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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
人としての時間
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閑話 クレアの稽古

私の名前は、クレア・エーデ。もうすぐ十五歳になる冒険者志望。


つい先日まで港街サリーシャに住んでいたけど今は旅の途中。ママとサリーシャで会ったパパの昔の仲間のトリスと一緒に商業都市ダリスに向けて旅をしている。


私は元々大都市アルカリスで生まれたけど五歳の時に家族旅行の最中に盗賊に襲われて、その時にパパは死んじゃった。


その時の記憶はあまりないけどパパとママとで家族旅行をしている時に大人数の人が襲ってきたのは良く覚えている。次に覚えているのは暗い馬車の中でママと二人だけでパパはいなかった。


ママにパパのことを尋ねるとママは悲しい顔をしてパパはもういないと教えてくれた。小さい私は最初は意味が判らなかったけど後になってそのことが少しずつ判るようになった。


ママと二人馬車でサリーシャに連れてこられた時は右も左も判らない状態だった。小さな家にママと二人で生活することになり、夜になるとママに連れられて別の家で寝泊まりしていた。


そこには私と同じ年齢の子供がいた。大きい子は十歳くらいで、赤ちゃんもいてみんなの面倒をマリ婆がみていた。


マリ婆は優しくここにいる子供たちを面倒をよくみてくれた。大きい子が小さい子に意地悪をすると必ず大きい子を叱る。だけど叱られた子供の言い分もちゃんと聞き次は意地悪をしない様一緒になって考えてくれた。


小さい頃からここでお世話になった子供達にとってマリ婆が育ての親だった。


私はそんな幼少期を過ごしていた。突然パパがいなくなってとても寂しい思いをしたけど、マリ婆や一緒に寝泊まりする友達も出来た。それにパパから貰った木剣もあったから何とか寂しさを乗り越えることが出来た。


木剣は家族旅行の最中にパパが作ってくれた物だ。私が旅行の最中にパパの剣を触ろうとして危ないと思ったパパが代わりに木剣を作ってくれた。


作って貰った時は私はとても嬉しくて一日中木剣を振り回し、寝ている時も木剣を離さずに抱いて眠っていた。


サリーシャに連れてこられた時も木剣を離さずに持っていたから無くすことはなかった。


私は毎朝木剣とパパに教えて貰った素振りの方法を欠かさず行った。素振りの方法は通常の上から下に振り下ろす基本の型とパパの自己流の右から左に横薙ぎしてその流れで上から下に振り下ろす型だ。


家の近くの広場で毎朝素振りをしているとこの街の憲兵さんや冒険者が話しかけてくることがちょくちょくあった。子供が素振りをしているのが珍しいのか皆親切で色々教えてくれた。


上から下に振り下ろす基本の型は誰でも知っているので悪い所を指摘して直してくれた。


けどもう一つの型はパパの自己流だったためか誰も正しい型を知らなかった。中には変な癖が付くので止めることを進める人もいた。


私はパパから教わったことは大事にして行きたかったので忠告してくれる人には申し訳なかったけどずっとこの型を振るい続けた。



この街に来て十年が経った。私は後一ヶ月弱で十五歳、成人になる。そうなったら娼館で働くことになっている。


ママはひた隠しにしていたけど私を見る周りの男の大人たちの視線やママの態度から何となく気が付いていた。学舎にも通っていたからこの国の法律も知っていた。


この国では十五歳未満の子供を娼館やそれの准じることを禁じていた。見つかった場合関わった人は全員処罰される。しかし、裏を返せば法律を守ればどこからも処罰はされない。


私は小さい頃からママに似ていると言われていた。ママは容姿が整っており、娘の私から見ても綺麗だと思う。最近調子を崩しているけどそれが薄幸美人の様に見え男の人への受けがいいそうだ。そんなママに似ている私は借金のカタにもうじき娼館で働くことになる。


娼館で働くのは正直嫌だ。知らない男の人と身体を重ねるなんて正直吐き気がする。でもそんな仕事をママは私を養う為にずっと続けてきていた。だからママのことは尊敬しているし大好きだ。


出来ることならママの手助けをしたいと何時も思っているけど正直に言えばパパと同じ冒険者になりたかった。その為に毎朝剣の稽古をしてきた。でもそれ以上ママに苦労はさせたくなかった。


そんな日々を送っているとある日変な人が来た。容姿や言動でなくその行動が今まで出会った人達と違っていた。


私が何時もの様に朝広場で素振りをしているとその人は現れた。二十歳過ぎで見覚えのない人だった。その人を視界の隅で捉えた私は警戒しながら何時もの素振りを始めた。



私に声をかけてくる男の人は大概下心がある。小さい頃はただの親切だったけど数年前から良からぬ事をする人が増えてきた。


体の使い方を教えると言って体を触るのはまだいい方でいきなり抱きついたり、強引に何処かに連れて行こうとする人がいる。


その時は大きな声を上げたり、大人しく従うふりをして憲兵のいるところにいき、助けを求める。


そんな事もあり、私は朝の練習中は男の人は無視するようにしていた。大概の男の人は無視をしていると声をかけて来るか、そのまま居なくなる。


けど今日来た男の人は違った。男の人は近くあった石に座り込みそのまま動かなかった。変な人と思いながら私は何時も通り素振りを続けた。


二つ目の朝の鐘が鳴ると朝の稽古はここまで。家に帰って朝食の準備をしようと思っているとさっきの変な人が話し掛けて来た。話を聞いてみると目的は私じゃなくママと会いたいらしい。


