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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
人としての時間
14/140

港街サリーシャ 思わぬ最後

今回は短いです。

残酷な描写がありますのでご注意ください。

 ヘルは自宅に戻ってきていた。ここには自分の隠し財産がある。緊急事態が起きたときにこの街からすぐに出られるよう準備していたのだ。金貨や宝石の詰まった魔導小物入れ(マジックポーチ)と旅の必需品が入った袋を隠し場所から取り出した。


 このまま街に留まっても自分を守る術がない。今回の件が領主のデイルの耳に入ればあいつは必ず自分を捕まえに来ると確信していた。


「何処かに行くんすか?」

「!?」


 誰もいないはずなのに部屋の入り口から声が聞こえた。慌ててそちらを向くとオルトの部下の情報屋がいた。


「お前はオルトの部下の情報屋だよな」

「はい、ザックと言います」

「ならちょうどいい。手伝え。これからこの街を出る」

「街をでるのすか?」

「そうだ。時間がない早くしろ」

「判りました。その前にちょっと見て貰いたい物があります。オルトさんから言われた大事な用なのでお願いします」


 そう言ってザックは自分の掌を見せた。手の平には砂状の物がありそれをヘルに見せた。暗くてよく見えないのでヘルはザックに近づき、ザックの手の平に顔を近づけた。


 強烈な音が鳴った。ザックが突然自分の掌をヘルの顔面にぶつけた。当然手の平にあった砂状のものはヘルの目や鼻、口の中に入っていった。


「貴様、なにをする!」

「…………」


 ヘルが激高するがザックに何も答えない。沈黙するザックの態度に頭にきたヘルはザックを殴ろうと一歩前に踏み出した。だが急に足の力が抜け、足を踏み出すことができずその場に崩れ落ちた。立ち上がろうとしたが足が全く動かない。いや、足だけでは身体全体が思うように動かなかった。


「さすがトリスさんのしびれ薬。こんなにすぐに効くとは思わなかった」

「!?」

「どうして俺がトリスさんからしびれ薬を貰ったか不思議そうだな。特別に教えるよ。俺はトリスさんに雇われた情報屋で、()()()()()()()()()()()()()()


 ザックは先ほどまでのお道化た態度が一変し、憎しみの目をヘルに向けた。


「もうすぐここには俺と同じ思いをした連中がくる。これからお前に復讐をするためだ!」


 ザックの言葉を聞きヘルは絶望へ落とされた。ヘルは自分が恨まれていることを自覚している。今までは誰も手出しができなかったから安全であったが、今のヘルには守ってくれる者は誰もいなかった。更にしびれ薬で身体を満足に動かすこともできない。


「いい顔だ。絶望と恐怖を自覚したな。これから死ぬまでずっと絶望と恐怖を味わえ!」


 そう言ってザックは紐でヘルの首を絞めた。勿論殺すのではなく一時的に意識を落とすためだ。だが、ザックの意図を知らないヘルはこのまま殺される恐怖を感じながら意識を落とした。




 耳に嫌な音が聞こえる。耳を塞ごうと思ったが腕が動かない。音次第に良く聞こえるようになってきた。耳を塞ぎたくなるような嫌な音が次第に大きく、はっきりと聞こえてくる。


 …………それは人の悲鳴だ。ヘルはそう認識すると恐る恐る目を開けた。


「ようやく目覚めたか」


 目の前には数十人の男たちがいた。先ほど自分の首を絞めたザックの姿はなく、知っている顔は一人もいない。よく見れば男だけでなく女も何人かいた。ヘルは首に痛みを多少感じるが声を出すことはできそうだったので目の前の男を問いただした。


「お前はいったい誰だ。ここはどこだ」

「ここは街の外れにある家畜の解体場だ。最も数年前に新しい解体場ができたからここはもう使われていない」


 三十歳前後の男はそう言ってヘルにこの場所を説明した。男が説明している最中も悲鳴はずっと続いていた。


「悲鳴が気になるのか? この悲鳴はお前が雇った用心棒達の悲鳴だよ。見てみるか?」


 そう言って男は周りの男を退かして用心棒達の様子をヘルに見せた。


 一人は手足に釘を何本も刺されていた、

 一人は熱した焼印を何度も押されていた。

 一人は鞭で全身を打たれていた。


 用心棒達の傷はそれだけではない。様々な拷問を受けていた痕があった。舌をかみ切らないように猿轡をされているがそれでも声は漏れる。用心棒達は痛みと恐怖で皆涙や鼻水を垂れ流していた。その光景をみてヘルは失禁してしまった。


