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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
帰還者としての時間
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大都市アルカリス 治療と本音

明けましておめでとうございます。

元日から書いていた物をアップしていきます。


ローザが夜中に目を覚ますと腹部が暖かい物に包まれている感じがした。ローザは視線を自分のお腹の方に移すとトリスがローザの腹部に手を当てていた。夜中で視界が悪い筈がトリスの両手が淡い光で包まれていたのでローザは認識することができた。


「目が覚めましたか。身体のどこかに痛みなどはありますか?」


トリスに言われて自分の身体を確かめてみた。寝る前は身体の至る所で痒みを感じていた。だが今はそれが無い。両手を目の前に持ってくると腫れや爛れが無くなっていた。あるのは腫れや爛れがあった場所に薄っすらと赤みがあるだけだった。


「これは?」

「薬と治療魔術が利いているのです。腫れや爛れはもうない筈です。痛みや痒みがあれば教えてください。」

「だ、大丈夫です。」


あれだけ身体を蝕んでいた病が一度寝てしまったくらいで治ってしまったことにローザは驚きを隠せなかった。顔の左側に巻いていた包帯も今は無く、顔を触ってみても痛みは全く、腫れや爛れも無くなっていた。寝る前にトリスが説明した通りになっていた。


「明日には完治するのですか?」

「ええ、明日には治りますよ。体力が落ちているので日常生活を送るのは明後日からにしてください。もう少したら一旦治療を止めて、ダグラスさんの方を見ます。」


トリスはもう一つのベットで眠るダグラスを見ながらローザに治療の状態を説明した。今は穏やかな寝息を立てて眠っているが治療した直後はダグラスは激痛に耐え苦しんでいた。


ダグラスの左足は正しい治療が行われていなかったため、骨が正しい整形をしていなかった。その為トリスはダグラスの左足を整形し直した。整形には大きな痛みが伴いダグラスはその痛みで先ほどまでは眠ることも出来なかったほどだ。今は治療も終わり後は経過観察でダグラスは元の生活に戻ることが出来る。


「ローザさんもすぐ良くなりますからもう一度眠ってください。」

「ありがとうございます。ですが目が覚めてしまって眠くないのです。」

「そうですか。では、喉は乾いていませんか飲み物でしたらお水はを用意してあります。」

「頂きます。」


トリスはローザの腹部から手を放し椅子から立ちあがった。部屋の隅に移動してテーブルの上に置いてあるコップに水差しから水を注いだ。トリスの両手はローザから放した治療魔術を一時中断しているので光は消えている。部屋の中はわずかな月明かりでのみが射しこんでいる状態で室内は薄暗い。しかしトリスは足取りや手つきに迷いはなかった。


「どうぞ。お水です。」


トリスはローザの傍に水を注いだコップを差し出した。ローザも状態を起こしてコップを受け取った。ローズはコップに口をつけ水を飲んだ。水には砂糖と塩が混ぜてあるのか不思議な味がしたがとても飲みやすかった。ローザを水を飲み干すとコップをトリスに返した。


「美味しかったです。」

「もう少し飲みますか?」

「いいえ。それよりトリスさん、お世話になっている身なので私とダグラスに敬語は不要です。今後あなたに雇って貰う身なので敬語で接し頂けるのはちょっと気が引けます。」

「そうですか。いや、そう言うことなら敬語はやめよう。」


トリスは口調を戻すとコップを元の場所に置き治療を再開した。


トリスの治療魔術でローザのもう随分と楽になった。下手をすると病気になる前よりも体調が良い。全ては今日フレイヤと再会したことによる幸運だ。

ローザはそう思わずにいられず、だがそうなるとかつて胸の内に閉まっていたある思いが罪悪感となってローザを心に棘の様に突き刺さる。ローザは思わず自分の心の内を零してしまった。


