日常 休日と御祝
連続で投稿できました!
今回は前編です。
「ベネット、今後の休みは空けておいてくれ。俺の用事に付き合って欲しい」
「トリスさんの用事に私が付き添うんですか?」
「そうだ。昼前に出掛けて夕方には帰って来られる筈だが、半日潰れてしまうから翌日は休みにしていい。フレイヤとローザには俺から説明しておく」
「判りました……」
トリスの急な用事に付き合うことになった日の夜、ベネットはそのことをロバートに伝え謝罪した。
「ごめんね、今度のお休みは一緒に遊びに行く約束だったのに……」
「仕方がないさトリスさんの用事なら断ることもできないよ。でも次の日はお休みを貰ったのならその日に遊びに行こう」
「うん、でもロバートはお休みじゃないでしょ? どうするの?」
「ザックさんにお願いして俺も休みをずらして貰うよ。でも、どうせなら誕生日当日が良かったんだけど……」
今度の休日はベネットの誕生日だった。孤児だったベネットは正確な誕生日は判らないが、一度だけ前の雇い主であったカドルが拾った日を教えてくれた。それからその日がベネットの誕生日となり毎年ロバートが細やかなお祝いをしてくれていた。
「気にしないで。それよりも来月のロバートの誕生日は私がお祝いするから。トリスさんのおかげでお給金を貰えているから何か贈り物をするね」
「ありがとう、ベネット」
ついこの間まで過酷な環境にいた二人にとって互いの誕生日を祝うのは細やかな楽しみであり、唯一心安まる日であった。今年はこの家に引き取られ毎日楽しい生活を過ごしている。綺麗な服、暖かい寝床、美味しい食事、そして一緒に生活する人は皆優しくしてくれるので幸せな日々を過ごしている。誕生日のお祝いが一日ずれた程度など今のベネットにとっては些細なことだった。
「準備はいいか」
「はいっ!」
「では、出掛けてくる。戻るのは夕方になると思う」
「判りました」
フレイヤに見送られトリスとベネットは家をでた。外は夏らしく日で太陽の日差しが強い。ベネットはノースリーブ白いワンピースの上にボレロを着ているがそれでも日差しは強く感じた。
「今日は日差しが強いが体調は大丈夫か?」
「大丈夫です! それよりも今日は何をすればいいのですか?」
「その言葉を信じるが少しでも体調が悪かったら遠慮なく言ってくれ。それで今日は買い物に付き合って欲しい」
「買い物ですか?」
「今度取り引きする商人に贈る物だ。もっとも渡すのは商人ではなく商人の娘さんへの贈り物だ」
「娘さんですか?」
「ベネットと同じくらいの年頃らしい。正直に言うと何を贈っていいのかは判らないから年の近いベネットに選んで貰う」
「そんな大切な物を私は選べません!」
「別に大切って程の物じゃない。挨拶のようなことだ。よっぽど変な物でなければ大事にはならない。だが、せっかく贈るなら喜んで貰った方がいいからな。店はフレイヤやローザが事前に調べてくれた小物屋に行く。そこでベネットが気に入った物や欲しい物があれば教えて欲しい」
「そう言うことでした頑張って選びます」
「まあ、そんなに緊張することはないから気楽に選んでくれ」
トリスはそう言うとベネットの手を繋いだ。トリスに手を繋がれベネットは驚いたが悪い気はしなかった。むしろトリスとこうして出掛けるのが思った以上に心地よかった。いつもはフレイヤやローザ、ダグラスと買い物に出掛けるがトリスとは始めだ。多少照れくさい気持ちもあったがとても心地よかった。
「こ、こんなところ始めてですぅ」
ベネットは恐縮しながら案内された個室のテーブル席に腰を下ろした。トリスとベネットは小物屋で買い物をした後に昼食を取るためにレストランに来ていた。
「余り緊張するな。せっかく他の客の視線が気にならないように個室にしたんだ」
「は、はいぃ」
小物屋での買い物は順調だった。フレイヤ達が紹介したお店は女性向けの小物を取り扱う専門店で子供用の品物も多数揃えていた。沢山ある品物を目にしてベネットは迷ってしまったが、トリスに言われたとおり自分の気に入った物や欲しい物を何点か選びそれをトリスに伝えた。
トリスはそれら品物を購入し家に配達するように店員に伝え、最後につばの広い白い帽子を買った。赤いリボンがついているシンプルなデザインの帽子をベネットに渡した。
