表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元・狂戦士のオッサン案内人。〜俺の指す先を斬るだけで最強。最短の矢印に従う異世界女騎士とメイドが、特級ダンジョンを蹂躙する〜  作者: くるまAB
第1章:再起の矢印と霧晴れる迷宮

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/35

11. 過去の残り火、現在の光

 店内を漂う、暴力的なまでに香ばしい肉汁の匂いが、少しずつ甘いデザートの香りに塗り替えられようとしていた。

 アリスとノーラは、鉄板に残ったソースの一滴まで名残惜しそうに掬い上げ、ようやく満足げな吐息を漏らす。

 その顔は、死闘を終えた戦士というより、放課後の買い食いを楽しむ少女のそれだった。

 そんな中、悠馬のスマホが震え始めた。テーブルの下、ポケットの中で刻まれ続ける振動。


 悠馬はそれを無視するように水を飲み干したが、バイブ音は執拗に、かつ焦りを含んだリズムで鳴り続けている。

(……しつこいな、望海の奴)

 

「……悠馬お兄さん? 魔法の板が、必死に震えていますよ。誰かが助けを求めているのではないですか?」

 アリスが、パフェのメニューを眺めながら小首を傾げる。


「ああ、ただの営業電話だ。最近の機械は押し売りが激しくてな。それより、あの期間限定のイチゴパフェ、頼むか?」

「イチゴ! 頼みます! 私は、あの山盛りの……っ!」

 パッと顔を輝かせたアリスに、悠馬は内心で安堵した。


『隠したい。』


 今の自分の平穏を乱す予感は、すべて。だが、その一方で、悠馬の心の奥底には、自分でも気づかないほどの小さな「期待」が澱のように沈んでいた。

 もし……もしもこの、理屈を超えた力を持つ少女なら。

 自分の隠しているしがらみさえも、その圧倒的な無邪気さで切り裂いてくれるのではないか――。

 スマホのバイフを切り、画面を伏せてテーブルの端へ置こうとしたその刹那――アリスの瞳が、コンマ数秒、発光したかのように鋭く細められた。


「……『望海』。管理局の、あの厳しいお姉様ですね」

 アリスの声が、いつになく落ち着いた響きを帯びる。


「……チッ、見られたか。……というか、なんで見えるかね。どんな反射神経してんだよ、お前は」

 悠馬は深く椅子に背を預け、ぽりぽりと頭を掻いた。

 伏せる角度、手の動き、画面が消える速度。すべてが完璧だったはずだ。

 並の探索者なら残像すら捉えられない一瞬を、アリスは当然のように「見て」いた。


 呆れ。そして、やっぱりお前なら見てしまうんだな、という気怠い納得感が悠馬の胸に広がる。


「隠し事は、騎士の誓いに反するのですよ、悠馬お兄さん。……行ってきてください。私たちは、デザートを吟味して待っていますから」

 アリスの屈託のない笑顔。


「……ノーラ。アリスに変なもん注文させるなよ」

「承知いたしました、悠馬様。お嬢様の胃袋の調和は、私が責任を持って管理いたします」

 悠馬は観念したようにスマホを掴み、夜風の吹く駐車場へと出た。


 静寂の中で通話ボタンを押す。

『――遅いわよ、悠馬』

「こっちは今、パフェの注文で忙しいんだよ。……で、何の用だ」

『あんた、九州へ行くって言ったわよね。……やめなさい。今すぐ引き返して、関東で予約待ちをなさい。実績なんて、1年もかからず積めるわ』

 望海の、どこか怯えたような、震える声。


「……理由を言え」

『何となく気になって調べたのよ。福岡支部の局員名簿をね。……いたわ。有村ありむら あかねよ』

 

 その名を聞いた瞬間、悠馬の視界から色が消えた。

 

 心臓の鼓動が、一瞬だけ不自然なリズムを刻む。

 今の悠馬が、過去から目を背けるようにして生きている理由、その「理由」の一端が、その名には刻まれていた。


「…………茜、だと?」


『ええ。あの子がなぜ管理局に入ったのか、なぜ福岡支部にいるのかは分からない。でも、あんたが行けば、間違いなく衝突するわ』

 望海の言葉は正論だった。


 引き返せばいい。

 過去との衝突を避け、着実にそして、平穏に関東地区で実績を積めばいいのだ。

 だが、窓越しに見える、パフェのメニューを指さしてはしゃぐアリスの姿。彼女は、自分が隠したかった画面を、その異次元の眼差しで捉えてみせた。

「見てほしい」という自分の弱さを、彼女は見事に射抜いたのだ。


「……いいや、戻らねえ。――続行だ」

『悠馬! あんた、自分が何を言ってるか……』

「あいつらと約束したんだ。そのためには上級の実績が必要だ、数ヶ月も足止めを食らう余裕はねえ。……茜には、もし会っちまったら、その時はその時だ」

『はぁっ!ちょっと悠馬あんた……』

 一方的に電話を切り、悠馬は深く息を吐き出した。

 夜の冷気が、熱くなった肺を鎮めてくれる。


 席に戻ると、そこには空のデザート皿が3つ並んでいた。


「おい。俺のデザート……」

「……ゆ、悠馬お兄さん! これには深い事情があるのです! このアイス、驚くほどの速さで溶け始めていたのです。私は、その……被害を最小限に抑えようと……!」

「釈明になってねえよ。一口も残ってねえじゃねえか!」

 横ではノーラが、涼しい顔でメニューを開いている。


「悠馬様、嘆く必要はありません。過去には戻れないのです、解決策として2個目を注文することを提案します。店員さん、これと同じものを2つ」

「お前、どさくさに紛れて自分のも頼んでんじゃねえよ!」


 騒がしい、実になんてことのない、馬鹿げたやり取りだ。

 だが、その騒々しさが、先ほどまでの重苦しい過去を、少しずつ塗りつぶしていく。


「……ったく。確かに過去には戻れない……な。全く、食い過ぎで腹壊しても知らねえからな」

 悠馬は毒づきながら、新しく運ばれてきたパフェを一口、乱暴に口に放り込んだ。


 甘い。かつて血反吐を吐きながら突き進んでいた頃には、決して味わうことのなかった、不相応なほどの甘さがそこにはあった。


 過去からは、決して逃げられない。

 それでも、今はこの隣にいる騒がしい連中との時間を、一歩でも先へ進めようと決めていた。

お読みいただきありがとうございます!


パフェを前に目を輝かせるアリスですが、悠馬のスマホ画面を一瞬で捉えるあたり、やはり只者ではありません。

「隠し事は騎士の誓いに反する」と諭しつつ、悠馬のパフェまで完食してしまう自由奔放さ。

重苦しい過去をパフェの甘さで塗りつぶしていく3人の関係性に、ほっこりして頂ければ幸いです!


「アリスにパフェを貢ぎたい!」「3人のやり取りが大好き!」と思って頂けましたら、ぜひ下の評価欄(★)とブックマークで応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