大都市アルカリス 謝礼と条件
少し遅くなりました。投稿を再開します。
新章突入です。
エルとナル、ジョセフは混乱していた。冒険者組合職員のミリアから教えて貰った住所に来た筈なのに目の前には豪華な門があり、庶民の彼女達にすると中に入るのは気が引けてしまう。
彼女達が訪れたのは冒険者のトリスの家だ。組合主催の宴が一昨日終わり、エルとナルはトリスにお礼を言うためにジョセフは約束を果たす為にトリスの家を訪れていた。
「ここで間違いないよな。」
「間違ってないと思うけど想像していたよりもずっと立派よね。」
ジョセフの疑問にエルは答えたがエルも自信はなかった。だがミリアから教えて貰った住所は間違いなくここだった。ナルは何度も地図とメモを見比べているが間違いではなかった。
三人がそうこうしていると門の横に設置され小さな扉が開いた。小さいと言っても人が一人通れる大きさなので使用人用に設置された出入り口だ。
「何かご用ですか?」
扉から出て来たのは二十歳前後の青年だった。ジョセフは最初は驚いたが出て来た人物が顔見知りだった為に更に驚いた。
「ヴァン、何でここにいるんだ!」
「ジョセフか君こそどうしてここに。それにエルとナルも。」
ヴァンとジョセフ達は年も近く去年冒険者登録をした同期だった為に何度も情報の交換や冒険を一緒に行った事があった。エルとナルともジョセフ経由で顔見知りになり何度か話した事がある。
「お久しぶりね、ヴァン。」
「おおおおおおおお、お久しぶりでしゅ。」
気軽に挨拶をするエルとは引き換えにナルはおもいっきり動揺し最後は舌をかんだ。
「エルとナルも久しぶり。それで今日はどうしたの?」
「どうしたのじゃない。お前こそどうしてここにいるんだ!ここはトリスさんの家じゃないのか。」
「ああ、確かにここはトリスさんの家だよ。俺達は居候しているんだ。」
「居候?」
「そう、トリスさんに用事があるなら入って。丁度庭にいるから。」
ヴァンはそう言うとジョセフ達を手招きして門の中に招いた。ジョセフ達も言われた通りヴァンが出て来た扉をくぐり敷地の中に入った。
中に入ると確かにトリスが庭にいて組手をしていた。トリスと組手をしているのは銀髪の少女、クレアでトリスは彼女の攻撃を受けながらクレアに指導をしていた。
「トリスさん、お客様です。」
ヴァンが声をかけるとトリスは組手を止めヴァン達を見た。ヴァンが連れて来たのがジョセフ達と判ると柔らかな笑みを浮かべ歓迎した。
「ジョセフにエルさんとナルさんじゃないです。どうしてここに。」
「お邪魔します。今日は約束を果たしにきました。」
「私達はお礼をしにきました。」
「この間は助けて頂きありがとうございました。」
ジョセフ、エル、ナルは順に挨拶をした。
「そうですか。ここで話すのは何ですので家の中で話を聞きます。クレア、フレイヤ達に来客が来たと知らせてくれ。」
「わかった。」
クレアは客が来たことを知らせに走って家に戻った。庭にはクレア以外にも稽古をしていたフェリスとヴァン、指導していたダグラスがいた。トリスは彼らに庭に残り、組み手の練習を続けるように言いつけジョセフ達を家に招いた。
家の中に通された三人は応接室に案内された。トリスは一旦着替える為に席を外し使用人のローザがお茶とお茶請けを三人に用意した。
「お茶とお茶請けをどうぞ。」
お茶請けはローザが焼いた手作りのクッキーだ。クッキーはナッツやレーズンなど色々な種類があり、ジョセフ達はお茶を一口飲み口を湿らせてからクッキーを食べ始めた。
「「美味しい!」」
クッキーを食べたエルとナルは感想を言うと夢中で食べ始めた。ジョセフは甘い物は苦手なので一つだけ頂き残りはエルとナルに譲った。二人はジョセフから渡されたクッキーを仲良く分けているとトリスが部屋に入ってきた。
「お待たせしました。」
トリスはそう言うと椅子に座り、ローザは直ぐにトリスにお茶を入れた。トリスが席に座るとジョセフがさっそく話し始めた。
「今日は急な訪問ですみません。」
「クッキーもありがとうございました。」
「とっても美味しいかったです。」
「気に入って頂けたのあれば良かったです。このお菓子はそこにいるローザの手作りです。よろしければお土産用に包みますが如何ですか?」
「いいんですか?」
「ええ、大丈夫です。ローザ、聞いた通りだ。お土産用に作ってくれないか。」
「はい、判りました。では、席を外させていただきます。代わりにフレイヤを呼んできます。」
「よろしく頼む。」
