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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
聖者としての時間
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商業都市ダリス 故郷の凶報 壱

シェリーの乾杯の挨拶の後にさっそくウォールドの親族達はトリスに話しかけてきた。


「トリスさん、『北の商人』の話は知っていますか?」

「北の商人?」

「ええ、叔父さんが北の商人と駆け引きした話なのですが...。」

「ああ、北から来た悪徳商人を懲らしめた話ですね。」

「そうです。それです。」

「あれはウォールドさんの自慢だったらしくよく聞かされました。

『儂も商人の家に生まれた端くれ。阿漕な商売をする者は許せん。』とそう言っていました。」

「ぜ、是非その話を聞かせてください。」

「いいですよ。」

「ちょっと待ってください。」


エトヴィンの懇願にトリスが話を始めようとするとマヌエラが待ったをかけた。


「私は『妖精の小石』の話しが聞きたいです。ご存じですか?」

「妖精の小石?もしかして『塔』で出会った小人に渡された綺麗な石のことですが?」

「やっぱりご存じだったのですね。是非聞かせてください。」

「判りました。ではどちらからお話ししますか?」

「「当然私だ(です)。」」


エトヴィンとマヌエラさすが兄妹で返事も主張も同時だった。そんな二人の主張にトリスはどちら先に話せばいいのか困ってしまった。


「兄さんも姉さんも落ち着いて。トリスさんが困っています。まずは順番を決めましょう。」

「そうだな。」

「大人気なかったでした。」

「ちなみに私が聞きたい話は『冒険者の荷物を盗む魔物』の話です。是非一番最初に話してください。」

「「抜け駆けするな!」」


マクスの参戦によりさらに場が混乱し始めた。さらに大甥や大姪達も自分の好きな話が聞きたく、「僕も。」「私も。」と主張してきてさらに混乱に拍車がかかってきた。


「はいはい、みんな落ち着いて。今からくじを出すからみんなくじを引いてそれで順番を決めますよ。」


そんな場を沈めたのはアンナだった。アンナは事前にこうなることを予測してくじを準備していた。親族達はそれなら公平と思いみんなでくじを引くことになった。



トリスに聞くためのお題を決めるためくじを引きことになった。順番にくじを引くことになったがなぜかその列にクレアも参加していた。不思議に思ったトリスはクレアに声をかけた。


「クレアも何か聞きたいことがあるのか?」

「あるよ。」

「なんだ?」

「トリスがどうやってウォールドさんと出会ったか知りたい。それからどんな冒険をして、どうやって帰ってきたか教えて欲しい。」

「「「「「確かに!」」」」」


クレアの質問にウォールドの親族も同意した。ウォールドに途中まで語った土産話に方に気が回りすぎていたが、ウォールドはさらに二十年近く新たな冒険をしていたのだ。その話は是非聞きたいと親族の誰もが思った。


「二十年前にある冒険者が川に落ち、流れ着いたところで伝説となっていた大賢者に出会いました。冒険者は大賢者と力を合わせて地上を目指しました。紆余曲折ありましたが無事に地上に戻りました。めでたし。めでたし。」

「雑。トリスそれは雑すぎるよ。」

「駄目か?」

「「「「「駄目。」」」」」


トリスは自分のことについてはあまり語りたくなかったので大雑把な説明だけで終わらせたかったがクレアだけでなくウォールドの親族達からも駄目出しをされてしまった。


結局この場に集まった皆のリクエストにトリスは丁寧に応えた。トリスはウォールドから聞かされたさまざまな事を雄弁に物語り、話を聞いた皆は聞き惚れていた。


トリスは『迷宮』にいる間ウォールドから様々なことを学んだ。戦闘技術の他に他国の言葉、文字、風習と言った物から人との交渉術、朗読と言った話し方などについても学んだ。


果てには宮廷の礼儀作法や社交ダンスといったものまで教えられた。その甲斐があってかトリスの語り口調などはウォールドと類似しており、物語を聞いていたシェリー達はウォールド話しているような錯覚に陥った。


