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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
関わる者としての時間
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回想 剣聖と子息

 イーラ・エーデは今朝届いた実家からの手紙を見て頭を抱えた。手紙の内容が余りにも馬鹿馬鹿しいもので破りたい衝動を何とか抑えていた。


 イーラは実家と疎遠と言う訳ではない。むしろ良好な関係を気づいており、冒険者が閑散期になる冬には実家に戻り年明けまで過ごす程だ。その実家から手紙が届き何げなく読んでみるととんでもないことが書かれていた。


「懇意にしている貴族の子息達が『塔』を探索したいと言っている。できれば手助けをして欲しい」


 手紙にそのようなことが書かれ同封されたもう一枚の手紙にはその貴族の子息達の詳細や彼らの要望が書かれていた。


 この国に住む年頃の少年達が『塔』に憧れるのは至極当然のことだ。国内のどの場所からでも見える『塔』は常に国民に存在感を与え、街の酒場に現れる吟遊詩人達が『塔』に挑む冒険者達の詩を歌う。それを見聞きする子供達は次第に冒険者に憧れ夢を膨らませる。イーラもそう言った理由で冒険者になったので、貴族の子息達の気持ちは判る。だが冒険者になるのは憧れだけでは無理だ。


 貴族の子息達が武術や魔術に特化しているならこんなに悩むことはなかった。だが手紙に送付されている内容をみると素人に毛が生えた程度だ。そんな実力では低階層をまわるのがやっとだ。しかし、彼らの希望は中階層に行くことが彼らの希望だった。


「どうしろって言うんだ……」

「何をそんなに悩んでいるの?」


 イーラが悩んでいると婚約者のフレイヤが部屋に入ってきた。手には二人分のお茶が用意されフレイヤはイーラにお茶を渡した。同棲しているフレイヤはイーラが手紙を読んで悩んでいることに気がつきお茶を用意してくれたのだ。


「ありがとう」


 イーラはフレイヤからお茶を受け取り口に含んだ。お茶の苦味と微かな蜂蜜の甘さが口の中に広がり心地いい。フレイヤのお茶を飲みイーラは少しだけ落ち着きを取り戻した。


「少しは落ち着いたようね。それで何をそんなに悩んでいるの?」

「実家から懇意にしている貴族の子息達を『塔』に案内して欲しいと連絡があった」


 イーラはそう言って手紙をフレイヤに渡した。フレイヤは手紙の内容に目を通すと確かにイーラが悩んでいた理由が判った。


「これって大丈夫なの?」

「大丈夫じゃない。だから悩んでいる。正直に言えば断りたい」

「でも、断ったらお兄様達に迷惑をかかるのでしょ?」

「ああ、そうだ」


 今回の件を依頼してきた貴族達はかなり大きな力を持つ家だ。子息達には何の力もないが、依頼を断ったことで親や親族達がどう思うか判らない。下手をしたら実家と揉めてしまう可能性があった。


「なら、受けるしかないでしょ」

「そうなんだが、もし怪我をさせたらどうしようかと。いや、怪我だけならまだいい最悪命を落とすこともありうる」

「――それなら一人で考えないで他の人を頼ったら」

「他の人?」

「冒険者組合(ギルド)の人やイーラとパーティーを組んでいる人達よ。もしかしたらいい案があるかもしれないわ」

「だが、実家ことを相談するのは……」

「相談するくらいなら問題ないと思うわ。イーラだって知り合いや仲間の人が何か悩んでいたら助けたいと思うでしょ」

「確かに!」

「だから、まずは相談しましょ。一人で悩むよりずっといいから」


 フレイヤの提案にイーラは少し心が軽くなった。一人で悩むより確かにいいと思った。何でも一人で抱えてしまうのは自分の悪い癖だと反省し婚約者の助言に素直に従った。




 次の日、イーラは知り合いの冒険者組合(ギルド)職員に相談をした。職員はイーラの話を聞くと冒険者組合(ギルド)でも同じような事案は多々あるとイーラに説明した。


 冒険者組合(ギルド)には国内だけでなく外国の商人、役人、貴族、さらには王族などからも自分達の子息や令嬢が『塔』に興味を持ち相談を持ちかけられる。冒険者組合(ギルド)ではこれらの対策に初心者でも安全に『塔』を探索できるプランが存在し、職員は幾つかのプランをイーラに紹介した、


