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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
聖者としての時間
20/140

商業都市ダリス 恩師の生家 参

シェリーとアンナはトリスの話を聞き終えたが俄かに信じられなかった。しかしトリスが嘘を言っているようにも思えなかった。


トリスの話した内容はウォールド・シリアファンプが行方不明になった後からの出来事だった。


ウォールドは『塔』で冒険をしていた最中に誤って川に落ちてた。『塔』の中を流れる無数の川は何処に繋がっているか不明なため落ちたら死んでしまうと言われていた。


だがウォールドは川に流されたが五体満足で生きていた。しかし流れ着いた先は『迷宮』になっており脱出が困難だった。


トリスも二十年前に川に落ち運よくウォールドに助けられそれから二ヶ月前まで行動を共にしていたとシェリーとアンナに語った。そしてトリスとウォールドは『迷宮』から脱出するために今まで『迷宮』を探索していたのだ。


「ウォールドさんは死ぬ前に『迷宮』からの脱出方法を見つけ私に教えてくださいました。私はそのおかげでこうして生きて戻ってこれました。」


トリスはそう言いウォールドから自分の親族の話を探索の合間に聞かされていたことも語った。先ほどのシェリーとのやり取りはウォールドが好きだった紅茶とスコーンの食べ方だった。幼い頃から自家製のスコーンとジャムの食べ方についてウォールドはシェリーとよく議論をしていた。二人とも母親が作る自家製のスコーンとジャムが大好きだったからだ。


母親が亡くなってからはその作り方はシェリーが引き継ぎウォールドが帰省する度にお土産として何個か持たせていたのだ。


トリスは遺髪の他にもウォールドから遺品を幾つか譲り受けたことも話をした。遺品については返却する意思もあるが遺骨についてはトリスが供養したい旨を伝えた。


ウォールドの晩年は『迷宮』で生活していた。日の光を浴びることなく過ごしていたのでせめて墓は日がよく当たる場所にしたかった。これについてはシェリーも同意し墓に関してはトリスに任せることにした。


遺品についても今更もらってもまた無用なトラブルを引き起こす可能性があったのでトリスに譲る旨を伝えた。その代わり親族にあって欲しいとシェリーはトリスにお願いした。


ウォールドは親族にとって英雄であった。単独(ソロ)で『塔』に挑み数々の冒険をしてきた人物だ。その人物親族は尊敬と兼愛していた。また、ウォールドは自分の冒険を土産話として親族に披露していた。エーピルやシェリーの子供たちにとってはその土産話はどんな英雄譚よりも面白く大好きな話であった。


エーピルには長男エトヴィン、長女マヌエラ、次男マクスの三人兄弟がおり、シェリーにも長女アンナと長男アーロンがいる。この五人は既に家族を持っており特にエーピルの長男エトヴィンはウォールドの親族の誰よりも兼愛しており、ウォールドの伝記や子供向けの絵本を書くほどだ。彼の作品はその内容とウォールドの甥と言うこともあって高く評価されていた。


大甥や大姪達も直接本人から話を聞いたことは無いが父親は母親達から子守唄のように聞かせれて育ってきたのだ。トリスのことを知ったのなら是非話を聞いてみたいと思う筈だ。


「判りました。それは何時皆さんに会えば宜しいですか?私は十日ほどこの街に滞在する予定です。次の旅支度以外にする事は無いです。」

「そうね。急だけど今日の夜の食事の時にどうかしら?アンナ、アーロンのお店に予約をしてきてくれる。勿論貸し切りで。その後にエトヴィン、マヌエラ、マクスにも知らせて。あの子達もきっと話を聞きたがるから。」

