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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
帰還者としての時間
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商業都市ダリス 冬の過ごし方

新章突入です。

『商業都市ダリス』にあるアーロンの店は今日も繁盛していた。昼食前に開店してから次々とお客が訪れ店の前には行列が出来ていた。今年の秋の売り上げは去年に比べて四割も増していた。アーロンは嬉しい悲鳴を上げながら今日も料理を作る。


「四番テーブルの料理できたよ。」

「はーい。」


アーロンは注文の品が出来たので給仕の子に声を掛けると元気な声が返ってきた。呼ばれた給仕の子は出来上がった料理を溢さないようテーブルに運んで行った。


「お客様。お待たせしました。」


女の給仕の子は元気よくお客に声を掛けると運んできた料理をお客の前に置いた。十五歳くらいの少女が金色の髪を三角帽子纏め笑顔で対応する。料理を出されたお客は給仕の子の対応に満足しながら運ばれた料理に手を付けた。


「ではご注文を繰り返します。日替わりランチを二つ。一つは大盛で宜しいですか?」

「は、はい。お願いします。」

「間違えいないです。」


違うテーブルでは二十代の女性が料理の注文を取っていた。こちらの女性も金色の髪を三角帽子に纏めていた。先ほどの給仕の子よく似ており姉妹に見る。女性の物腰は柔らかくしかしどこか艶のある仕草に注文をした客は思わず声が裏返ってしまうほどに見惚れてしまう。


「店長。日替わりランチを二つ。一つは大盛で二番テーブルになります。」

「あいよ。」


注文を受けた給仕の女性はそのまま奥の厨房に行き店長のアーロンに注文の内容を伝えた。アーロンは新たに受けた注文に返事をしてさっそく料理を開始する。次から次へと来る料理の注文は休まることはない。昼飯時にこの繁盛は店の経営者としても料理人としても冥利につきる。


もっとも客の目的の半分は自分の作る料理ではなく給仕の二人だと言うこともアーロンは承知していた。今年の夏に雇った給仕の二人。クレアとフレイヤは見た目は間違いなく美少女、美女の部類に入る。しかも一見姉妹に見える彼女らは実は母娘だ。


クレアは見た目通りの年齢だがフレイヤは一児の母親とは思えないほど若く美しい見える。今年で三十五歳になると言っていたが見た目は二十代と言われて十分に通じる。金色の髪に優し気な青い瞳。透き通るような白い肌に女性らしい豊かな体つき。街ですれ違えば余程の性癖が無ければ男は誰でも見惚れてしまう容姿だ。


一方クレアも母親とよく似ておりフレイヤを幼くした容姿だ。まだ成長途中である為どことなく子供っぽい容姿だが紛れもなく美少女だ。母親譲りの金色の髪に少し勝気な目元が印象的で将来フレイヤと同じ様に美女に成長するだろう。


そんな二人が給仕をしている店があれば砂糖に集る蟻と同じように男たちは集まって来る。少しでも二人とお近づきになりたい下心ある男は店の常連になり当然店の売り上げはうなぎ登りになる。


今日の昼食もその男たちのおかげで昼食も大いに繁盛した。昼を少し過ぎたところだが嬉しいことに昼食用に仕込んだ材料がそろそろ底をつきそうだ。もう少しなら客の入れても問題は無いがアーロンは今日の昼は閉めることにした。


店が開店してからずっと調理をしているアーロンの体力がろそろ限界に近い。そろそろ休憩をしないと料理のクオリティが下がってしまう。いくら給仕の二人が目当ての客が多くても料理のクオリティを下げるのがアーロンの料理人としても矜持に反するからだ。


「フレイヤさん、すまないが店の看板を裏返してくれ。今日の昼はここで終了だ。」

「判りました。」


アーロンの指示にフレイヤは返事をして店の入り口の扉に向かった。アーロンに指示された通りに店の外にある看板を裏返し為ドアに手をかけようとした時、タッチの差で店の扉が開いた。


