大都市アルカリス 刻下の男
今回は短めです。
「その後はサリーシャで無事にトリスさんと再会出来ましたが、その時には既にトラブルに巻き込まれていました。」
ヴァンは長い話を終え、疲れた喉を潤すためにお茶を飲んだ。食事はヴァンの話の途中で終わり、食後のお茶を飲みながらみんなでヴァンの話を聞いていた。
「サリーシャでの一件については俺やフレイヤさん、クレアの出番だ。何せ当事者だったからな。」
ヴァンの話が終わり、サリーシャでの話に移ったのでザックが誇らしげに口を開いた。
「一年前? サリーシャでの騒ぎ? もしかして悪漢を退治した話かい?」
「姐さん何か知っているですかい。」
「ジョセフは知らないかも知れないけど、うちのメンバーにもサリーシャ出身の子は結構いるんだよ。その子達が一年前に騒いでいたからよく覚えている。」
「あの件ですか?」
「ナルも思い出したようだね。サリーシャ出身の子達が集まって祝杯していたんだ。『これで街が平和になるぞ。』って大騒ぎしていたんだ。」
「私も思い出しました。騒ぎ過ぎてリーダーに怒られていましたよね。」
エルも当日を思い出した。天元槍華の同僚が騒ぎ過ぎてリーダーが叱った。あの時怒っていたリーダーの姿に入ったばかりのエルとナルは戦々恐々したのだ。
「つまり、トリスさんはサリーシャで起きていた事件を解決したってことですか? その時の縁でサリーシャの領主様と面識を持つようになったとことですか?」
「ジョセフの言う通りだ。ラロックさんも関わっていてその時に知り合いになったんだ。」
ザックはそう言うとサリーシャで起きた出来事を話し始めた。
「それで今は武器が出来上がるのを待っているんだよ。」
朔夜はトリスと出会い、その後に親方の店に案内した時のことを話した。ヴァンの話を終えた後はザック、クレアと続き皆でトリスとの出会いを話し、そして、最後の朔夜の話が終わったのだ。
「二刀流? まだ実力を隠していたの?」
「五十匹以上の魔物を一人で殲滅!」
「武器が消耗していて実力が出せなかった。」
「全然、追い付ける気がしないんだけど。」
朔夜の話を聞いてクレア、ヴァン、ジョセフ、エルは驚愕していた。トリスの凄さは判っていたつもりだったが朔夜の話では今まで思っていた実力よりも遥かに高いことを認識させられた。
そんな四人とは裏腹にベネットはみんなの話を聞いてトリスの凄さに目を輝かせていた。トリスの実力は判らないので純粋に喜んで話を聞いて喜んでいたのだ。朔夜はそんな対照的な子供達を苦笑しながら、この家でトリスに次ぐ実力者のダグラスに声を掛けた。
「ダグラスは驚いてないけどトリスの事は知っていたのか?」
「トリスさんが家にいる時は毎日稽古の相手をしているので実力はだいたい判っている。二刀流だと言うことも聞いていた。」
「実力判っていると言うことは勝算あるのかい?」
「稽古なら何度か勝っている。だが、実戦だと無理だ。あの人は引き出しが多すぎる。」
「引き出しが多いいってどう言うことですか?」
朔夜とダグラスの話しを横で聞いていたロバートが気になったことをダグラスに尋ねた。
「稽古は様々取り決めを必ずつける。武器の有無や小道具などの使用、制限時間や勝敗の判定方法を決める。だが、実戦ではその制限が無い。生き残る為にどんな手段を使ってもいい。トリスさんはその手段が多すぎる。剣術は勿論、体術も俺から学んでかなりの腕前になった。ヴァンの話や他の人の話を聞くと飛び道具や魔術も扱い、複数の敵と戦う事にも慣れている。」
「・・・」
「更に魔術道具も自前で開発している。生活用の品しか見ていないが実戦で役に立つ道具も持っていると考えた方がいい。」
「・・・」
「これらを自由に扱えるトリスさんと戦って勝つなんて個人ではまず無理だ。複数人できちんと連携を取らないとまず勝機はない。」