「親族全員集合ね。判ったわ今から行ってくるけど店番はどうする?」

「ちょっと早いけど今日は閉めちゃいましょう。この時期に布地を買う人は滅多にいないし急ぎの常連なら裏口から声をかけてくるでしょ。」

「判ったわ。トリスさんはお連れの方はいますか?」

「二人います。」


アンナはトリスの返事に頷きそ着けていたエプロンを外し店の外へ出ていった。


「慌ただしくなってすいません。後で店の場所と時間を知らせるのでご宿泊の宿屋を教えて下さい。」

「それはありがたいですが・・・。」

「何か気になる事でも?」

「毛皮の買い取りをお願いしていたので。」


トリスは別のテーブルに置かれていた手付かずの毛皮を見つめ困り顔でそう呟いた。シェリーはその言葉に目を丸くして乾いた笑みを浮かべるしかなかった。




一つ目の夜の鐘が鳴ってから暫くした時間にトリスはフレイヤとクレアを連れてシェリーが予約した店に向かっていた。シェリーに毛皮を買い取って貰った後トリスは宿屋に戻った。暫くするとアンナが宿に訪れ店の場所と時間をトリスに知らせた。


アンナがそのまま帰宅すると入れ違いにフレイヤとクレアが宿に戻り、二人に昼間あった事を伝えた。その事を聞いてクレアは嬉しさ半分、怒り半分の状態になった。


冒険者志望であるクレアにとって大賢者ウォールドの事は当然知っていた。むしろ彼の甥が書いている伝記の大ファンであった。その著者と直接会えるのはとても嬉しく大騒ぎしたほどだ。だが話を詳しく聞くとトリスは大賢者ウォールドと行動を共にしていたことを知らされた。


伝説の大賢者ウォールドの終生を共にしたことを知った時は驚いたと同時に自分達になぜ話してくれなかったのかとクレアは怒り狂った。一ヶ月以上も行動を共にしてきたのに話をしてくれないトリスの態度に憤慨したのだ。


「仕方ない。この事はおいそれと他人に言える事じゃない。それに親族に報告する前に赤の他人に話すのは筋違いだ。」


トリスの言う事は徹頭徹尾正論でクリアはぐぅの音も出なかった。そんなやり取りをした後にトリス達は指定された店に向かった。


店の前に着くと「本日臨時休業」と書かれた紙が貼ってあった。トリスは再度店に出ている看板を見たが間違いなく指定された店の名前だ。名前が同じ違う店に来てしまったかと思ったが店の中から人の気配と声も聞こえた。


それも一人二人ではなく十人以上の人の気配が感じ取れ、店が休みなのにこの人数が店内にいるのは可笑しいと思いトリスは扉のノブに手をかけた。扉には鍵はかかっておらずトリスは不思議に思いながら思い切って扉を開けた。


扉を開けると店の中に十数人が席に座っていた。老若男女問わず皆店の扉を開けたトリスを見ていた。




トリスが店の扉を開ける少し前に店内はすでに大騒ぎだった。

昼間にアンナから今日の夜にアーロンの店に来るように言われた時は特に驚きはしなかった。何時もの親族会だと思い皆軽い気持ちでアーロンの店に訪れた。しかし店に着き親族が全員揃ったところシェリーからとんでもない事を聞かされた。


ウォールドの訃報を知らせにきた人が来るので粗相の無いようにと言われた。ウォールドは二十五年も前に訃報が届いたのに今さらなぜそのような人が来たのか皆首を傾げた。シェリーは意地悪い笑みを浮かべて今日集まった事について皆に詳細を話した。


ウォールドはつい先日まで生きていた。

『塔』で行方が判らなくなった後は脱出出来ない『迷宮』にいたからだ。

その『迷宮』で偶然一緒になった人がいる。

彼は『迷宮』を脱出してウォールドの訃報を知らせに今日シェリーの店に訪れた。

そして今からその人と食事をするので急遽皆を集めた事を話した。


シェリーの話を聞いて親族の皆は大騒ぎになった。興奮する者、驚く者、疑いを持つ者。受け止め方はそれぞれ違ったこの事は重大なことだ。もし仮に本当ならウォールドはつい最近まで生きていたことになる。


死んだと思っていた英雄は実は生きて冒険を続けていたことになる。こんな嬉しい知らせはない。自分たちが尊敬し、兼愛する人は冒険者らしく最後まで冒険を続けていたのだから。


さらに二十年も一緒に行動を共にしていた仲間もいた。その人なら知っているかもしれない。二十年五年前にウォールドのが話してくれた冒険の話の続きを。

ウォールドが帰郷する度に自分たちに聞かせた土産話には幾つか途中までしか語られていない話があった。ウォールドが行方不明になり土産話の続きは二度と聞けないと思い落胆していた。