カラーン、コローン。


店の扉に付いているベルが鳴り店の扉が開いた。


「すいません。今日のお昼は終わりました。申し訳ありませんが今日はお引き取り下さい。」


フレイヤはお辞儀をして店の扉を開けた客に謝罪した。ここ数ヶ月で何度もした動作だった為に客の顔を見ずに対応してしまった。


「それは残念だ。だが元気そうで安心した。また、夜に来るよ。」

「え、」


客の声に聞き覚えがあった。もう暫く聞いていないが間違えるはずはなかった。フレイヤは顔を上げ扉を開けた客の顔を見た。扉を開けたのは数ヶ月も前に別れたトリスだった。


「トリスさん。」

「久しぶりだな。フレイヤもクレアも元気そうで何よりだ。」

「トリス!」


フレイヤの声を聴いたクレアもトリスに気が付き歓喜の声を上げた。

給仕をしていたクレアはトリスを見ると子犬のようにトリスの元に駆けつけた。


「い、何時戻って来たの?」

「ついさっきだ。宿に荷物を置いてそのままここに来た。」

「い、何時までこの街にいるの?」

「春まで滞在する予定だ。それよりも仕事中だろ。フレイヤもクレアも仕事に戻った方がいい。」


突然のトリスとの再会に呆けていたフレイヤと子犬のようにはしゃぐクレアはトリスから仕事に戻るように言われた。二人は慌てて仕事に戻ろうとした時、厨房からアーロンが顔を出した。


「トリスさん、戻って来たんですね。」

「アーロンさん、お久しぶりです。その節はお世話になりました。」

「いえいえ、こちらこそ色々お世話になっています。良かったら席に座って下さい。」

「お昼は終わりでは?」

「トリスさん一人なら何となります。酒のツマミなら直ぐに出来ますからどうぞ座って下さい。」

「では、お言葉に甘えます。」


トリスはアーロンに薦められ店のカンターの席に着いた。久しぶりにアーロンの料理が食べられることにトリスは胸が躍るのを押さえながら料理が来るのを待った。


そんなトリスの様子に他の客達は興味津々に彼を観察した。店長の知り合いと言うことは先程のやり取りで理解した。だが問題はフレイヤとクレアとの関係だ。二人の様子からただの知り合いなのは予想できる。


だが只の知り合いではないようだ。トリスが来てからフライヤとクレアの様子は先ほどまでと比べ物にならない程上機嫌だ。最初はフレイヤかクレアの恋人かと思ったがどうも二人の様子からして恋人同士と言うわけではなさそうだ、だがトリスの様子を盗み見る二人を見るとただの親しい間柄でもなさそうだ。二人に下心がある客達の心中は穏やかでいられない。


そんな客達の思いにトリスは知って知らずかアーロンから渡された果実酒を飲んで旅の疲れを癒していた。




店のお客が全員帰った後に店内はアーロン達従業員以外トリスしかいない状態で四人は昼食を取りながらトリスに今までの事やこれから事を聞いていた。


トリスは夏にダリスを出た後に王都に向かった。王都に知り合いがおりアーロンから聞いたスーサ領のことを詳しく知るためだ。だがそれは結局徒労にに終わってしまった。トリスが王都に着く頃にはスーサ領の問題は解決された。


「スーサ領はトリスの故郷なの?」

「違う。と言うか正確に言うと母親の故郷だな。」

「だから慌てていたんだね。」


トリスの話しを聞いてクレアは思ったことを聞いた。トリスは母親の故郷を救うために奮闘しようとしたが結局徒労に終わってしまい、そのまま王都の友人に頼まれごとを解決するため今まで王都付近に滞在していたことを話しをした。


「詳しくことは言えないが友人の頼み事が終わったからこの街に戻ってきた。」

「じゃあ、暫く街にいるんだね。」

「ああ、さっきも言ったが春になるまでこの街に逗留する予定だ。冬は雪が降るから移動するのは危険だしな。」


大陸の南西に位置しているインフェリスは王都リサリアを含め春夏秋冬がはっきり別れている。大陸の中央や他の島国ではここまで四季がはっきりと別れていない。一年中を通して暑い地域もあれば冬のように寒い地域もある。


それにインフェリスの冬は雪がよく降る。その為、冬場の街道には必ず雪が積っている。雪が積もった道を旅をするには危険で足場が悪いため思うように進めず立ち往生することが多々ある。しかももし野営などになったら凍死する可能性も出てくる。その為インフェリスでは冬場に移動する旅人は滅多におらず、冬が間違に迫っているこの季節に移動するのも例外ではない。


「俺の話はいいからそっちはどうだった。トラブルや困った事はなかったか?」

「大きなトラブルはなかったよ。」

「ええ、お預かりしたお金で助かりました。使った分はきちんと返しありますので後でお渡しします。」


トリスの質問にクレアとフレイヤは素直に答えた。

この店の二階にフレイヤ達は寝泊まりしている。最初は家具さえなかった部屋だったが、トリスが去る直前に渡されたお金を借りて身の回りに必要な物を買い揃えた。


トリスが何時戻って来てもいいようにここ数ヶ月働いた給金の大半は借りた分の返済としてきちんと保管していた。


「良かれと思って金を預けたが逆に気を使わせてしまったようだな、だが二人が元気で安心した。」

「そんなことありませんが...」


旅から戻ったトリスは落ち着いていた。今までは憑き物があるような雰囲気と時おり見せていた焦燥感などの暗い気配があった。しかし戻ってきたトリスにはそのような気配は全くなかった。穏やかで暖かい雰囲気と時おり人を気遣う優しさがある。


