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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
拘う者としての時間
77/140

大都市アルカリス 秘書失態

すいません一日遅れです。

過去の投稿を修正していて投稿し忘れました。



「その判断は本当に正しいのかい?」


 冒険者組合(ギルド)で行われていた会議で(サブ)ギルドマスターのデフィーが発言した。その発言に主席者全員が驚き、誰もがデフィーを見ていた。そんな周囲の目を気にもせずデフィーは真っすぐ議題を出したジェテルーラに視線を向けていた。


 (サブ)ギルドマスターのデフィーは会議では発言することはない。いつも会議で決まったことに頷き、発言などは決してしなかった。誰もがお飾りだと認識していた。そのデフィーがギルドマスターの秘書であるジェテルーラの議題に対して否定的な発言をした。


 ジェテルーラが議題に上げたのは組合建物の清掃の改定についてだ。現在組合建物の清掃は専門の職員を雇い行っていた。人件費の削減などを理由に外部の業者に委託することをジェテルーラは提案した。ジェテルーラが用意した資料には清掃員の大半が高齢なので新たに人員を雇う必要があることを示唆し、これを期に外部の業者に委託することを提案した。


 改定案の資料には必要な情報がきちんと書かれ、外部業者に委託したときの問題点なども記載され、一見何の不都合もない資料だった。議題の内容に出席者のほとんどから異議は出なかった。このまま可決するかと誰もが思ったとき、デフィーが発言した。デフィーはジェテルーラが出した案について賛成しなかった。資料に書いてあった内容に幾つか質問して、最後に外部業者に支払う費用が割高であると指摘した。


 人件費の削減を名目とするなら肝心の費用が高くては意味がないとジェテルーラの案を否定し、再度検討することをジェテルーラに提案した。デフィーの指摘は至極全うなことでジェテルーラはデフィーの発言を覆すことができなかった。いや、冷静であれば反論することもできた。だが、このときのジェテルーラの心中は穏やかではなかった。


 ジェテルーラはデフィーを見下していた。二十年前までは今のギルドマスターであるワノエルティと敵対していたが、ある事件をきっかけに牙を折られた。それ以降は(サブ)ギルドマスターとしてワノエルティを補佐していた。


 ワノエルティは敵対していたデフィーを(サブ)ギルドマスターと言う肩書きだけを与え、自分の思い通りに使っていた。デフィーはその扱いに反感や反発もせず黙々と与えられた仕事をこなしていた。誰もがデフィーはワノエルティの傀儡であり、お飾りだと思うようになった。


 ジェテルーラにしてもそうだ。二十年前にデフィーの牙を折った切っ掛けを作った自分がワノエルティの右腕であり、デフィーは取るに足らない人間だと認識していた。その見下していた相手から自分の議題を否定された。自尊心の強いジェテルーラは酷く不愉快な思いだった。


「デフィー、今の発言は何だ。私の資料に不満があるのか?」


デフィーの態度が気に食わなかったジェテルーラは反論した。しかし、それは失敗だった。ジェテルーラは自分の発言が自分の立場とこの場に相応しくないと気がつかず、いつもの口調でデフィーに反論した。


「ジェテルーラくん、君は誰に対してそのような口をきいているのですか?」

「はぁ?」


 デフィーがジェテルーラの言葉使いを指摘する。


「私は仮にも(サブ)ギルドマスターです。立場的には君よりも上です。先ほどの君の発言は上の者に対する言葉使いではありません」

「そ、それが何だと言うのだ」

「また、そんな言葉を使うのですね。全くワノエルティさんの秘書とは思えません。いいですかここは仮にも組合(ギルド)の会議の場であり、私的の場ではありません。発言する際の言葉を選ぶ必要がある公的な場です。私的の場と公的の場を混合しないでください」


 デフィーの発言は更に続く。


「私達組組合(ギルド)職員は外部の関係者と多く接する機会があります。言葉使いや礼儀作法は職員になったときに最初に教わります。なのにジェテルーラくんはそんなことも忘れてしまったのですか?」

「き、きさ……」


 デフィーの言葉に更に頭に血が上ったジェテルーラは更に暴言を吐こうとしたとき、ワノエルティが自分を睨んでいることに気がついた。そのまな差しでジェテルーラの頭は冷え冷静を取り戻した。これ以上の醜態を晒すのは不味いと判断し謝罪することにした。