ウォールドの昔話の他にトリスとウォールドが探索した『迷宮』の話もした。千匹の魔物に囲まれた話や小山くらいの大きさがある魔物と戦った時の話、凶悪な魔物と遭遇して絶体絶命に陥った話などを披露した。


一つの物語が終わるたびにシェリーや他の親族の大人達はウォールドの生き写しと絶賛され、ウォールドのことを直接知らないフレイヤやクレア、大甥や大姪達もトリスの話し方が上手なため大興奮だった。


そんな店の厨房では黙々と料理を作るアーロンの姿があった。時折聞こえる歓声に自分も手を止めて話を聞きたかった。だがトリスに中途半端な料理を出すことはできない。アーロンは断腸の思いでひたすら無心に料理を作った。



三つ目の夜の鐘が鳴る頃、アーロンの店の中は嵐が過ぎ去ったような静けさだった。子供たちはトリスの大興奮して疲れ切ったのか随分前から眠りについてしまった。大人達も酒の肴が良かったのかいつも以上に酒が進み大半が眠ってしまった。店の中で起きているのはトリスとシェリーとアーロンの三人だけだった。


「トリスさん、ありがとうございました。みんな寝てしまいわざわざ二階まで運んで頂いて。」

「いえ、フレイとクレアも寝てしまったのでついでです。」


アーロンの店の二階は今は誰も使っていない空き部屋があり眠っている者はみんなその部屋に運ばれていた。シェリーとアーロンだけでは皆を運べないと思ったがトリスが一人で軽々と皆を部屋に運び込んだ。さすが冒険者だとシェリーもアーロンも感心した。


人数が多いためベッドには小さい子供たちを寝かしつけ、大きい子供や大人達は床に雑魚寝の状態になってしまったが季節は夏なので薄手の毛布を掛けておけば風邪を引くことは無いシェリー達は判断しただろう。


「それよりもアーロンさんは休まなくていいのですか?もう遅い時間ですよ。」

「普段ならもう寝る時間ですが、明日はもともと休業日でしたので問題ありません。」

「店を経営している他の皆も明日は休業日だから問題ないわ。最も作家のエトヴィンと主婦のマヌエラは知らないけどね。」


シェリーはそう言うと意地の悪い笑みを浮かべて葡萄酒を飲んだ。ウォールドの話では妹のシェリーはなかなか良い性格をしていると言っていた。確かに最初にあった時の印象とは違い今のシェリーが素なのだとトリスは思った。


「それにしても今日は盛り上がりましたね。」

「トリスさんのおかげです。」

「いえ、こちらこそ本日は美味しい料理を頂きました。師匠が話をしていた料理は一度食べてみたいと思っていてそれが食べられて満足しています。師匠の遺髪を届けに来たのにこんなご馳走までして頂きこちらこそ感謝しています。」


トリスはウォールドのことを『迷宮』にいた頃の呼称で呼ぶようにしていた。物語を話している最中にトリスが『ウォールドさん』と呼んでいたら、聞いていた皆から『他人行儀過ぎる。』などと言われたので『迷宮』での呼称にしたのだ。


「満足して頂いてよかったです。伯父さんが好きだった料理はかなり練習しましたから。正直なところ伯父さんにも食べて貰いたかったのです。」

「アーロン、そう言う湿っぽい話は駄目よ。今日はトリスさんと出会えた良き日なんだから。」

「母さん、そうだったね。トリスさん失礼しました。お詫びにもう一品デザートを作りますので食べてください。」

「頂きます。」


アーロンはそう言うともう一度厨房に戻りデザートを作り始めた。


「あの子は本当に料理が好きなんです。小さい頃は食いしん坊だけが取り柄のような子供だったのに。」

「そうなんですか?」

「ええ、でも何時の頃からか自分で料理をするようになって、いつの間にか姉のアンナよりも上手になりました。十五歳の時に料理人になると言った時は驚きましたが自分の人生なので好きなようにさせました。幸いなことに料理人として店を持つこともできたので料理人になることを賛成してよかった思っています。」


