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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
流れ者としての時間
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漁村リズ 旅人の男

寝違えて更新が一日遅れました。

今は回復していますが痛かったです。

洞窟での一件でヴァンはトリスの事を心から尊敬するようになった。最初にあった時の印象では好戦的で他人冷たく、親しくない人とは壁を作り、合理的に物事を考え行動する冷酷な人だと思っていた。


だが、実際は違った。確かに敵対者や強者にはそのような態度を取るが弱者には気を使い優しい人だと考えを改めた。もっともそれを強く感じたのは囚われた女性達を遺族に届けるためにトリスが行った行動であった。


野盗達に囚われていた女性は遺体は酷い状態だった。ヴァンはトリスの指示で遺体をじっくり確認した訳では無いが所々に殴られた痕があり、顔も腫れていた。


致命傷になったのは胸への刺傷が原因だと後からトリスに聞いた。このままの状態で遺族に届けたとしても新たな傷が遺族に増えるだけだとヴァンは思った。


トリスも同じ事を思ったのか遺体に死化粧を施し始めた。魔術で地面に穴を掘り、そこに水を貯め遺体を清めた。致命傷となった胸の刺傷は縫合し、傷口が見えないように包帯を巻いた。野盗に奪われた領主の援助物資からなるべく清潔な布を選び遺体を包んだ。


顔から下は布で包むと最後に顔を処置した。顔は殴られた痕があったのを出来る限り綺麗に見えるように処置を行い、乱れてい髪も綺麗に整えた。遺体の処置を終え、もう一度ヴァンが遺体を見た時は別人のように綺麗になっていた。


遺体に施した技術も見事だが、それよりも見ず知らずの他人のためにここまで行動するトリスにヴァンは心から尊敬した。


「こんなに綺麗になるんですね。」

「専門じゃないから応急処置の様なものだ。こんな場所だから道具も揃ってないか気休め程度だが、レイモンドから借りた小剣があって助かった。細かい作業や髪を整える時に重宝した。」

「そう言って貰えると父さんも貸した甲斐があったと喜びます。」

「なら、いいがな。」


その後、トリスとヴァンは領主の援助物資を回収し洞窟を後にした。崖の下にいたミナト達姿を消していたのが気になったが、トリスが「気にするな。」と言ったのでトリスが何かしら対応をしたのだとヴァンは納得した。




洞窟を出ると既に日は登り気持ちのいい朝だった。ヴァンとトリスはリズの村には帰らず、遺体を遺族に届けるためにまずは洞窟から一番近くの村に向かった。


村に着くと野盗達の所為で村人達はトリス達を警戒したが、ヴァンが素性を明かしたことで何とか警戒を解いて貰えた。


トリスはここに来た事の経緯を話し、三人の遺体を取り出した。遺体は布に巻かれているが顔を見えるようにしてあるので直ぐに確認できた。見覚えのある顔に村人達は涙を流した。三人ともこの村の娘だった。


暫くすると騒ぎを聞きつけた遺族が来て遺体に抱きつきながら号泣した。暫く事の成り行きを見守っていたトリスだが、一言「助けられず申し訳ない。」と謝った。


トリスの謝罪を聞いた遺族達はこともあろうにトリスに食って掛かった。「どうして、娘を助けなかった。」「見殺しに何故した。」「人でなし。」「お前が娘を殺したんだ。」他にも聞くに耐えない言葉をトリスに浴びせた。


理不尽としか言えない事にヴァンは激昂し反論を言おうとしたがトリスが制した。暫くトリスに罵声を浴びせ続けた遺族だったが遅れてきた村長が取り成しその場を納めた。


村長は遺族達に遺体を家に持ち帰るように言い、明日葬儀を行う事を伝え遺族を家に帰した。村長はそのままトリスとヴァンを自宅に招き入れ村を代表してお礼を述べた。


「この度は野盗達を討伐していただき心から感謝致します。そして、理不尽な遺族の言葉に耐えて頂いた事への感謝と謝罪を致します。」

「気になさらずに。この件に関わった時から覚悟はしていた。」

「トリスさん、どう言うことですか?」

「ヴァン殿、トリス殿は敢えて遺族の怒りを敢えて受けて下さったのだ。娘達の命を奪ったのは野盗達だ。理不尽に家族を奪いそして殺した。遺族達は腸が煮えくり返る程の怒りを感じている。だが、怒りをぶつける相手はもういない。行き場のない怒りを敢えて受け止め下さったのです。」

「そんな...」

「余所者の俺なら遺恨は少ない。適材適所だ。」


トリスはそう言うと出されたお茶を飲んだ。その態度は何処か達観しており、その言葉と態度にヴァンはやるせない気持ちになった。


「そう言われるとこちらもありがたいですが、それに甘えると我々は外道となります。遺体を清め死化粧までしてくださった方に何もしないのは人の道を外れます。」

「気づいたのですか?」

「ええ、暴行を受けた娘があんなに綺麗に帰って来ることはまずあり得ません。昔同じように拐われて殺された娘を見たことがありましたが酷い有り様でした。生前の容姿を知っているから余計に酷く見えました。」