 イーラはその内容を確かめると確かに安全がある程度保障されつつ『塔』を探索できることになっていた。更にプランの中には現役の冒険者や退役した冒険者を護衛としてつけ案内させるプランもあった。護衛につける者は事前に冒険者組合(ギルド)で研修を受けており、問題も起きにくいことも職員の口から説明された。


 職員からの説明を受けイーラの悩みは大分払拭された。貴族の子息達が来るとしてもあと一ヶ月以上も先なので今のうちに冒険者組合(ギルド)に依頼することができる。更にイーラが冒険者組合(ギルド)で研修を受ける時間もまだある。職員は最後に護衛をつけるなら最低でも二人は必要だとアドバイスをし、イーラは前向きにこのプランを検討することにした。


 その日の夜、パーティーの仲間に今回の件を話した。一ヶ月後に実家の依頼をするのでその期間はパーティーの活動はできないことと準備に時間を取られることを説明した。するとパーティーの仲間からは非難の声はなく協力する声が上がった。中には冒険者組合(ギルド)の研修を行った者もおり、イーラに同行すると言ってくれる者もいた。イーラは仲間達の心遣いに感謝した。


 手紙を受け取ったときはあれだけ悩んでいたのに誰かに相談するだけで簡単に解決した。何の憂いもなく実家に承諾の手紙を送ることができ、イーラは一安心していたた。




「はじめまして。俺のことは親御さんから聞いていると思うが、一応自己紹介させて貰う。この都市で冒険者をしているイーラ・エーデだ」


 実家に承諾の手紙を送ってから一ヶ月後、例の貴族の子息達が都市を訪れた。王都からはるばる専用の馬車に乗ってこの都市に訪れた。子息達は出迎えたイーラに一礼してそれぞれ名前を名乗った。


「アインだ」

「ツヴァイです」

「――ドライと言います」


 アインは活発のある少年で一番初めに挨拶をした。赤毛の短髪で自信に溢れた顔立をしている。次に挨拶をしたツヴァイは学者を思わせるような細身の男で、青髪を肩まで伸ばし後ろでまとめている。最後に挨拶をしたドライは二人とは対象で少し遠慮しながら挨拶をした。茶髪でどこかオドオドしていた。


 対照的な三人だとイーラは思いながら三人を引き連れ近くの飲食店に連れて行った。なお、三人とも姓を名乗らないのはもめ事を警戒しているためだ。三人とも王都では有名な貴族の子息なので誘拐などに巻き込まれると面倒なので都市にいる間は姓を名乗らないことにしていた。


 飲食店に着くとイーラ達は予約してあった個室に案内され、四人分の飲み物と軽食を頼んだ。四人が席に座るとイーラは早速今回の依頼について話を始めた。


「面倒なことは省いて単刀直入に聞くが、君達は『塔』を探索したいと聞いているが間違いないね」

「「「はい」」」


 イーラの質問に三人は元気よく答えた。


「『塔』がどんなところか今更言うことはないが、安全が保障されている場所ではないことは理解して欲しい。日常的に人が怪我をし、時には死んでしまう場所だ」

「そんなことは百も承知だ。でもそれ以上にすげぇ所なんだろう」

「アイン、その言い方は抽象的過ぎるぞ。『塔』とは危険な場所だがそれに見合った利益がもたらされる場所だ。ハイリスク、ハイリターンの厳しいところだ。いい加減覚えろ」

「ふ、二人とも失礼だよそんなこと言うのは…… イーラさんがわざわざ忠告してくれているのだから」

 

 アインとツヴァイは自信があるのかイーラの忠告を余り真面目に捕らえない。二人をたしなめるドライはも言葉使いやなどを注意するが『塔』の危険性についてはきちんと認識している様子ではなかった。典型的な温室育ちの貴族だとイーラは再確認した。


 基本的に貴族は国から与えられた領地の経営をするか、与えられた役職に就き仕事をこなすしかない。自衛のために身を守る術を学ぶが、実際に野盗や魔獣と戦うことはしない。せいぜい後方で指揮をするくらいだ。実際に命の危険にさらされることは殆どなく、ましてや王都で有名な貴族ならなおさらだ。その子息や令嬢も例外ではない。だから目の前にいる三人は口でどれだけ危険だと言ってもそれを想像することができないのだ。