アンナは厨房でデザートを作るアーロンの後姿を見ながら嬉しそうにトリスにアーロンのことを話した。トリスも自分の夢を叶えたアーロンを尊敬し羨ましくもあった。


「お待たせしました。デザートのミルクゼリーです。リンゴのジャムをかけて食べてください。」


アーロンはミルクゼリーが乗った三つの皿をトリスとシェリーと自分の分をテーブルに置き、テーブルの中央にリンゴのジャムを置いた。トリス達はさっそく出されたミルクゼリー食べた。ミルクの優しい味に甘酸っぱいリンゴのジャムがよく合う。


「美味しいです。」

「ほんと美味しいわ。このリンゴのジャムが特に美味しい。甘すぎないで僅かに酸味があって。」

「ありがとうございます。ジャムは去年の作った物です。」

「アーロンこれはあなたが作ったの?」

「ええ、去年の仕入れたリンゴを妻達とジャムにして保存しておきました。これが最後の一瓶ですがもう少しすると今年収穫されたリンゴが手に入るので気にせず使ってください。」


アーロンは自慢のジャムをトリスとシェリーに好評で大満足していた。今年もリンゴが手に入ったらまたジャムを作ろうと思っただが気になる噂を最近聞いたことも思い出した。


「アーロンどうしたの急に暗い顔をして?ジャム美味しかったわよ。」

「ごめん母さん。ジャムのことじゃないんだ。ジャムのことと言えばジャムのことなんだけど。」

「このシャムがどうかしたの?」

「好評だったから今年も作ろうと思っているんだけど、材料のリンゴが手に入るかどうか。」

「何か特別な品種なんですか?」

「品種というより産地ですね。このダリスから北北東にあるスーサ領で収穫されたリンゴを使っているのです。」

「スーサですか?」

「はい。いろいろな産地のリンゴを試してスーサ領にあるリンゴが一番ジャムに適していました。ですが今年は手に入るか判らないのです。」

「スーサ領で何かあったのですか?」

「噂ですがスーサ領で疫病が流行っているようです。」


アーロンから思いがけない情報を聞きトリスは困惑した。トリスの次の目的地はまさしく今話題に上がったスーサ領だったからだ。




翌日トリスはアーロンから聞いた情報が正しいか確認するため市場に来ていた。アーロンは市場でスーサ領のことを聞いたとトリスに教えてくれた。トリスはアーロンに教えてもらったことを頼りに市場の青果物を取り扱う一画で情報を集めていた。


「スーサ領のことだと。」

「ええ、詳しく知りたいのですが。」

「あそこはまだ収穫期じゃないから今の時期は取引していないね。噂話程度しか知らないよ。」

「そうですか。」

「なんなら行商人のところに行ってみたらどうだ。あそこなら詳しいことを知っているかもしれないよ。」

「行商人ですか?」

「ああ、十年前くらい前から定期的に各地に行商人を送る様になったんだ。今までは個人でやっていたのが多かったけど今は行商人の組合が出来て地方に定期に物を運ぶようになったんだ。詳しい場所は教えてやるからそっちに行ってみな。」

「ありがとうございます。」


アーロンが紹介してくれた市場にある果物店にスーサ領の話を聞いたところ店主は親切に行商人組合のことを教えてくれた。詳しい場所を聞いたトリスはさっそく商業区にある行商人組合に向かった。


『商業都市ダリス』は東西南北に区画が判れていた。北に政務を取り仕切る行政区。東に一般が住む住居区。南に市場のある物産区。西に商業を営む店や商会、組合が存在する商業区。シェリーの店の店もこの区画に存在している。


