31. 【日本】特級への招待状と、女子力が死滅した騎士団
――ダンジョン管理局 窓口。
「そう……あの子(茜)に会ったのね。大丈夫だった?」
望海の問いに、悠馬は肩をすくめてぼやいた。
「あぁ。色々あったが、和解したというか……向こうは今でも俺を殺す気満々らしいがな」
そう言う悠馬の顔は、どこか吹っ切れたように晴れやかだった。
「今でも殺す気って……。まぁ、あんたが納得してるならいいわ」
望海は呆れたように息を吐くと、手元の書類を整理した。
「あぁ。それより特級ダンジョン『虚無の門』、行っていいんだよな」
「えぇ。本部の承認も下りているわ。私がどうこう言う話ではなくなったわね」
――特級ダンジョン『虚無の門』。
新宿の地下に鎮座するその魔窟は、現在、中層までしか攻略されていない。
下層、そしてその先の深層へは、未だ誰も足を踏み入れていないのだ。
理由は明白……潜るたびに、あるいは一定時間ごとに内部構造が塗り替えられる「完全ランダム生成」という特性にある。
「行くのはいいけど、死なないでよね」
「大丈夫だよ。まずは上層から中層の10階から20階あたりで腕試しだ。それに内部が変化したところで、俺には関係ないし……こいつらがいる」
悠馬の背後では、アリスとノーラが今か今かとウズウズしていた。
「望海さん!任せてください!私たちならどんな場所でも攻略して見せます! エッヘン!」
「未知への対応……。ふふ、楽しませていただきます」
「ほらな。怖いより興味が勝ってんだよ。とりあえず、新宿へ向かうか」
踵を返そうとした悠馬に、望海が鋭い声を上げた。
「ちょいちょい! アリスさん、ノーラさん、ちょっと待って!」
「ほぇ?」
「……なんでしょう」
呼び止められた2人が首を傾げる。望海は2人の顔と、頭部を至近距離でジロジロと眺めた。
「2人とも、髪と肌が乾燥気味じゃない?梅雨時なのにそれは変というか、凄く気になるのよね。……悠馬。あんた、2人にシャンプーとか、その、美容に関すること何かやってるの?」
帝国の厳しい環境基準ならば「健康」そのものだが、美容大国・日本の基準からすれば、彼女たちの潤いは明らかに足りていなかった。
「ん? 俺が使っている石鹸やシャンプーを2人にも使ってもらっているが」
頭をポリポリと掻きながら答える悠馬に、望海は天を仰いだ。
「はぁ~!おじさんの加齢臭対策用とか、洗浄力が強いやつでしょ!それじゃ女子が大丈夫なわけないでしょ! ちょっと待ってて!」
足早に奥へと消えていく望海。残された3人は言われるがまま待機する。
「はぁっ、はぁっ……! とりあえず『コレ』使ってみて!」
戻ってきた望海の両手には、小分けにされた試供品の山があった。シャンプー、トリートメント、果ては風呂上がりのアウトバストリートメントまで。
「アリスさんは金髪ロングだから、こっち!ノーラさんは黒髪ミドルだから、こっち! アレルギーとかあるかもだから、肌に優しいやつを持ってきたわ! 使い方は……って、日本語読めないか、悠馬! あんたがちゃんと教えなさいよ!」
「あ、あぁ……分かった」
何やらお洒落な袋に詰められた美容セットを渡され、悠馬は圧倒されつつも感謝を伝えた。
「望海、ありがとう。今夜使わせてみるよ。感想も伝える」
「あんたね、女子に対して無頓着すぎるわ。美容を舐めないことね!」
凄まじい怒気を放つ望海に後ずさりしつつ、悠馬は冷や汗を流す。
「望海さん! ありがとうございます! よく分かりませんが、私たちのことを思ってくださっているのは理解しました!」
「望海様。朴念仁である悠馬様はさておき、下賜いただいた物品、有り難く頂戴いたします」
「え、えぇ! 2人ともこれだけの美人なんだから、もっと自分を磨きなさい!」
悠馬を置き去りにした奇妙な「美容同盟」が誕生したが、悠馬は気にせず歩を進めた。
「じゃあ、行ってくるよ」
特級ダンジョン。
現代最強の探索者たちすら拒絶してきた『虚無の門』。
オグリ家騎士団の真価が問われる魔窟へ。
そう、『矢印』の向かうあの場所へ――。
お読みいただきありがとうございます!
特級への承認が下りてシリアスな展開かと思いきや、望海さんの「待った」がかかりました。
悠馬の無頓着なシャンプー選びに天を仰ぐ望海さん……彼女もまた、別の意味で苦労が絶えなさそうです(笑)。
美容セットを手にしたアリスたちの「さらさらヘアー」での特級攻略に期待ですね!
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