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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
拘う者としての時間
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大都市アルカリス 日々平穏

今回でこの章は終わりです。

「はぁぁぁぁぁっ!!」

「うぉぉぉぉぉっ!!」

「せりゃぁぁぁっ!!」


 クレア、ジョセフ、エルがそれぞれの武器を使いトリスに攻撃を仕掛けた。クレアが剣で斬りつけ、ジョセフが斧で叩きふせ、エルが拳で殴りつけた。トリスは自身に迫りくる攻撃を全て受け止めた。クレアの剣は左手で弾き、ジョセフの斧は右腕で受け止め、エルの拳を左膝で受け止めた。


「「「くっ!」」」


 攻撃が無効かされた三人は即座にトリスから距離を取った。体制を整え直そうとするがトリスはすぐに間合いを詰めた。クレア、ジョセフ、エルは攻撃を塞がれ、反撃されそうになったが慌てることなく散開した。


(いい判断だ)


 三人の対応にトリスは及第点をだした。欲を言えば距離を取るときに飛び道具などで牽制することもできればよい。今後の課題と考えて、トリスはクレアを追撃した。


 標的になったクレアを一瞬驚いた顔をしたがすぐに表情を引き締めた。追撃してきたトリスの剣を自身の剣で受け止めた。その後、トリスが数度剣戟を繰り出したが、クリアは全て受け止めた。


「せいっ!」


 トリスの剣戟を最後まで受け止めたクレアは反撃の一太刀を繰り出した。トリスはその一太刀をギリギリで見切り、無防備の状態になったクレアに胸元に突きを繰り出した。今までならここで終わったいたが、クレアはトリスの突きを読んでおり、不適な笑みを浮かべて上半身を屈めた。


「せりゃゃぁっ!」


 クレアの頭上をヴァンの槍が通過した。ヴァンの姿はクレアが隠していたのでトリスには完全な死角からの攻撃だ。不意を突かれたトリスはヴァンの一撃目の突きを何とか躱したが、ヴァンは攻撃の手を緩めなかった。


 雨のような槍の突きをヴァンが繰り出し、トリスはそれらを剣で受け止めた。全ての攻撃をトリスに受け止められるが、ヴァンは決して諦めずに突きを繰り出した。そして、最後の一閃がトリスの剣を搔い潜りトリスの頬をかすめた。


 トリスの頬から赤い血が流れた。ヴァンは自分の槍が届いたことに喜びの表情を浮かべるが、それはすぐに苦悶の表情に変わった。トリスの拳がヴァンの腹にのめり込んだ。


「かはぁっ」


 トリスに傷を負わせたことでヴァンの気が緩み、トリスはその隙を見逃さず拳を繰り出していた。トリスはそのまま拳の連撃をヴァンに浴びせた。一瞬の出来事だったが十数回殴られたヴァンはその場に膝をつき戦線離脱となった。


 ヴァンが戦線離脱になったことで残りはクレア、ジョセフ、エルの三人になった。三人は顔を見合わせてヴァンのよう個別撃破されないように再度三人でトリスに挑んだ。自身に挑んでくる三人を相手にするためトリスは剣を捨て今度は素手で相手する。


 トリスはクレア達と稽古中は自分の戦闘スタイルをよく変える。剣や拳を使うときもあれば、魔術や飛び道具を主体にするときもある。クレア達に様々な敵と戦えるようにするための配慮だ。


 剣を捨てたトリスはクレア達の攻撃を受けることはせず、躱すか、捌くのを主体に三人の相手をした。




「クレアはフェイントの技が多すぎる。数が多いと体力の枯渇が早まるから注意すること。ジョセフは逆に実直な攻撃が多すぎる。ジョセフは体力があるから多少フェイントが多くても問題ない」


 三人でトリスに挑んだが最後はトリスに殴り倒されヴァンと同じに道を辿り稽古は終了となった。地面に倒れ伏すクレア達にトリスは各自の欠点を指摘した。


「エルは格闘に戦闘スタイルを変えたばかりで戦い方が確立していないのは判るがもっと足技を増やせ。足は手よりも力が強い。有効打を与えるには最適だ。ヴァンの連続突きはよかったし、クレアとの連携も完璧だった。だが、戦闘中に油断をするな。せっかくの好機を潰すことになった」


 四人の戦い方に評価した後に今度はフェリスとナルについての評価を始めた。フェリスとナルの稽古は四人の前に行っていた。四人との稽古は基本トリスは受けに回る。しかし、魔術師である二人の稽古はトリスは攻めを主体にする。フェリスとナルは攻めてくるトリスの攻撃を対応しながら魔術を繰り出すのが稽古の主旨だ。


 魔術は基本後衛だが、だからと防御は疎かにしていいとは言えない。前衛が対応できなかったときの対応や撤退するときなどは必要になるからだ。


 撤退するときは戦士が殿を行うよりも魔術師が殿を行った方が生存確立率が上がる。炎の壁(ファイヤーウォール)風の壁(ウィンドウォール)などは無論、光や音を駆使した魔術で敵を牽制した方が効率はずっといい。だから魔術師は戦闘中に戦闘不能になってはいけない。トリスは最初にフェリスとナルにそのことを教え、今まで稽古を行っていた。


