大都市アルカリス 盟約更新
投稿日を間違えてしまいました。
週初めが月曜日のカレンダーは何故あるのでしょう……
「申し訳なかった。久しぶりにうまい酒が飲めたので、はしゃいでしまった。恥ずかしいところを見られた」
アーグルはそう言って頭を下げたが手にはまだ酒瓶を持っていた。よほど好きなのか手に持っている酒瓶で五本目になる。そもそも今の謝罪をするまでに酒瓶を四本も空けていた。レプラ族は物造りに長けた民族だが、薬や酒などと言った調合に関することは不得手だった。そのため、酒は好きだが自分達では上手に作ることができずにいた。
レプラ族が酒に気を取られている間に、トリスは自分とウォールドのことを朔夜達に説明した。クレア達に話した内容と同じことを伝え、更に生前ウォールドから魔術だけでなく様々なことを学んだことも話した。その話の中には当然『塔』についてのことも含まれていた。
「その話が本当ならどうして冒険者組合に報告しないのですか?」
話を聞いたエルは当然の疑問をトリスにぶつけた。
「冒険者組合が清廉潔白ならそうするが、組合は信用できない。もちろん一般の職員ではなく上層部のことだ」
「どう言うことですか?」
「ウォールドを陥れたのが冒険者組合の可能性がある」
「「「「「「!?」」」」」」
トリスの発言に皆が驚いた。ウォールドが姿を消した理由に冒険者組合が絡んでいるとは夢にも思わなかった。
「だ、大事件じゃないですか!」
「ああ、だから他言無用で頼む。下手に口を滑らせると殺されるかもしれないぞ」
エルの顔色が一気に青ざめた。エルだけではなく話を聞いていたクレアや朔夜、ここにいる全員の顔色が一気に青ざめた。冒険者にとって冒険者組合は必要な組織だ。そして冒険者組合には冒険者を監視する調査員がいるとも言われている。
噂話でしかないが調査員は素行の悪い冒険者や犯罪まがいをする冒険者を取り締まっていると言われている。彼らの存在を冒険者組合は否定しているが、それを信じる冒険者は少ない。現に急に冒険者を辞める者や行方不明になる冒険者はいるのだから。もっともその大半は自己都合や事故が原因なのだが例外はどうしてもあった。
クレア達は今まで通りしていれば問題はない。エル達も同じように他人に話さなければ問題はないのだが、少し釘を刺す意味で冒険者組合の内部事情を話した。だが、トリスが思った以上に皆が不安になってしまい少し脅しすぎたと反省した。
「今は信用できる人と調査をしているから安心しろ。普通に今まで通りに生活していれば危害はない」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、本当だ。それよりここにいる全員を信用しているので頼みたいことがある。俺の……いや、ウォールドの代わりにレプラ族に酒を届けて欲しい」
エルをなだめつつトリスは本来の目的を話した。ウォールドはレプラ族と友好を結ぶために酒を定期的に届けることを約束していた。しかし、『迷宮』から脱出できなかったウォールドはその約束を最後まで守ることができなかった。
「それだけですか?」
「それだけだが、ウォールドが叶えることができなかった約束だ。酒を買う金は用意するからよろしく頼む」
簡単なトリスのお願いにフェリスは首を傾げたが、尊敬する大伯父が果たせなかった約束を引き継ぎたい思い承諾することにした。
「引き受けます。でも、お酒を運ぶ方法が……」
大量の酒を運ぶとなると魔導小物入れ若しくは魔導鞄が必要になる。トリスと朔夜以外はまだ手に入れていない代物だ。また、この魔導小物入れと魔導鞄はD階級からC階級への昇級試験の一つでもあった。
「そのことについては此方で用意しよう」
アーグルがいつの間にかトリス達の傍に来ていた。
「申し訳なかった。久しぶりにうまい酒が飲めたので、はしゃいでしまった。恥ずかしいところを見られた」