ローザはそう言うと一礼して部屋を出て行った。エルとナルは嬉しそうにしながらローザを見送った。
「おい、クッキーを貰いに来たんじゃないぞ。そろそろ要件を伝えないと。」
クッキーに反応しなかったジョセフはエルとナルを嗜めながら今日来た目的をトリスに伝えるようエルとナルを催促した。
エルとナルはジョセフに言われ今日来た目的をトリスに話し始めた。
「今日訪問したのは先日『塔』で助けて頂いたお礼です。ありがとうございました。」
「こうして無事に帰ってこれたのはトリスさんのおかげです。」
「わざわざご丁寧に。」
「それでトリスさんは大陸の東方の国の技術を使った剣の修復をできる鍛冶師をまだ探していますか?」
「ええ、私が長年使っていた剣は大陸の東方の国の技術を使った剣です。これを修復出来る鍛冶師はまだ見つかっていませんがエルさんにそのことは話していませんよね。」
「俺が教えました。勝手に伝えたことはお詫びしますのでまずは話しを聞いてください。」
「それくらいで腹を立てたりはしないが、それよりもジョセフの言葉使い前と違わないか。」
ジョセフは前回トリスと話していた時よりも言葉使いを改めていた。トリスはそのことが気になりジョセフに尋ねると思いもよらない返答が返ってきた。
「それはそうです。トリスさんは元々年上ですし、あの巨大猪を単独で倒した人にタメ口なんて出来ません。」
トリスが巨大猪を単独で倒したことが思いもよらぬ結果を生んだようだ。ジョセフにしろ、エルやナルも前にトリスと会った時よりも何処か慎んでいるところがあるのはそう所為だとトリスは理解した。
「そう言うことなら気にはしない。
それでエルさんとナルさんはその鍛冶師について心当たりがあるのですか?」
「はい、そうです。」
「実は私とエルが所属している天元槍華のサブリーダーがその鍛冶師に心当たりがあるみたいなのです。今回の私達を助けて下さったお礼に案内して貰う筈でした。」
トリスの質問にエルとナルは肯定するが何故かその続きは言い辛そうにしている。互いに目で牽制しながら相手に話すように催促する。だが二人はそれ以上のことは話そうとしなかった。
そんな二人を見かねたジョセフがため息をつきつつトリスに説明した。
「天元槍華のサブリーダーは朔夜さんと言いまして、彼女がその鍛冶師を知っているんですがある条件を出したんです。」
「条件?なんだそれは。」
「トリスさんの実力が観たいそうです。その結果次第では教えてもいいと言っています。朔夜さんは普段ならそんな高圧的な態度ではないのですが、トリスが一人で巨大猪を倒したのが気に入らないようで...」
「ああ、そう言う事か。」
トリスが一人で巨大猪を倒した事により冒険者達に不満が溜まった。しかし組合の宴と商品の割引で大勢の冒険者達の不満は解消された。しかし、そう言った事にあまり興味の無い者、戦闘自体を楽しむ者達にはまだ不満が残っていた。ジョセフの話から察するに朔夜もどうやらそう言った類いの猛者のようだ。
「そう言う事なら喜んでその条件を飲むよ。どちらにしろ剣の修復はしたいから頭を下げるのは俺の方だ。わざわざ連絡しに来てくださりありがとう。エルさんとナルさんもにここまでしてくれてありがとう。」
連絡してくれたジョセフとエルとナルに感謝しながらトリスは今回の件を了承することにした。
「では、具体的にどうすればいい? 実力を見たいなら何処かに行けばいいのですか?」
「はい、三日後に『塔』の入り口に来て下さい。時刻は三つ目の朝の鳴る時です。」
「それと朔夜さんの容姿は黒髪を長くして後ろで結っています。得物は薙刀と言う槍と同じくらいの長さで刃の部分が反った形をしています。」
エルとナルは待ち合わせの場所や時刻、朔夜の容姿をトリスに伝えた。
「判りました。三日後の三つ目の朝の鳴る時に『塔』の入り口に行きます。」
トリスが朔夜との待ち合わせの確認をしていると部屋の扉をノックする音が聞こえた。トリスが返事をするとフレイヤが部屋に入ってきた。フレイヤはお茶とお茶請けのお代わりを持っており、全員にお茶とお茶請けを渡した。甘い物が苦手なジョセフには甘さを控えたスコーンを用意していた。
話しの区切れも丁度良かったのでトリス達はお茶とお茶請けを頂き、一息つけることにした。
「それで剣のことは別で、例の身体強化については教えて貰えませんか? 勿論今回の件とは別でお礼しますので。」
お茶のお代わりを飲み終えたところでエルは『塔』でトリスから聞いた身体強化について教えを乞おうと願い出た。