「それは気の毒に。」

「はい。ですから囚われた娘が遺体になって帰って来たと聞いた時は足が重くなり、駆けつけるのが遅れてしまいました。その間あなたが家族の気持ちを汲んで耐えて下さったことは本当に感謝致します。」


村長はそう言うと再度頭を下げた。村長の過去に何があったのかわ判らないが村長の言葉に嘘はなく本当に感謝しているのはヴァンにも判った。


村長の謝罪にヴァンは何も言えなくなり沈黙が部屋を支配した。少し重苦し雰囲気になってしまったが、お茶を飲んでから一言も話さなかったトリスがその沈黙を破った。


「謝罪はもう充分だ。それよりも今後の事について話しておきたい。」


トリスが口にしたのは野盗達奪った領主からの救援物資についてだ。トリスは紙を一枚取り出し村長に渡した。そこには野盗達に奪われた領主からの援助物資の一覧が書かれていた。


「目録が残っていたのが幸いした。野盗達が半分近く消費したがまだ、半分以上もある。これらを周辺の村で分配する必要がある。」


目録と残っていた物資からトリスは残っている物資の一覧を作成し、同じことが書かれている紙を三枚取り出し他の村へ渡すように村長に依頼した。


領主の援助物資は周辺の村に送られた物でかなりの量がある。半分近く無くなっているがトリス一人で消化出来る量がでもない。リズの村やこの村に全部渡してもいいがそれは後々遺恨が残るので平等に分配出来るようトリスが気を使った。


トリスの気づかいに村長も察し、後日、リズの村に各村の代表者を向かわせる事を約束した。これでこの村での用事は全て終わったのでトリスはヴァンと共にリズの村に戻る事にした。


トリス達が席を立つと村長はトリスに再度お礼をいい、遺族の気持ちの整理がついたら謝罪と礼をするように説得することを伝えた。




「これで良かったんですか?」

「何の事だ。」


リズの帰り道


「トリスさんが責められたままでいいのかってことです。理不尽じゃないですか!」

「村長も言っていただろ。気持ちをぶつける相手が必要だって。」

「そうですけど。」

「それに罵声だけならいい方だ。酷い時は闇討ちされたり毒を盛られたりするぞ。」

「そ、そんなことがあったんですか?」

「俺は直接被害にあっていないが、冒険者時代の友人が酷い目にあった。亡くなった人の婚約者から恨まれ三回も殺されそうになった。」

「...」

「一回だけ俺もその場に居合わせた。料理に毒を盛られた。幸か不幸か盛られた料理に使われた食材に解毒作用のあってそいつは腹を痛めただけですんだ。」

「その婚約者はどうなったんですか?」

「さすがに三回も殺人未遂を犯したから憲兵に捕まった。その後は詳しく知らないが別の街住むことになったみたいだ。だから罵声程度で済んで良かったよ。」


トリスは少し笑いながらそう言った。その顔を見たときヴァンは気が付いた。トリスは本当に気にしていない。トリスにとっては先程の事は気に病むような出来事ではなかった。


トリスは今までの人生でそれ以上の経験をしてきた。様々な経験をしてきたから理不尽な事も受け止められる。父親のレイモンドように人としての器が大きいのだ。


自分も同じようになりたい。


尊敬する父親のような、目の前にいるトリスのような男になりたいとヴァンはこの時強く思った。東の空に見える『塔』に行けばその思いは叶うのか。ヴァンはそんな事を考えながらトリスと共にリズの村に帰った。




リズの村に戻ったトリスとヴァンは早速村長の元に行き野盗を討伐した事を報告した。村長や他の村の重役達も信じられなかったがトリス回収した領主からの援助物資と野盗の頭であるミナトの事を話すことで納得させた。


特に捕らえた野盗達の前でミナトの事を話したところ、捕らえた野盗達が明らかに動揺したのだ。野盗達はミナト達が助けに来ると思っていた分、トリスが話した内容が衝撃的で話が終わると野盗は絶望していた。


村長と重役達はトリスの話が真実だと知ると狂喜した。村の若者に領主宛ての手紙を持たせ、馬で送り出した。村長から話を聞いた村人達も大いに喜んだ。もう、野盗のことで不安な日々を送らなくて済む。村人達は一昨日に引き続き宴を開くことにした。今度は村人全員で何も憂い無く大いに宴を楽しんだ。




盗賊を討伐してから一ヶ月程経ったある日、トリスは旅支度を整え、旅立つ準備をしていた。盗賊を討伐してからトリスはリズの村に滞在し報酬である魚料理を気の済むまで堪能した。討伐の報酬が魚料理(そんなもの)で良いのか村人全員が思ったがトリスが大いに満足していたので村人は納得するしかなかった。