「あんたもそう思うか?」
「ああ、だからこそ惹かれる。本気のあの人に勝ちたいと。」
雇用主に対してそんな事を思うのは不遜なのかも知れない。だが、ダグラス程の実力者ならどうしてもそう言った事を考えてしまう。強者に対して自分の実力は何処まで通用するのかを。朔夜も同じ穴のムジナでダグラスの気持ちはよく判る。
「戦いに疎い私やフレイヤには判らないことだね。」
「ええ、でもトリスさんの凄いことは戦いだけじゃないですよ。」
戦うことを知らないローザやフレイヤはトリスの戦闘面以外についての話題を話し始めた。他の面子もその事が気になりフレイヤの話に耳を傾けた。
「おっ、言うね。どんなところが凄い?」
「まず、好き嫌いがほとんどありません。」
「好き嫌いって子供じゃないんだから。」
「そうですか? 皆さん結構好き嫌いしますよね。ローザや他の人も好き嫌いしますよね。」
フレイヤの思わぬ言葉に皆が黙ってしまう。トリスは口に合う、合わないの基本はあるが、出された食事は全て食べる。『迷宮』での生活では好き嫌いをしていたら生きていけなかったからだ。だからフレイヤやローザが作った食事は必ず残さず食べていた。
ちなみにここにいる面子でトリスの次に好き嫌いをしないのがベネットだ。ベネットも貧しい生活をしていたので好き嫌いをしている余裕がなく、食べられる物はなるべく食べるようにしていた。だが、まだ子供なので辛い物や苦い物には抵抗はあるので率先して食べることは無かった。
「ほ、他にあるだろ。トリスさんが戦闘以外で優れているところ。」
ベネットの手前、これ以上この話題を続けるのは大人の面目が立たないのでローザは話をそらした。他の面子も墓穴は掘りたくないので黙っていた。
「他には薬の知識がありますね。この家で使っている薬は全てトリスさんが調合しています。傷薬から鎮痛剤、解熱剤。湿布や軟膏等も全て手作りです。」
「ママ、そうなの?」
「そうよ。あなた達が怪我をして帰って来たときに塗っている傷薬や湿布はみんなトリスさんが作ったものよ。良く効くでしょう。」
「うん、普通の傷薬よりも効くから少し高い薬だと思っていた。」
トリスは薬の効果を知るためにクレア達に無料で薬を使わしていた。生傷が耐えない冒険者は被験者としてはうってつけなのでフレイヤを経由して効能を確認していた。
「朔夜さん、エルさん、ナルさんも薬が必要なら言って下さい。使った後の効能を知りたいので使った後で感想を聞きますがそれでも良ければ無料でお渡しします。」
「いいのかい?」
「ええ、女の子は特に鎮痛剤や解熱剤が必要になりますから。よく効きますよ。」
「「本当ですか!」」
フレイヤの言葉にエルとナルは喜びの声を上げた。エルとナルも重い時があり、その時は市販の薬を使うがあまり合わないのでフレイヤの提案は嬉しかった。二人が喜んでいる傍らでベネットは不思議そうにエルとナルを見ていた。
『女の子』と言われてベネットも自分も必要かと思ったが最近は病気の発作も無い。体調も良好で薬の必要など無いからだ。なのに薬が必要な理由が判らずに不思議そうにしているとフレイヤが優しくベネットを抱き上げた。
「ベネットはもう少し大きくなってから色々教えるから今は健康に育つようにしようね。」
フレイヤはベネットに言い優しく髪を撫でた。
その後は他愛のない話を始めた。女性は流行りの服やアクセサリーの事。男性は面白い道具を売る店の話などをした。ジョセフ、エル、ナル、朔夜は今日は帰らずトリスの家に泊まるので夜が更けるまで宴は続いた。
次回から新章になります。トリスに関わる色々な人の視点の話になります。お楽しみください。
誤字脱字の指摘や感想などを頂けると嬉しい限りです。
評価やブックマークをして頂けると嬉しく励みになりますのでよろしくお願いします。