「いえ、喜んでいただいて良かった。それよりも其方で運ぶ手段化を用意していただけると言うことは……」
「ここにいる皆の分を用意しよう」
「「「「「「!?」」」」」」
アーグルのとんでもない発言に皆が驚いた。
「マ、魔導鞄を頂けるのですか?」
「でも、あれは詐欺鳥からドロップするアイテムだよね」
エルとナルはアーグルの申し出が信じられなかった。まさか貴重な道具を譲ってもらえるとは思わなかった。
「正確に言えば違う。儂らが作った物をアイツらが奪いに来るのだ。魔導鞄を保管している保管庫にアイツらは勝手に入って持ち去っていく」
アーグルは忌ま忌ましそうに詐欺鳥が魔導鞄を奪いにくることを話した。
「魔導鞄を持っていないのは六人か。朔夜殿は既に持っているようだが、随分と使い込まれているな」
「これは両親から譲り受けたものさ。新しいのをくれると言うなら貰うけれどこいつを手放す気にはならないね」
朔夜はそう言うと大事に魔導鞄を撫でるとアーデルが声を掛けた。
「スマナイガ、ソノ鞄ヲ見セテレク」
「?」
アーデルの言葉に戸惑いつつ朔夜は魔導鞄をアーデルに渡した。
「ヤハリ、コレハ俺ガ拵エタ魔導鞄ダ」
「本当かい?」
「ココ二俺ノ印ガアル。糞鶏二取ラレタト思ッテイタガ冒険者ニ使ワレテイタノダナ。アリガトウ、大切ニ使ッテクレテ。ソシテコレカラモ大事ニ使ッテ欲シイ」
アーデルはお礼をいいながら魔導鞄を朔夜に返した。朔夜は照れくさそうに魔導鞄を受け取った。
「朔夜、ヨケレバオマエノ服ヲ作ラセテクレ。大事ニ魔導鞄ヲ使ッテクレテイタ礼ダ」
「服をかい?」
「アーデルは里でも一二を争う仕立屋だ。きっといい服を作る。しかも我々レプラ族が作る物は魔術的な加護が施される。防御力なら鎧にも負けないと思うが……」
「鉄ノ鎧ト比較サレルノハ不愉快ダ。俺ガ作ル服ハ綿ノヨウニ軽ク鉄ヨリモ固イ。寒サヤ暑サニモ耐性ガアル」
アーデルは胸を張りながら答えた。よほど服作りに自身があるようだ。
「ソレニ朔夜ガ着テイル服ニモ興味ガアル。見タコトノナイ作リダ」
朔夜は上半身に革鎧を装備している。動き易さを重視するために胸と腹のみのを守るように設計され、その革鎧下に着物と呼ばれる服を着ている。朔夜の父親の故郷の服で、朔夜は動きやすいように仕立て直している。初めて見る着物に洋裁師のアーデルは興味を引かれていた。
「同じ作りの服を予備で持っているよ。それでよければ譲よ」
「有リ難イ。ナラ、コチラモオ礼ニ最高ノ服ヲ作ロウ。朔夜ガ気ニ入ッタ柄ノ生地デ作ルカラ工房マデ来テクレ」
「おい、ちょっと待って」
朔夜の抵抗の声もむなしく、アーデルは朔夜の手を掴み自分の工房に連れて行った。アーグルの横入りで話がそれてしまったのでアーグルは話を戻した。
「話が大分逸れてしまったな。そちらの子らに魔導鞄を渡すのだったな。どんな物がいい?」
「魔導小物入れ若しくは魔導鞄のどちらかを選べと言うことですか?」
「フェリオ殿、それは違う。説明が足りなかったな。『外界の人』が持っている物は出来損ないの物だ。詐欺鳥に盗られた物の殆どは出来損ないの品だ」
「「「「「「!?」」」」」」」
「魔導小物入れは小型化をする際に収納容量が足りない不良品。魔導鞄は最低基準に満たしているが制作者が気に入らなかった物だ。先ほどのアーグルの魔導鞄は革の装丁が少し甘かった」
「そうなのですか?」
「魔導小物入れや魔導鞄の作成はレプラ族の職人にとって成人の儀式といってよい。どの職人の道を歩むにしろ一人前になるために一度は作る物だ」
「じゃあ、詐欺鳥が持っている物は失敗作なのですか?」
「そうじゃ、粗悪品や不良品なども混ざっている。詐欺鳥には貴重な品は盗られないようにしている。もっとも失敗作でも盗られたら悔しいことには変わりはないが……」
アーグルはそう言うと保管庫に案内すると言いトリス達を引き連れて館を出た。客人用の館から少し離れた場所に保管庫があり、アーグルが保管庫を開けるとそこには数百の魔導小物入れや魔導鞄が保管されていた。