トリスは市場で教えてもらった行商人の組合に来ていた。


「スーサ領の情報を教えてくれだと。」

「はい。不躾な事だと思いますがお願いします。」

「帰れ帰れ。ここは行商人組合であって情報を教えるところじゃない。」


二十歳前後の軽薄そうな受付の男性はそう言うとトリスの質問を断った。トリスとしても受付の男の言い分は判るがここは引き下がる訳には行かなかった。


「情報料はきちんと払いますからどうかお願いします。」

「ふざけるな。ここは情報屋じゃない。金を払えばいいと思っているのか。」

「判りました。ではこちらを交渉の材料とします。」


トリスはバックから魔鉱石を取り出しカウンターに置いた。サリーシャでラロックと取引した物と同じB級品の逸品である。

受付の男は置かれた魔鉱石を興味無さげに見つめ驚くべき事をトリスに言いはなった。


「あのね。取り引きしたいと言って只の石ころを置かれてもどうしろと言うの?石なんか誰が好き好んで買うの?」


男の発言を聞いてトリスは一瞬言葉を失った。まさか商業都市の組合の受付でこのような信じがたい言葉を聞くとは思わなかった。普通の商人は勿論魔鉱石を取り扱う者は只の石と魔鉱石を見分ける術は持っている。目の前の男はそれすら出来ない只の素人だ。


仮に素人だとしても周りの人に確認して品物を鑑定するはずだが、受付の男はそれすらしない。そんな事も出来ない者が店のの顔となる受付担当していると事実に誰も疑問に思わないのか。他にいる受付の人もこちらの様子には気が付いているがだ誰も何も言わない。トリスはその状況にただただ驚くしかなかった。


「判りました。お手数をお掛けしました。」


こんな男が受付をしている組合の情報などあてならないとトリスは判断して組合を出ることにした。


「ああ、帰るのか?全く冷やかしなら他所でやり・・・。」


受付の男はそれ以上言葉を発する事は出来なかった。後ろから大男が受付男の口を塞いだのだ。


「お前はこれ以上何も喋るな。今すぐ家に帰るか便所の掃除でもしていろ。」


大男の言葉を聞いて受付の男は顔を真っ赤にして大男の手を口から引き剥がした。


「貴様、俺にそんな口を聞いて言いと思っているのか。組合長だからと言って図に乗るなよ。」

「お前と違って組合長だから図に乗ってなどいないさ。」

「なんだと。」

「一商人としてお前は使えないと言ったのだ。役立たずどころか組合に不利益をもたらす者を雇う余裕などない。」


大男がそう言いきるろと受付の男はますます顔を赤くした。今にも大男に掴みかかろうとするがそれよりも早く大男は受付の男の胸ぐらを掴んだ。


「いいか良く聞け。お前が石ころと言った物は魔鉱石だ。しかもB級品は確実な逸品だ。」

「なっ!?」

「世間知らずなお前は知らないだろうが今はB級品以上の魔鉱石は品薄だ。B級品でも質が良ければA級品の値がつく事もある。その大事な取り引きを潰す奴を俺は見過ごす事は出来ない。」


大男の言葉に受付の男は真っ青になった。只の石ころがそんな貴重品だとは思わなかった。受付の男は自分のしていたことに恥じたのかそれとも店の受付で恥じを晒してしまったのが恥ずかしいのかトリスには判らなかったが受付の男は脱兎のごとく店の奥へ姿を消してしまった。


「すいませんでした。あなたに不快な思いをさせてしまいました。私はこの組合の長をしている者で宜しければ別室でお話をお伺いしたいのですが宜しですか。」


先ほどのまでの態度とは打って変わって大男はトリスに丁寧に話しかけてきた。トリスはスーサ領の情報を得るため承諾した。



トリスは組合長の案内で組合の応接室に案内された。

応接室に案内されたトリスは軽い自己紹介と組合を訪れた理由を話した。組合長はダーヴィンと名乗りトリスの話を聞き終え少し困った顔をしてトリスの質問答えた。


「スーサ領のことについてお話しすることはできません。」

「話しをすることはできない?まさか!?」

「聡いお方だ。ご想像の通りです。近々王都より調査団が派遣される予定です。」



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