大都市アルカリス 物語追行
月曜日に休みを取り四連休していました。その為、投稿をずらさせて頂きました。
エトヴィンの小人物語の中にこんな一説がある。賢者ウォールドは小人と遭遇し彼らの里に招かれた。その際にウォールドは空を飛ぶ道具で里に向かった。と書かれている。
これを読んだ読者はエトヴィンが物語にユーモアを盛り込んだ脚色だと思いこんでいた。現代の魔術では宙に浮かぶことも空を飛ぶこともできないとされていたから。
「これは夢?」
「現実です。受け入れましょう」
ナルの呟きにフェリスは驚きながら答えた。彼らが今いるのは絨毯の上。しかし、その絨毯は浮いていた。人の高さくらいまで絨毯は浮き上がり、フェリオ達を運びながら小人の里に向かっていた。
姿を消したアデールが再度表れると大きな絨毯を持ていた。アデールはトリス達の目の前で絨毯を広げるとここに乗るように言った。言われた通りに全員が絨毯に乗り座ると、不思議なことに絨毯が浮かび上がり移動し始めた。
「コレハ我々ガ大人数デ移動スルトキニ使う絨毯ダ。落チナイヨウ気ヲツケロ」
アデールは絨毯を操りながら自慢げに話をした。絨毯は馬車と同じくらいの速度で暗闇の中、迷わず進んでいた。アデールは灯りなどは一切持っていない。どうして迷わず進むことができるのか皆が疑問に思っているとアーデルが昔を懐かしむように答えた。
「うぉーるどモ最初ハ驚イテイタ。オマエタチ、『外界ノ人』ハ闇ノ中デハ見エナイヨウダガ我ラハ見エル。安心シテ座ッテイロ」
アデールはそう言うと今度は自分のことを話を始めた。アデールはレプラ族と言う民で『塔』の中で生活していると語った。昼間は里の中で過ごし、夜は里の外に出歩き、アデールもいつもの日課である散歩をしていた。散歩をしている途中で酒の匂いに気がつきそれを辿ってきたと説明した。
酒の匂いはウォールドが来たとき合図なので、 まさかとは思い酒の匂いがする場所に来てみた。だがそこにウォールドの姿はなく、代わりに大勢の人間がいて驚いた。そして、同時に落胆した。久しぶりにウォールドに会えると思ったのにウォールドの姿がなかったからだ。
「うぉーるどガ姿ヲ見セナクナッテ二十以上ノ季節ガ巡ッタ。我々ニトッテハ短イ時間ダガ『外界ノ人』ニハ違ウト聞イテイル」
アーデルが言う『外界ノ人』の人とは『塔』の外で生きる人を指している。二十年以上の月日は確かに人の営みでは長く、赤ん坊が成長し大人になるだけの時間で、大人であれば亡くなってもおかしくない時間でもある。
「ソノママ立チ去ロウトモ思ッタガ、モシカシタラうぉーるどノ縁者カト思イ声ヲカケタ」
「どうして私達の言葉で話しかけてこなかったのですか?」
「関係ノナイ者カモシレナイト思ッタ。ソレニ、うぉーるどノ縁者ナラ多少ハ話セルトモ思ッタ。ソレハ正解ダッタヨウダ。チャント我々ノ言葉ヲ弟子ニ伝エテイタ」
「賢者ウォールドの弟子……」
フェリオの疑問に答えながら言ったアーデルの言葉にトリスを除く皆が反応した。事情を知らなかった朔夜達にとっては驚きとともに納得のいくことでもあった。剣士のトリスがどうして魔術に精通し、更に『塔』の内情に詳しい理由がようやく判った。
賢者ウォールドの弟子であれば魔術に精通し、『塔』の内情に詳しいことも理解できる。賢者ウォールドは生前の活動は冒険者組合に記録されているがそれはほんの一部だ。冒険者組合の記録は冒険者組合からウォールドに依頼したこととウォールドが稀に報告する内容しかない。日常的に『塔』を探索していたウォールドの行動力と比較するとその内容は余りにも少ない。
そのウォールドの教えを受けているのであればトリスの実力と博識は納得のいくものであった。だが逆に疑問も残る。トリスは何時から師事を受けていたのか。トリスの年齢とウォールドの亡くなった時期を考えると余り長くは一緒にいたとは思えない。それに一番気になるのは弟子を取らないとされている賢者ウォールドがトリスを弟子にした理由も気になった。
事情をある程度知っているクレア達とは違い、先ほど知った朔夜達にとってトリスはますます謎の人物になっていた。