とりわけ親族の中で作家であるエトヴィンが一番落胆した。ウォールドが行方を眩ませる前から既に作家の仕事は初めており、幾つかの伝記を書いていた。


エトヴィンはエーピルの長男でありながら家業を継ぐことをしなかった。代わりに叔父のウォールドが聞かせてくれた土産話を伝記などに書くことを選んだ。家業は弟のマクスや従妹のアンナが継いでくれると言ってくれたのでエトヴィンは作家としての道を歩んだのだ。


だが、ウォールドが行方不明になったため、「妖精の小石」や「北の商人」と言った未完の物語が幾つかある。もし今日の訪れる人が本当にウォールドの最後を看取ったのならこれらの話しを知っているかもしれない。だが、もし仮に嘘だったのなら永遠に物語は未完のままになってしまう。作家エトヴィンはトリスのことを親族の中で一番疑っており、一番期待しているのだった。



トリスが店の扉を開けると店に中にいた全員がトリスを見ていた。トリス達は思わず驚きその場に立ちすくしてしまった。


「トリスさん、いらっしゃい。どうぞこちらに座ってください。お連れのお二人もこちらにどうぞ。驚かせすいませんね。ここにいるのは私の親族・・・ウォールドの親族だから気にしないで。」


一番奥のテーブルに座っていたシェールが手を振りながら大きな声を上げてトリス達に説明した。驚いてしまったトリス達だがシェールの言葉に気を取り直し一番奥のテーブルに向かった。


だが奥のテーブルに着いた後もトリス達は好奇の目でみられていた。いや正確にはトリス一人に向けられていた。親族にとってトリスは詐欺師なのかそれとも本当にウォールドの最後の看取った人物なのか親族達は気が気ではなっかた。


「始めましてトリスさん。私はエトヴィン。エトヴィン シリアファンプといいます。」


トリスが親族の注目を浴びている中、一人の男性、エトヴィンがトリスに話しかけてきた。トリスも返事するように挨拶を返した。


「こちらこそはじめまして。ご存じと思いますがトリスです。今日はお招き頂きありがとうございます。」

「恐縮です。先ほどから親族達があなたを好奇な目で見てしまい失礼いたしております。ですがどうかお許しください。叔母のシェリーから先ほどあなたのことを聞いたばかりなので、私たちはあなたのことが皆半信半疑なのです。」

「判りました。どうぞお気になさらず。」

「そう言って頂けると助かります。食事の準備が整うまで私と雑談をしていただけますか?叔父のウォールドについて訪ねたいと思っているのですがよろしいですか。」

「!?。答えられることで良ければ構いませんが。」

「ありがとうございます。では、さっそくお聞きします。叔父の年齢はいくつですか?」


エトヴィンは雑談と称してさっそくトリスを試し始めた。彼が本物か偽物かをエトヴィン自身が問い詰め確認しようとしている。周りの親族達はそれを固唾を飲んで見守っていた。


「今年で七十二歳になると言っていました。」

「冒険者になったのは何歳の時ですか?」

「二十歳前ですね。確か十七か十八の時です。」

「それ以前は何をしていました。」

「十一歳に学園に通い四年で卒業じました。卒業後は冒険者になるための下準備で講師の手伝いを二年間行い、資金を貯めていました。学園の成績は良かったとそうです。けどトップには成れなかったようです。」

「学園を出て直ぐに冒険者にならなかったのは?」

「単純な実力不足です。その頃のウォールドさんは魔術は得意だったけど体術は平均以下でした。冒険者をするなら自分の身は自分で守る必要がありますから講師の手伝いをしている合間に体術の訓練もしていたようです。」


エトヴィンの質問に対してトリスの返答はここまでの質問は全て一致していた。一般の人にはあまり知られていない冒険者になる前のウォールドのことを正確に知っていた。だが詳しくウォールドを詳しく調べれば解る内容でもあった。まだトリスを本物と認めるには決め手が欠けていた。