「私はレイラ、、、フレイヤを見捨てました。」

「それは娼館にいた頃の話しか?」

「はい、私は父親の借金のカタに娼館に売られました。最初は父を恨みながら仕事をしていました。娼館にはそう言った女が沢山いるので珍しい話ではないんです。」

「・・・。」


突然のローザの言葉にトリスは驚いたが敢えて口を挟まなかった。トリスは黙ってローザの話しを聞いた。


「娼館に入って数年してフレイヤが娼館に来ました。なんでこんな美人が娼館に来たのか最初は驚きましたが自分と同じで借金のカタに売られたと聞き親近感が湧きました。娼館のオーナーから教育係に任命されフレイヤに指導をしました。娼婦としての技術や悪い客の見分け方や対象方法などを彼女に教えました。」


ローザの独白は続いた。


「フレイヤは素直に私の教えを従い借金を返していきました。私もそんなフレイヤを見習って自分の借金を必死に返しました。フレイヤと一緒に働けた事は不謹慎かもしれませんが良かったと思いました。

それから数年経った時、夫のダグラスと知り合いました。ダグラスとは歳が近かったこともあり直ぐに打ち解け男女の関係になるまでそう時間はかかりませんでした。」

「・・・。」

「そして、二人で相談してサリーシャの街を離れることにしました。借金もその時には返済が終わっていたので店に残る必要もありませんでした。でも店にはまだフレイヤが働いていました。彼女にも勿論事前に相談し、フレイヤは祝福してくれました。それがきっかけで私は娼婦から足を洗いました。」

「それなら見捨てたことにならないと思うが。」

「いいえ、その頃の私は娼婦と言う仕事に嫌悪感を抱いたのです。本当は愛した人がいるのに他の男に身体を晒すことが苦痛になりました。ダグラスがいるからもう二度と娼婦の仕事はしたくないと思いました。自分の幸せを第一に考え、まだ借金を返し終わっていないフレイヤを残してサリーシャを離れました。」


ローザの瞳には薄っすら涙が貯まっていた。今まで内に秘めていた思いを吐き出し洪水の様に様々な感情があふれ出していた。


「でもダグラスが怪我をして仕事を解雇されお金が無くなった時に私は思いました。これは罰なんだと。フレイヤを見捨て自分だけ幸せになろうとしたから神様が罰を下したんだと思いました。この都市に来たばかりだったので私では直ぐに職を探せません。

職人のような技術を持っていない私が唯一持っているのは娼婦としての経験。だから私は嫌悪感を抱きながら娼館で働くことにしました。その後病気にかかった時も驚きはしましたがこれも罰だと割り切りました。もう自分は二度と普通の生活には戻れないこのまま死ぬのだと思いました。」

「・・・。」

「でも、偶然この都市で再会したフレイヤが私を助けてくれた。フレイヤを見捨てた私に手を差し伸べ、こうして治療も受けさせて貰っている。私はフレイヤに助けて貰える人間ではないのに...」


ローザは泣きながら今までため込んでいた胸の内を全てトリスに吐き出した。それは教会で懺悔を行う罪人の様に。トリスはそんなローザを慰めることはせず自分の考えを話し始めた。


「ローザが助けてるに値するかしないかはローザが決めることではない。それは手を差し伸べたフレイヤが決めることだ。」

「えっ。」

「フレイヤが自分が見捨てられた思っていたら手を差し伸べたりはしない。少なくとも俺なら恨んでいたり、嫌っていた相手が苦しんでいるなら何もしないか、苦しみを増す手段をとる。

それに神様なんてものもいない。仮にいるとしても人の行動や感情を見ながら罰を与えるならこの世の中に悪人が居無くなるのが道理だ。でも現実はそうじゃない。悪行も善行も全て人間が自分で考えて行い、それが何時か自分に返ってくる。」

「なら私は。」

「ローザは少なくともフレイヤが助けたいと思った人間だ。そして実際にこの家に連れてきて俺に合わせた、フレイヤは俺が治療魔術を使えることは知っていた。あいつはもしかしたら俺が治療するのも当てにしていたのかも知れない。」


トリスが治療魔術を使えるのは極秘となっている。ローザもダグラスもトリスが治療魔術を使えることを聞いた時は驚いた、


治療魔術を使える者は教会の関係者、『神に仕える者』しか扱うことが出来ない。だがトリスは教会の関係者ではない。このことが教会に知られた場合はかなり面倒なことになる。その為トリスが治療魔術を知られた場合は必ず口止めをし、ローザとダグラスにも口止めをしている。