「し、失言でした。すみませんでした」


 屈辱に耐えながら消え入りそうな声でジェテルーラは謝罪の言葉を口にした。だが、それ以上は口にすることができず、最初にデフィーが指摘した議案については何も反論できなかった。


「謝罪を受けいれます。それで議案の件は可決ではなく保留でよろしいですか?」


 デフィーはジェテルーラの謝罪を受け入れそれ以上は言及せず、改訂案を保留にしようとした。だが、それはワノエルティによって阻まれた。


「デフィー、この案は保留ではなく可決でよいと思う」


今まで沈黙していたワノエルティが静かにデフィーの発言を否定し、議案について可決の意思を示した。自分の意見を正面から否定されたデフィーだがジェテルーラの用に取り乱すことなくワノエルティに質問した。


「なぜです。このまま可決すると無駄な費用を払うことになりますよ」

「確かにジェテルーラの資料では費用の削減がされていない。しかし、そもそもこの改定案がでた経緯は、職員が高齢による退職が間近に迫っていることも一つの要因だ。早い者はあと半年には退職するだろう。そのことを考慮するとこの改定案は進めた方がいい。費用については今期はこのままにし、来期や更に次のときに見直すのはどうだろう。それなら長期的に見れば予算を削減したことになる」

「今期についてはあえて予算を多めに見積もって必要な部材や人材を業者に揃えさせるのですか?」

「そうだ、後から備品が足りなく計上されるより今のうちに揃えておくように通達するのだ」

「……判りました。そう言う算段であるなら私からは何も言うことはありません。先ほどの発言は撤回いたします」

「そうか、ならこの議題は可決する。他に異論のある者はいるか?」


 ワノエルティの言葉に反対する者はいなかった。デフィーが賛成側にまわり、他の者も異論はなかったのでそのまま可決となり、次の議題に話は移った。その後の会議は特に変化はなかった。デフィーは何も言わず、提示された議題に頷くだけだった。先ほどのやりとりが嘘だったようにそのまま会議は終わった。




 会議が終わった部屋にジェテルーラが一人だけ残っていた。会議が終わった後にワノエルティに呼び止められ二人で話をした。ワノエルティは皆がいなくなるとジェテルーラを叱責した。声を荒げることはなかったがその口調は厳しいものだった。


「ジェテルーラよ、先ほどの会議はなんだ。デフィーに少し意見をされただけで冷静さを失うとは情けない」

「申し訳ございません」

「大方、デフィーを下に見ていたのだろう。あいつは確かに今はあんなふうだが、唯一儂を追い詰めた男だ。油断しているといつか足下をすくわれるぞ」


 ワノエルティはそう言うとそのまま部屋を出て行った。部屋に一人残されたジェテルーラは屈辱感に蔑まれていた。そもそもデフィーが指摘した改定案は予算を四割ほど削減したものだった。委託業者と何度も打ち合わせを重ね入念に準備もした。しかし、カドルの死んだことによって予算を見直すことになった。


 カドルは来年の市長選挙のための資金集めをしていた。次もダールを再選させるべく資金を集めていた。カドルが資金面の調達を行い、ジェテルーラ、ワノエルティ、モンテゴが結託しダールのバックアップをしていた。ダールが市長になった方がジェテルーラ達には有利な政策が行われるからだ。


 だが、カドルが死んだことにより資金調達の面で問題が生じた。カドルは予定の資金を調達することができたが、カドルが死んだことにより部下達がそれを使用してしまった。カドルは資金を銀行などには預けておらず、自宅の金庫に保管していた。カドルの死を知った部下達が、カドルの家に押し入り金目の物をあさったのだ。そのときに選挙活動用の資金にも見つかり彼らに強奪された。


 当然、ジェテルーラ達はすぐに対応を行った。『陰』を使いカドルの部下達を捕らえ奪われた資金を回収した。しかし、資金の一部は既に使われていた。回収ができたのは全体の八割に満たなかった。どうにかして補填する必要があり、その補填のために今回の改定案の費用を水増しした。そのことはワノエルティも当然知っておりこの費用のままで可決する必要があった。


 そのためにジェテルーラは入念に準備した。他の場所に不備が内容に何日もかけてこの改定案を作った。費用の面以外は全て完璧だった。それなのにその問題をデフィーに指摘された。屈辱だった。自分の当初の改定案なら何も問題はなかったのに。自分が望んでした訳ではない。ダールのために仕方なくやったことを他者から、しかも自分が見下していた相手から指摘された。更に冷静さを欠いて反論することすらできず、ワノエルティの手を煩わせた。