トリスは一ヶ月間リズの村に居たがもてなしを受けていただけではない。領主が使わした使者との対応も行っていた。使者は野盗が討伐されたことは半信半疑だったがトリスが捕らえた野盗を見て納得した。そして、野盗達が根城にしていた洞窟とそこにある光石英についても使者に話した。


光石英は今でこそ需要はあまり無いが教会や国の祭事では使われることが多い。特に良質な物は教会が高額で買い取るので品質によってはかなりの財産になる。発見者兼報告者であるトリスには当選利益の何割かを貰うことができる。しかし、トリスはその権利を放棄した。


発見者としての権利を放棄し、全て領主に譲り渡した。ただ権利を放棄する条件として今回の野盗の被害にあった村への支援と被害にあった遺族達に見舞金を送ることを約束させた。村への支援は物資などでは無く水路や街道の整備を重点をおき、遺族への見舞金は被害に見合うだけの額を支払うこと。この条件については使者よりもリズの村長や他の村の村長も驚愕した。


この地域では水路や街道の整備は昔からの悲願であった。予算の都合がつかず、ずっと放置されていた問題だった。自らの利益を放棄してこの条件を出したトリスに村長全員平伏し感謝した。トリスとしては金銭についてはさして興味が無いため、特に深い理由も無く提示した条件でしかなかった。


そのような出来事もあり、一ヶ月ほどリズの村に滞在したトリスだったがこの村での用事済んだのでトリスはここを離れることにした。ここから南下したところにあるサリーシャの港街に向かう予定だ。


「世話になった。」

「こっちこそ本当に感謝している。村を救って貰ったこと。身体を治してくれたことは本当に感謝している。」

「近くによったら是非訪ねて下さい。歓迎しますから。」


トリスを見送るのはサナとレイモンド、そしてヴァンの三人だけだった。他の村人には旅立つことは伏せていた。村長には旅立つことを連絡していたが余り大勢に見送られるのも柄ではないので世話になったヴァン達だけが見送りに来ていた。


「トリスさん、僕も後からサリーシャに向かいます。」


ヴァンは冒険者になることを決めていた。野盗を討伐の一件で冒険者への憧れが日増しに強くなっていき、そのことをレイモンドとサナに相談したところ、レイモンドは「好きにしろ。」と言い、サナは難色を示したが反対はしなかった。


ヴァンが居なくなるとリズの村の警備の仕事に支障が出るが、ここ一ヶ月でレイモンドの体調はかなり回復した。普通に日常生活を送れ、一週間前からは槍の稽古も始めていた。後、数ヶ月もすれば昔の様に動けるのでヴァンがいなくなったとしても問題はなかった。


「数日は家族水入らずで過ごせばいいさ。サリーシャで暫く滞在するから街に来たら伝言板や憲兵の詰め所に知らせをおいておいてくれ。俺も数日おきに確認しに行く。」

「判りました。」

「それと村長には礼を伝えておいて欲しい。身分証明の発行と旅用の服を譲ってくれて感謝していると。」

「村長に伝えておきます。」

「ありがとう。じゃあ、またな。」

「はい、またお会いしましょう。」


トリスはヴァン達に別れの挨拶をするとそのまま振り返ることなく村の外に出ていった。ヴァン達はトリスの姿が見えなくなるまで見送った。




「しまったぁ!」


トリスを見送ったその日の夕食中にレイモンドは突然大声を出した。


「どうしたの父さん?」

「あいつの頼まれごと忘れていた!」

「あなた、あいつって誰ですか?」

「サリーシャに古い知り合いがいるんだ。確か戦力になる人を探していた筈だ。」

「戦力? 何かもめ事を仲裁するのですか?」

「詳しい事情は知らないが、戦力が欲しいならトリスの旦那がうってつけだった。」


レイモンドはそう言うと頭を抱えだした。思い出すのがもう少し早ければトリスに直接依頼することができたのに。ヴァンに託をしてもいいが、職業柄面識のない人間とは合わないようにしている筈だ。紹介状を書いてもいいがそれも確実とは言えなかった。


「どうすっか。もめ事なら手助けしたいし。・・・・・・よし、行くか。」

「行くってどこに幾つもなの?」

「決まっているだろう。俺もヴァンと一緒にサリーシャに行く! 明後日に旅立つから準備しておけ。」

「「え、えええぇ!」」


レイモンドの言葉に呆気にとられるヴァンとサナをよそに病み上がりのレイモンドはサリーシャに行くことを決めた。


サリーシャではトリスがまた、トラブルに巻き込まれているとも知らずにレイモンドとヴァンはトリスの後を追う様にサリーシャに向かったのだ。



次でこの章が終わりです。


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