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戦闘スキル無しの元・狂戦士 ~案内人は最短の矢印で最強の異世界騎士団を導き現代ダンジョンを無双する~  作者: くるまAB
第1章:再起の矢印と霧晴れる迷宮

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3. 祖父母の家と3人の秘事

 千葉県某所 小栗家。


 「……汚いが、とりあえず座れ。少し話そう」


 悠馬がそう言うと、2人は恐る恐る畳の上に腰を下ろした。


 女騎士の纏う純白色の甲冑――プラチナプレートは、古びた和室の中で異様なほどの輝きを放っている。

 

  悠馬は冷蔵庫から麦茶を取り出し、3つのコップに注ぎながら、ふと思い出したように口を開いた。


「……そういや、まだ名前を聞いてなかったな。 窓口じゃあ、そっちのメイドが『アリスお嬢様』なんて呼んでたみたいだが」


 その言葉に、甲冑の少女がハッとしたように顔を上げ、少し照れくさそうに微笑んだ。


「あ……お兄さん、ごめんなさい!私はアリスリア・フォン・ガードルドです。ガードルド騎士団の副団長を務めてます。……でも、親しい方には『アリス』と呼んでもらってて……」

 

「私はノーラと申します。アリスリア様の侍女兼、護衛を務めております」


 ノーラが静かに頭を下げる。

 悠馬は面倒そうにポリポリと頭を掻いた。


「それでアリスお嬢様でアリスリアと……面倒だな、とりあえずアリスリアとノーラだな。……あと、お兄さんはやめろ、小栗 悠馬だ」

「はいっ、悠馬お兄さん!」

 

「……話を聞けよ」


 悠馬が差し出したコップを手に取り、アリスとノーラは周囲を見渡して息を呑んだ。

 

 彼女たちの目には、この家にあるもの全てが未知の魔法具に見えているようだった。


「悠馬お兄さん……この、壁に張り付いた薄く黒い板は、鏡……なのですか? それに、この飲み物とても冷たいです。あの箱は一体……」

 

「テレビと冷蔵庫だ。……文明の差を説明するのは面倒だから省くが、ここはあんたたちが元いた場所じゃない。異世界だ。たまにそっちから流れてくる奴がいるんだよ、この国には」

 

「別の、世界……。では、私たちはもう、元の場所には……」

 

 アリスリアの瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていく。

 

 自分たちが置かれた絶望的な状況を、ようやく理解し始めたのだ……隣でノーラがその肩を抱き寄せ、悠馬を鋭い眼光で射抜いた。


「悠馬様。 アリスお嬢様には、帰らねばならぬ国があるのです。元の世界に帰る手段はないのですか?」


 悠馬は自分の一杯を飲み干すと、2人の瞳をまっすぐに見据えて本題に入った。


「……いいか、よく聞け。あんたたちを元の世界に帰す方法は――ある」


 2人が息を呑む。

 直後、アリスリアが身を乗り出し、悠馬の袖を掴んだ。


「本当ですか!? お願いです、教えてください!」

 

「ただし、これは俺たち3人だけの秘密だ。もちろん、他言無用。さっきの窓口の望海はもちろん、ダンジョン管理局の連中にも、絶対に喋るのは許さない……出来るか?」


 アリスとノーラは、同時に首を縦に振る。


 ――悠馬はゆっくりと自分の目を指差した。


「俺の目には、あんたたちを帰すための『矢印』が見えている。……その先は、この国で最難関とされる特級ダンジョン『虚無の門』を指している」

 

 悠馬がこの重大な秘密を即座に明かしたのには、合理的な理由があった。


 彼のスキル『道標ガイドポスト』が示す矢印は、これまで一度として「間違った正解」を出したことがない。

 その絶対の信頼があるからこそ、悠馬は確信していた。


 彼女たちを帰すことが「最適解」であり、そのためには一刻も早く彼女たちの信用を勝ち取り、完全な協力体制を築くのが手っ取り早い。


(……ズルズルと隠し事をして信頼を損なう方が、後々面倒なことになる)


 悠馬の本音はシンプルだった。


 彼は何よりも面倒事を嫌う、その為「元の世界に帰りたい」と泣き喚く異世界人を抱え、管理局の監視に怯えながら暮らすのは、彼にとって最悪のシナリオだ。


 「見捨てる」という選択肢は、彼の辞書にはない。


 ならば、リスクを承知でカードを切り、最短ルートで彼女たちを送り届けて、一刻も早く以前の「だらだらとした日常」に戻りたいの一心だった。


「特級……最難関、ですか」

 

 ノーラが慎重な面持ちで呟く。


「ああ。そこに行けば、帰れるはずだ。……だが、特級ダンジョンは物理法則すら怪しい魔境だ。俺一人じゃ圧倒的に火力が足りない。俺のスキルはあくまで案内ガイドだ。特級の化け物を一撃で葬るような力はない」


 悠馬はスマホの画面を操作しながら、どこか遠い目をした。

 

「あいつらに頼むか……ただ、金がなぁ……いや、面倒なのは金だけじゃないか」


 その言葉に、アリスがハッとしたように顔を上げた。


「待ってください、悠馬お兄さん! 誰かを雇うには、お金が必要なのですよね?」


「ああ。それも、特級に潜るとなればそれなりの額が必要となる。俺の貯金が吹き飛ぶどころの話じゃないな」


 その場に立ち上がり、アリスが胸を張り答える。

 

「ならば……私が、その役を引き受けます! 私、これでも騎士団では1番強かったんですから! 私が戦えば、そのお金は必要ありませんよね?」

 

「そうの通りです。 アリスリア様の剣技は、帝国内でも上位に位置します。 私、ノーラも及ばずながら影となって支えましょう。私たちは、守られる側の人間ではありません。」


 悠馬は2人の必死な表情を見つめ、再びポリポリと頭を掻いた。

 彼女たちの真っ直ぐな瞳を見ていると、少しだけ居心地が悪くなる。


「……いいだろう。 ただ、あんたらが今日ぶっ倒れてたのは中級ダンジョンだ、これは事実だし、実力には不安が残る」


「うぅ……あれはびっくりしたからと言うか……」


 涙目になりながら、アリスリアは両手人差し指をつんつんと合わせる。


「だが、俺があんたらを導く、この道標ガイドポストの示す『矢印』でな。 上手くいけば上級、さらには特級にも手が届くだろう」


「本当ですか!悠馬お兄さん!」

 

 アリスリアは身を乗り出し、目を輝かせる。


「ただ、その前に中級ダンジョンでテストだ。あんたらの実力と俺との連携を確認する……指示に従えるか?」

 

「はいっ! 頑張ります、悠馬お兄さん!」

 

 アリスが小さな拳を握りしめた。

 その純白の甲冑が、和室に差し込む夕日に照らされて眩しく光る。

 

 悠馬は、自分の視界に浮かぶ太い【青い矢印】を見つめた。

 それは、平穏への帰り道か、あるいは更なる激闘の始まりか。


「……ったく。明日から忙しくなりそうだ」


 悠馬は大きく欠伸をすると、面倒そうに布団を敷き始めた。


 30歳の枯れた案内人と、異世界の騎士たちの奇妙な同居生活、そして爆速攻略の幕が上がった。

3話までお読みいただきありがとうございます!


「隠し事をする方が後々面倒」という理由で、初日に特級攻略をぶち上げた悠馬。

文明の利器に驚くアリスたちが可愛い回でしたが、騎士としての覚悟は本物のようです。

この凸凹な三人が、日本のダンジョンをどう爆速攻略していくのか……。


明日からは第1章終了まで毎日1話18時に公開いたします。

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