しかし何か違和感のようなモノもあった。壊れてはいけないモノが壊れてしまったような漠然とした不安感をフレイヤは感じていた。娼婦として長年様々な顧客を見ていたフレイヤだから判る直感のような感覚だ。それがいい事なのか悪い事なのか今のフレイヤには判らなかった。


そんなフレイヤの胸中を知らず娘のクレアはトリスい子犬の様に懐いていた。


「ねえ、それよりも雪が溶けて春なったどうするの?」

「大都市アルカリスに行く予定だ。そこで冒険者になるつもりだ。」

「ホント?なら私も着いていっていいかな。後、フェリスも。」

「フェリス?聞いたことが無い名前だがクレアの彼氏か?」

「違うよ。同じ冒険者志望の子だよ。」


トリスの言葉にクレアは頬を膨らませて大きく反論した。


「フェリスはアンナ姉さんの息子ですよ。トリスさんが前に来た時は学園に行っていました。トリスさんとは入れ違いでダリスに戻って来たんです。」


今まで三人の話しを聞いていたアーロンがフェリスのことをトリスに話し始めた。アーロンの話しではフェリスはウォールドに憧れて同じ冒険者の道を志している。大伯父の話を子守唄のように聞かされて育ったフェリスは十二歳の時に学園に入学した。


王都リサリアの南東にある街セルセタは学園都市と呼ばれそこでは様々な事柄が学べる。文字や算術はもちろん自国の歴史、異国の言葉や文化などにも教えている。そのほかにも騎士になる為の武術や戦術や戦略と言った武芸についても教えており、官僚や騎士を目指す者はここに入学する。


ウォールドもかつてはここで魔術を学びそして冒険者になる道を選んだ。大甥のフェリスは幸いなことに魔術師としての才能がありウォールドと同じ道をなぞった。フェリスは十二歳の時に学園に入り十六歳の時に卒業した。そのまま都市に残り冒険者になる為の体作りと資金を貯めていた。その準備がようやく終わり今年の秋の初めにダリスに戻ってきた。


ダリスに戻ってきたフェリスはトリスの話しを聞き大いに悔しい思いをした。ウォールドの唯一の弟子と言っても過言ではないトリスに会う機会を逃してしまったことに。


ウォールドに弟子や教え子はいない。彼は単独(ソロ)の冒険者であった為に誰かに教える機会が無かった。いや、自分の目的を優先する為に誰かにために時間を割くことを嫌っていた。


その為ウォールドには弟子や教え子はおらず、極稀に金銭を稼ぐために冒険者や魔術師に講義などはすることはあったがそれはあくまでの一時的な事に過ぎなかった。


そんなウォールドの教えを一身に受けたトリスは正にウォールドの正当な後継者と言っても過言ではない。『大賢者の後継者』。冒険者や冒険者を目指す者なら彼に会い話を聞きたいと思うのは自然の流れでもあった。


「フェリスか。確かに会ってみたいな。大甥と言うことは師匠に似ているのかな。」

「母の話しでは若い頃のウォールド伯父さんに似ているそうです。」

「そうですか。一度あって話をしてみたいです。」

「きっと喜びますよ。なんでしたらまたここで親族の皆を集めますか?」


アーロンはそう提案してみたが実は既にそのことは決定事項であった。前回トリスが急にいなくなってしまいウォールド親族達は大層気を落とした。まだ聞きたいことや話したいことが沢山あった。だからまたトリスが戻ってきた時は再会の宴を計画していたのだ。




それから冬が過ぎ去るまでトリスはダリスに滞在した。ウォールド親族達と再会をしてフェリスとも会った。


トリスと出会ったフェリスは嬉しさのあまりに号泣してしまいその時はトリスとまともに話をすることが出来なかった。


フェリスはその後落ち込んでしまったがクレアの計らいでトリスと稽古をすることになった。同じ冒険者志望のクレアと共にトリスの教えを受けることになったフェリスは大いに歓喜してトリスの教えを受けた。


そして雪が溶け春が訪れるとトリス達はダリスを後にした。大都市アルカリスに向けてトリスは旅立った。



いつも通りに誤字脱字の指摘や感想などを頂けると幸いです。

評価やブックマークをして頂けるととても嬉しいです。


誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

週末にまとめて修正を行っております。誠に感謝いたします


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