「どうだい? これからお前もあいつらと同じ目に遭うのだ。しっかり見ておけ!」

「ゆっ、許してくれ」

「許し欲しいのか? そうだなぁここにいる連中に聞いてみるか。おい、ヘルの野郎が許して欲しいと言っているぞ」


 男がそう言うと周りにいた人々は激高した。


「ふざける。うちの息子はお前たちのせいで片方の目が見えなくなったのだぞ。昼間から飲んで暴れたときにたまたま道を歩いていた俺の息子を殴ったくせに、よくもそんなことを言えるな!」

「私の娘にも乱暴して殺したくせに。よくもそんなことが言えるわね!」

「俺の弟はお前らに殺された。賭博で負けた腹いせに弟を殴り、その傷のせいで弟は意識が戻らないまま衰弱して死んだ!」

「儂の息子夫婦はお前らに店を潰された。家族を養うために息子は出稼ぎにでてそのまま事故で死んだ。稼ぎ頭がいなくなったから嫁は娼館で身体を売っている。いまはその金で暮らしているが孫は両親がいないことを寂しがり夜泣きをしている」

「私の娘は結婚する直前にこいつらに乱暴された。婚約者はそれを知ってこいつらを殺そうとして返り討ちにあった。こいつらは笑いながら娘の婚約者を殺したのよ。娘はそれを聞いて自分で命を絶ったわ」


 ここにいる人達は老若男女問わず用心棒達が起こした事件の被害者の親族達だった。彼らは用心棒達にされたことを決して許さない。いつか今日のような日が来ることを願って生きてきたのだから。


「それはあいつらがやったことで俺は関係ない」

「関係ないだと? あいつらを雇って好き放題やっていたのはお前だろう?」


 ヘルの言葉に最初に声をかけてきた男が答えた。


「ちなみに俺は両親を殺された。お前の潰した組織の一つだ。お前の命令で用心棒達にやらせたんだろ?」


 男の言葉にヘルは何も言えなかった。自分の命令で確かにこの街の組織を幾つも潰し幹部の連中は皆殺してきたのだ。


「ザックの奴もそうだよ。あいつも自分の組織の連中を殺された。ザックにはここにいるみんなが感謝している。お前たちに恨みを晴らせる機会を作ってくれたからな!」


 そう言って男はナイフをヘルの掌に刺した。


「ぐわぁぁぁぁっ」

「どうやらしびれ薬の効果は切れたようだな。さあ、ここからはお前も参加して貰うぞ。最低でも三日は生かしてやるから覚悟しろ」


 男がそう言うとそれが合図だったようにあるものは用心棒達の拷問を再開して、あるものはヘルの拷問の準備を始めた。




 ザックは墓地に来ていた。かつて同じ組織に属していた仲間たちが眠るこの場所に報告しに来ていた。ヘルや用心棒達はまだ死んではいないが被害者達の様子からして数日以内には死ぬことになるだろうと予測していた。もう自分の復讐は終わったそう思いこの場所に訪れていた。


 ヘルの首を絞め彼の意識を落としたときは何とも言えない達成感を感じた。そのときにザックは悟った。自分はきちんと仲間の敵を討つことができたと。ならば後は同じ思いに苦しんでいる人に託せばいいと思った。


 トリスが渡してくれたメモには既に使われていない家畜の解体場と『三人組の悪漢』について書かれていた。家畜の解体場はトリスがゲイルに話をつけて暫く借りることになっている。憲兵も来ることはないので存分に復讐をすることができる。


『三人組の悪漢』については首から下の触覚のみを治療したと書かれていた。満足に身体を動かすことはできないが痛みを感じることはできるように。そして、『三人組の悪漢』のいる治療院の場所や警備の憲兵も既に引き上げていることも書かれていた。


 ザックは街の知り合いにヘル達の状況を話すと夜だと言うのに人が集まり、皆でヘルと『三人組の悪漢』を解体場に運んだ。解体場に運んだ後は知り合いにトリスのメモとヘルがしびれ薬で動けないことを伝えザックの復讐は幕を下ろした。


「次は、トリスさんのお役に立つだけだ」


 ザックは仲間の墓参りを終わるとそう決意してやり残した仕事に戻った。


 ザックはまだレイラのがいた娼館の医者を見つけることができずにいた。オーナーのデリや従業員のラグを脅して居場所を探ろうとしたが誰も知らなかった。ザックはトリスの恩義に報いるために医者の足取りを追った。

次回で一章が終わります。


2020年11月29日に誤字脱字と文章の校正を修正しました


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