 ジェテルーラは屈辱感と怒りで気が狂いそうになるのを必死に抑えながら部屋を後にした。




「ようやく一矢報いたか。いいや、反撃の狼煙を上げたのか」


 デフィーは会議が終わったあとに組合(ギルド)の自分の部屋に戻り一息ついた。自分の席に座り、先ほどの会議のやりとりを思い出した。ジェテルーラの改定案に対して一旦は保留するところまで持って行けたが、結局ワノエルティによって可決されてしまった。完全に却下できればよかったが、そこまではできなかった。


 ジェテルーラの改定案を見たときは正確な資料でつけいる隙はないと思った。しかし、予算面に関しては明らかに不自然だった。ここまで正確な資料を作ったのに、なぜか予算面を削減していなかった。詳しい理由は不明だがつけいる隙があると思いデフィーは指摘した。


 デフィーが指摘し、ジェテルーラが何か反論をすると思ったが、それよりも誇り(プライド)が傷つけられたジェテルーラは醜態を晒した。あれはあれで見ていて気分が晴れたが、ジェテルーラが自滅してしまい、追い込むことができなかった。そのため、ワノエルティが割って入りそのままワノエルティに主導権を持って行かれてしまった。


「二十年以上もサボっていたツケがでたな」


 デフィーはそう言うと机の引き出しの一番奥から一本の葡萄酒を取り出した。机の引き出しの奥には冷蔵保存の魔鉱石が設置してあるため、葡萄酒は適温で冷やされていた。いつか、親友と飲むためにとっておいた秘蔵の酒だ。この酒を飲むことは決してない。自分が死ぬときに棺桶に入れて貰いあの世で親友と飲むのだ。




 巨大猪(ベヒモスボア)が討伐され、都市全体で宴が催された日、デフィーは一人の青年と会っていた。今回の宴を開く切っ掛けとなった人物、冒険者のトリスと対面した。組合(ギルド)の代表として巨大猪(ベヒモスボア)の討伐と巨大猪(ベヒモスボア)の素材を全て組合(ギルド)に寄付したことに礼を述べた。


 トリスは巨大猪(ベヒモスボア)を単独で討伐したとは思えないほど謙虚で好感の持てる人物だった。気を良くしたデフィーはトリスと暫く話をした。そして、驚くべきことがトリスの口から発せられた。

 

「デフィーさん、師匠から言伝を預かっていますので、お伝えしてよろしいですか?」

「トリスさんの師匠ですか? 私の知る人物ですか?」

「はい、よく知っていると思います」

「――聞かせて頂きます」

「では、失礼して、『デフィーよ、おぬしが奢ると言った葡萄酒はいつになったら飲ませてくれるのだ。わしは結局飲むことができなかった。その責任はあの世で返して貰うぞ』」

「――はぁ?」

「『とぼけようとしても無駄じゃ。わしから借りた金が返せないから故郷の葡萄酒を好きなだけ飲ませると約束したじゃろ。おぬしの故郷に行こうと誘っても仕事、仕事でおぬしが断り結局行けなかった。この責任はきっちりととって貰うからな』っと師匠からの伝言です」

「…………」


 トリスの言葉にデフィーは何か言おうとしたが、驚きのあまり口から言葉が出ないでいた。いまトリスが言ったことは自分と親友しか知らないことで、その親友は死んだと思っていた。


「師匠は去年の年始めに亡くなりました」

「去年! 莫迦なあいつが死んだのは……」

「二十五年前ではありません。私の師匠、ウォールド・シリアファンプは生きていました。『迷宮』と呼ばれる場所で生きていました」

「生きていた! あいつが、ウォールドが生きていた!」

「はい、師匠は自分が生きていたことは親族と友人のあなただけには伝えて欲しいと言っていました。よほどあなたと酒を飲みたかったみたいです」


 トリスのその言葉を聞いて瞬間、デフィーの目から大粒の涙がこぼれた。ずっと昔に死んだと思っていた親友からの軽口はデフィーの心の奥底まで響いた。デフィーは大粒の涙をこぼしながら声を殺して泣いた。嬉しさなのか、悲しさなのか、判らない感情が心の中で渦巻いていた。


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