「着イタ。絨毯カラ降リテクレ」
朔夜達がそんな疑問を考えているといつの間にか目的地に着いた。周囲を警戒しながら絨毯をおりるとそこは何もない草原だった。暗くて何も見えないが周囲に岩や丘、森などがあるようには思えず、ましてや里などはなかった。
「今カラ扉ヲ開アケル。少シ待ッテイロ」
アーデルはそう言うと呪文らしき言葉を唱え始めた。アーデル達が使う言葉で紡がれた呪文はどこか詩のような響きで、最後の力ある言葉とともに地面に光で描かれた魔術陣が出現した。
「コノ上ニ立テ」
アーデルの言葉に従いトリス達は言われた通り魔術陣の上に立った。全員が乗ると魔術陣は徐々に光を強めていきトリス達は光に包まれた。
光の強いさに目を閉じたトリス達だったが、光が収まるのを感じ、目を開けてみると眼前に街が広がっていた。マス目上に区画整理された綺麗な区画には家や施設が建ち並び街全体が芸術品のようになっていた。
「よくぞ参られた。ウォールドの縁ある者達よ。私ははレプラ族の長であるアーグルだ。そこにいるアーデルの父親でもある」
トリス達が街並みの美しさと見とれていると一人の小人がトリス達に近づきながら流暢な言葉で出迎えた。トリスはすぐに姿勢を正し感謝の礼を返した。
「長自らの足を運んでいただきありがとうございます。私はウォールドの教えを受けた者です。今日はウォールドの代わりに盟約を果たしに来ました」
「盟約のことまで知っておるのか? ウォールドはあなたのことを信頼していたのだな」
「強縮です」
「ここでの立ち話するのも無礼じゃな。客人用の館に案内しよう。そこのお連れの方も来てください」
アーグルはそう言うと持っていた杖を二、三回振った。アーグルが杖を振るうと杖の先端に魔素が集まり、集まった魔素は道の横に設置されていた燈籠に放たれた。魔素の合図を受けた燈篭は光を放ち、他に設置されていた燈篭までも光り始め道を照らした。
「凄い!」
フェリオは思わず声を出した。アーグルは持っていた杖で近く燈籠に合図を送っただけだ。合図を受け取った燈籠から他の燈籠へ合図が伝わり、瞬く間にほかの燈籠明かりがついた。一見単純な魔術のように思えるが、燈籠に施されている魔術は高度な技術でできていた。
同じ仕組みを作る試みがフェリオが通っていた学園でも行われた。しかし、この試みは失敗に終わった。この仕組みは燈篭一つ一つに魔術を受信と送信を行う術式を作成するのだが、術式に斑があると燈篭は正しく機能しない。設置する燈篭を全て均一に作る技術が必要なのだ。
そして、日常生活に使うのであれば定期的に整備する必要もある。破損や故障した燈篭を整備し、他の燈篭と連動するようにする技術が必要なのだ。均一に燈篭を製造する技術。破損や故障を修復する技術。この二つの技術がなければ実用はできないとされていた。その完成形が目の前にあった。
フェリオが感動して燈篭を眺めているアーグルは懐かしそうに顔をしてフェリオに声を掛けた。
「君がウォールドの血縁者か?」
「は、はい。フェリオと言います。……僕が大伯父さんの血縁者だとどうして判りました?」
「魔術を見るときの眼差しがフォールドにそっくりじゃ。フォールドも未知の物に対時したときはお主のように目を輝かせていた」
「……祖母にも同じことをよく言われました」
「シェリー殿か。よくウォールドが自慢していた。理解のある兄と優しい妹がいると。懐かしいなぁ」
アーグルはそう言うと館に向かい始めた。燈篭の光の中を歩くその背中はとても寂しそうだとフェリオは思った。
アーグルに案内された館は普通の人間に合わせて作られた建物だった。扉の大きさやテーブル、椅子の大きさなどはトリス達にはちょうど良いがレプラ族には大きすぎており、アーグルが言った通り『外界の人』に合わせた館だった。
トリス達は用意された円卓のテーブルに腰掛け、アーグルとアデールはトリス達が座った椅子よりも足の長い椅子に腰かけた。
「さて、お互いにいろいろと聞きたいことがあると思うが一番初めはトリス殿に話してもらいたい」