「ここに保管されているのは儂が作った物だ。どれでも好きな物を持って行くといい」
「よろしいのですか?」
「構わない。道具とは飾る物ではなく使う物だ。それに盟約を引き継いでくれるなら渡さなければならない。細かい機能については品物の横にある紙に書かれている」
アーグルの言葉に六人はお礼を言い、早速保管庫の中に入った。男性陣は機能面や収納容量を軸に、女性陣は形や色などのデザイン面を軸に品物を選び始めた。六人は手に取って見たり、紙に書いてあった内容をトリスに読んで貰ったり、楽しそうに品を選んだ。暫くしてそれぞれの選定が終わった。
フェリスが選んだ物は魔術を保管できる機能が追加された魔導鞄だ。通常の魔導鞄にサイドポケットがついて、そこに魔術五つ保管できる優れものだ。試作段階のために何回か使った後にメンテナンスが必要になるが、定期的にレプラ族の里に訪れる予定なのでその問題は解決している。
ヴァンが選んだ物は冷蔵機能がついた魔導鞄だ。趣味の狩りや魚釣りで仕留めた獲物や釣った魚を保存することを考えてこれを選んだ。また、冷蔵機能を応用することで物体を凍らせることもできるので、水を簡単に氷にすることができる。
ジョセフが選んだ物は魔導鞄ではなく、魔導背嚢だ。通常の物よりも大きいため背中に担ぐが、その分容量が魔導鞄よりも多く入る代物だ。トリスの持っている魔導鞄よりも多く収納することができる。討伐した魔物や採取した薬草などを余す事無く持って帰るためにこれを選んだ。
クレア、エル、ナルはお揃いの物を選んだ。機能よりもデザインを重視したもので、生地に金の糸で刺繍された魔導小物入れだ。収納容量は魔導鞄と変わらず小型化に成功した物だ。見た一見同じように見えたが紫の生地が花、海、空と別れ色も若干違っていた。クレアが選んだのは銀紫花の柄、エルが選んだのは青紫海の柄、ナルが選んだのは赤紫空の柄だ。
六人とも自分の気に入った物が手に入ったので選び終えた後にアーグルに再度お礼を言った。
「さて、では最後にトリス殿の分だな。これをお渡しする」
アーグルそう言うと紙と化粧品の道具のコンパクトに似た物をトリスに渡した。トリスは紙に目を通しコンパクトを開けてみた。コンパクトの中には数字の文字盤と複数の矢印の形をした棒が組み込まれていた。矢印の棒の一つは「チック、チック」と音を立てながら動いていた。
「何これ? おもちゃ?」
コンパクトを覗き込んだクレアがコンパクトを見た感想を述べた。トリスは苦笑しながらコンパクトのことを説明した。
「これは時計だ。時刻を指示する機器のことだ。数字の文字盤と矢印に似た棒で今の時刻を示している。これがあれば鐘の音に頼らず正確な時刻が判る。俺も話には聞いていたが実物は初めて見た」
「「「「「「えっ!?」」」」」」
街で時刻を伝えるのは鐘が使われている。この鐘は日時計を元に鳴らされ、住民達が時間を知るには鐘の音を聞くか、自分で太陽の位置から時間を計算するしか手立てはなかった。手のひらに収まる大きさの物で時間が判るのは驚きでしかなかった。
「懐中時計と儂らは名付けた。フォールドが『塔』の中でも時刻を正確に知りたいと言い、儂らが作ったのじゃ。懐中時計はまだ試作品だが、他にも置時計や掛時計なども作った。それらは完成したので紙にその設計図が書いてある」
アーグルは簡単な物を作ったように言うがこれは画期的な物だった。時間を簡単に確認できる道具があればどれだけの人が買いと求めるか想像がつかない。
この技術を独占できれば一生どころか、七代先の子孫まで遊んで暮らせるだけの巨額の富が手に入る。トリス達は改めてレプラ族の物造りの凄さを目の当たりにした。
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