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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
帰還者としての時間
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大都市アルカリス 出禁と下宿

本日三話目です。

ダグラスは両手に荷物を抱えながら家路についていた。四つ目の朝の鐘が鳴る頃に出かけ、市場で買い物をして帰る途中だが身体は疲れていないが心労は大きかった。もう直ぐ三つ目の昼の鐘が鳴る頃だがそれまでフレイヤとローザと買い物をしていた。


『女性の買い物は長い。』


ダグラスもそのことはローザと結婚してからよく判っていたつもりだった。だが女性が一人増えた時はその相乗効果はダグラスが思っていた以上の物だった。


フレイヤとローザは服や下着を選ぶのにほとんど時間を費やし先ほどようやく終わった。終わらせた理由も夕食の準備する時間が迫っていたからで、もし夕食の準備が無ければ夜まで服や下着を選んでいた可能性がある。

そう考えるとダグラスは背中が凍る思いをした。


夕食の食材は既に買い終わり家に向かっている途中だが、先を歩くフレイヤとローザの会話を聞くとまだ選び足りなかったのか給金が出たらもう一度買い物に行く話をしていた。


フレイヤとローザは昨日の昼に長く話し合ったようで今までの関係よりもさらに深い関係になったとダグラスは思う。お互い一歩引いたような距離感が今まではあったが話しを終えてからはもっと距離が縮まったようだ。


ダグラスはそんな彼女達を見ながら路地を曲がった。この路地を曲がれば家は目と鼻の先程の距離だ。もう直ぐたどり着く家に視界を移すと門の前に人が要るくことに気が付いた。人数は四人。ダグラスは直ぐにフレイヤとローザに声を掛けた。


「フレイヤ、ローザそこで止まれ。」


ダグラスは警戒のために二人をその場に止まらせた。ダグラスの指示に会話をしていたフレイヤとローザも直ぐに口を閉じダグラスの指示に従った。ダグラスは持っている手荷物をフレイヤとローザに渡した。フレイヤとローザも門の前にいる人影に気が付きダグラスの背に隠れた。


ダグラスは二人を庇う形でゆっくりと歩き門に近づいた。四人もダグラスに気が付いたのダグラスの方を向いた。ダグラスは素早くこちらを見た四人を観察した。

男性三人。女性一人。服装や持っている武器を持っていることから冒険者と認識した。冒険者がトリスの家になんの用かと思ったがその答えは直ぐに判った。


「ママぁー。」


女性の冒険者がそう叫びながらダグラスの方に走ってきた。ダグラスの後ろにいたフレイヤもその声が自分の娘の物だと判りダグラスの前に出た。


「クレア!」


フレイヤは娘の名前を呼びながらがダグラスに前に出るとクレアはそのままフレイヤに抱き着きついた。フレイヤはクレアが抱き着いた衝撃で荷物を落としそうになったがダグラスが何とか受け止め落とすことは無かった。


「ママ、会いたかったよぉ。」

「クレアどうしたの?」


数日ぶりあった娘の姿に驚きながら娘との再会にフレイヤは嬉しそうに笑った。




トリスが家に帰ると家の中にいる人の気配が増えていることに気が付いた。昨日の今日でまた人が増えるなどトリスは予想していなかったので警戒しながら家の扉を開けた。


「ただいま。」


トリスがそう言って玄関を開けるとフレイヤとローザが奥から出てきてトリスを出迎えた。


「おかえりなさい。」

「お客様が来ています。」


フレイヤとローザ出迎えながらトリスに来客の知らせを伝えた。


「誰が来ている?」

「クレア様、フェリス様、ザック様、ヴァン様の四人です。応接室で待って頂いています。」


ローザは素早く来客の名前と人数をトリスに伝えた。フレイヤは自分の娘がまさかこんなにも早く家に尋ねて来るとは思わなく恥ずかしそうにしていた。


「対応ありがとう。」


トリスは警戒を解き来客が来ている応接室に向かいそのまま応接室の扉を開けた。応接室にはクレア達がお茶を飲みながら寛いでいた、トリスはその様子を見てため息をついた。


「はぁ~。お前たちは何をしているんだ?」

「「「「お邪魔しています。」」」」


トリスがそう言うと四人は恥ずかしそうにしながらトリスに挨拶をした。



トリスは来客が身内だと判断しフレイヤ、ダグラス、ローザも同席させることにした。フレイヤとローザは人数分のお茶を用意し皆に配った。


部屋にはトリス、フレイヤ、ダグラス、ローザ、クレア、フェリス、ザック、ヴァンがテーブルを囲んで座り、お茶を飲んで一息ついた。


「さて、この人数だと何から話していいか判らないがお互い自己紹介は終わっているのか?」

「トリス様が帰ってくる前に一通りしました。」

「ダグラス、今は様付けはいい。こいつらは身内みたいなものだ。フレイヤもローザもいいな。」

「「「はい。」」」


トリスがそう言うと名前を呼ばれた三人は返事をした。


「それでクレア、お前たちは何しにこの家にきた。引っ越し祝いに来た訳ではないだろう。」

「ええっと、それはなんて言うか・・・。お願いがあってきました。」

「お願い?なんだそれは。」

「あの、それは。なんて言うか。とっても言い辛い事なんだけど。」


クレアは何か言おうとするが言い淀んでしまう。何時もトリスに対して遠慮なく話すクレアにしては歯切れが悪い。フェリスやザック、ヴァンを見てもどこか落ち着かない様子だ。トリスはフレイヤ達は事前に話しを聞いているかと思いフレイヤ達を見たが彼女達も何も聞いていないので首を横に振った。


