大都市アルカリス 完治と同盟者
本日二話目の投稿です。
ローザとダグラスの治療を終えた朝、フレイヤは目が覚めると身なりを整え早速ローザとダグラスの部屋を訪れた。昨日の夜はフレイヤも看病すると申し出たがトリスが断った。トリスとフレイヤが二人とも徹夜で看病した場合、朝から看病できる人がいなくなるので分担することになった。
「おはようございます。フレイヤです。」
ローザとダグラスがいる客室にノックをして朝の挨拶をするとトリスが部屋の扉を開けた。
「おはよう。二人はまだ眠っているから先に朝食の準備をしてくれ。」
「はい、判りました。トリスさんはどうしますか?」
「俺はこれから寝る。飯は...いらない。起きた時に食べる。
ローザはもう普通の食事で問題ない。ダグラスには小魚や果物を多く食べるように言ってくれ。後、ダグラスは家の中なら歩き回っていい。じゃあお休み。」
トリスはそう言うと自分の部屋に行ってしまった。フレイヤはトリスを見送った後ダグラスとローザの様子を見るために静かに部屋の中に入り二人の様子を見た。
「まぁ。」
ローザの顔に巻かれていた包帯が取れており、覗き見たフレイヤが歓喜の声を上げた。
ベットに横たわり眠っているローザの顔は昔のような綺麗な顔に戻っていった。昨日まであった腫れや爛れがすっかり無くなっていた。ローザの顔をみて嬉しくなったフレイヤは徹夜で治療してくれたトリスに感謝した。
ローザとダグラスは台所から流れてくる匂いで目が覚めた。部屋の中にはトリスはおらず二人で顔を見合わせた。身体が栄養を欲しているのか先ほどから空腹を感じる。ダグラスは歩くことを禁じられていたのでローザが様子をみる為に台所に向かった。
ローザが台所に行くとフレイヤが料理をしていた。大鍋でスープを煮込み、フライパンでオムレツを作り、パンを焼いていた。この台所は魔鉱石で動く調理器具が完備されているため火の調整や時間管理は全て自動で行われる。その為フレイヤ一人でも賄えるが作っている量は五人分以上ありフレイヤは台所を忙しく動き回っていた。
「フレイヤ、おはよう。」
「ローザ、起きたのね。おはよう。今、朝食を作っているからもうちょっと待っていてね。」
「手伝おうか?」
「なら、食器を出して欲しいの。そこテーブルに並べて。」
「判ったわ。」
ローザは指示されて通りに食器をテーブルに並べた。フレイヤは出されて食器に次々と出来上がった料理を移した。ローザはその料理を食堂に運び朝食の準備を行った。
準備が一通り終えるとフレイヤは部屋にいるダグラスを呼ぶようにローザにお願いした。トリスから『家の中であれば歩き回っても良い』と託があり、ローザはダグラスを呼びに部屋に戻った。
「「「いただきます。」」」
ローザがダグラスを引き連れて食堂に戻ると朝食の準備は終わっていたのでフレイヤ達は早速朝食を食べることにした。
朝食はカボチャのスープ、季節の野菜サラダ、オムレツ、燻製肉、焼き立てのパン、パンに塗る果物のジャムにバターがテーブルに置かれていた。ダグラスにはトリスから指示があった小魚の燻製もあり普通の庶民ではまずあり得ない豪華な朝食だった。
ローザとダグラスにとってはこのような贅沢な朝食は数年で夢中で朝食を食べた。
「「「ご馳走でした。」」」
朝食を食べ終えた三人は膨らんだお腹を押さえながらお茶を飲んでいた。
「お腹いっぱい。朝からこんなに食べたら太っちゃう。」
「ローザは少し食べすぎた方がいいのよ。病気だったせいで痩せているじゃない。」
「そうかなぁ。でも気を付けないと直ぐに標準より上にいっちゃいそう。」
「そうね。私も歳だから直ぐに身体に出ちゃうかも。」
「フレイヤがそんなこと言っても説得力ないわよ。」
ローザはいまだ二十代前半の容姿に見えるフレイヤを見ながら会話に花を咲かせた。
「だがいいのかトリスさんがいない時に食料をこんなに使ってしまって。」
ダグラスは今三人が食べた朝食の事を考えていた。材料は良品を使いそれを五人分以上は今の食事で消えていた。このような家を持っているトリスからしたら微々たることかもしれないがそれでも今まで質素な生活をしていたダグラスはどうしても気になってしまう。
「大丈夫です。トリスさんからは『沢山食べて早く身体の調子を取り戻せ』と言われています。特にダグラスさんはトリスさんがいない間はこの家の警備を任せれます。だから早く体力を戻すように指示がありました。」
「そうか、本当にトリスさんには感謝の気持ちしか出てこない。自分より年下の相手にこのような思いを抱くとは思わなかった。」
「・・・トリスさんはダグラスさんより年上ですよ。今年で四十三歳になると言っていました。」
「「えっ。」」