アーグルの言葉に誰も異議を言わない。アーグルとアーデルはレプラ族とウォールドとの間に交わされた盟約を知るトリスのことが一番気になっていた。トリスとウォールドの関係を知っているクレア、フェリオ、ヴァンは勿論、事情を全く知らない朔夜、エル、ナル、ジョセフもそのことが一番気になっていた。
皆の視線が集まる中トリスは賢者ウォールドと自分の関係を話し始めた。
今から二十年と少し前、冒険者だったトリスは『塔』で死にかけた。正確に言えば死んでもおかしくない状況だったが、友人から貰ったペンダントのおかげで一命を取り留めた。ただ、一命を取り留めたトリスだったが『塔』の中ではない別の場所にたどり着いてしまった。
そこは『迷宮』と呼ばれる脱出が困難な場所だった。『迷宮』にも魔物は存在しトリス一人では決して生き延びることはできなかった。幸運だったことにトリスよりも先に先客がおり、その人物こそ失踪とされていた賢者ウォールドだった。
ウォールドもトリスと同じように『塔』から『迷宮』にたどり着き、ウォールドはトリスが来るまでの五年間一人で生き延びていた。ウォールドと出会ったトリスは『迷宮』を生きるためにウォールドからいろいろなことを学び、ウォールドも『迷宮』を脱出するためにトリスに自分の知識を授けた。二人は『迷宮』から脱出するために互いに協力し合い二十年ものときを一緒に過ごした。
「二十年間、師であるウォールドとともに過ごしましたが、一年と少し前にウォールドが亡くなりました。そのときにこの魔導鞄を受け取りました」
トリスは形見である魔導鞄をアーグルに差し出した。この魔導鞄は元々レプラ族の宝でウォールドとレプラ族の友好の印としてウォールドに送られた。アーグルは魔導鞄を手に取りながら苦笑しながら顔を緩めた。
「簡単に死ぬような奴だとは思っていなかったが、死ぬまで冒険をしていたとは彼奴らしい」
「……あなた方、レプラ族に関しても話を聞きました。『迷宮』から脱出できたら謝罪しに行きたいとも言っていました。「盟約を守れなくてすまない」と遺言を預かりました」
「……その言葉、確かに受け取った。ありがとう」
アーグルはそう言うと魔導鞄をトリスに返した。
「父サン、イイノカ?」
「ああ、ウォールドが認めた男だ。この魔導鞄の所有者はトリス殿だ」
「ありがとうございます」
トリスはお礼を言いながらアーグルの手から魔導鞄を受け取った。そしてウォールドの盟約を代わりに果たすために魔導鞄から荷物を取り出した。魔導鞄からは木箱や水瓶が取り出され、部屋の隅に山積みに置かれた。
「麦酒、果実酒、蒸留酒などを一通り持ってきました。ウォールドの代わりに私が用意しました。受け取ってください」
トリスが魔導鞄から取り出したのは酒だった。トリスはアルカリス中にあるあらゆる酒を買い持ってきていた。
「「「「「うおおぉぉぉ!」」」」」
トリスの言葉にアーグルとアーデル、そして部屋の外にいた他のレプラ族が歓喜の声を上げた。アーグルとアーデルはすぐに木箱を開け酒の入った瓶取り出し酒瓶を取り出した。他のレプラ族も部屋に雪崩れ込んできた。彼らは水瓶を蓋を開けて中身の酒を飲み始めた。今まで大人しかったレプラ族が鬼気迫る勢いで酒に群がる様子にクレア達は唖然としていた。事情を知っているトリスは苦笑しながら説明をした。
「彼らは人が造った酒が何よりも好きなんだ。どうも自分達では上手に作れないらしく、ウォールドに酒を買ってくるように頼んでいたのだ」
「もしかして盟約ってそのことなのかい?」
「そうじゃ、我々は物を作ることはできるが酒を造ることできん」
朔夜の問いに酒瓶を抱えたアーグルはそう言いながら酒を煽った。先ほどまでの落ち着いた雰囲気とはかけ離れた態度だ。そして、童謡や物語に出てくるような小人とは違い、酒飲みの中年男性のようなレプラ族の実態を知り、トリス以外は夢が少しだけ壊された気持ちになった。
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