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元・狂戦士のオッサン案内人。〜俺の指す先を斬るだけで最強。最短の矢印に従う異世界女騎士とメイドが、特級ダンジョンを蹂躙する〜  作者: くるまAB
第2章:重なり合う異世界

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33. 【日本】しおれたアホ毛と、謎の違和感

 特級ダンジョン『虚無の門』 中層――。


 新宿の地下深くに鎮座するその場所は、現代科学の照明すら飲み込むような、濃密な魔力の霧に包まれていた。

 潜るたびに構造を塗り替える「完全ランダム生成」の迷宮は、並の探索者なら数分と経たずに方向感覚を失い、死の恐怖に飲み込まれる。


 だが、そこに迷いなく進む3つの影があった。


「アリス! 刺突態勢のまま突っ切れ!魔物が途切れたら一度、左に振りかぶって返しで右だ!」

「はいっ!」


 悠馬の鋭い号令が、湿った空気の膜を切り裂く。

 アリスはその細い腕からは想像もつかない巨大な大剣を軽々と振り回し、霧の中から這い出した異形の魔物を叩き伏せた。


「ノーラ!そのまま待機。5秒後、右上60度。氷柱を3個、50センチ間隔で放て!」

「御意に」


 悠馬の指し示す『矢印』に従い、2人は完璧な連動を見せていた。本来なら、数層下のボスすら圧倒できる実力。

 中層の雑魚など、蹂躙して当然のはずだった。


 だが、その瞬間。


「ふ、……ふ、……ふえっくし!!」


 静寂を切り裂いたのは、アリスの可愛らしくも、この場には致命的に不釣り合いな「くしゃみ」だった。


 振り抜こうとした大剣の軌道が、重みゆえに、わずかに、しかし決定的にブレる――『カツンッ』大剣が石床を叩く音が響いた。


「――っ!?」


 仕留め損ねた魔物の爪が、アリスの頬を切り裂いた。鮮血が飛び散り、アリスの瞳に驚愕が走る。


「チッ! ノーラ、配置を換えろ! アリスは下がれ!」


 悠馬が即座に割り込み、その手に握られた青黒い短剣で魔物の首を的確に断ち切った。

 辺りには重苦しい静寂と、魔物の消滅する燐光だけが残る。


「……おい」


 悠馬が振り返る。その声には、冷や汗が出るほどの怒気が含まれていた。


 アリスは、頬の傷を抑えながら、ぽたぽたと落ちる自分の血を見つめて肩を震わせている。


「あの……ごめんなさい、悠馬お兄さん……」


 涙目で悠馬を見上げるアリス。チャームポイントのアホ毛は、悲しいほどに萎れていた。


「朝から変だったし、体調が悪いならそう言え! 俺はお前じゃないんだ、言わなきゃ分からないことだってあるだろうが!」

「……ごめんなさい。でも、体調が悪いわけではないんです。ただ……」


「ただ、なんだ?」

「自分でも分からないんです!熱もないし、身体も重くないんです。でも、なんか変なんです……ごめんなさい」


 泣き顔のアリスが伝えたいのは、言い訳ではなく「事実」だった。

 だが、命を預かる「案内人」としての悠馬には、その曖昧な言葉は届かない。


「はぁ、……そんな調子じゃ、この中層すら危ない。下層までは行きたかったんだが、今日は無理そうだな」


 悠馬は気怠そうに吐き捨てると、青黒い短剣を鞘に収めた。

 アリスの状態では、この先の主を仕留めて、脱出ポータルを出現させるまでの連戦は、リスクが高すぎると判断したのだ。


「……たしかに、悠馬様の仰る通りです。理由は分かりませんが、アリスお嬢様は不調なようです。ここは一度、引き返しましょう」


 3人は討伐済みの上層の主の間にある、脱出用ポータルを使用し、地上への帰路に就いた。


 ――新宿、地上。


 現代の喧騒と、どこか生温い初夏の風が彼らを迎える。


「とりあえず管理局へ向かうぞ」

「は……はい……」


 無言のまま歩く悠馬の背中を、アリスは俯いたまま追いかけた。その横で、ノーラが静かに声をかける。


「アリスお嬢様、落ち込んでも仕方がありません。いまは悠馬様についていきましょう」


 ――ダンジョン管理局、窓口。


「あら、悠馬じゃない。どうしたの? 今日からダイブするって言ってなかったっけ?まだ昼前じゃない」


 昼前の管理局は探索者の数もまばらで、受付に座る望海は退屈そうに声をかけてきた。


「あぁ、ちょっとトラブル……というほどでもないんだが。アリスの体調が変なんだ。怪我の治療も含めて、医務室へ案内してやってくれ」

「えっ!アリスさんが怪我って、どういう事よ悠馬!あんたがちゃんとしてないからじゃないの!?」


 望海が身を乗り出して叫ぶ。


「あ、望海さん……違うんです。私が……」

「いいのいいの!私には分かってるから。どうせあいつが無茶言ったんでしょ!ほら、怪我見せて。あぁもう、こんな可愛い顔に傷だなんて。悠馬! 跡が残ったらどうするつもりなのよ!」