フレイヤの言葉にダグラスとローザは驚いた。ダグラスとローザはまだ二十代後半でトリスを年下だと思っていた。トリスの見た目は二十代前半にしか見えなかった。それ程若々しく活力がみなぎって見えていた。
「イーラ、私の夫のご友人ですからそれぐらいの歳でもおかしくないですよ。」
「そう言えば再会した時にそう言っていたね。」
「ええ、今まで何をしていたのかは具体的には知りませんが有名な方と一緒に居たみたいでその時にお金を貯めたそうです。」
「有名な方?誰ですそれは?」
「私は口止めされているので言えません。知りたければトリスさんに直接聞いてください。」
フレイヤの説明にローザとダグラスはこれ以上の詮索はしないことにした。恩のある雇用主に失礼なことは出来ない。秘密があるならトリスの口から直接聞くことにした。
「では、朝食を片付けます。ローズとダグラスは休んでいてください。」
「私も手伝うわ。動かないと体力が戻らないから。勿論、誰かさんが心配するから無理はしないけど。」
「もう、ローズったら。」
「では、私も手伝おう。」
「「ダグラス(さん)は休んで。」」
異口同音。ダグラスも何か手伝おうとしたがフレイヤとローザに止められてしまった。まだ怪我が完治していないダグラスは部屋で休むように妻とその友人に言われた。
三つ目の昼の鐘が鳴る頃にトリスは目を覚ました。昼食には遅すぎて、夕食には早すぎる中途半端な時間に目を覚ましてしまった。トリスは寝巻から動きやすい服に着替えて庭にでた。夕食前に軽く運動をして腹を空かせる魂胆だ。
庭に出たトリスは昨日武器屋で買った二振りの剣を持ってみた。しかし今まで使っていた剣よりも何処か頼りなく感じる。実際に素振りをしてみたが違和感が強く今の剣の代わりにはならなかった。暫く身体に馴染ませるために剣を振ったが違和感は取れなかった。
トリスは一通りの運動と確認が終わったので物陰に隠れいる人物に声をかけた。
「隠れていないで出てきたらどうだ。」
「何時から気が付かれました?」
「割りと直ぐだ。声をかけてこないし、気配も消していないから不思議に思っていた。」
「稽古の邪魔をしては悪いと思いまして。」
物陰にいた人物はダグラスだった。庭にトリスがいることに気が付いたのでわざわざ庭に出向いて来たようだ。
「足の調子はどうだ?痛みや違和感はあるか?」
「問題ありません。むしろ怪我をする前より調子がいいです。」
「それは良かった。なら組み手でもどうだ?少し身体を動かしたいだろう?」
「はい。」
トリスの誘いにダグラスは直ぐに返事をした。今日一日で足の状態はほぼ完治していた。だがフレイヤとローザは大事を取ってダグラスに歩く以外の事をさせて貰えなかった。身体を動かしたいダグラスにとっては正直苦痛だった。
ダグラスは念入りに準備運動をして身体をほぐした。せっかく足が完治したのにまた怪我をしては元も子もない。
ダグラスの準備が終わると二人は一定の距離をとって対峙した。トリスの手には剣は無く素手での組み手だ。トリスのダグラスは互いに構え間合いを取った。
「破っ。」
先に仕掛けたのトリスだ。トリスはダグラスの顔面目掛けて右拳を放った。ダグラスはそ拳を紙一重に躱してトリスの右腕を絡め取った。そのままトリスの足を払いトリスを地面に跪かせた。右腕は背中に回されダグラスに拘束されている。ダグラスに背後を取られているのでトリスはこれ以上の抵抗は出来ない。
「参った。降参だ。」
トリスは素直に負けを認めた。
トリスが負けを認めたのでダグラスはトリスの右腕を放し拘束を解いた。
「なぜ、顔面を狙ったのですか?もしかしてあの時の続きですか?」
「ああ、自分の目に狂いは無いと確かめたかった。案の定右腕を取られた。さらに足払いで体制を崩され、拘束されるとは思わなかった。」
「恐縮です。」
ダグラスの問いにトリスは素直に答えた。トリスは自分の予想よりもダグラスの実力が高いことが解り満足していた。
「さて、この分だと明日から警備の仕事をしてもらっても差し支えなさそうだが。」
「はい、問題ありません。」
トリスはダグラスの手を借りて立ち上がりながらダグラスの仕事始めを考えていた。明日から警備の仕事をしてもらっても良かったが気になることがあったのでまずはそれを聞くことにした。
「ダグラスは基本無手だよな?」
「はい、そうですが?」
「拳を守る手袋やテーピングはしないのか?」
「テーピングはしませんが皮の手袋はしています。刃物を裁く時や相手を殴る時に手を傷めないようにするために。」
「今、その手袋はあるのか?」
「お恥ずかしい話ですがローザの薬を買うために質に入れました。」
「そうか。」
トリスは少し考えあることを決めた。
「質に入れたってことはまだ買い戻せるな。もし駄目だったとしても新しい物を仕立てて貰おう。」
