14. 閉ざされた最短ルート
「……通行止めか。参ったな」
京都付近。渋滞に捕まった車内で、悠馬はハンドルを指で叩いた。
悠馬はネットで情報を漁るが、判明しているのは「大阪方面通行止め」という事だけだった。
そこへ、望海からの着信が入る。
「悠馬、聞こえる? 大阪には入れないわ。あそこ、今『スタンピート』が起きてるわ」
「……魔物大災害か。中級のあそこでか?」
「ええ。でも、あんたが出る幕はないわよ。既に『聖天の双翼』が現場に投入されたわ」
その名前を聞いた瞬間、悠馬の指がピクリと跳ねた。
「……アイツらか。あの夫婦、まだ前線でイチャついてんのかよ」
「ふふっ、相変わらずの男女混合トップチームよ。リーダーの彼も、副リーダーの彼女も、あんたにだけは『借りを返せていない』って今でも言ってるわ。……鉢合わせたくないでしょ?」
「……ああ。あいつらみたいな『眩しい』連中に、今の俺は似合わねえ」
電話を切った悠馬の横顔は、アリスとノーラが見たこともないほど暗く、深い色を湛えていた。
悠馬は無理やり意識を切り替え、ハンドルを切る。
「大阪は通行止めだ。北から神戸へ抜けて、そこからフェリーに乗るぞ」
「……『ふぇりー』、ですか?」
アリスが助手席で首を傾げた。
「ああ。船だ。お前らの世界にもあっただろ?」
「ふふん、悠馬お兄さん。私たちを侮らないでください」
アリスが少しだけ胸を張り、得意げに微笑む。
「王都の港には、世界中から帆船が集まるのです。白く美しい帆を風になびかせ、波を切って進む姿は、まさに海上の芸術……。船のことなら、心得ています!エッヘン!」
「左様です、悠馬様。私もお嬢様のお供で何度も乗船しております。船の揺れなど、私どもの体幹があれば造作もないこと。ご心配なく」
ノーラまでが眼鏡の奥で「任せろ」と言わんばかりの知的な光を宿している。
(……まあ、それなら説明の手間が省けていいか)
悠馬は二人の「ドヤ顔」を信じて、車を神戸港へと走らせた。
――数時間後、神戸港。
三人の前に現れたのは、巨大な「鉄の城」そのものだった。
「………………」
「………………」
二人のドヤ顔が、一瞬でコンクリートのように固まった。
「……悠馬お兄さん。質問、いいですか」
「なんだ」
「あの……あの、山のような『鉄の壁』は何ですか? あの下に、先ほどおっしゃっていた『ふぇりー』が隠れているのですか?」
「いや、あれそのものが船だ。名前は『やまと』。新門司まであれで行く」
「嘘ですッ!!」
アリスが叫び、ノーラが膝を震わせる。
「悠馬様、冗談が過ぎます! あれは城です! 王都の砦よりも巨大な鉄の塊が、海に浮かぶはずがありません! 魔力も、何も感じません!?」
「あんなものが動いたら、津波で港が滅びます! 悠馬お兄さん、騙されないでください、あれは敵国の秘密兵器か何かです!」
「……やっぱりこうなるか」
悠馬は深いため息をつき、腰を抜かしかけている2人を強引にゲートへと促した。
「木造の帆船と一緒にすんな。あれが今の、この世界の『船』だ。いいから乗れ、中にはレストランもある」
科学技術の暴力に打ちのめされた2人を引きずり、悠馬は「鉄の島」へと乗り込んだ。
――夜の瀬戸内海。
案の定、船内の豪華な食事で「お肉のカーニバル・海上版」を開催し、腹を膨らませた2人が眠りにつく頃。
悠馬は1人、甲板で夜風に吹かれていた。
「……起きてたのか」
足音で分かった。背後に、二人の気配がある。
「……悠馬様。あなたが時折見せる、その『穴』のような瞳。……その理由は福岡にあるのですね?」
ノーラが、いつになく真剣な表情で隣に立つ。
アリスもまた、悠馬のジャージの袖をぎゅっと掴んだ。
「悠馬お兄さん……私たち、出会ったばかりでお互いの事をあまり知りません。でも、あんなに悲しい顔をしてほしくないのです」
悠馬は手元のコーヒーの入った紙コップを見つめ、少しだけ自嘲気味に笑った。
「……最短ルートを指す案内人が……一番、遠回りをしちまった話だ」
福岡につけば、否応なしに「有村茜」と顔を合わせることになる。
それなら、ゆっくりと話が出来る今が、そのタイミングなのかも知れない。
悠馬はゆっくりと、甲板の手すりに背を預けた。
「……俺がかつて、『狂戦士』なんて呼ばれて、死に物狂いで『アレ』を探していた頃の話だ。……聞いてくれるか」
お読みいただきありがとうございます!
「悲しい顔をしてほしくない」というアリスの真っ直ぐな言葉が、悠馬の閉ざしていた過去の扉を叩きます。
美味しいものを食べ、景色を眺め、絆を深めてきたからこそ聞ける特別な独白。
一人の男の挫折と、そこから始まる再生の物語を見守って頂ければ幸いです。
「三人の絆が尊い!」「続きが待ちきれない!」と思って頂けましたら、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】からポイントを頂けると執筆の励みになります!




