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元・狂戦士のオッサン案内人。〜俺の指す先を斬るだけで最強。最短の矢印に従う異世界女騎士とメイドが、特級ダンジョンを蹂躙する〜  作者: くるまAB
第2章:重なり合う異世界

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29. 【日本】魔素の理と、矛盾する道標

 雨の匂いが混じった湿った風が、古ぼけた一軒家の網戸を揺らしている。

 

 食卓には、つい先ほどまで賑やかだった朝食の残り、悠馬は湯呑みを手に取り、一度深く息を吐いてから、正面に座る2人の異世界人を見据えた。


「……さて、約束通り、俺の力の話をしよう」


 その一言で、居間の空気が一変した。アリスは背筋を伸ばし、ノーラは眼鏡の奥の瞳を鋭く細める。


「俺の『道標ガイドポスト』は……簡単に言うと、視界に矢印が映る。ただ、それだけだ」

 悠馬が淡々と告げた言葉に、真っ先にアリスが身を乗り出した。


「矢印……って、あの矢印ですか? こっちに行けばいいですよ、みたいな?」

 

「あぁ、その矢印だ。ただ、色によって意味が違う。基本の『青』は進むべきルート。だが『赤』は強烈な殺意……つまり敵の襲撃の予兆だ。そして『黄金』……これはお前たちもあの時見たはずだな。感覚共有時に他人が見る色だ。あとは明滅して緊急性を知らせてくれる。基本的にはこのあたりだな」

 

「それが、なぜ『最適解』と呼ばれるほどの精度を誇るのでしょうか。ただの方向指示であれば、そこまでの確信は持てないはずです」

 ノーラが、逃さぬように問いを重ねる。


「……多分なんだが、あの『矢印』は俺の思考とリンクしている。例えば敵を前にして『勝ちたい』と思えば、最短で急所を突くための道筋が出る。下層への階段を思い浮かべれば、最短ルートが出る。俺の脳が処理するよりも早く、世界の方が答えを提示してくれるような感覚だ」

 

「えっ! すごい便利じゃないですか!」

 アリスが瞳を輝かせる。だが、悠馬の表情は晴れない。


「あぁ、便利だ。だが、万能じゃない。あの矢印はあくまで『俺の身体能力』を基準に表示される。俺にできないことは、矢印も示さない。そして何より……俺が全く知らない物や場所に対しては、反応してくれない・・ん?」


 悠馬はそこで言葉を切り、湯呑みの中の茶柱を見つめた。

 何かが引っ掛かる――。


「……俺が、知らない物……だと。」

 

「身体能力……。それで、花さんは……」


 アリスが小さく呟いた。

 その名は、悠馬がかつて救えなかった者の名。


 矢印が「最適解」を示し、悠馬が伝えていても、それを実行する能力が不足、あるいは限界を超えていれば、結末は変わる。

 静寂が重くのしかかる。

 

「……いえ。それでは、どうしても説明がつかないことが御座います」

 

 沈黙を破ったのは、ノーラの硬質な声だった。


「なんだノーラ?何でも言ってくれ」

 

「はい。悠馬様は以前『俺の目には、あんたたちを帰すための矢印が見えている』と仰いました。……ですが悠馬様。あなたは、私たちの故郷である『帝国』を知らないはずではありませんか?」


(……っ。そうだ、そこだ。さっきから感じていた喉に刺さった小骨のような違和感は――)

 

 その指摘は、氷の楔のように悠馬の胸に突き刺さった。


「ッ……!?」

 悠馬の目が、驚愕に見開かれる。


「そうか……。当たり前のように受け入れていたが、おかしいな。俺は帝国に行ったこともなければ、見たこともない。それなのに、なぜ『矢印』はあの日、お前たちを帰すためのルートを示したんだ?さっきの引っ掛かりの正体はコレか!」


 自分の能力の前提条件が、足元から崩れていく感覚。

 

道標ガイドポスト」は、本人の記憶と経験に基づくナビゲーションのはずだ。見知らぬ異世界の出口など、表示されるはずがないのだ。


「出会って間もない頃に聞いていれば、ただの法螺ほらだと疑いもしましたが、今の悠馬様が嘘をついているとは思えません。 となると、逆に『なぜ表示されたのか』という新たな謎が生まれます」


 ノーラが指先で眼鏡を上げながら、推論を巡らせる。


「……確かに謎だ。だが、あの矢印が今まで間違ったことは一度もない。だが、表示されるということは、行けるということだ。そして、そこへ行けば、この矛盾の答えも出るはずだ」

 

