26. 【帝国】消えた令嬢、狂える父
いつもありがとうございます!
今日からいよいよ第2章が始まります!
今章では、悠馬たちがいる日本のダンジョンと、激動の帝国側、それぞれの視点がスイッチしながら物語が進んでいきます。
なぜアリスたちが日本に現れたのか? その裏側と、2つの世界が交差する瞬間をぜひ見届けてください。
本日は開幕を記念して、18:00と18:10に2話連続で投稿します!
それでは、第2章スタートです!
第2章:重なり合う異世界
――ローレライ帝国 ガードルド地方 辺境伯邸。
ドォォォォンッ!
凄まじい轟音が、ガードルド辺境伯邸の重厚な書斎に響き渡った。
「――まだかッ! まだ見つからんと言うのかッ!!」
ドレイヴン・フォン・ガードルド辺境伯が、丸太のような両手を机に叩きつける。
数百年来の黒檀で作られた高級デスクが、その一撃で中央から「く」の字にひしゃげ、固定していた金属ボルトが悲鳴を上げて弾け飛んだ。
周囲に控えていた従者たちは、石像のように硬直して呼吸を忘れている。今の主人は、文字通り「触れれば死ぬ」狂犬そのものだった。
アリスとノーラが、死の森の魔物討伐作戦中に忽然と姿を消してから、丸2日が経とうとしていた。
騎士団を総動員し、森を絨毯爆撃のごとく捜索させたが、見つかったのは折れた枝と踏み荒らされた草地だけ。
遺品1つ、装備の破片1つすら見当たらない。
唯一の拠り所は、2人の「死体」が見つかっていないということだけだった。
(あのアリスが、森の雑魚如きに不覚を取るはずがない。だが……)
アリスは帝国1とも称される剣の天才だ。さらに冷静沈着なノーラがついていながら――なぜ。
手掛かりのなさが、ドレイヴンの不安を最悪の想像へと舵を切らせる。
その時、静寂を破って1人の男が前に出た――ガードルド騎士団団長、マグノリア。
200センチを超える巨躯を包むのは、アリスと同じく眩いほどに磨き上げられた純白色のプラチナフルプレートだ。
だが、その細部には団長の地位を象徴する繊細な金の装飾が施されており、戦場にあっては誰よりも鮮烈な光を放つ。
その重鎮が、今は苦渋の表情で跪いていた。
「御館様! ご提案がございます!」
「……なんだ、言ってみろ。ろくでもない内容であれば、貴様とはいえ、ここでくびり殺してやる」
ドレイヴンの瞳に宿る、昏い狂戦士の輝き。誰かが短く息を呑む音が聞こえた。
「あの魔導士に……頼るべきかと存じます」
その言葉が出た瞬間、ドレイヴンの眉間が深く、深く刻まれた。
「……あの魔導士だと? 貴様、まさか……アイツではあるまいな?」
低く、地を這うような問い返し。
ドレイヴンがことあるごとに「あ奴だけは絶対に領内へ入れるな」と厳命している禁忌の存在。
従者たちから見れば、辺境伯が最も敵対視し、忌み嫌っている相手に他ならない。
そんな名前が、この場で、団長の口から出たことへの信じがたい思いが場を支配する。
「……御館様、ご想像の方で間違いございません……」
マグノリアが、覚悟を決めた声で再確認を突きつけた。
直後――ズドォォォォンッッッ!
本日2度目の、そして先ほどを遥かに凌駕する轟音が書斎を震わせた。
ドレイヴンの拳が、すでにひしゃげていた机の角を跡形もなく粉砕したのだ。
爆散した黒檀の破片が礫となって飛び、従者たちの頬を切り裂く。
凄まじい殺気が書斎を埋め尽くし、窓ガラスがビリビリと悲鳴を上げた。
「……貴様……本気で言っているのだな?」
「躊躇われるのも当然とは存じますが、これしか方法はないかと」
ドレイヴンが、地を這うような足取りで近づく。
「……それが、貴様の遺言か」
身長190センチのドレイヴンが、200センチをゆうに超えるマグノリアの首を、片手の「のど輪」で掴み上げた。
「が……っ……!」
ギリ、と万力のような指に力がこもる。マグノリアの足が宙に浮き、豪奢な純白の甲冑が軋んだ。
「辺境伯様、おやめくださいッ! マグノリア様を……団長を手にかけたところで、何の解決にもなりませんッ!!」
周囲の従者たちが、半ば悲鳴のような声を上げながら止めようと駆け寄る。
数人がかりでドレイヴンの丸太のような腕に縋り付くが、その剛腕は微動だにしない。
ドレイヴンは縋り付く者たちを一瞥だにせず、ただ眼前のマグノリアを食い殺さんばかりに睨みつけていた。
死の淵にありながら、それでも団長は目を逸らさなかった。
「あ、あの女魔導士は……最近、空気中の魔素の残滓を……手繰り寄せる……新たな魔道具を……っ」
その言葉が出た瞬間、ドレイヴンは無造作に手を離した。
どさり、と床に崩れ落ち、マグノリアは激しく咳き込む。
「……その話、本当であろうな」
「……っ、はぁっ……。私も噂で聞いたまでですが、1度会ってみる価値はあるかと……」
ドレイヴンは大きく鼻を鳴らし、ひしゃげた机を背にして吠えた。
「よし、わかった。いいか、話を聞くだけだ!……誰か、今すぐアイツを連れてこい!1番の乗り手に、1番の馬を使え!遅れた奴から順番に、ワシが直々に稽古をつけてやるッ!」
「は、はっ!」
雷に打たれたように従者たちが駆け出していく。
――やがて、誰もいなくなった書斎で佇むドレイヴン。
窓の外に広がる死の森を見つめ、ぽつりと呟いた。
「アリスよ……。パパは心配だ。どこにいるのだ。怖い思いをしていないか。 お腹を空かしてはいないか…………泣いてはないか……」
そこには先ほどまでの威厳も怪物感もない。
ただ、目元を真っ赤に腫らし、今にも泣き出しそうな「親バカ」が佇んでいた。
お読みいただきありがとうございます!
ついに登場したアリスの父、ドレイヴン辺境伯。
机を粉砕し、団長の首を掴み上げるその姿はまさに「動く災害」ですが……最後の一行で見せた、娘を想うあまりの「親バカ」っぷりには、部下たちも苦労が絶えなさそうですね(笑)。
このあとすぐ、18:10に第2話を更新します!
ぜひ続けてお楽しみください!
「パパ、怖すぎるけど面白すぎる!」「アリスへの愛が重すぎて最高!」と思っていただけたら、作品フォローやブックマーク、星星(★★★★★)での応援をよろしくお願いします!