「仮に俺が治療しなくても自分の貯金からローザの薬代くらいは賄っただろう。その後でローザの病気が治った後に何処かで働ける場所を探していたさ。もしかしたらここで働けるよう俺に相談しにきたかもしれない。」


トリスの言葉にローザは先ほどとは違う涙が流れ始めた。


「ローザは幸せになる為に頑張った。少し遠回りになったがこれから幸せになればいい。フレイヤに助けて貰ったことに負い目を感じるならこれからフレイヤの手助けをすればいい。ローザは今、生きている。健康な体も戻ってくる。まだやり直せる。」

「はっ、はい。」


トリスの言葉にローザは泣きながら答えた。

ローザはトリスの言葉を聞きある決心をした。体調が良くなったフレイヤと沢山話しをしよう。過去のこと、現在のこと、未来のこと。沢山話しをして喧嘩になるかもしれない。でも最後は仲直りしてもう一度幸せになるために一緒に生きて行こうとそう誓った。




トリスは泣きつかれて眠ってしまったローザから手を放した。ローザの治療はこれで終了した。


「次はダグラスの番だが、妻の悩みくらい夫が聞かなくてどうする。」

「すまない。感謝している。」


トリスは寝ている筈のダグラスに声を掛けた。だがダグラスは眠ってはいなかった。


「狸寝入りしているくらいなら泣いている妻に優しい声を掛けろ。」

「私もローザと同じ気持ちだった。娼館の用心棒をしていた時にフレイヤの事は知っていた。ローザと仲の良い彼女を見捨てる様な事をして幸せになっていいのかとも考えた。」

「俺から言うのも変だが、深く考えすぎだ。もともとフレイヤを娼婦にしたのは別の人間だ。裁きを受けるならそいつ等だ。ダグラス達じゃない。」

「そうだが。」

「もし、フレイヤが助けて欲しいと言っていたら確かに見捨てたことになるがフレイヤは自分で何とかしようとしていた。だから気に病むことは無い。足を触るぞ。」


トリスはそう言うとダグラスの左足を触り骨の状態を確認した。トリスに左足を触られダグラスは痛みを我慢しようとしたが不思議と左足の痛みはなかった。寝る前にのたうち回る程の痛みがあったのに今は少し違和感しかなかった。


「だいぶ良くなった。試しに立ってみるか。」


トリスはそう言うとダグラスに立ち上がる様に指示をした。ダグラスは言われた通り両足に力を入れた。何時もなら左足に痛みが走ったり、力がうまく伝わらず杖が無いと立ち上がることは出来なかった。

だが今は左足に違和感はあるが普通に立ち上がることが出来た。


「よさそうだな。歩くのは昼間まで待て。今は骨が治ったばかりで定着するまでもう少し時間がかかる。ゆっく腰を下ろせ。」


ダグラスはトリスに言われた通りベットに座りなおした。そして目から涙が溢れた。またこうして普通に立ち上がることが出来たことが嬉しくて自然に涙が溢れてきた。


「夫婦そろって涙腺が弱いな。」

「このご恩は必ずお返しします。」

「ああ、期待している。その為に治療したんだからな。」


トリスはそう言うとダグラスに寝るように言った。左足の違和感も昼間には無くなるので今はゆっくり体を休めるようにダグラスに伝えダグラスもそれに従った。


これでローザとダグラスの治療はほぼ終わった。トリスは部屋にある椅子に腰かけて二人を見守ることにした。もし二人に異常があった時に直ぐに対処できるようこのまま朝まで部屋で見守ることにした。朝になれば別室で寝ているフレイヤが起きてくる。その後は二人の面倒はフレイヤに任せることにした。


徹夜作業になってしまったがそれも仕方がない。元々使用人を雇う予定だったので丁度良かったとトリスは思うことにした。


この状態では明日『塔』に行くのは得策ではないとトリスは判断し、窓外に見える『塔』を見ながら今後のプランを練り直すことにした。



いつも通り、誤字脱字の指摘や感想などを頂けると幸いです。

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