が起きていた。昼休憩中、MINATOがスマホを確認すると通知欄が見慣れないほど埋まっていたのだ。トレーニングモードの申し込み、スクリムの相談、練習試合の打診。その内容はどれも似たようなもので、強化された神楽シンと戦いたい、新環境を試したい、CSPL開幕前に対策を進めたいというものばかりだった。
「なんですかこれ」
MINATOが苦笑すると、REIGNが横から画面を覗き込む。
「増えたな」
「めちゃくちゃ来てます」
ACEも興味を持ったのか近付いてくる。
「どこからですか」
MINATOは通知一覧をスクロールした。そしてすぐにある共通点へ気付く。
「あれ」
「どうした」
「全部Bですね」
画面にはLIBERTY、AEGIS、CRIMSON、LEGION、MIRAGE、RAVEN’S NESTの名前が並んでいた。逆にPHOENIX、VORTEX、VALOR、GENESIS、METEORからは一件も届いていない。
「まあ当然ですね」
ACEが言う。
「Aディビジョンのチームが送ってくるわけありません」
「そんなもんですか」
「そんなものです。同じディビジョンは開幕後に何度も戦いますからね。自分から情報を渡す理由がないです」
REIGNも笑う。
「もし俺が月読なら絶対送らない」
「紅蓮さんも送らなそうですね」
「LONGも送らないだろうな」
むしろ送ってきたら警戒するレベルだった。ライバル同士で手の内を見せるメリットはほとんどない。
その頃、LIBERTYではCROWNたちが同じ話題をしていた。蒼真がスマホを確認しながら頷く。
「返信来ました」
「お、いつだ」
「明後日です」
「よし」
CROWNが満足そうに笑う。目的は明確だった。神楽シン対策。CSPLが始まれば簡単に練習できなくなるため、今のうちに強化後の性能を体感しておきたかったのだ。
「うちだけじゃないだろ」
CROWNが言う。
「AEGISも誘ってるみたいです」
紫苑が答える。
「CRIMSONもらしいですね」
「考えることは同じか」
同じ頃、AEGISでも白狼たちが調整内容について話していた。
「神楽シンは見ておくべきだな」
白狼が腕を組みながら言う。
「そこまでか?」
神威が聞く。
「そこまでだ」
即答だった。
「今のうちに理解しておかないと後で困る」
冬馬も頷く。
「LEXより優先か?」
「少なくとも神楽シンは増える」
それだけで十分な理由だった。
CRIMSONでも似たような空気だった。FALCONがスマホを見ながら言う。
「LIBERTYもAEGISも動いてるらしいぞ」
「レイヴンもだな」
RAYが続ける。
KNIGHTはその話を聞きながら少し笑った。
「まあそうなるだろ」
「そんなに強いと思うか?」
FALCONの問いにKNIGHTは肩をすくめる。
「強いというより面倒だな」
「面倒?」
「MINATOが使う神楽シンだからだ」
その一言で全員が納得した。キャラ性能だけなら他にも強いキャラはいる。しかし世界王者が使うとなれば話は別だった。
ORBITへ戻ると、MINATOのスマホにはまた新しい通知が届いていた。
「また来ました」
「どこだ」
REIGNが聞く。
「LIBERTYです」
「何件目だ」
「三件目です」
その瞬間、部屋に笑いが広がった。
「本気ですね」
MINATOが言う。
ACEも肩をすくめる。
「向こうからしたら世界王者と神楽シンを同時に対策できるんです。そりゃ必死になりますよ」
確かにその通りだった。もし立場が逆なら自分も同じことをしているだろう。
強化された神楽シン。そしてLEGACY王者にして世界王者のMINATO。その二つが重なった結果、CSPL開幕前の対策相手として最も価値の高い存在になっていた。
開幕まで残り五日。各チームの戦いはまだ始まっていない。しかし表に見えない情報戦と研究競争は、すでに激しく動き始めていた。




