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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
聖者としての時間
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商業都市ダリス 恩師の生家 壱

「その人ならまだご健在だよ。この前も店にいるところを見たし葬式をあげた噂話も聞いた事がないから。」


商業都市ダリスの門番はそう言うとトリス達に門をくぐる様に促した。トリスは先ほど尋ねたことに対しての礼を言い、フレイヤ、クレアと共に門番の指示に従い門をくぐり商業都市ダリスに足を踏み入れた。


門を通過した三人はまずいつも通りに宿屋に向かった。旅をするとどうしても体と衣類が汚れる。トリスは慣れているのであまり気にしないが、女性のフレイヤとクレアは身綺麗にしたいので村や街に着くと宿屋で洗濯と風呂を所望する。もっともトリスも風呂は嫌いではないので特に反対する理由もなかった。


それにこの街には人を探す用事があるので身なりは整えておきたかった。


トリス達が港街サリーシャを出て三十日ほど経過していた。サリーシャからダリスまでは天候にもよるが通常であれば十日ほどで着く距離だったが道すがらクレアの稽古とフレイヤの体調を気遣いながらゆっくり移動してきた。


フレイヤはサリーシャを出た時はまだ体調が万全ではなっかた。毒を盛られていたせいで体力が低下しており、また長年娼館で働いていた為昼夜逆転の生活をしていたので体のリズムが乱れていた。


旅の中で体力の回復と生活のリズムを整えたのだ。おかげでフレイヤの身体は以前にも増して健康になった。


健康な体を取り戻したフレイヤはとても魅力的な女性となっていた。いや、本来の魅力を取り戻した。精神的にも余裕が生まれ、とても十五歳の娘がいる母親には見えなかった。クレアは母親に似ているので二人で歩いていると母娘と言うより姉妹といったように見える。


途中の村や町で彼女たちに求婚を申し込む男性は両手の指では足りないくらいいた。トリスは二人が良ければ幾らかのお金を渡してその村や町で永住するのも良いと思っていたが二人は頑としてトリスに着いてきた。


そんな二人と一緒に歩くトリスは傍から見ると美人姉妹の護衛、もしくは従者に間違われることもあった。


大概はフレイヤとクレアに近づきたくて仲介を頼む者が多いが、時にはトリスに代わって自分が護衛を引き受けるなどと言った勘違いも中にはいた。そんな輩に対してトリスは適当にあしらうが中には二人の護衛の権利をかけて決闘を申し込む猛者も何人かいた。


トリスは一応相手はするが相手を傷つけないように気を付けるが正直なところトリスはうんざりしていた。それに対してフレイヤとクレアは自分たちのために闘ってくれるトリスを見ることができとてもご満悦だった。


それはこの街でも変わらなく、通行許可の順番待ちの時でも二人に声をかけてくる人は何人かおり、街の入り口で問題を起こす者はいなかったが後で絡んでくる可能性は十分にあった。


「トリス、眉間にシワがよっているよ。」


トリスの気苦労を我知らずとばかりクレアが声をかけてきた。


「誰のせいだと思っている。行く先々で男達を追い払う事をしていれば気苦労も増える。」

「それは悪いと思っているけどしょうがないじゃん。私もママも好きでもない人から声をかけられるの嫌だもん。ねえ、ママもそう思うよね。」

「はい。トリスさんには申し訳ありませんが知らない人から求婚されるのはちょっと嫌です。でもトリスさんが守って下さるので役得と言えば役得です。」


フレイヤはそう言うと満面の笑みを浮かべた。それを見ていた通行人の何人かはフレイヤの笑顔に見惚れてしまった。トリスはその様子をみてこれ以上トラブルが起きないよう心の中で祈るしかなかった。



門を通過したトリス達はダリスの街にある宿屋で一息ついていた。十日間滞在することを宿屋の店員に言い前金で五日分の宿代を支払った。トリスは一人部屋。フレイヤとクレアは二人部屋にそれぞれ部屋を割り振った。フレイヤとクレアの二人は今頃市営の公衆浴場に向かっているのだろう。トリスも少し遅れて行きその後は三人で昼食を取る予定だ。


今は一つ目の昼の鐘が鳴ったばかりなので食堂はどこも人が多い。なら旅の汚れを落とすために先に公衆浴場に行きその後に食事をすることになった。トリスは旅の途中で手に入れた薬草や獣の皮を整理してから浴場に行くことにした。


トリスは魔導鞄(マジックバック)から薬草や獣の皮を取り出し部屋に並べた。魔導鞄(マジックバック)の中に入れた物は入れた時と同じ状態で取り出すことができる。どのような仕組みになっているかは不明だが『塔』の中で手に入れた物を持ち帰る冒険者にとっては必需品であった。


トリスはこの街で売る予定の薬草と獣の皮を魔導鞄(マジックバック)から取り出すと普通の皮袋にしまった。魔導鞄(マジックバック)は便利だがだアルカリス以外の都市で不要に他者に見せるとトラブルの元になる。貴重な品と言うわけではないが入手方法が困難なため冒険者以外の人が入手するのは難しい。その為スリが多い大きな街ではなるべく肌身離さずするのと魔導鞄(マジックバック)を人目に晒さないのが魔導鞄(マジックバック)を持つ者の常識だ。