「トリスさん、これは?」
「今日のお駄賃だ。それに日差しも強いから日差し除けだ」
「ありがとうございます」
ベネットはトリスに買って貰った帽子を嬉しそうにかぶり、二人は昼食をとるために小物屋を出て子のレストランを訪れた。
「テーブルマナーは覚えている範囲でいいからな」
「が、頑張ります」
「頑張る必要なないんだが…… 取りあえず嫌いな物があったら店員に伝えるが何かあるか?」
「嫌いな物はないです」
「ほう、それは凄いな。野菜もちゃんと食べられるのか?」
「食べられます。フレイヤさんやローザさんが作った料理はどれも美味しいし、好き嫌いなんかしたら罰が当たります!」
「じゃあ、逆に好きな物は何だ?」
「好きな物は…… チーズやジャガイモ、それとオレンジが好きです」
「判った。じゃあ、それらを注文しよう」
トリスはそう言うと店員を呼び、ベネットの好きな物を料理に組み込むよう注文した。このお店は貴族などが使用する高級店であり、客の無理な要望にも答えてくれる。トリスの注文した内容は対応できる範囲なので店員は快く注文を受け取った。
それから暫くして料理が運ばれてきた、最初に季節の野菜を使った前菜、次に冷たいカボチャのスープ、ベネットの好きなジャガイモとチーズを使ったパスタ、白身魚のムニエル、仔牛のカツレツ、デザートにオレンジのシャーベットが出てきた。
どの料理も食材の持ち味を活かした物でとても美味しかった。ベネットは一品一品の味を確かめながら全ての料理を平らげた。
「美味しかったか?」
「はい、とっても美味しかったです! いつか自分でも作ってみたいです」
「それは凄いな。練習には付き合うぞ」
「ありがとうございます。けど今日はどうして私をここに連れてきて下さったのですか? お昼なら普通のお店でも……」
「今日はベネットの誕生日だろ。お祝いくらいはしてやるさ」
「し、知っていたんですか?」
「ああ、だからこの後ももう少し付き合って貰うぞ」
トリスはそう言うと食後の紅茶を飲みながら悪戯っ子のように微笑んだ。
「今日はありがとうございました」
「喜んで貰えたようで何よりだ。それよりも転ばないように注意しろよ」
「大丈夫です!」
もう一つの用事を済ませた後、ベネットは上機嫌で帰路についていた。昼食を食べた後にトリスに連れられ教会に行った。そこではベネットが思いもしなかった贈り物をトリスから沢山貰った。以前では考えられないような幸せなことが沢山起き、ベネットは嬉しくてずっとはしゃいでいた。年相応の無邪気な喜ぶベネットを見てトリスもどこか満足した様子だった。
「ただいま戻りました」
ベネットは家に着くとすぐにリビングに向かった。今日あったことをみんなに話したくて真っ直ぐにリビングに向かい。ベネットがリビングの扉を開けると……
「「「「「「「「お誕生日おめでとう」」」」」」」」
フレイヤ、ローザ、ダグラス、クレア、フェリス、ヴァン、ザック、ロバートがベネットを出迎えた。リビングはベネットを祝うように装飾がされており、テーブルの上には沢山のプレゼントが並んでいた。
「これは?」
「ベネットをお祝いするためにみんなが用意したんだよ」
ベネットが驚いているとロバートがベネットを部屋に入れながら説明した。トリスがベネットを連れ出したのはこの準備をベネットに知らせないためだ。ロバートもベネットが出掛けた後に知らされ一日中準備をしていた。
「トリスさんが企画したのですか?」
「立案したのはフレイヤ達だ。俺が計画したのは家から連れ出してから帰ってくるまでだ」
トリスはそう言うといつも自分が座っているソファーに腰を下ろした。自分の役目はもう終わったと言う態度で後のことは立案者に委ねた。トリスの素っ気ない態度にクレアやロバートは少々不満そうだがベネットは満足していた。今日一日トリスから沢山のプレゼンを貰い本当にいい人に雇われたとベネットは再認識した。
「じゃあ、早速誕生日パーティーを始めましょう」
フレイヤの合図で今まで生きてきた中で一番嬉しく、心に残ったベネットの誕生日パーティーが始まった。
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