「……そうですね。ここで悩んでも、特級ダンジョンという現場にしか答えはない、ということでしょうか」

「難しいことはわかりません! とりあえず特級ダンジョンへ行けば『謎』も解けるし、私たちは帰れる! それでいいじゃないですか! エッヘン!」


 重苦しい空気を切り裂くように、アリスが自信満々に胸を張った。少しだけアホ毛が揺れている。

 そのあまりに純粋で、根拠のないドヤ顔に、悠馬とノーラは顔を見合わせ、同時に小さく吹き出した。


「……あははっ、そうだな。アリスの言う通りだ。悩んでダイブを止める選択肢なんて、最初からないんだからな」

「そうですね。お嬢様の楽観主義には、時として救われます」


「もー! 楽観的じゃなくて、信じてるだけです! わたしの希少な『光魔法』があれば、どんな闇だって照らしてあげますから!」


 「光魔法」の使い手であることを何故か強調し、拳を握るアリス。

 そこで悠馬は、ずっと気になっていた別の質問を投げかけた。


「……魔法、か。そういえば、お前たちは魔法をどういう理屈で使ってるんだ?俺はスキルを使うと明確に『体力』を削られる。あの『感覚共有』なんて、数分使っただけで、1日中走り回ったような疲労がドッと来るんだが」

 

「魔法の理屈、ですか……? ええっと、それは……その……」

 アリスの視線が、泳ぐ。そして、冷や汗をかきつつ両手を広げ、隣の侍女に丸投げした。


「……ノーラが、知ってます! エッヘン!」

「はぁ……。お嬢様。あれほど座学を真面目に受けてくださいと、家庭教師の先生が泣いていたのを覚えていませんか?」

「だ、だって、剣を振る方が楽しかったんですもの!」


「……悠馬様、解説させていただきます。私たちがいた世界、そして帝国には『魔素まそ』と呼ばれる粒子が空気中に満ちていました。私たちはそれを呼吸や皮膚から取り込み、魔力として体内で変換し、魔法として行使します」


 悠馬は腕を組み、真剣な面持ちで頷く。

 

「なるほど。こっちの世界でも空気中には酸素とか色んな成分があるが、それのエネルギー版ってところか。……でも、この世界にそんな都合のいいもん、あるのか?」

 

「いいえ。この日本……いえ、この星の地上には、魔素は皆無と言っていいでしょう。ですが、不思議なことに『ダンジョン内』にだけは、魔素が存在します。それも、下層へ行くほどに、その濃度は増していくようです」

 

「……あぁ、だからボス部屋では2人の攻撃力があんなに上がっていたのか」

 

「その通りです。また、微量であれば体内に蓄積もできるので、地上でも生活魔法程度の弱いものなら行使可能です。アリスお嬢様がたまに指先を光らせて喜んでいるのは、その貯金を使っているからですね」

「喜んでるって言わないでください!」


 悠馬はノーラの情報を、自身の10年の探索者経験と照らし合わせていく。

 

「なるほどなぁ……。外では魔法系のスキルが使えない、あるいは極端に威力が落ちるっていう探索者がいるのも、その『魔素』とやらの濃度が関係してるのかもな」

 

「おそらくは。……そして、先ほど私が『回復魔法は期待しないでほしい』と申し上げた理由も、そこにあります」

「……魔素の使用量か?」

 

「はい。回復魔法……特に欠損や重傷を治す魔法は、攻撃魔法とは比較にならないほどの膨大な魔素を消費します。今まで訪れたダンジョンでは、大気をどれだけ掻き集めても、回復魔法を発動させるための『燃料』が足りなかったのです」

 

「じゃあ、もし……その魔素が濃い場所なら?」


 悠馬の目が、獲物を狙う狂戦士のように鋭くなった。


「特級ダンジョンの深層。そこなら、回復魔法が使えるのか?」

「……保証はできません。ですが、理論上は、かつての帝国と同等か、それ以上の魔素濃度があるはずです」


 悠馬は、自身の震える拳を、もう片方の手で強く抑えつけた。


 回復魔法――。


 もしそれが本当に使えるのなら。

 「最適解」があっても救えなかったあの日の悲劇を、過去を塗り替えられるかもしれない。

 

 救えなかった愛する人。死なせてしまった相棒。

 その亡霊たちが、悠馬の背中を押しているような気がした。


 魔素、ダンジョン、異世界。そして『道標』が示す、不可能なはずの『矢印』。

 全ての点がつながる場所を求めて――。


 オグリ家騎士団、特級ダンジョン攻略の幕が上がる。

お読みいただきありがとうございます!


難しい話はノーラに丸投げして「エッヘン!」と胸を張るアリス。アホ毛を揺らしながらのドヤ顔が、重苦しい空気を救ってくれましたね(笑)。

一方で明かされた、この世界における「魔法」と「魔素」の関係。ダンジョンの深層ほど魔素が濃いという事実は、攻略の大きな鍵になりそうです!


毎日18時に更新しております!


「アリスのドヤ顔に癒やされた!」「ノーラ頑張れ!」と思っていただけたら、作品フォローやブックマーク、星(★★★★★)での応援をよろしくお願いします!

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