 

「いえ……悠馬お兄さんは悪くなくて……」

「そうね、アリスさんは優しいのね。早く、医務室はこっちよ!」


 望海はまくしたてるように、悠馬を責めると、アリスの手を引いて足早に奥へと消えていった。


「はぁ、相変わらずというか」


 悠馬は気怠そうに、ポリポリと頭を掻いた。


「何と申しますか、望海様、いつもと様子が違いましたね」

「あいつは『可愛い』ものが大好きなんだ。以前、猫系の魔物素材を持っていったら、激怒されたことがある」

 

「魔物、ですよね?」

「そうだ。でも『可愛い』に分類されるらしくてな。『次にこんな可愛い子の素材を持ってきたら口きかないから』だとよ」


「なんと申しますか……凄まじいですね」

「あげく、『全て避けろ』とか『あんたがダメージを食らえばいいのよ』とか……酷いもんだよ」

 

「それは……ご愁傷さまでございます」


「まぁ、多少は持った方か。我慢してたんだろうけど、ケガを見るって口実が出来て爆発したんだろ」

「そうでしたか……とはいえ、アリスお嬢様が『可愛い』のは事実かと」

 

 ノーラの眼鏡の奥で、瞳がいたずらっぽく光った。


「……。あ、あぁ。……そうだな」

 

 (……ここにも同類がいやがった)

 

 悠馬は引きつった顔で、力なく頷いた。

 唯一の常識人だと思っていた、ノーラまでもが放った、身内に対しての「可愛い」の弾頭に、悠馬は反論を放棄してただ冷や汗を流した。


 数十分後。アリスを引き連れた望海が戻ってきた。

 アリスの頬には、大げさなほどのサイズの『最高級』絆創膏がぺたりと貼られている。


「アリスさんの怪我の治療、終わったわよ。跡も残らないだろうから大丈夫よ」

「そうか、ありがとう。それで、体調の方はどうだったんだ」

 

 悠馬の問いに、望海は手元のタブレットを確認しながら首を振った。


「簡易的ではあるけど精密検査をしたわ。体温、バイタルともに正常値。何の問題もないわ」

「そっか、それならいいんだが」

「メンタル的なことだったら、流石にこの短時間では分からないけどね。あんた、2人に無茶ぶりしてないわよね?もしそうだったら……」


 望海の背後から、ゴゴゴ……という重圧的な音が聞こえてくるような気がした。


「望海様。悠馬様は、安全マージンを十分に取ったうえで、指示を出しております。此度の失態はアリスお嬢様自身の問題ですので、あまり悠馬様を責めないでいただけますでしょうか」


 ノーラの素早いカットインに、望海は思わずのけ反る。


「そ、そうなのね。ノーラさんが言うなら信用するわ……」

「それは有難うございます。さぁ、アリスお嬢様、行きますよ。いつまで下を向いているのです」


 ノーラはアリスの手を引くようにして、悠馬のもとへと歩み寄る。


「悠馬様、これからどういたしますか? 攻略を再開いたしますか?」

「うーん、そうだなぁ。なんか興が削がれたというか、気分じゃないな」


「では、帰路に就くということで」

「だな。ただ……その前に昼飯だ! 俺のおすすめの店へ行こう」

 

「それは楽しみですね」


 悠馬は(何故、普通の絆創膏がこんなに高いんだ!?)と、思いつつも治療費を支払い、窓口を後にする。


 アリスは依然として俯いたままで、その表情は窺い知れない。

 

 無言の少女を引き連れ、オグリ家騎士団は昼の街へと繰り出した。

お読みいただきありがとうございます!


完璧な連携を見せていたオグリ家騎士団に生じた、小さな綻び。

バイタルは正常なのに拭えない「変な感じ」の正体とは一体何なのか。

攻略を中断し、昼食へと向かう一行ですが、アリスの体調はだいじょうなのでしょうか。


毎日18時に更新しております!


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