ママのお客の中には店ではなく私生活で会おうとする人がいる。お店に通うお金がなかったりと理由は色々あるみたいだけど、その人達はだいたい良からぬ事を考えているので近づけないようにしていた。


この人もそう言う人かと思い、何時ものように断ったら金貨を投げつけて来た。その人は幼い子供を諭す様に言いさらにママのことを馬鹿にするような事を言ってきた。


一瞬で頭に血が上った。


私は木剣を振りかぶり相手の頭に叩きつけようとした。基本の型には自信があった。小さい頃から何度も練習してきて太刀筋も良いと言われたこともあった。


けど私の木剣は相手に当たるどころか弾かれてしまい私の目の前に目の前には相手の手刀があった。


相手の動きは何とか見えた。私が振り下ろした木剣を横薙ぎで弾きそのまま手刀を振り下ろした。


この人は先程まで私が練習していた型を使ったのだ。一瞬であったけどその動きは一朝一夕では出来ない洗練されて無駄のない動作だった。パパだけしか知らないパパの自己流の型をこの人は見事に使った。


男の人はトリスと名乗り、決してママのことを馬鹿にしたのでなく対等な人間として接すると言い再度ママと合わせて欲しいとお願いしてきた。


私は先ほどの自分の行動を恥じてトリスの言い分を了承した。この人はママを娼婦ではなく人として接してきた。そして理由は判らないけどこの人はトリスはパパの事を知っている。


私はその事がとても嬉しくなった。もう会えないと思っていたパパが帰ってきた様な錯覚に陥った。


その錯覚は間違いじゃなかった。


トリスはママの借金を直ぐに返し、それどころかママの病気も治してしまった。難癖をつけてきた娼館のオーナーを追い詰め、オーナーが連れてきた用心棒も一蹴した。


幼い頃にパパが守ってくれていた時と同じ安心感がトリスにはあった。この人はきっと私とママを守ってくれる人だと私はそう感じた。


用心棒を一蹴した後はこの家を出ることになった。娼館のオーナーはまた後で良からぬ事を企てる可能性があったのでトリスの薦めでこの街を離れることになった。


一時的にトリスの宿泊している宿に行くことになって、身の安全を考えて三人で同じ部屋で寝泊まりすることになった。


最初はちょっと戸惑ったけど部屋で寛いでいると昔パパと家族旅行をした時のことを思い出した。パパとママと私で同じ部屋に泊まったあの頃に感じだ。とてもや優しくって暖かな時間。それと同じ時間がまたこうして感じることができて私はとても嬉しかった。


そして嬉しいことは次の日も続いた。


翌朝、何時もの時間にベットから起き上がると既にトリスが身支度を整えていた。トリスは私が起きたことに気が付くと朝の稽古をするなら付き合うと言ってくれた。私はその言葉が嬉しくて二つ返事でトリスの誘いにのった。


寝巻から私服に着替えた私はトリスと一緒に中庭に向かった。中庭に着くと準備運動を行い早速稽古を始めた。トリスは私の実力を知りたいから取り敢えず剣で打ち込んでくるように指示した。私は言われた通りにトリスに打ち込んだが全て捌かれた。


打ち込みは私が倒れこむまで続いてその間私の木剣は一度もトリスに当たることは無かった。それどころか私が疲れて倒れ込んでいるのにトリスは平気な顔をして井戸から水を汲んできてくれた。


冷たいお水を飲みながらトリスは私の悪いところを一つ一つ指摘した。

攻撃が単調なこと。

脚運びが悪い。

体の軸がぶれる。

剣の握りが甘いこと。

などなど


私の欠点を一つづつ教えてくれた。余りにも悪いところが多すぎて落ち込みそうになったがトリスは「直すところがあるのはまだ伸びしろがあることの証明。これから覚えていけばいい。」と励ましてくれた。更に今後の稽古にはそれらを直す訓練を重点的にするとも言ってくれた。


私はその事がとても嬉しかった。トリスが今日だけじゃなくてこれからも稽古をつけてくれると言ってくれた。昔から夢だった冒険者になれるだけじゃない。トリスが教えてくれればいつかきっとパパの様に強い冒険者になれるとそう思える予感があったからだ。


それからこの街にいる間は毎日トリスが稽古をつけてくれた。トリスは剣の稽古だけじゃなくいろいろなことを教えてくれた。武器を持っていない時の闘い方。怪我をした時の応急処置の方法。闘いに対しての心構えなど様々なことを教えてくれた。


そしてサリーシャを出た後も稽古は続いていた。商業都市ダリスを目指しながら私はトリスに稽古をつけてもらう。


いつか大都市アルカリスで冒険者になるために私は今日も剣を振るう。


ブックマークや評価が少し増えていました。

読んでくださっている方がいてとても励みになります。


いつも通り、誤字脱字の指摘や感想などを頂けると幸いです。

評価やブックマークをして頂けるととても嬉しいです。


次回から新章「聖者としての時間」を投稿します。



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