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元・狂戦士のオッサン案内人。〜俺の指す先を斬るだけで最強。最短の矢印に従う異世界女騎士とメイドが、特級ダンジョンを蹂躙する〜  作者: くるまAB
第1章:再起の矢印と霧晴れる迷宮

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20. 未来を指し示す真実の道標

 石扉の奥に鎮座していたのは、かつて悠馬の全てを奪い去った絶望の具現――『虚飾の番人』に酷似した魔物だった。

 その姿を見た瞬間、悠馬の視界から色が消えた。


 ――ドクン、と心臓が跳ねる。

 脳裏を過るのは、あの日、自分の出した『正解』の先にあった花の死。

 そして、有村茜から浴びせられた「お前が殺したんだ」という呪詛。

 足が震える。皮鎧に染み付いた返り血が、急激に冷たくなったように感じられた。


「あ……が……っ」


 声が出ない。指示を出すべき口は凍りつき、世界を導くはずの『道標』は、起動すらしていない。

 目の前の魔物が剣を振り上げる。かつて花を貫いた、あの大剣の軌道と重なる。

 悠馬は、ただその場に立ち尽くすしかなかった。


「――悠馬お兄さん、下がって!!」


 アリスの鋭い声が、静止した世界を切り裂いた。

 彼女は剣の重圧を真正面から受け止め、火花を散らす。

 その細い腕が震えながらも、一歩も引かずに悠馬を背に隠し、大剣を振りぬき魔物を退かせる。


「悠馬様……!!」

 ノーラは手にした氷の礫を魔物の足元へ叩きつけ、巨大な『氷の壁』を出現させた。


 2人は確信していた。

 普段、何が起きても気怠げな余裕を崩さないこの男が、ここまで無様に狼狽している。

 その理由は、ただ1つしかない。


((これが……昨日、言っていた過去の……花さんという人を奪った魔物))


 アリスは剣を握り直し、決意を固める。

 ここで自分たち2人だけで敵を屠れば、悠馬の心は永遠に死んでしまう。

 

 ノーラもまた、冷たい瞳で魔物を見据えた。

 ここでこの魔物を討つことは、悠馬のトラウマを、今この場で克服させるために必要な通過儀礼なのだと。


「悠馬様!……いえ、小栗悠馬!!いつまで、そうして震えているのですか! 貴方は我らを導く案内人ではなかったのか!」

「ノーラ……っ」

「よく見なさい、その魔物を! 過去に縛られ、今の視界まで曇らせるつもりですか!」


 ノーラの叱咤に、悠馬の瞳が微かに揺れた。

 アリスは氷の壁の隙間から魔物の猛攻を凌ぎ、必死に声を張り上げ続ける。


「 私は、悠馬お兄さんの正解を信じてここまで来ました! 過去がなんだって言うんですか! 私たちは今、ここに生きて、一緒に戦ってる!!」


 アリスの声、ノーラの瞳。

 それが、悠馬の脳内に澱んでいた過去の音を、少しずつ押し流していく。

 思い出されるのは、呪詛だけではない。

 自分を最後まで信じていた、花の真っ直ぐな瞳。新しい命の為に「行って」と笑った、有里朱の笑顔。


 彼女たちが守りたかったのは、ここで震え続ける抜け殻の男ではないはずだ。

 悠馬の思考が、急速にクリアになっていく。

 目の前の魔物を、1人の『案内人』として冷静に観察する。


「……違う」


 体躯が一回り小さい。得物も大剣ではなく片手剣だ。

 何より、あの日死に物狂いで討伐した『番人』とは、纏っている圧力が違う。


「……あいつじゃない。花を殺したのは、こいつじゃない……!」


 悠馬の拳から力が抜けた。

 いや、震えが止まり、確かな感覚が戻ってきたのだ。

 脳裏に、自分が過去に発した言葉が浮かぶ――。


「……信じろ。この矢印の先に、あんたの求める答えがある」


 悠馬は、自分自身に言い聞かせるように、低く、重く呟いた。

 失っていた『道標』が、かつてないほど鮮明に世界を貫く。


「俺の答え…………俺を、もう一度やり直す!」


 悠馬の瞳から死の冷気が消え、代わりに底知れない『強者』の光が宿った。


「アリス、左へ3歩。ノーラ、氷結魔法で右膝を砕け! 指示を再開する!」

 戻ってきた『声』に、アリスとノーラの表情に輝きが戻る。

 

 「はいっ!!」

 「承知いたしました、悠馬様!」


 もはや、そこにあるのは絶望の再演ではない。

 悠馬の指示は神速にして正確。

 魔物が剣を振るう前にその軌道を潰し、ノーラの氷が動きを縛り、アリスの剣が装甲を剥いでいく。


「アリス! とどめは同時に行くぞ!」

「了解です!!」


 悠馬が地面を蹴る。

 アリスが上段から渾身の一撃を振り下ろすと同時に、悠馬は魔物の懐へ、最短距離で潜り込んだ。その手には、刀身を露わにした禍々しい短剣。


「おおおおおおおっ!!」


 アリスの剣が骸骨騎士の頸を断ち、悠馬の短剣がその核を正確に貫通した。

 パァン、と乾いた音を立てて、魔物の体が魔素へと霧散していく。

 静寂が訪れたボス部屋で、悠馬はゆっくりと短剣を鞘に収めた。

 両拳の血はまだ乾いていないが、その視線はもう、足元の死骸の山ではなく、その先にあるダンジョンコアを見据えていた。


「……終わったぞ。行くか」


 振り返った悠馬の顔には、いつもの気怠げな、だがどこか吹っ切れたような余裕が戻っていた。

 オグリ家騎士団は、福岡の灰色の霧を切り裂き、次なる一歩を踏み出した。

お読みいただきありがとうございます!


「私は、悠馬お兄さんの正解を信じてここまで来ました!」

アリスの真っ直ぐな言葉が、凍りついていた悠馬の心を溶かしました。

かつての相棒を失った過去を背負いながらも、今隣にいる二人を信じて戦う。

本当の意味で、この3人は「唯一無二のパーティ」になれたのかもしれません。


「3人の絆が尊すぎる……」「アリスの叫びに泣いた」と思って頂けましたら、ぜひ下の評価欄(★)とブックマークでの応援をよろしくお願いします!

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