 予想はしていたがもう少しは危機感を持って欲しいとイーラは思った。




 イーラは飲食店の個室でこれからの予定を三人に説明した。彼らはアルカリスに滞在できるのは七日間なのでそれに合わせた予定を組んだ。今日は宿を決め、明日から『塔』の探索に行くことを告げた。『塔』は連日で挑むとかなり体力を消費してしまう。一日か二日空けるのが適切なのでそのことをアイン達に説明した。明日と三日後、五日後に探索に行くと告げた。アインとツヴァイはどこか不満そうだったがこのことに関してはイーラは譲歩するつもりはなかった。二人は渋々だがその提案を受けた。


『塔』の行き先については冒険者組合(ギルド)が用意したプランを幾つか提示した。彼らはその内容を見ながら何処に行くか目を輝かせながら決めた。プランの中には彼らが希望する中階層もあるので不満は出なかった。そしてイーラが提示したプランから今後の予定が決まった。明日は低層階の初心者向けの階層。三日後は低層階だがプランの中で一番難易度が高い階層。そして最後の五日後は中階層に行くことになった。


「判った。この予定を組んでみるが、中階層に行くときは俺の他にも冒険者が付き添うが問題はないな」

「何だよ、俺達の実力を疑っているのか!」

「アイン、落ち着きなよ。『塔』では安全を確保して挑むのが常識さ。僕らの実力ならイーラさん以外の冒険者がいても案山子と一緒さ」


 アインとツヴァイは相変わらず自信があるようで自分達の実力を疑っていなかった。ドライも不安そうにしてはいるが特に否定していない。三人のやり取りを見ているイーラはどうしてそんなにも自信が持てるのか不思議でしょうがなかった。


 エーデ家の三男として産まれたイーラはエーデ家の名に恥じぬよう剣術などの武術を幼少から教え込まれた。エーデ家の男子は家督を継がなくても最低限の武術、学問、礼儀を教育する。それは家督を継げない子供達が路頭に迷わないようにするための処置であった。


 イーラには剣術の才能があったようで父や祖父からは騎士団に入るよう勧められた。だが、イーラは騎士団に行くよりも冒険者になりたかった。王都から西に見える巨大な『塔』の中で冒険したいと幼少から思っていた。そして、今から五年前、十五歳のときに家を出て冒険者になる道を選んだ。


 今まで住んでいた王都を離れ、全く別の土地で暮らすのは不安もあったそれ以上に心が高鳴っていた。不安や期待が入り交じった複雑な感情を抱きながら冒険者になった。冒険者になりたての頃はいろいろと失敗をした。薬草の採取では間違った植物を採ったり、魔物の討伐も必要以上に傷をつけて素材の価値を落としてしまったことなど沢山の失敗をした。


 その経験があり、自らパーティーを立ち上げることもできた。今ならそれなりの経験を積みある程度の自信を持つことはできるが彼らと同じ年齢の頃は、剣術が得意なだけで常に不安と隣り合わせだった。イーラは彼らの態度に少しだけ不満と不安を持ちながら明日の予定を話し始めた。




「なんか、イーラさんて思ったのと違わないか?」

「どういうことだい? 僕は話に聞いていた通りの人物だと思ったよ。武門の家の出だけあって僕らのような年下にもちゃんと礼儀はつくしてくれていたよ」

「ツヴァイ、そうじゃねえよ。もっとこう冒険者って感じでガンガン行くと思ったんだよ。ドライはどう思った?」

「思慮深い人だと僕は思った。僕達の実力を知らないから安全を確保しつつ僕らの意向を汲んでくれているのだと思う」

「じゃあ、俺らの実力を示せばもっといろいろやらせてくれるのか?」

「それは判らないけれど七日間ていう短い間にアピールできれば可能かもね。ドライもそう思うだろ?」

「そうだね。僕達の実力を示せればきっとイーラさんも認めてくれるよ」

「判った。明日の探索でイーラさんの度肝を抜こうぜ!」

「アインにしては良い提案だ。僕は賛成だ。ドライは?」

「僕も賛成だよ」

「明日は俺達の実力を見せてやろうぜ!」

「「おうっ」」

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過去の投稿もちょくちょく修正を行っています。

設定などは変えずに誤字脱字と文章の校正を修正しています。


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