「フェリスは防御しながら魔術を使うのは大分良くなったが防御自体がまだ稚拙だ。ナルは防御面は実践でも通用するが魔術との併用に難がある」


 トリスはそう言って六人に評価を下し、今度はダグラスと朔夜を相手に模擬戦を始めた。模擬戦はトリスを相手にダグラスと朔夜が仕掛ける形式で、しかも身体強化の魔術を使用する。ダグラスと朔夜は六人とは違い自力が元々あり、身体強化の魔術を短期間で実戦までに使えるほど習得していた。




 三人の模擬戦を横目に六人は休憩しながら汗で濡れた服を着替え始めた。年頃の男女が同じ場所で着替えるのは問題があると思われるがこれもトリスの指示だった。今後六人はパーティーを組んで『塔』に挑むことが増えてくる。そうなると怪我を負ったときなど緊急時に相手の肌を見ることになる。一刻を争うときに羞恥心や遠慮などは邪魔になるので今のうちにそれらの感情を抑える訓練でもあった。


 最初の頃は羞恥心が大きく、着替えることができなかった六人だが今は多少の羞恥心は感じるが着替えることに抵抗はなかった。


「はい、お疲れ様です。果実水です」


 六人が着替えを終えるとベネットが果実水を手渡してくれた。訓練中はベネットが近くで待機し、稽古の途中や稽古の終了後には水分を用意してくれるのがお決まりになっていた。


 六人はジャンルから果実水を受け取ると早速飲み始めた。冷えた水には細かくきざんだ柑橘の果物と少量の蜂蜜が混ぜてあり、運動した後にはもってこいの飲み物だ。六人は果実水を受け取ると一気に飲み終えた。


「おかわりも用意してあります。それと塩漬けのお野菜もあるので食べてください」


 ベネットが指さしたところにはテーブルが用意され、テーブルの上には果実水のおかわりと塩漬けされた野菜が用意してあった。エルとナルは用意してくれたベネットにお礼を言った。


「いつも用意してくれてありがとうね」

「一人で用意するのは大変だったでしょう」

「大丈夫です。これもお仕事です。こんな暑い日に稽古する皆さんに比べれば大したことはありません」


 今日は日差しが一段と強い日だった。季節は夏に入ったばかりだが、今日は真夏のように暑い。立っているだけでも汗が流れでてしまう。ベネットも日差し除けの麦わら帽子を被っていたが、それでも頭の上が熱く感じるほど日差しが強い一日だ。


「ベネットもこっちにきて果実水を飲もう」


 フェリスがベネットを気遣い彼女の分の果実水をコップに注ぎ手招きする。ベネットもずっと外にいたので喉が渇いていた。ベネットはフェリスの気遣いにお礼を言いながらエル達とともにフェリスの元に向かった。




「あの人にいつか勝てるのか?」

「数年間は無理だね。でも同じ人間だからいつかは辿り着けるはずだよ」


 ジョセフとヴァンは塩漬けの野菜を囓りながらトリス達の模擬戦を観察していた。模擬戦ではトリスがダグラスと朔夜の攻撃を受けきっていた。ダグラスと朔夜は常時身体強化の魔術を使っているのでその威力は通常攻撃よりも遙かに威力がある。それなのにトリスは平然と受けていた。


 トリスも身体強化の魔術を使ったいるので攻撃を受けきることはできる。だが身体強化の魔術の使い方がダグラスと朔夜とは違っていた。ダグラスと朔夜は身体強化の魔術を全身に施しながら戦っているのに対して、トリスは攻撃を受ける手や足の一部を一時的に強化して必要最低限しか使っていない。


 個人に差はあるが人間が一日に使える魔力量は決まっている。魔力は体内に取り込んだ魔素を力に変換し使用できる力のことだ。通常は大気中にある魔素を取り込むので体力と同じで休めば回復はするし、魔力を供給できる回復薬(ポーション)も存在する。だが、魔力を無駄に使わず節約できれば、その分長く使用することができ、回復薬(ポーション)に頼る必要もない。そして、トリスはその節約の仕方が完璧だった。


 身体強化の魔術は普通の魔術とは違い使用中は常に魔力消費する。体内で使用するため魔力は余り消費しないが、戦闘中はずっと使用するので戦闘が長くなればその分消費量が多くなる。それを回避するためにトリスは魔力を制御している。ダグラスと朔夜という一流の猛者の攻撃を受けながらトリスはそれをやってのけていた。


「朔夜さんの動きっていつ見ても舞みたい」

「技ってあんなふうに繰り出すこともできるんだ」

「お二人は第二段階の『制御』を使いこなしていますね」

「ちょっと悔しいです」


 クレアは朔夜の動きを賞賛し、エルはダグラスの技を見て学び、フェリスとナルは自分達よりも早く二人が身体強化を取得したことを嫉妬した。


 六人の感想はそれぞれ違うが一流の猛者の動きを見て今の自分達と比較し目指すべきところを見出そうとしていた。




「なんで勝てないのさ!」


 模擬戦が終わったと同時に朔夜は大声で叫んだ。ダグラスと二人でトリスに挑んだのにトリスには勝てなかった。一緒に戦ったダグラスも声には出していないが悔しそうに顔を歪めていた。


