27. 【日本】食卓の軍議と思わぬ収穫
特級ダンジョンの切符を手に入れたオグリ家騎士団は、その足で帰路に着き、英気を養っていた。
悠馬の自宅、古ぼけた一軒家の居間。
窓の外では、季節が雨季に差し掛かろうとする、重苦しい曇天が広がっている。
……ブルルッ。
不意に、朝食を摂っていたアリスの肩が大きく震え、両手を包むように抱きかかえる。
「アリス、どうした? 寒いのか?」
悠馬が尋ねる。寒いはずはない。
室内はエアコンで適温に保たれ、湿度も快適なはずだ。
「アリスお嬢様のことです、お腹でも出したまま寝たのでしょう」
ノーラはアリスを見もせず、慣れた手付きで味噌汁を啜りながら答える。
「もっ! もう子供じゃないんだからそんな事しません!」
アリスは真っ赤な顔で否定するも、どこか心当たりがありそうな気配を醸し出している。
実際、現代の寝具はあまりに心地よく、無意識に寝相が崩れていた自覚があった。
「まぁまぁ。……で、大丈夫なのか? 体調が悪いとかか?」
「体調はいつも通りです。ただ何となく……恐ろしい寒気がしたというか。もしかしたら、夢に父が出たのが関係しているのかもです」
「アリスの父親っていうと、例の辺境伯の?」
「ドレイヴン・フォン・ガードルド辺境伯様……その人です」
ノーラがその名を口にした瞬間、空気がわずかに重くなった気がした。
「屈強な体躯と、圧倒的な剣技。元は平民でありながら1代で辺境伯まで上り詰めた、正に傑物。その戦果を語るならば、一昼夜語ることになるでしょう……ただ」
「――ただ?」
問いかける悠馬に、ノーラが眼鏡を光らせて答えた。
「ただ……恐ろしく『子煩悩』です」
さらにノーラは続ける。
「髪色、容姿など、亡き奥方様のお姿を、色濃くもつアリスお嬢様。さらに1人娘ということもあり、御屋形様はアリスお嬢様を溺愛しております」
「それは仕方ないかぁ……。親父が娘に甘いってのは世の常だからな」
「それにも限度があるのです!悠馬お兄さん聞いてください!」
アリスが身を乗り出し、悲痛な声を上げる。
「もう私は成人しているというのに、事あるごとに抱き着いて来ようとするし、何かあるとすぐに甘いものを食べさせようとするのです!あの筋肉の塊に抱きしめられると、鎧が軋むのですよ!?」
「アリスは愛されてるんだな。良い事だと思うぞ」
「うぅ……それ自体は嬉しいのですが。最近では、父の声を聞くだけで身震いが……」
涙目のアリスは、再びブルリと身を震わせた。
「なるほどなぁ。ただ、そんな親父さんなら、今頃心配しまくってるだろ」
「たしかに、そうかも知れないですね……」
アホ毛が少し萎れているアリスを横目に、ノーラが冷静に分析を下す。
「……御屋形様の事です。アリスお嬢様の捜索に、騎士団を総動員していても不思議ではありません」
食卓に、少しの間が落ちた。
時空を超えて届く、重すぎる愛の殺気。それを本能で察知して怯える娘。
その光景を想像し、悠馬は少しだけ同情を禁じ得なかった。
「……そっ、それはそうと、改めてお互いの事を話さないか? 特級ダンジョンに行くんだし、確認というか……な。あぁ、言いたくない事は言わなくていい。誰にだって秘密はあるもんだ」
空気を変えようと、悠馬が慌てて切り出した。
「賛成です!もっとお話ししましょう、父の事じゃなく!」
「そうですね。この機会にお伺いしたい事も御座いますし、良いタイミングかと」
アリスだけでなくノーラも賛同し、3人はお互いのスペックについて語り合い始めた。
「わたしの特技は『ガードルド閃技』と『身体強化』! 大剣で敵をぶった斬ります!さらに希少な『光魔法』が使えるのです!エッヘン!」
胸を張るアリス。
続いてノーラが淡々と告げる。
「私は主に『投げナイフ』と『氷魔法』。多少の『回復術』が使えますが、そちらに関しては、『今は』期待に応えられるレベルでは御座いません」
その言葉を聞いた瞬間、悠馬が椅子を蹴る勢いで身を乗り出した。
「えっ!ノーラ、回復魔法なんて使えるのか!?凄ぇじゃないか!おとぎ話レベルだぞ!」
思いもよらない超希少スキルの発覚に、悠馬の目が輝く。
「悠馬お兄さん! わたしだって光魔法使いなんですってば!使い手は少ないのです!……って、聞いてますかーー!」
しかし、悠馬の耳にアリスの声は届いていない。
無意識のうちに、テーブル越しにノーラの両手を掴み、食い入るように見つめていた。
「……んふっ。悠馬様、ありがとうございます。……ですが、近いです、顔が」
ノーラは少し顔を赤らめ、視線を泳がせながらも、拒まずに言葉を紡ぐ。
至近距離で見つめ合う形になり、鼻先が触れそうなほどの熱が2人の間に流れた。
「あーっ! ずるいです! 悠馬お兄さん、私だって光魔法でキラキラできるんですよ!?ほら、見てください、これでもかってくらい見てください!」
アリスは2人の間に、強引に頭を割り込ませるよう突っ込み、指先をキラキラさせ、アホ毛と共にブンブンと振り回す。
「いや!すげぇよ!探索者を10年やってるが、回復魔法なんて聞いたことがない!今度、ぜひ見せてくれ!」
興奮冷めやらぬ悠馬だったが、ノーラはそっと手を解き、真剣な眼差しを彼に向けた。
もはや、2人の目にアリスは映っていないようだ……。
「それよりも悠馬様。あなたの……『矢印』についてお伺いしたいのです」
「おっ、おう。そうだな、次は俺の番か」
「あなたは、まるで口癖のように『最適解』と繰り返しています。確かにそれでアリスお嬢様と私が助かっていることは事実。あげくに……感覚共有。あなたには、一体何が見えているのですか?」
ノーラの静かな問いに、悠馬はゆっくりと口を開く。
「俺の『道標』は……」
お読みいただきありがとうございます!
まさかの超希少スキル「回復魔法」の判明に、思わずノーラの手を握りしめて興奮する悠馬。
置いてけぼりにされて必死に「キラキラ」と光魔法をアピールするアリスの姿が、なんとも微笑ましい回でした。
ついに悠馬のスキル『道標』の正体が語られます!
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