「ザック、なにがあったか説明しろ。この中で一番の年長者だろう。」

「こう言う時だけ年長者扱いされるのは辛いです。けどご説明します。簡単に言いますと俺達は宿屋を出禁になりました。」

「出禁?何かしたのか?」

「はい。クレア嬢ちゃんが昨日宿屋の息子をタコ殴りにしてしまいました。」

「「ええぇ。」」


ザックの説明にフレイヤとローザは驚き声を上げた。トリスは目線で『何やってんだ』とクレアを見つめクレアは恥ずかしそうに身を縮めていた。


「これ以上聞くのが莫迦らしいが一応経緯を話してくれ。クレアが訳も無く人を殴ったりはしないだろう。」

「トリス!」


トリス言葉にクレアは感激した。トリスはクレアに稽古をつける際に一般人への暴力は行わないよう教育していた。冒険者になると横柄な態度を取る者が少なからずいる。魔物を狩る力を得るため気が大きくなるのは判るがそれは間違いである。


冒険者は基本は簒奪者である。自分では何かを生み出すことは出来ない。職人達が作った武器や防具が無ければ『塔』に挑戦することも出来ない。寝床の用意や食事の用意も他人に行って貰えるから冒険に行くことができる。


そのことを忘れると只の無法者と変わらない。トリスはクレアとフェリスに稽古している時は何度もこの事は言い聞かせ、ヴァンに対しても冒険者の心構えとして教えたことがあった。


そんなトリスの教えを受けたクレアが訳も無く一般人を殴るとは思えない。トリスはそう思いザックに話しの続きをさせた。


「ことの発端はクレア嬢ちゃんが冒険者登録した日からになります。」

「この都市にきて直ぐにか?」

「はい、クレア嬢ちゃんはこの容姿なので冒険者組合(ギルド)に行くと直ぐに周りから目を惹いたそうです。」


この時はザックはトリス達とこの家を見に行ったのでヴァンが詳細を話し始めた。


「私の案内でクレアとフェリスを組合(ギルド)に連れて行きました。登録は問題なかったのですがその後に何人かの冒険者にパーティーに入らないか誘われました。私達は三人でパーティーを組むことにしていましたのでその時は断りました。

その日は北区画の道具屋で回復薬(ポーション)など『塔』の中で必要になる物を買い宿屋に行きました。」

「宿は組合(ギルド)で紹介されたところか?」

「はい。宿屋は組合(ギルド)で紹介されたところで夜にザックと合流して宿屋の酒場で情報交換しました。その時にトリスさんが家を購入したことを聞き、家の準備が終わるまで冒険者登録はしないことも聞きました。なので私達は次の日から『塔』を攻略することに決めました。

問題が起きたのは情報交換が終わって食事していた時でした。他の冒険者に絡まれました。絡んできた冒険者はクレアに目をつけまして、最初は穏便に断っていたのですか...」

「乱闘騒ぎにでもなったか。」

「はい。面目ありません。」


ヴァンの話しではその時絡んだ冒険者を追い払うために少し強引に突き放した。冒険者は酒に酔っていたせいか足取りがおぼつかずその場に倒れてしまい、絡んできた冒険者はそのことに激高して周りを巻き込んでの乱闘騒ぎになったとヴァンは説明した。


「その日の晩は宿屋に泊めて貰うことは出来ましたが次の日は拒否されました。なので次の日は別の宿に行ったのですがそこでも同じようなトラブルが起きて出禁になりました。」

「絵に描いたような出来事だな。」

「数日そんな出来事があったので昨日泊まった宿では大人しく部屋に閉じこもっていたのですが、クレアが身体を拭く為に洗い場で身体を洗っている時に宿屋の息子に覗かれました。」

「それでクレアは怒って宿屋の息子をタコ殴りにした。」

「はい、クレアも連日の騒ぎで不満が溜まっていたようでついやりすぎてしまったようです。宿屋の店主は息子がしでかした不始末なので憲兵には連絡されませんでしたが一日だけ泊めてもらい今日からの利用は断られました。

他の宿にも変な噂が流れていて利用できる宿屋が無くなりました。噂を気にしない宿屋は質が悪いか、逆に値が張るような所しかなく恥を忍んでトリスさんに相談しに来ました。」


ヴァンが一通りの説明を終えるとクレアは申し訳なさそうに項垂れ、フェリスやヴァンも一緒にいて騒ぎを止められなかったことに気落ちしていた。そんな彼らを見かねてザックが口を出した。


「トリスさん、俺もクレア嬢ちゃん達と一緒にいましたが今回のことはこいつらに責任はありません。むしろそんな状態なのに『塔』の攻略は順調に進んでいます。どうか何とかして貰えませんでしょうか?」