「なんだそれは?」
「魔術によって身体を強化する方法。魔術が使えない私でも習得できるみたい。」
ジョセフの質問にエルはトリスに教えて貰ったことを話した。ジョセフも興味があるらしくエルの話しを聞いた。ジョセフは最初は半信半疑だったが実際にトリスが単独で巨大猪を討伐しているのであながち嘘ではないと判断した。
トリスはジョセフとエルのやり取りを見ていてやはり身体強化の魔術に関して情報は一般に出回っていないことが判った。使用人のダグラスにもそのことを聞いてみたがダグラスも知らなかった。
「エルさんは身体強化の事を他の人に聞きました?」
「朔夜姐さんに相談しました。けど朔夜姐さんも身体強化については知らないと言っていました。それどころか普通の人が魔術を使えるようになることも知りませんでした。」
「そうですか。」
天元槍華のサブリーダが身体強化の魔術や魔術師で無い人が魔素を感知することが出来る術を知らないのはやはり意図的に情報が伏せられていると考えられる。
もっとも朔夜が正直にエルに話していることが前提になるが巨大猪を単独で討伐できない状況から考えると知らないと考えた方が自然だ。
「魔素の感知」、「魔素を魔力への変換」、「魔術での身体強化」。これらはトリスの師匠であるウォールドが『迷宮』に辿り着く前に行く開発した技術だ。親しい者には伝えているとウォールドは生前に話していたがこの様子だと一般には広まっていない。
秘匿されている事は何かしら理由がある筈だとトリスは予想しているがそれについては後々調べることにした。今はエルにこの技術を教えるかどうするか決めなければならない。
既にこの家の住人であるダグラスには「魔素の感知」、「魔素を魔力への変換」、「魔術での身体強化」を教えている。ダグラスは優秀で既に「魔素の感知」、「魔素を魔力への変換」まではある程度習得し、拳のみであれば「魔術での身体強化」まで出来ている。
クレア達に関しては「魔素の感知」については教えたが、魔素の認識が出来ないのかダグラスほど習得が速くない。個人的な差なのかそれとも別の要因があるのかは不明だ。原因を調べる為に被験者を増やすのもいいかもしれないとトリスは考え始めた。
エルやジョセフに技術を教え被験者にするのもいいのかもしれない。特にエルについては血が近い血縁者に魔術師がいるので被験者としては丁度良い。トリスはそう考えエルに技術を伝えることにした。ジョセフに関しては事情を説明して自身に判断してもらうことにした。
「エルさん、ご希望通り「魔術での身体強化」ができるまでの方法をお伝えします。対価に関しては追々決めますが無茶な要求は言いません。
ジョセフも希望するのであれば一緒に教えるがどうする?」
「俺は遠慮します。」
「どうしてだ?」
「その技術を教えて貰うには同盟者になる必要がありますよね。」
ジョセフは今まで誰かの師事で稽古をしたことが無かった。誰かに師事を受けると大概はその人の同盟者になる必要があった。大概の冒険者は同盟者に所属しておりそれぞれの派閥がある。ジョセフは同盟者に関して快く思っていないので、今まではどの派閥にも属していなかった。
エルとナルは天元槍華に所属しているので必然的に天元槍華の同盟者に属している。天元槍華は違う派閥との交流に関しては五月蠅くない。だが派閥を裏切ることがあれば容赦なく制裁される。酷い派閥では自分達の派閥のメンバーと冒険しただけで制裁対象になる。
ジョセフはそう言った気風が嫌で同盟者には入るつもりはなかった。
「俺に同盟者は無いぞ。」
「えっ!?」
「俺はそもそも単独で『塔』に挑んでいる。同盟者みたいな面倒なモノには興味が無い。」
「でも、ヴァンやあいつの仲間がいるじゃないですか。」
「あいつらはただの居候だ。まだ初心者だから稼いでくる金額も大した額じゃない。ここの家賃も家事手伝いで幾らか精算しているのが現状だ。それなら鍛えてある程度金を稼げるまで育てた方が得策だろう?」
「・・・。」
「強くなりたいなら手を貸す、もっとも後で対価は要求するがお前の意に反するような事はしないさ。とりあえず身体強化については一回見せるからそれを見て判断すればいい。」
トリスはそう言うとジョセフ達を庭へ出るように促した。ジョセフ少し躊躇したが身体強化については興味があるので一度見てみる事にし、エルとナルもそれに続いた。
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