トリスは薬草と獣の皮の仕分けを終えると最後に魔導鞄(マジックバック)から一束の髪を取り出した。この髪は遺髪であった。トリスの友人であり、仲間であり、恩師であり、父親だった人の遺髪。この遺髪を家族に渡すためにトリスはこの街を訪れたのだ。トリスは遺髪を大事に懐にしまい宿屋を後にした。



二つ目の昼の鐘が鳴る前に公衆浴場で旅の汚れを落としたトリス達は昼食を取るために食堂を訪れていた。時間をずらしたおかげで店の中にはあまり人はおらずゆっくりと食事ができた。四人掛けのテーブルには所狭しと料理の皿が置かれ、トリス達はさっそく昼食を食べ始めた。


トリスは旅の最中は人並みにしか食べないが街や村で食べるときはかなりの量を食べる。前にクレアが興味本位でそのことを聞いたらトリスは「野外料理は散々食べたからあまり食欲がわかない。携帯食もあまり食べる気にならない。」と言っていた。


野外料理は基本、煮ることや焼くことしかできない。また、雨が降った場合は焚火ができないのでその時は携帯食を食べて終わることもある。宿屋や料理屋で出される料理に比べればどうしても見劣りしてしまうのは確かだ。



「食べながらでいいから聞いてくれ。これからのことだがフレイ達は住む場所を探してくれ。なるべく治安のいい場所を選ぶように。金の方は心配するな。」


食事中にトリスはフレイヤとクレアにそう告げた。前々からトリスはこの街でフレイヤとクレアと別れるつもりでいた。そのことは旅の最中に二人にも告げておりフレイヤとクレアは周知の事実だ。


トリスには目的がありこれ以上は一緒にいても意味はないと思っている。できれば二人はこの街で静かに暮らして欲しいと願っている。


だがそんなトリスの願いとは裏腹にクレアはもっとトリスと一緒にいたいと思っていた。クレアは冒険者になるのが夢だ。その為に幼い頃から毎日木剣で素振りをしていた。トリスと出会ってからはトリスの師事の基に稽古をしていきた。その成長は目覚ましく旅を始めた当初に比べ格段に実力は上がっていた。クレア自身もそのことを実感しているためもっとトリスに教えを乞いたいと思ていた。そしてできれば一緒に冒険者になりたいとも思っていた。


対してフレイヤの心境は複雑だった。娼婦としてレイラと名乗っていた時からトリスのことは意識していた。旅が始まることで名前をレイラからフレイヤに戻した。サリーシャの街を離れて一つの踏ん切りがついたので昔のイーラと過ごしていた時の名前にも戻したのだ。


だからトリスとこのまま一緒にいたい欲求がある。しかしトリスに迷惑をかけるのも同じくらい気が引けた。トリスにこれ以上お世話になるのはどうしても抵抗があった。


トリスはそんな二人の心境を知っているのか、知らないでいるのか判らないが今のところ明確に二人と別れる意思は固かった。


「ねえ。トリスはこれからどうするのどっか行っちゃうの?」

「ああ。俺はこの街での用事を済ませたら違う街に向かう。」

「着いて行っちゃ駄目?」

「駄目だ。それに冒険者になる目標はどうした。」


食後のお茶を飲みながら寛いでいるとクレアが今後の旅にも同行したいと言ってきた。だがトリスの答えはにべもなく断った。

クレアは落ち込んでしまったがこればかりはしょうがない。クレアが本気で冒険者を目指すならトリスの旅にこれ以上付き合うのは遠回りになる。実力的には駆け出しの冒険者として十分にやっていける。あとは実際に『塔』に挑み経験を重ねていくしかない。


トリスの稽古はあくまで体の使い方や心構えしか教えられない。魔物と戦う技は実際に魔物との戦いでしか身につかないのだ。


「クレアあまりトリスさんに無理を言うのはいけません。ここまで善くしてくださったのにこれ以上は分不相応です。クレアいいですね。」

「・・・わかった。」


クレアの要望を断ったせいか若干気まずい雰囲気になったが今まで静観していたフレイヤがトリスに礼の言葉を述べクレアを諭した。クレアも母親のフレイヤからそう言われてしまうとこれ以上何も言えなかった。


「トリスさん。後少しでお別れになると思いますがそれまでよろしくお願いします。」

「ああ、住む場所と働き口が決まるまでは付き合う。」


トリスの返事を聞きフレイヤは笑顔を浮かべ頭を下げた。その笑顔が若干寂しく見えたのはトリスの気のせいだと思うことにした。



食事を終えトリスはフレイヤ達と一度別れた。彼女達は働き口とここで住む場所を探すためだ。もっともクレアが本気で冒険者を目指すならクレアはここを離れ大都市アルカリスに向かうことになるだろう。それはあの母娘の問題で部外者のトリスが関わることでは無い。


トリスの私事にこれ以上二人を巻き込まないのと同じで二人の私事にトリスがこれ以上踏み込まないのはトリスなりの気遣いでもあった。


「ここか。」


トリスはこの街に入る時の門番から聞いた場所を訪れていた。目の前には『シリアファンプ店』と書かれた大きな建物があった。トリスは懐にある遺髪を確かめ店の扉を開けた。



台風19号凄かったですね。私の実家の方も影響を受けました。

復旧作業は少なからず応援したいと思っています。


このお話より新章「聖者としての時間」になります。

この章で色々なことを明かしていきたいと思っています。


いつも通り、誤字脱字の指摘や感想などを頂けると幸いです。

評価やブックマークをして頂けるととても嬉しいです。


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