「具体的にどうしろと。俺が宿を手配しても意味はないだろう...まさか!?」

「はい、クレア嬢ちゃん達をこの家に住まわせて貰えませんでしょうか?」


トリスの購入した家は屋敷と言っても過言ではない程の大きな家だった。三階建てのシンメトリー型の屋敷で一階ごとに客室が用意されて部屋数は全部で二十を超える。今この家を使用しているのはトリス、フレイヤ、ダグラス、ローザの四人なので部屋は十分に余っていた。


「ザックは元々家の準備が終わったらここに呼ぶつもりだったからいいが。クレアにフェリス、ヴァンもここに住まわせるのか。」


この家にクレア達を住まわせるのは問題はない。だが新人の冒険者がこのような場所に住んでトラブルが起きないか心配した。トリス自身はワザと目立つ行動をしているので問題はないがクレア達が他の冒険者の妬みを買ってしまうことに危惧した。


「トリスさん、お願いします。クレアだけでもここに泊まらせて頂けませんでしょうか。実は今まで黙っていましたがクレアは夜這いにも合いそうになったのです。

幸い自分が一緒に部屋で寝泊まりしていたので問題は無かったのですが一歩間違えればとんでもない事になっていました。」


今まで黙っていたフェリスが一番最初に口を開いた。そしてとんでも無い事を報告してきた。


フェリスの話しでは一昨日の夜に誰かが部屋に入ろうとしたらしい。その時は四人部屋が空いてなく二人部屋を二つ借りた。ザックとヴァン、クレアとフェリスが同じ部屋で寝ることになった。部屋は鍵がかかっていたがピッキングでこじ開けようとしていた。フェリスは咄嗟に魔術で部屋に鍵をかけ、魔術結界を張りその時は相手は諦めたようだ。


クレアも今までそのことは知らなかったようでフェリスの話しを聞いて顔が真っ青になっていた。母親のフレイヤを視線を移すとフレイヤもまさか娘の貞操が危機に陥っていたとは思わなくショックを受けていた。


「わ、私ここで働くから、ちゃんと家事するからここに置いて。置いて下さい。」

「クレア、それはフレイヤとローザの仕事だ。お前がしたらフレイヤとローザの職が無くなるだろうが。」


クレアはあまりのことに頭が追い付いていないのか使用人として下宿させて欲しいと頼み込んできた。トリスは呆れながらそれを却下した。しかし実際問題としてクレアをここに置くしか選択肢は無いとトリスは判断していた。


「フレイヤ、使えるベット空きは合ったか?」

「あと、三つ開いています。ザックさんが元々来る予定だったので一つはザックさんの分。残りは来客用に二つが空いています。」

「判った。フレイヤには悪いが今日一日クレアと一緒のベットで寝てくれ。」

「トリスさん、それじゃあ。」

「ああ、クレア、フェリス、ヴァンをここで下宿させる。この際全員を受け入れた方が後腐れが無くていい。クレア、フェリス、ヴァンは明日足りないベットや生活用品の買い出しに行って貰う。」


トリスはフレイヤに空きのベット数を確認し足りていないことを確認し、クレア、フェリス、ヴァンをここで下宿させることを決めた。


「トリス。ありがとう。」

「ありがとうございます。」

「ご迷惑おかけします。」

「さすがトリスさん。太っ腹だ。」


クレア、フェリス、ヴァンがそれぞれお礼をいい。ザックがトリスを称賛した。


「購入に必要な資金は後でフレイヤに渡す。クレア、フェリス、ヴァンはさっき言った通り明日は日用品の買い出しに出て貰う。大所帯になったから浴槽や洗面所を幾つか開放する。その為にフレイヤは三人を連れて買い出しに出て貰う。」

「俺はどうします?」

「ザックは本職に戻って貰う。気になることが出てきた。」

「了解です。」

「ダグラスとローザは明日から本格的にここで働いて貰う。人数が増えたことでローザには少し苦労を掛けるがよろしく頼む。」

「大丈夫です。」

「ダグラスはクレア、フェリス、ヴァンの世話を頼む。時間が空いている時はこいつらに素手での戦闘を教えて欲しい。特にクレアには護身術や寝込みを襲われた時の対処など知っていたら教えてやってくれ。」

「はい。一通りの護身術は熟知していますの大丈夫です。」


トリスはここにいる全員に指示をだした。


「では今日は宴会にするか。フレイヤ、ローザ用意を頼む。食料は存分に使っていい。明日も買い出しに出て貰うからな。」

「はい。」

「腕によりをかけて作ります。」

「ダグラスは悪いが俺とベットの用意に付き合ってくれ。」

「了解しました。」

「クレア、フェリス、ヴァン、ザックは風呂に入れ。このところ気が休まる日が無かっただろう。今日はゆっくり休んで明日から頑張れ。」

「「「「はい。」」」」


クレア、フェリス、ヴァン、ザックは久しぶりに落ち着いて休めることに安堵した。


いつも通り、誤字脱字の指摘や感想などを頂けると幸いです。

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