質問を受けていたトリスも質問を受けていた理由を何となく気が付いた。最初にエトヴィンはトリスのことを半信半疑だと言っていたからウォールドの親族は自分のこと詐欺師の可能性を捨てきれていないのだ。


確かにシェリーには納得してもらったが他の親族達を納得させるには証言には至らなかったようだ。このまま彼らが納得がいくまで質問を受けても良いと思っていたがふと気が付いた事があったので聞いてみることにした。


「こちらからも質問よろしいですか?」

「何ですか?」

「お店のメニューに書かれているこの鮎のパイ包み焼きは師匠・・・、失礼。ウォールドさんのリクエストですか?」

「・・・どういう事ですか?」


トリスの突然の質問にエトヴィンは面を食らった。トリスの質問の意味が判らなかったからだ。この店の従弟のアーロンが店主の店だ。当然メニューについてはアーロンが決めていた。鮎を使った変わった料理はこの辺では焼くか、煮るが主流であった。鮎のパイ包み焼きはこの辺の料理ではない。


確かに珍しい料理法だがそのこととウォールドのことについて関連性が見いだせなかった。

だが、エトヴィン代わりに反応したのはこの店の店主のアーロンだった。エトヴィンとトリスの話を料理の合間に聞き耳を立てていたアーロンはトリスの質問に驚き厨房から出てきてトリスに問いただした。


「トリスさん。な、なぜそう思ったんですか?なぜ鮎のパイ包み焼きを伯父さんのリクエストだと思ったのですか?」

「ウォールドさんが生前に食べた料理で好きだったと聞いていましたので。確か学園に通っていた時に食べて好物になったようです。『迷宮』から出たらまた食べたいと言っていましたから。」

「伯父さんはがそんな事を。」

「失礼ですが、あなたはアーロンさんですか?」

「はい、ここの店主です。アーロン、アーロン モレルです。」

「それはおめでとうございます。自分の店を持つことが夢だったとウォールドさんから聞いていました。」

「伯父さんは私の事を話していたのですか?」

「ええ、ウォールドさんからはまだ見習いと聞いていました。食いしん坊だがその分料理に対する情熱はあったからいい料理人になると言っていました。」

「あ、ありがとうございます。他に伯父さんは何か言っていませんでしたか?」


アーロンはウォールドが自分の事を他人に話していたことが嬉しくついトリスにそんなことを聞いてしまった。トリスは生前ウォールドが語った親族の話を思い出しながら一言アーロンに言った。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


トリスの言葉を聞いてアーロンは雷に打たれたような衝撃を感じ子供の頃の昔の事を思い出した。

伯父のウォールドは帰郷した際に近くの森に木苺を摘み行く。これを妹のシェリーに渡してジャムを作って貰うためだ。子供の頃に何度かアーロンもウォールドに連れられて森に一緒に出掛けたことがあった。


何時ものようにウォールドに連れられて森に入った。ウォールドと手分けして木苺を探していた時に偶然アーロンはコケモモを見つけた。当時から食いしん坊だったアーロンはさっそく見つけたコケモモを食べたのだ。コケモモは酸味が強いため、通常は砂糖などで甘みを加えて調理するが、アーロンが見つけたコケモモは変異種でそのまま食べても甘酸っぱく美味しかった。アーロンは夢中になってコケモモを食べた。


だが一度に大量に食べてしまったせいでアーロンは酷い腹痛に襲われた。アーロンが見つけたコケモモはそのまま食べられるが食べ過ぎるとお腹の調子を崩してしまう物だった。腹痛で動けなくなっていたアーロンを見つけたウォールドは魔術でアーロンを治療し大事には至らなかった。


だがアーロンはウォールドにはこってり怒られてしまった。アーロンはさらにウォールドから母のシェリーに伝わり母にも怒られると思ったがウォールドはこのことは他言しないことアーロンに伝えた。


ウォールドがアーロンは治す際に使用した治療魔術は他人には知られたくないことだったのでウォールドはアーロンにもこのことは他言しないように言い、この日のことはウォールドとアーロンしか知らない出来事だった。