「大声を出して騒ぐ前に汗を拭け。身体を冷やして風邪を引いたら身体が鈍るぞ」


 トリスはタオルを朔夜とダグラスに渡した。トリスは炎天下の中、クレア達の稽古とダグラス達との模擬戦をしていたのにはまだ体力に余裕があった。下着のシャツは汗で濡れたので脱ぎ捨て、タオルで上半身の汗を拭いているが疲れて様子はなかった。


 一方ダグラスと朔夜は体力と魔力が限界に近く正直汗を拭くのも億劫だった。だがトリスに言われた通り風邪を引くわけにはいかないので受け取ったタオルで汗を拭き始めた。


「トリスさん、ダグラスさん、朔夜さん、お疲れ様です。果実水を持って来ました」


 模擬戦が終わったのを見計らいベネットがトリス達の分の果実水を持ってきた。トリス達はベネットにお礼を言い果実水を飲んだ。果実と酸味と蜂蜜の甘さが疲れた身体を癒やしてくれる。


「――美味しいね。こんな暑い日にピッタリの飲み物だね」

「これはローザの故郷でよく作られる飲み物だ。暑い日に飲むといつもより美味しく感じるから夏になるとローザが必ず作る」


 朔夜は始めて飲む果実水の感想をいい、ダグラスは妻が作った果実水を嬉しそうに飲みながら説明した。


「ローザは本当にいろいろな料理を知っているね。今度ローザに料理を習ってみようかな。料理もできるようになりたいし」

「この間作ってくれた鍋は美味しかったよ」

「あれは誰でも作れるよ。だし汁は骨を煮込んだだけで、具材は切るだけ。元々は漁師が浜辺で作っていた料理だから簡単なのさ」


 ダグラスとローザは果実水を飲みながらそんな他愛のない話をしていた。少し離れたテーブルにはクレア達六人が同じように何かの話をして盛り上がっている。トリスは六人を見ながら先ほどの稽古を思い出していた。まだまだ拙いところはあるが大分冒険者として成長してきている。


 クレアとフェリスは冒険者になって数ヶ月しか経っていない。しかし、この都市にきてからの二人の成長は目覚ましいものだ。クレアは剣術の才能が開花し始めかなりの腕前になっている。玄人でもクレアには苦戦するだろう。フェリスは魔術の制御に長けているようで、最近は複数の魔術を同時に扱えるようになってきていた。二人とも剣聖と賢者の血筋だけあって才能をきちんと受け継いでいるようだ。本人達の努力も当然あるがそれ以上にこの都市の空気が二人を成長させていた。


 ヴァンとジョセフはそれぞれの武器の使い方を扱いこなしつつあった。ヴァンは先ほどの稽古で見せた通り突きの練度が飛躍的に伸びている。”突き”だけでなく”受け”、”払い”の基本槍術がもっと伸びれば父親を超えることは夢ではない。ジョセフは体幹だ大分改善されており、自慢の斧を自由自在に操れるようになってきている。あの体格から繰り出される一撃はトリスでも脅威を感じほどであった。元々根が真面目なので先ほどのトリスのアドバイスもすぐに受け入れ成長の糧にするだろう。


 そして、この一ヶ月で一番伸びてきているのがエルとナルだ。エルは武器を剣から拳に変えたことで正解だったのか実力がかなり上がった。ダグラスと言う手本と彼から師事で剣を使っていた頃よりも格段に戦力が上がっていた。これで身体強化の魔術を覚えれば頼りになる前衛になる。そして、相方のナルの魔術もかなり腕前になってきている。トリスが賢者の弟子と知り、ウォールドの使っていた魔術を聞いただけで幾つかの魔術を再現するようになった。実戦で使うことはまだできないが今後の努力次第ではそれも可能になる。


 六人の成長にトリスは満足していた。


 もう少しすれば彼らだけでレプラ族の里に行くことができるようになる。今はまだ、トリスか朔夜の引率が必要だがそれもすぐに必要なくなる。あれから何度かレプラ族の里に酒を届けに行った。最初の出会いから既に一月が経過し、朔夜の服がそろそろ完成するだろう。いつまでも朔夜に頼るわけにはいかないのでトリスとしては今後のことを考えるとクレア達に引き継いで欲しかった。


 そんなことを考えながらトリスは穏やかな日々を過ごしていた。


「お野菜の追加と果物を持って来ました」

「果物は西瓜や桃などを用意したよ。冷たく冷やしてあるから食べ過ぎには注意しなさい」


 フレイヤとローザが野菜と果物を持ってきてくれた。塩漬けされた野菜と冷たく冷やされた果物は暑い日差しの中では最高のご馳走だ。成長期の子供達はフレイヤとローザの声を聞きつけ喜びの声をあげながら彼女達に群がった。何でもない他愛のない一日がこうしって過ぎていった。


次から新章になります。


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過去の投稿もちょくちょく修正を行っています。

設定などは変えずに誤字脱字と文章の校正を修正しています。


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