「トリスさん。そこまでして頂くのは。」
「気にするな。従業員の職場環境を整えるのも雇用主の務めだ。どうせなら服も新調してもらう。明日フレイヤとローザを連れて買い物に出て貰う。」
そう言うとトリスは家に戻り明日の予定をフレイヤとローザに伝え必要な物を買うように指示した。
翌日、トリスは再度冒険者組合に向かい、フレイヤとローザ、ダグラスは従業員用の服や食料の買い出しに出かけた。
昨日トリスがダグラスの手袋や服を新調する話しをした時にフレイヤからローザのことも相談された。フレイヤの話しでは二人とも服と下着は着ている物しか無く、替えの下着や服が無い事を相談された。トリスはそれを聞きこの際必要な物を全て買い揃えるようにフレイヤに指示した。
ローザとダグラスは最初は遠慮して断ったが『今更遠慮してどうする。給料が出るまで着切雀でいるのか?』と言われ、トリスの指示に従うしかなかった。
冒険者組合に訪れたトリスは依頼が張り出されている掲示板に向かった。トリスのE階級の為基本受けられる依頼内容は限られているがそれでもいつくかの依頼を見つけた。
もっともその依頼は苦労する割には報酬が安い、いわゆる『塩漬け依頼』だった。だがトリスは敢えてそう言った物を探しメモをしていた。
「そんな依頼を受けてどうするのですか?」
トリスは不意に横から声を掛けられた。声をした方を見ると一昨日トリスの冒険者登録をしてくれたミリアが立っていた。
「こんにちは。ミリアさん。」
「はい、こんにちは。トリスさん。まだ『塔』には挑戦してないのですよね。」
「ええ、まだ行っていません。」
「珍しいですね。普通の冒険者は登録をした翌日にはみんな『塔』に挑戦するのにトリスさんは今日も行かないのですか?」
ミリアは気さくにトリスに話しかけてきた。組合の中には珍しく冒険者が殆どいなく職員たちも暇を持て余しているようだ。
「ええ、ちょっと急用が出来ましてまで挑戦できていません。明日にでも行くつもりです。」
「それで掲示板を見ているのですか?でもE階級が受けられる依頼はほとんどありませんよ。あっても。」
「ええ、割に会わない仕事が多いですね。その為、塩漬け状態になっています。」
「組合としては無理に新人の方にお願いすることは出来なくて、かと言って階級が高い方は報酬が安いので受けてくれません。正直困った案件です。」
「なら、ベテランが新人に教えるのはどうなんです。新人教育の一環としてベテランと新人を組ませる。組合からベテラン冒険者に依頼して新人と組ませる。その時の依頼内容として誰もやらない依頼を選定する。
組合は依頼達成でき、ベテラン冒険者は組合に貸しが作れ得る。新人冒険者はベテラン冒険者から学べる。そう言ったことは出来ないのです。」
トリスが今思いついた内容をミリアに話すとミリアは急に真剣な表情をしてトリスの話し始めた。
「トリスさんは同盟者ってご存知ですか?」
「アライ?聞いたことないです。」
「同盟者はある派閥に属している人を指す言葉です。二十年近く前に出来た言葉で本来の意味は同盟者つまり仲間や協力者してくれた人に使う冒険者の言葉でした。」
「それは判りますが先ほどの私が言った内容と関係があるのですか?」
「あります。先程トリスさんは『ベテランが新人を指導すればいい。』と言いました。」
ミリアの言葉にトリスは頷く。
「でもベテランの人は大体先ほど言った同盟者に入っています。勿論自分のパーティーメンバーも同じ同盟者に所属しています。
もし、同盟者に入っているベテラン冒険者が新人冒険者に教えたら。」
「なるほど、普通の人間ならお世話になった人を尊重し尊敬するから同じ同盟者になるしかない。もしくはベテラン者は同盟者に所属している為教わるには同じ所属になるしかない。そうすると必然的にその中で上下関係が生まれる。」
「その通りです。」
「当然同盟者は複数あり派閥のようなものも存在している。冒険者まで派閥争いがあるなんて世知辛いですね。」
「はい。中には今の同盟者に対して不満を持つ人はいます。けど。」
「異議を言うにしても今の情勢に問題が無ければ誰も取り合わない。社会が求める冒険者の仕事は『塔』の素材を持ち返ること。それがきちんとできていれば都市の行政も組合も何も文句は言えない。」
「仰る通りです。」
ミリアはそこまで話すと目に見えて落ち込んでしまった。ミリアも含めこの情勢に不満を持つのは冒険者だけで無く組合職員にも少なからずいるようだ。だがトリスは自分の目的とは関係ないことなのでそれ以上は何も言わず掲示板の依頼内容を確認する作業に戻った。
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