「おい、アーロンどうかしたのか急に黙って。」


エトヴィン はトリスの言葉に突然黙ってしまった従弟を心配してが声をかけた。思い出に浸っていたアーロンはエトヴィンの言葉に気が付きトリスのことを本物だと確認したことを伝えた。


「エトヴィン兄さん。トリスさんは伯父さんは知り合いだよ。それもとても親しい間柄だよ。」

「どう言うことだ?」

「伯父さんと僕しか知らない秘密をトリスさんは知っていた。きっと伯父さんが話したのだと思うけどそれは赤の他人に明かしていい事じゃないから。」


アーロンはそう言うとトリスの前に立った。


「トリスさん本日は腕によりをかけて作ります。鮎のパイ包み焼きもお出ししますので是非召し上がってください。」


アーロンはそう言うと厨房に戻り自分の娘や妻に飲み物を出すように指示をして料理の作りを再開した。アーロンの言葉と態度でトリスのことはいよいよ本物だと皆が納得し始めた。トリスもそのことが判り先ほどの同じようにウォールドと親族しかしらないことを話し始めた。


「エトヴィンさん、あなたはウォールドさんの伝記を出す際にウォールドさんとある取り決めをしましたね。」

「!?」

「登場人物の実名はださない。子供向けの本を出すときは人が死ぬ話は作らない。この二点を守る様にウォールドさんから言われていますね。」

「そ、その通りです。」


エトヴィンが伝記を作る際にウォールドから言われた二つの条件。些細なことだがウォールドとエトヴィンは確かに約束した内容だった。


「マヌエラさんとマクスさんの話も聞いています。マヌエラさんは結婚式の前日に少し体調を崩したので相談をしましたね。マクスさんは新たな事業を拡大についての意見を求めましたね。」


トリスはウォールドに聞かされたことを思い出しながら告げた。マヌエラは結婚式の前日に今後の生活環境の変化などの不安から精神が不安定になってしまった。ウォールドがそのことにいち早く気が付きマヌエラの相談に乗り無事に結婚式が執り行われた。


マクスは家業を継いだ時に事業の拡大を計画していた。同じく事業の拡大を計画していた同業者と共同で行おうとしたがウォールドにそのことを話すとウォールドは反対した。家業を継いで焦る気持ちは判るがまずは地固めを行ってそれから行った方が良いとマクスを説得した。その後事業の拡大を計画した同業者は事業を失敗してしまった。結果からみればマクスはウォールドの反対したことで救われた形になった。


二人ともこのことはウォールド以外には話していない。ウォールドも他言しない限りこのことは他の人が知るはずのない事実だった。


「あとは皆さんの子供の頃の話も聞いていますが・・・。」

「ト、トリスさんもういいです。その話はしないでください。」

「もう十分です。」

「試すようなことをして申し訳ございませんでした。」


なおも語ろうとするトリスを大人達は制した。子供の頃の話など失敗談しか思い至らない。今更息子や娘の前で二十年以上の前の恥をさらしたくはなかった。


「みんなトリスさんのことは納得したようね。では一度乾杯しましょう。みんなに飲み物は手元にある?」


今まで傍観していたシェリーは親族が納得したのを見計らって口を開いた。トリスが語ったことは親族しか知りえない事実でもう誰一人トリスのことを疑っている様子はなかった。


親族達の振る舞いはトリスに対して失礼なことをしているとシェリーは自覚していた。だが敢えて放置していた。真意を確かめ親族の皆にはトリスのことを納得して歓談をして欲しいと思っていたからだ。


皆に飲み物が行き渡るのを確認したシェリーはグラスを掲げた。


「本日は兄ウォールドの訃報と遺髪を届けてくださったトリスさんに感謝いたします。本来なら献杯で兄ウォールドの偲ぶところですが、今日は新たな出会いに祝したいと思います。

兄ウォールドの友人であり、仲間であったトリスさんとの出会いに『乾杯』。」

「「「「「乾杯。」」」」」


シェリーの乾杯の挨拶にウォールドの親族は杯をかかげトリス達を歓迎した。



当初の目的の20話まで投稿できました。

これからも頑張っていきたいと思います。


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